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Saalschützの和公式

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Gaussの超幾何定理は,
0n(a,b)nn!(c)n=Γ(c)Γ(cab)Γ(ca)Γ(cb)
と表される(Pochhammer記号は(a,b)n=(a)n(b)nのように省略している). Saalschützの和公式はその有限和への一般化である.

Saalschützの和公式

0以上の整数Nに対して,
n=0N(a,b,N)nn!(c,1+a+bcN)n=(ca,cb)N(c,cab)N
が成り立つ.

ここでは3つの証明を与える.

係数比較による証明

Eulerの変換公式より,
(1x)a+bc2F1[a,bc;x]=2F1[ca,cbc;x]
であるから, 両辺のxNの係数を比較すると,
n=0N(a,b)nn!(c)n(cab)Nn(Nn)!=(ca,cb)NN!(c)N
両辺にN!(cab)Nを掛けて整理すると,
n=0N(a,b,N)nn!(c,1+a+bcN)n=(ca,cb)N(c,cab)N
を得る.

Nに関する帰納法による証明

N=0のときは明らかに成り立つ. 0<Mとする.N=0,1,,M1のとき定理が成り立つと仮定して, N=Mのときに成り立つことを示す. b=0,1,,(M1)に対し, 帰納法の仮定より,
n=0M(a,b,M)nn!(c,1+a+bcM)n=(ca,c(M))b(c,ca(M))b=(ca,c+M)b(c,ca+M)b=(ca)M(c)M(c)Mb(ca)b(c)b(ca)Mb=(ca,cb)M(c,cab)M
となって両辺は等しい. また, b=cのとき,
n=0M(a,b,M)nn!(c,1+a+bcM)n=n=0M(a,M)nn!(1+aM)n=n=0M((1+a,1M)nn!(1+aM)n(1+a,1M)n1(n1)!(1+aM)n1)=(1+a,1M)MM!(1+aM)M=0=(ca,cb)M(c,cab)M
となって両辺は等しい, (cab)Mを掛けると,
n=0M(a,b,M)nn!(c)n(1)Mn(cab)Mn=(ca,cb)M(c)M
b=0,1,,(M1),cM+1個の点で成り立ち, 両辺はbに関するM次の多項式であるから, 両辺は恒等的に等しい.

作用素による証明

aax,ba+x,ca+bと置き換えて,
n=0N(N)nn!(a+b,1+abN)n(ax,a+x)n=(bx,b+x)N(ba,b+a)N
を示せばよい. 作用素Tを関数fに対して,
Tf(x):=f(x+12)f(x12)12x
と定義する.
T(ax,a+x)n=112x((ax12,a+x+12)n(ax+12,a+x12)n)=112x((ax12)(a+x+n12)(a+x12)(ax+n12))(a+12x,a+12+x)n=n(a+12x,a+12+x)n1
よって, これを繰り返して
Tk(ax,a+x)n=n!(nk)!(a+k2x,a+k2+x)nk
である. (bx,b+x)Nは偶関数であるから, ある係数cnがあって,
(bx,b+x)N=k=0Nck(ax,a+x)k
と展開できる. 両辺にTnを作用させると,
N!(Nn)!(b+n2x,b+n2+x)Nn=k=nNckk!(kn)!(a+n2x,a+n2+x)kn
ここで, x=a+n2とすると,
N!(Nn)!(ba,b+a+n)Nn=n!cn
つまり,
cn=N!(Nn)!n!(ba,b+a+n)Nn=(ba,b+a)N(N)nn!(a+b,1+abN)n
となって示したかった式を得る.

Saalschützの和公式において, Nとすると, (ca,cb)N(c,cab)NΓ(c)Γ(cab)Γ(ca)Γ(cb)となってGaussの超幾何定理が得られる. Saalschützの和公式を超幾何級数の記法で
3F2[a,b,Nc,1+a+bcN;1]=(ca,cb)N(c,cab)N
表される. このとき, 左辺の上の段の和に1を足したものはa+bN+1であり, 下の段の和に等しい. 一般に3F2超幾何級数
3F2[a,b,cd,e;1]
は, a+b+c+1=d+eのとき, balancedであるといい, a,b,cのどれか一つが負の整数のとき, terminatingであるという. このような用語を用いると, Saalschützの和公式は, balancedでterminatingな3F2超幾何級数はPochhammer記号の積として書けるということを意味している. ここにおいて, terminatingであるという仮定は重要であり, 一般にterminatingではない
3F2[a,b,cd,e;1]
はガンマ関数として書けるとは限らない. この場合へのSaalschützの和公式の一般化として, non-terminating Saalschützの和公式が知られている.

Saalschützの和公式は Whippleの4F3変換公式
4F3[a,b,c,Nd,e,f;1]=(ea,fa)N(e,f)N4F3[a,db,dc,Nd,1N+ae,1N+af;1],(a+b+c+1=d+e+f+N)
の特別な場合になっている. 先ほどの証明の中で, 係数比較による証明はWhippleの4F3変換公式の証明に一般化することができる.

投稿日:118
更新日:118
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Wataru
Wataru
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超幾何関数, 直交関数, 多重ゼータ値などに興味があります

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