Wathematicaのアドベントカレンダー10日目の記事になります.本記事ではA-加群の簡単な紹介から,分裂補題の証明までを追います.
訂正
2023/12/18 命題2において証明のミスがあり訂正.
2023/12/20 命題2の主張と証明中のミスを訂正.また,例6を追記.
A-加群
A-加群(A-module)
A:環,M:アーベル群とする.このとき,以下の条件を満たすMをA加群という.
ここで,はによるへの作用である.
A代数
環,環:環準同型写像とする.このとき,BはA-代数になる.次のように作用を定義すれば良い.
完全列
完全
というA-加群の列があり,となるとき, は完全であるという.(はA-加群の準同型写像である)
短完全列
短完全列
において,が完全になるとき,上の列を短完全列と呼ぶ.
A:環,:イデアル とする.このとき,次は完全列になる.
が短完全列であることは次の3条件を満たすことと同値である.
(i)が単射
(ii)が全射
(iii)からとの同型射が誘導される.
可換代数入門[Atiyah,MacDonald]を見よ.
例を挙げて,考察しよう.
次に,ベクトル空間について見てみよう.と置く.この時,A-加群はkベクトル空間である.
はA-加群(kベクトル空間)として完全列になり,が成り立つ.
最後に,次の例を見てみよう.
が完全列になることは明らかである.であることに注意すると,となり,直和は成り立たない.
したがって,問題1の答えは"一般には成り立たない"である.
では,どのようなときに成り立つだろうか?
その答えは以下の命題が与えてくれる.
分裂補題
短完全列がを満たし,がへの標準的な入射,が標準的な射影であることの必要十分条件は,でを満たす写像が存在することである.
証明手法
()自明.
()条件を満たすで,を満たすものがあるとする.ここで任意のに対して,を満たすようなが一意に存在することを示す.そのために,任意にを取る.と表せる.となるので,である.よって,である.直和であることを示すには,をいえばよい.そこで,を任意に取ると,となる.
命題2の注意
命題2において,の標準的入射との標準的射影の条件がない場合は証明の十分性を示すことができなくなる.その例を以下に上げる.
これは,が存在しない.