2
大学数学基礎解説
文献あり

分裂補題

1039
1

Wathematicaのアドベントカレンダー10日目の記事になります.本記事ではA-加群の簡単な紹介から,分裂補題の証明までを追います.

訂正

2023/12/18 命題2において証明のミスがあり訂正.
2023/12/20 命題2の主張と証明中のミスを訂正.また,例6を追記.

A-加群

A-加群(A-module)

A:環,M:アーベル群とする.このとき,以下の条件を満たすMをA加群という.
x,yM,a,bA a(x+y)=ax+ay (a+b)x=ax+bx (ab)x=a(bx) 1Ax=x
ここで,axaによるxへの作用である.

イデアル(ideal)

aをAのイデアルとする.このとき,aはA加群になる.

任意のアーベル群はZ加群である.

A代数

A-代数(A-algebra)

A加群かつ環であるものをA代数という.

自明な例

環Aは明らかにA代数である.

A:環,B:f:AB:環準同型写像とする.このとき,BはA-代数になる.次のように作用を定義すれば良い.
aA,bB
a(b):=f(a)b

完全列

完全

MαfMβgMγというA-加群の列があり,Im(f)=Ker(g)となるとき,Mβ は完全であるという.(f,gはA-加群の準同型写像である)

短完全列

短完全列

0M1M2M30
において,Mi(i=1,2,3)が完全になるとき,上の列を短完全列と呼ぶ.

A:環,a:イデアル とする.このとき,次は完全列になる.
0aAA/a0

0M1fM2gM30が短完全列であることは次の3条件を満たすことと同値である.
(i)fが単射
(ii)gが全射
(iii)gからCoker(f):=M2/Im(f)M3の同型射が誘導される.

可換代数入門[Atiyah,MacDonald]を見よ.

問題

0M1M2M30が完全列であるとき,M2=M1M3

例を挙げて,考察しよう.

例5について考える.これは,明らかにA=A/aaになる.

次に,ベクトル空間について見てみよう.A=k(k)と置く.この時,A-加群はkベクトル空間である.

0→<e1,e2>→<e1,e2,e3>→<e3>→0はA-加群(kベクトル空間)として完全列になり,<e1,e2,e3>=<e1,e2><e3>が成り立つ.

最後に,次の例を見てみよう.

0(2)/(4)Z/4ZZ/2Z0が完全列になることは明らかである.(2)/(4)Z/2Zであることに注意すると,Z/4ZZ/2ZZ/2ZZ/2Z(2)/(4)となり,直和は成り立たない.

したがって,問題1の答えは"一般には成り立たない"である.
では,どのようなときに成り立つだろうか?
その答えは以下の命題が与えてくれる.

分裂補題

短完全列0M1fM2gM30M2M1M3を満たし,fM2への標準的な入射,gM3標準的な射影であることの必要十分条件は,h:M3M2gh=1M3を満たす写像が存在することである.

証明手法

()自明.
()条件を満たすh:M3M2で,gh=1M3を満たすものがあるとする.ここで任意のm2M2に対して,m2=m1+m2を満たすようなm1M1,m3M3が一意に存在することを示す.そのために,任意にm2M2を取る.m2=hg(m2)+(m2hg(m2))と表せる.f(m2hg(m2))=f(m2)1M3f(m2)=0となるので,m2hg(m2)Ker(g)である.よって,M2=h(M3)+Ker(g)である.直和であることを示すには,h(M3)Ker(g)=0をいえばよい.そこで,h(a)h(M3)Ker(g)を任意に取ると,h(a)=h1M3(a)=hgh(a)=0となる.

命題2の注意

命題2において,fの標準的入射とgの標準的射影の条件がない場合は証明の十分性を示すことができなくなる.その例を以下に上げる.
0ZfZZ/3ZgZ/3Z0
f:ZZZ/3Z;x(3x,0)
g:ZZ/3ZZ/3Z;(x,y)x(mod3Z)+y
これは,gh=1ZZ/3Zが存在しない.

参考文献

[1]
M.F.Atiyah,I.G.MacDonald, 可換代数入門
投稿日:20231211
更新日:20231220
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. A-加群
  2. A代数
  3. 完全列
  4. 参考文献