本記事では広義楕円曲線とその$N$レベル構造を司るモジュラー曲線$X(N)$を考えていきます。初めに基本的な定義・性質をおさらいして、次節で$X(3)$を構成し、最後に$X(N)$のカスプを見ていきます。
わたしの記事は全て院試の解答と趣味のどちらかです(尤も院試の解答も趣味ですが...)。趣味の記事を書くに当たっては、ゆくゆくはフェルマーの最終定理の証明をわたしの記事のみで追えるようにすることを目標にしています。本記事もその目標に向けての足掛かり的な記事ですが、今の時点では$X(3)$の性質を軽く述べただけのメモ的な内容に終始しています。なのであまり参考になる箇所はないかもしれませんがご了承ください。今後中身のある記事にしていきたいと思っているので期待しないで待っていただけると幸いです。
$\mathcal{Sch}_\mathbb{Q}$を$\mathbb{Q}$スキームの圏、$\mathcal{Set}$を小さな集合の圏とする。
関手$\red{\mathcal{M}(N)}:\mathcal{Sch}_\mathbb{Q}\to\mathcal{Set}$を$\mathbb{Q}$スキーム$T$に対して、$T$上の楕円曲線$E/T$及びその群スキームの同型$\alpha:\left(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z}\right)^2\simeq E_N$の組全体の集合$\{(E/T,\alpha)\}$を出力する関手と定義する。
また関手$\red{\overline{\mathcal{M}}(N)}:\mathcal{Sch}_\mathbb{Q}\to\mathcal{Set}$を$\mathbb{Q}$スキーム$T$に対して、$T$上の広義楕円曲線$E/T$及びその$\Gamma(N)$構造$\alpha:\left(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z}\right)^2\subseteq E^{\mathrm{sm}}_N$の組全体の集合$\{(E/T,\alpha)\}$を出力する関手と定義する。
このとき次の定理が成り立ちます。
$N$を自然数とする。
ST命題2.21
$N$は自然数とする。
ST命題2.22
両者ともSTに載っていますが、前者は証明が省略されている箇所があり、後者に至っては方針だけ述べて証明が完全に省略されているので、ある$N$が存在して$N$年以内にこれらの証明についての記事を書こうと思います。
小さい$N$については実際に計算することで、次がわかります。
$N$ | $\varphi(N)$ | $\psi(N)$ | $g(N)$ |
---|---|---|---|
1 | 1 | 1 | 0 |
2 | 1 | 3 | 0 |
3 | 2 | 4 | 0 |
4 | 2 | 6 | 0 |
5 | 4 | 6 | 0 |
6 | 2 | 12 | 1 |
7 | 6 | 8 | 3 |
8 | 4 | 12 | 5 |
9 | 6 | 12 | 10 |
10 | 4 | 18 | 13 |
ここで次の事実があります。
$K$有理点を持つ種数$0$の連結固有スムーズ曲線$/K$は$\mathbb{P}_K^1$に限る。
stacks project Proposition 53.10.4 (8)→(1)から従う。
ここで各$N$に対して、Neronの$N$角形とそれに付随する$\Gamma(N)$構造を構成することで、X(N)の$\mathbb{Q}(\zeta_N)$有理点を構成でき、これによって上記の補題及び例から
$$
X(1)=X(2)=\mathbb{P}_\mathbb{Q}^1
$$
$$
X(3)=\mathbb{P}_{\mathbb{Q}(\zeta_3)}^1
$$
$$
X(4)=\mathbb{P}_{\mathbb{Q}(i)}^1
$$
$$
X(5)=\mathbb{P}_{\mathbb{Q}(\zeta_5)}^1
$$
がわかる(但し$\zeta_N$は$1$の原始$N$乗根である)。
ここではモジュラー曲線$X(3)$を見ていきます。これはSTに於いて命題2.21(本記事の定理1)を示すための足掛かりになっているので、前節の内容は一旦忘れて議論を進めていきます。
$X(3)=\mathbb{P}_{\mathbb{Q}(\zeta_3)}^1$及び$Y(3)=\mathbb{P}_{\mathbb{Q}(\zeta_3)}^1\backslash\{1,\zeta_3,\zeta_3^2,\infty\}$である。
$t$を$\mathbb{P}_{\mathbb{Q}(\zeta_3)}^1$の非斉次座標とする。ここで$X(3)=\mathbb{P}_{\mathbb{Q}(\zeta_3)}^1$上の平面曲線$E_{X(3)}$を
$$
E_{X(3)}:X^3+Y^3+Z^3-3tXYZ=0
$$
とおく。更にこの切断
$$
O=[0,1,-1]
$$
$$
P_1=[0,1,-\zeta_3]
$$
$$
P_2=[0,1,-\zeta_3^2]
$$
をとっておく。ここで$E_{X(3)}$は$Y(3)$上ではスムーズ平面$3$次曲線なので、切断$O$を原点とする楕円曲線と見れる。
ここで$e_1$及び$e_2$を$\left(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}\right)^2$の標準基底とし、群スキームの準同型$\alpha:\left(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}\right)^2\to E_{X(3)}^{\mathrm{sm}}$を
$$
e_i\to P_i
$$
によって定義する。これによって関手の射
$$
\begin{split}
\mathrm{Hom}(-,X(3))&\to\overline{\mathcal{M}}(3)(-)\\
f&\mapsto (f^\ast E,f^\ast \alpha)
\end{split}
$$
が定まる。以下これが同型であること、つまり任意の$\mathbb{Q}$スキーム$S$及び$\Gamma(3)$構造付き楕円曲線$(E/S,\alpha)$に対し$(f^\ast E_{X(3)},f^\ast\alpha)\simeq(E,\alpha)$であるような$f:S\to X(3)$が一意的に存在することを示す。(証明自体は下に続きます)
以上から次の補題を示すことに帰着されました。
$\mathbb{Q}$代数$A$及び広義楕円曲線$E/A$に対して、$\alpha$を$E$の$\Gamma(3)$構造とする。このとき$\mu\in A$及び$\omega^3={1}$なる$\omega\in A$で、$E$は
$$
X^3+Y^3+Z^3-3\mu XYZ=0
$$
で定義される$\mathbb{P}_A^2$の閉部分スキームに同型であり、$P_1=\alpha(e_1)$及び$P_2=\alpha(e_2)$が$[0,1,-\omega]$及び$[0,1,-1]$に対応するようなものが一意的に存在する。
以下補題を示していきますが、まず一意性が述べられていることから証明は$Y$がアファインの場合に帰着できます。また簡単のため$Y$はネーター$\mathbb{Q}$代数$A$のアファインスキームとします。ネーターとは限らない環の場合もこの場合に帰着できます。
まず$E$上の可逆層$\mathcal{L}:=\mathcal{O}_E([O]+[P]+[2P])$が非常に豊富なことを示していく。初めに$p:E\to Y$はネータスキームの間の平坦射なので、Stacks Project Theorem 41.10.2 から開写像であることがわかる。特に$E$上の任意の層$\mathcal{F}$に対して、自然な射$p^\ast p_\ast\mathcal{F}\to\mathcal{F}$は同型になる。次に$f$は固有射(特に準コンパクト射かつ分離的射)なのでStacks Project Lemma 29.38.7 から$\mathcal{L}$の非常に豊富性を確かめるには射$E\to\mathbb{P}(f_\ast\mathcal{L})$が閉埋め込みなことを確かめればよい。この射及びその余域の構成が基底変換と整合的であること、そしてスキーム上の固有射の間の射が閉部分スキームなことを見るには各幾何的ファイバー上で見ればよく、これによって$\mathcal{L}$の非常に豊富性の確認は$Y=\mathrm{Spec}k$($k$は代数閉体)の場合に帰着された。これはRH3系3.2から従う。以上から$\mathcal{L}$は非常に豊富な層であり、閉埋め込み$i:E\hookrightarrow\mathbb{P}_A^2$で$\mathcal{L}=i^\ast\mathcal{O}_{\mathbb{P}_A^2}(1)$を満たすものの存在がわかる。よって大域切断$\Gamma(E,\mathcal{L})$は$3$元生成され、しかもこれはファイバーに制限しても$3$次元線型空間であるから、RH2定理12.11も考慮すれば$\mathrm{Spec}A$を十分小さくとることで$V=\Gamma(E,\mathcal{L})$はランク$3$の自由$A$加群であることがわかる。
また$V$の部分$A$加群
$$
L_0=\Gamma(E,\mathcal{O}_E)
$$
$$
L_1=\Gamma(E,\mathcal{O}_E([O]+[P]+[2P]-[Q]-[Q+P]-[Q+2P])
$$
$$
L_2=\Gamma(E,\mathcal{O}_E([O]+[P]+[2P]-[2Q]-[2Q+P]-[2Q+2P])
$$
を考える。初めに$L_0$は自然な形で$A$を含んでいることとRH2定理12.11から$\mathrm{Spec}A$を十分小さく取ることでランク$1$の部分加群を定めている。まず一般のスキーム$S$上で、広義楕円曲線$E/S$に定まった作用$E^{\mathrm{sm}}\times E\to E$から誘導される作用
$$
E^{\mathrm{sm}}\times \mathrm{Pic}^0_{E/S}\to\mathrm{Pic}^0_{E/S}
$$
は自明な作用である(DRII Proposition 1.13)。特に$\mathrm{Spec}A$を小さいものに取り替えることで、
$$
\mathcal{O}([P+Q]-[P]-[Q]+[O])
$$
が成り立ち、これは特に$L_2,L_3$は非零元を持つことを導く。よって$L_1$及び$L_2$もRH2定理12.11と併せてランク$1$の自由加群であることがわかる。以上から単射
$$
L_0\oplus L_1\oplus L_2\hookrightarrow V
$$
が得られるが、これは任意の極大イデアルによる還元によって同型に移ることを考慮するとこの単射は同型である。よって$A$加群の自然な同型
$$
L_0\oplus L_1\oplus L_2\simeq V
$$
が従う。各直和成分は$P$による作用で安定であり、$\omega^3=1$なる$\omega\in A$が存在して$P$は$L_i$に$\omega^i$倍に作用する。ここで$f\in L_1$が$f=f\circ(+P)$であったとすると、$(f\circ(+Q))f\in L_2$であるから、$L_1$及び$L_2$の固有値も$1$になる。このとき任意の$V$の元が$P$による作用の合成で不変になるが、このとき$f_1\in L_1$及び$f_2\in L_2$に対して、$af_1-bf_2$が極を持たず零点を持つような非零元$a,b\in A$が存在し、これによって$af_1-bf_2=0$になるが、このとき$af_1=bf_2\in L_1\cap L_2=0$より$af_1=bf_2=0$になる。$f_1$及び$f_2$は自由$A$加群の生成元であったから、これにより$a=b=0$がわかり矛盾する。各直和成分$L_i$は$P$による作用で安定であり、上の議論から$1+\omega+\omega^2=0$なる$\omega\in A$が存在して$P$は$L_i$に$\omega^i$倍に作用している。
$$
L=\Gamma(E,\mathcal{O}([P]+[2P]-[Q]-[2Q]))
$$
と置いた(上記と同様の考察によりこれもランク$1$の自由$A$加群である)とき、$L\to V\to L_1$は全て同型になる。$L_0$の基底を$X$とし、$Y\in L_2$及び$Z\in L_3$をこの同型でうつしたものとする。ここで
$$
X^3+Y^3+Z^3-3XYZ\in\Gamma(E,\mathcal{O}_E(3[O]+3[P]+3[2P]))\simeq A^9
$$
を考える。このとき、まず$A$加群
$$
L':=\Gamma(E,\mathcal{O}_E(2[O]+2[P]+2[2P]-[P+Q]-[2P+Q]-[P+2Q]-[2P+2Q]))
$$
を考えたとき、$L'$は$XYZ$を基底とするランク$1$の自由$A$加群である。ここで
$$
\begin{split}
&X^3+Y^3+Z^3-3XYZ\\
&=(X+Y+Z)(X+\omega Y+\omega^2Z)(X+\omega^2Y+\omega Z)
\end{split}
$$
を考える。$X,Y,Z$の定義及びそれぞれへの$P$の作用の仕方から
$$
X+Y+Z\in \Gamma(E,\mathcal{O}_E([P]+[2P]-[Q]-[2Q]))=L
$$
$$
X+\omega Y+\omega^2Z=(X+Y+Z)\circ P\in \Gamma(E,\mathcal{O}_E([O]+[P]-[Q+2P]-[2Q+2P]))
$$
$$
X+\omega^2 Y+\omega Z=(X+Y+Z)\circ(2P)\in \Gamma(E,\mathcal{O}_E([2P]+[O]-[Q+P]-[2Q+P]))
$$
であるので、ある$\mu$を用いて
$$
X^3+Y^3+Z^3-3XYZ=3(\mu-1)XYZ
$$
と表せる。以上の構成から
$$
E:X^3+Y^3+Z^3-3\mu XYZ
$$
と表され、$P$は$[0,1,-\omega^2]$、$Q$は$[1,0,-1]$に対応していることがわかる。
以上から
$$
X(3)=\mathbb{P}_{\mathbb{Q}(\zeta_3)}^1
$$
$$
Y(3)=\mathbb{P}_{\mathbb{Q}(\zeta_3)}^1\backslash\{1,\zeta_3,\zeta_3^2,\infty\}
$$
が示せた。
もっと厳密に書きたかったですが、時間がかかりそうなので後回しにして記事を公開しました。後日時間のある時に加筆します。
このあと$X(N)$の構成は$X(3)$から$X(3N)$を構成し、そこから$X(N)$を構成する方法が取られます。詳細はSTのp.50以降を参照してください。こちらについても時間のある時に記事を書こうと思います。
次に$X(N)$のカスプを見ていきます。$X(3)$のときは直接モジュラー曲線を構成する方針で行きましたが、ここからはわかっている性質をフルに使って見ていきます。なのでここまでで述べた定理もどんどん用いていきます。初めにFD&JSのp101の記述により、$X(N)_\mathbb{C}$のカスプの個数は
$$
\begin{split}
a_N:&=\left|X(N)(\mathbb{C})\backslash Y(N)(\mathbb{C})\right|\\
&=\begin{cases}
\frac{N^2}{2}\prod_{p|N}\left(1-\frac{1}{p^2}\right)&(N>2)\\
3&(N=2)
\end{cases}
\end{split}
$$
です。一方$\mathbb{Q}(\zeta_N)$を含む体$K$上で定義されるNeronの$n$角形のレベル$N$構造も
$$
\begin{split}
b_N&=\frac{\left|\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})\right|}{2\cdot N\left|\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_N)/\mathbb{Q})\right|}\\
&=\frac{1}{2N\varphi(N)}\prod_{p|N}p^{4\mathrm{ord}_pN-3}(p+1)(p-1)^2\\
&=\frac{1}{2N^2}\prod_{p|N}\frac{p^{4\mathrm{ord}_pN-3}(p+1)(p-1)^2}{1-\frac{1}{p}}\\
&=\frac{1}{2N^2}\prod_{p|N}p^{4\mathrm{ord}_pN-2}(p+1)(p-1)\\
&=\frac{N^2}{2}\prod_{p|N}\left(1-\frac{1}{p^2}\right)&=a_N
\end{split}
$$
個です。以上から$\zeta_N$を含む体$K$について
$$
\left|X(N)(K)\backslash Y(N)(K)\right|=\frac{N^2}{2}\prod_{p|N}\left(1-\frac{1}{p^2}\right)
$$
がわかります。