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Saalschützの和公式

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$$\newcommand{bk}[0]{\boldsymbol{k}} \newcommand{bl}[0]{\boldsymbol{l}} \newcommand{calA}[0]{\mathcal{A}} \newcommand{calS}[0]{\mathcal{S}} \newcommand{CC}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{F}[5]{{}_{#1}F_{#2}\left[\begin{matrix}#3\\#4\end{matrix};#5\right]} \newcommand{ol}[0]{\overline} \newcommand{Q}[5]{{}_{#1}\phi_{#2}\left[\begin{matrix}#3\\#4\end{matrix};#5\right]} \newcommand{QQ}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{ZZ}[0]{\mathbb{Z}} $$

Gaussの超幾何定理は,
\begin{align} \sum_{0\leq n}\frac{(a,b)_n}{n!(c)_n}&=\frac{\Gamma(c)\Gamma(c-a-b)}{\Gamma(c-a)\Gamma(c-b)} \end{align}
と表される(Pochhammer記号は$(a,b)_n=(a)_n(b)_n$のように省略している). Saalschützの和公式はその有限和への一般化である.

Saalschützの和公式

$0$以上の整数$N$に対して,
\begin{align} \sum_{n=0}^N\frac{(a,b,-N)_n}{n!(c,1+a+b-c-N)_n}=\frac{(c-a,c-b)_N}{(c,c-a-b)_N} \end{align}
が成り立つ.

ここでは$3$つの証明を与える.

係数比較による証明

Eulerの変換公式より,
\begin{align} (1-x)^{a+b-c}\F21{a,b}{c}x=\F21{c-a,c-b}{c}{x} \end{align}
であるから, 両辺の$x^N$の係数を比較すると,
\begin{align} \sum_{n=0}^N\frac{(a,b)_n}{n!(c)_n}\frac{(c-a-b)_{N-n}}{(N-n)!}=\frac{(c-a,c-b)_N}{N!(c)_N} \end{align}
両辺に$\frac{N!}{(c-a-b)_N}$を掛けて整理すると,
\begin{align} \sum_{n=0}^N\frac{(a,b,-N)_n}{n!(c,1+a+b-c-N)_n}=\frac{(c-a,c-b)_N}{(c,c-a-b)_N} \end{align}
を得る.

$N$に関する帰納法による証明

$N=0$のときは明らかに成り立つ. $0< M$とする.$N=0,1,\dots,M-1$のとき定理が成り立つと仮定して, $N=M$のときに成り立つことを示す. $b=0,-1,\dots,-(M-1)$に対し, 帰納法の仮定より,
\begin{align} \sum_{n=0}^M\frac{(a,b,-M)_n}{n!(c,1+a+b-c-M)_n}&=\frac{(c-a,c-(-M))_{-b}}{(c,c-a-(-M))_{-b}}\\ &=\frac{(c-a,c+M)_{-b}}{(c,c-a+M)_{-b}}\\ &=\frac{(c-a)_M}{(c)_M}\frac{(c)_{M-b}(c-a)_{-b}}{(c)_{-b}(c-a)_{M-b}}\\ &=\frac{(c-a,c-b)_M}{(c,c-a-b)_M} \end{align}
となって両辺は等しい. また, $b=c$のとき,
\begin{align} \sum_{n=0}^M\frac{(a,b,-M)_n}{n!(c,1+a+b-c-M)_n}&=\sum_{n=0}^M\frac{(a,-M)_n}{n!(1+a-M)_n}\\ &=\sum_{n=0}^M\left(\frac{(1+a,1-M)_{n}}{n!(1+a-M)_n}-\frac{(1+a,1-M)_{n-1}}{(n-1)!(1+a-M)_{n-1}}\right)\\ &=\frac{(1+a,1-M)_M}{M!(1+a-M)_M}\\ &=0\\ &=\frac{(c-a,c-b)_M}{(c,c-a-b)_M} \end{align}
となって両辺は等しい, $(c-a-b)_M$を掛けると,
\begin{align} \sum_{n=0}^M\frac{(a,b,-M)_n}{n!(c)_n}(-1)^{M-n}(c-a-b)_{M-n}&=\frac{(c-a,c-b)_M}{(c)_M} \end{align}
$b=0,-1,\dots,-(M-1),c$$M+1$個の点で成り立ち, 両辺は$b$に関する$M$次の多項式であるから, 両辺は恒等的に等しい.

作用素による証明

$a\mapsto a-x,b\mapsto a+x,c\mapsto a+b$と置き換えて,
\begin{align} \sum_{n=0}^N\frac{(-N)_n}{n!(a+b,1+a-b-N)_n}(a-x,a+x)_n=\frac{(b-x,b+x)_N}{(b-a,b+a)_N} \end{align}
を示せばよい. 作用素$T$を関数$f$に対して,
\begin{align} Tf(x):=\frac{f\left(x+\frac 12\right)-f\left(x-\frac 12\right)}{1-2x} \end{align}
と定義する.
\begin{align} T(a-x,a+x)_n&=\frac 1{1-2x}\left(\left(a-x-\frac 12,a+x+\frac 12\right)_n-\left(a-x+\frac 12,a+x-\frac 12\right)_n\right)\\ &=\frac 1{1-2x}\left(\left(a-x-\frac 12\right)\left(a+x+n-\frac 12\right)-\left(a+x-\frac 12\right)\left(a-x+n-\frac 12\right)\right)\left(a+\frac 12-x,a+\frac 12+x\right)_n\\ &=n\left(a+\frac 12-x,a+\frac 12+x\right)_{n-1} \end{align}
よって, これを繰り返して
\begin{align} T^k(a-x,a+x)_n=\frac{n!}{(n-k)!}\left(a+\frac k2-x,a+\frac k2+x\right)_{n-k} \end{align}
である. $(b-x,b+x)_N$は偶関数であるから, ある係数$c_n$があって,
\begin{align} (b-x,b+x)_N=\sum_{k=0}^Nc_k(a-x,a+x)_k \end{align}
と展開できる. 両辺に$T^n$を作用させると,
\begin{align} \frac{N!}{(N-n)!}\left(b+\frac n2-x,b+\frac n2+x\right)_{N-n}=\sum_{k=n}^Nc_k\frac{k!}{(k-n)!}\left(a+\frac n2-x,a+\frac n2+x\right)_{k-n} \end{align}
ここで, $x=a+\frac n2$とすると,
\begin{align} \frac{N!}{(N-n)!}(b-a,b+a+n)_{N-n}&=n!c_n \end{align}
つまり,
\begin{align} c_n&=\frac{N!}{(N-n)!n!}(b-a,b+a+n)_{N-n}\\ &=(b-a,b+a)_N\frac{(-N)_n}{n!(a+b,1+a-b-N)_n} \end{align}
となって示したかった式を得る.

Saalschützの和公式において, $N\to\infty$とすると, $\frac{(c-a,c-b)_N}{(c,c-a-b)_N}\to\frac{\Gamma(c)\Gamma(c-a-b)}{\Gamma(c-a)\Gamma(c-b)}$となってGaussの超幾何定理が得られる. Saalschützの和公式を超幾何級数の記法で
\begin{align} \F32{a,b,-N}{c,1+a+b-c-N}{1}=\frac{(c-a,c-b)_N}{(c,c-a-b)_N} \end{align}
表される. このとき, 左辺の上の段の和に$1$を足したものは$a+b-N+1$であり, 下の段の和に等しい. 一般に${}_3F_2$超幾何級数
\begin{align} \F32{a,b,c}{d,e}1 \end{align}
は, $a+b+c+1=d+e$のとき, balancedであるといい, $a,b,c$のどれか一つが負の整数のとき, terminatingであるという. このような用語を用いると, Saalschützの和公式は, balancedでterminatingな${}_3F_2$超幾何級数はPochhammer記号の積として書けるということを意味している. ここにおいて, terminatingであるという仮定は重要であり, 一般にterminatingではない
\begin{align} \F32{a,b,c}{d,e}1 \end{align}
はガンマ関数として書けるとは限らない. この場合へのSaalschützの和公式の一般化として, non-terminating Saalschützの和公式が知られている.

Saalschützの和公式は Whippleの${}_4F_3$変換公式
\begin{align} \F43{a,b,c,-N}{d,e,f}{1}=\frac{(e-a,f-a)_N}{(e,f)_N}\F43{a,d-b,d-c,-N}{d,1-N+a-e,1-N+a-f}1,\qquad (a+b+c+1=d+e+f+N) \end{align}
の特別な場合になっている. 先ほどの証明の中で, 係数比較による証明はWhippleの${}_4F_3$変換公式の証明に一般化することができる.

投稿日:1日前
更新日:1日前
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Wataru
Wataru
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超幾何関数, 直交関数, 多重ゼータ値などに興味があります

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