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ギリ推移的でない自己作用の軌道分解がSylowの定理を生む

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導入

位数のみから群の構造をどこまで知れるでしょうか.
もう少し具体的に,位数のみから存在を完全に確定させられる部分群は何でしょうか.

その答えは$p\text -$部分群です.
その存在に加えて,最大の$p\text -$部分群($p\text{-Sylow}$部分群)についてはより詳しく,個数や配置を教えてくれるのが,Sylowの定理です.

この定理は決して天下りなものではなく,位数を分析しようとするとかなり自然に現れます.
ではどのような分析が自然でしょうか,追ってみましょう.

なぜ自己作用なのか

歴史的に群は作用させるものとして生まれました.
なので,群の位数$|G|$から,その群の構造について知ろうとするとき,
集合として自身の台集合$G$をとり,自身への作用$G\curvearrowright G$を考えるのが自然です.
(集合は,元の数が同じなら全単射があるという意味で,位数$|G|$が決まれば集合同型を除いて一意になります.)

これは自己作用をうまく取ろうとする物語です.

自然な自己作用

$G$の含まれる情報のみで書け,さらに$G$の群構造を使って書けるような作用,言い換えると$g\cdot x$$g,x$の群の演算(積と逆元)のみで書ける作用.この意味で,「自然」な自身への左作用はどんなでしょうか.

結論を述べれば,
$$x \mapsto gx, \quad x \mapsto xg^{-1}$$
またはその組み合わせのみが作用の定義を満たします.

つまり,自明でない自然な自身への作用は本質的に次の3つしかありません.

  • 恒等作用 $x \mapsto x$(しかしこれは面白くない対象なので,以下ハブります)
  • 移動作用 $x \mapsto gx$
  • 共役作用 $x \mapsto gxg^{-1} $

誘導される自己作用

ところで実は自己作用と言っても,$G\curvearrowright G$だけではありません.

作用$G\curvearrowright X$が定義されているとき,制限($H \le G$$S \subset X$)等によって,
$H\curvearrowright G$$G\curvearrowright S$$G\curvearrowright \mathcal P(X)$などの作用が誘導されるからです.

どの群や集合にするべきかという自由度が残ってしまうのです.

結局のところ,作用の自由度には

  • 移動か,共役か
  • 作用する群$G$
  • 作用される集合$X$

が残っています.

いい情報が得られるようにうまく作用を選んでくる必要があるのです.

有用な情報が眠っている作用は

群の作用$G\curvearrowright X$があるとき,それによる軌道分解を考えることで,群$G$,集合$X$を分析することができます.そこで特に有用な情報を得られる作用とはどんなものでしょうか?

私の見解では「ギリギリ推移的じゃない作用」のことだと考えて良いと思います.
なぜなら,軌道分解したときに,

  • バラバラ(小さな軌道が多すぎる)なら法則性もクソもなくて,なにも情報が得られない
  • 推移的(軌道が一つ)だとそもそも分解できない(分解が自明)

となるからです.

推移的作用からはじめる

ギリギリ推移的じゃない作用と言われるとよくわからないですが,推移的作用はわかりやすいです.
推移的作用があれば次の一般論で,ギリギリ推移的じゃない作用を作れるのです.

一度イメージしてほしいのですが,作用$G\curvearrowright X$に対して,
$G$を拡大したり,$X$を部分集合にしたりすると,軌道が減ります.
逆に$G$の部分群をとったり,$X$を広げた集合にしたりすると軌道が増えます.

そこで,上の節に載せた推移的な自己作用について,次のようにすれば良いです.

  • $G$の部分群をとる.
  • $X$を広げた集合にする.

自然な推移的自己作用は何がある?

推移的自己作用(またはギリギリ推移的じゃないかもしれない自己作用)として思いつくものは次の2つでしょう.

  • $G \curvearrowright G/H$(移動)
  • $G \curvearrowright \mathcal S$(共役)

ここで$\mathcal S$$|G|= p^n m$ ($p,m$は互いに素)と書けるとき,位数が$p^n$の部分群の集まり($p\text{-Sylow}$部分群の集合)です.

Sylowの定理の帰結で,後者の共役作用は推移的だとわかるのですが,ここでそれがわかっている必要はありません.
もし仮に推移的ではなかったとしても,十分軌道がすくないことが想定され,この作用を考えたくなることに変わりはありません.

移動作用$G \curvearrowright G/H$の固定化部分群

$$ \begin{align} g'\in \mathrm{Stab}(gH) \iff g' gH = gH \\ \iff g^{-1}g'g \in H \\ \iff g' \in gHg^{-1} \end{align} $$
つまり,移動作用$G \curvearrowright G/H$の固定化部分群は共役$\mathrm{Stab}(gH)=gHg^{-1}$になっています.

共役作用$G \curvearrowright \mathcal S$の固定化部分群

$$ \begin{align} g'\in \mathrm{Stab}(P) &\iff g'Pg'^{-1} = P \\ &\iff g' \in N_G(P) \end{align} $$
つまり,共役作用$G \curvearrowright \mathcal S$の固定化部分群は正規化群$\mathrm{Stab}(P)=N_G(P)$になっています.

それではこれらをギリギリ推移的じゃない自己作用に変換して軌道を増やしてみましょう.

軌道を増やす

移動作用 $G \curvearrowright G/H$から$G \curvearrowright \Omega$

作用される集合$G/P = \{gP\mid g \in G\}$をサイズが$p^n$の部分集合系$\Omega = \{S \in \mathcal P(G) \mid \#S= p^n \}$に広げる.すると軌道が分裂する.
その軌道の一つに$G/P$がある.


一般の作用 $G \curvearrowright X$から$p\text -$群からの$Q \curvearrowright X$

作用する群を$p\text{-}$群に制限する.すると軌道が分裂し,次の補題が現れる.

$p\text -$群の固定点の補題

$Q$$p$-群, $X$を集合とする. 作用$Q\curvearrowright X$について,次が成立.
$$|\mathrm{Fix}(Q)|\equiv|X| \pmod p$$

この補題によって,$|X|$$p$の倍数でないとき,不動点の存在を言える.
数を数える組み合わせ的な考え方のみで存在が言えるという点で強い.

$X$$Q$で軌道分解する.
$$X = \bigsqcup_{\mathrm{Orb} (x) \in X/Q} \mathrm{Orb} (x) $$
軌道のサイズ$ |\mathrm{Orb}(x)|$$|Q|=p^a$の約数なので,サイズが$1$でないなら,$p$の倍数であり,
サイズが$1$の軌道たちの非交和が固定点集合$\mathrm{Fix}_X(Q)$になっているので,

$$ |X|= |\mathrm{Fix}(Q)| + \sum_{\begin{align}\mathrm{Orb} (x) \in X/Q\\|\mathrm{Orb} (x)|\neq 1 \end{align}} |\mathrm{Orb}(x)| \equiv |\mathrm{Fix}(Q)| \pmod p \quad \square $$

固定点と固定化部分群

$$x\in \mathrm{Fix}(Y) \iff Y \subset \mathrm{Stab}(x)$$

この命題によって,固定点の話を固定化部分群という群の話にできる.

$$ \begin{align} x\in \mathrm{Fix}(Y) &\iff \forall y \in Y, y\cdot x = x \\ &\iff \forall y \in Y, y \in \mathrm{Stab}(x) \\ &\iff Y \subset \mathrm{Stab}(x) \quad \square \end{align} $$

次の命題は$p$-部分群から$|X| \perp p$な集合$X$への作用$Q\curvearrowright X$を考えるだけで$Q$を包含する部分群がとってこれるという命題です.

$Q$$p$-群, $X$を集合で$|X| \perp p$なものとし,作用$Q\curvearrowright X$を考える.
このとき,ある$x \in X$が存在して,$Q \le \mathrm{Stab}(x)$

$p\text -$群の固定点の補題より,
$$|\mathrm{Fix}(Q)| \equiv |X| \not\equiv 0 \pmod p$$
つまり$x \in \mathrm{Fix}(Q)$がとれ,命題2と$Q$は群であることから
$$Q\le\mathrm{Stab}(x) \quad\square$$

後者の方法で軌道を増やして分解したときに現れる群の制約をまとめたのが,Sylowの定理という形でまとめられています.
語弊を恐れずにいえば,Sylowの定理は、位数$|G|$のみから p-部分群について言える制約をすべてまとめたものなのです.

Sylowの定理

Sylowの定理とは位数$n$$n=p_1^{e_1}p_2^{e_2}...p_m^{e_m}$と素因数分解できるとき,位数$p_i^{e_i}$の部分群について,

  • 数が$n_p(\ge 1)$個(複数候補が出うる)
  • それぞれ共役(特にそれらは群論的に区別不可で,数が1なら正規部分群になる)
  • さらに位数が$p$冪の部分群は$p_i\text{-Sylow}$部分群のなかだけを考えればok

(これを$p_i\text{-Sylow}$部分群と呼ぶことにする)

という定理です.

今までの振り返り

振り返りにはなりますが,自然で推移的な作用

  • $G \curvearrowright G/H$(移動)
  • $G \curvearrowright \mathcal S$(共役)

の群を制限したり,集合を拡大したりした軌道分解を考えるだけで,この定理の主張を得られます.

ギリギリ推移的でない作用をつくることで軌道をほどよく増やしたときの分解は有用な情報を持っていることに起因するんでしたね.

Sylowの定理

有限群$G$に対して,その位数が$p^n m$($p$$m$は互いに素)のとき,
(1) 位数が$p^n$の部分群は$n_p \ge 1$個存在する.$\text{s.t.}$
$$ \quad \begin{cases} n_p \equiv 1 \pmod p \\ n_p \mid m \end{cases}$$
(2) 位数が$p^n$の部分群は互いに共役である.
(3) 位数が$p$冪の部分群はある位数$p^n$の部分群に包含される

この定理は,位数$p_i^{e_i}$の部分群について何度も語るので,単に位数$p_i^{e_i}$なだけで,この部分群のことを$p\text{-Sylow}$部分群と呼ぶ.

文字数を減らすため,以下のように先に定めておく.
$G$: 今回考える対象の群
$P, P'$: $G$$p\text{-Sylow}$部分群
$Q$: $G$$p\text{-}$部分群
$\Omega = \{S \in \mathcal P(G) \mid \#S= p^n \}$ : サイズが$p^n$の部分集合系
$\mathcal S = \{p\text{-Sylow部分群}\}$ : $p\text{-Sylow}$部分群の集合

また証明すべきことを示しやすいようにバラして並べておく.
(i) まず$P$が存在する.
(ii) $Q$はある$P$に含まれ,とくに$P,P'$は共役
(iii) $|\mathcal S|$$m$の約数
(iv) $|\mathcal S| \equiv 1 \pmod p$

証明のイメージ

(i) もしも仮に$P$があれば,誘導される左移動$G\curvearrowright\Omega$の軌道の一つにはサイズが$p$と互いに素な$G/P= \{P,g_1P,g_2P,...\}$がある.
じゃあ逆に,サイズが$p$と互いに素な軌道は,他の$P'$を使って全部$G/P'$と書けるんじゃないの?
実際これは正しいので,まず,サイズが$p$と互いに素な軌道が存在することを示す.さらに,$P'$はこの固定化群の形で復元できる.

(ii) $P$があれば,誘導される左移動$Q\curvearrowright G/P$を考えると,命題3より$Q$を包含する部分群$Q\le \mathrm{Stab}(gP) = gPg^{-1} \in \mathcal S$となることが言える.
特に$p\text{-Sylow}$部分群が互いに共役(つまり共役$G\curvearrowright \mathcal S$が推移的)なこともわかる.

(iii) 推移的な共役$G\curvearrowright \mathcal S$について,軌道のサイズ$|\mathcal S|$(推移的なので全体)は$|G|/|\mathrm{Stab}(P)|$だから.

(iv) 推移的な共役$G\curvearrowright \mathcal S$から誘導される$P\curvearrowright \mathcal S$の固定点は$P$のみなので不動点補題より,$|\mathcal S| \equiv 1 \pmod p$が言える.

(i) まず$|\mathcal O| \perp p$となる軌道$\mathcal O$の存在を言う.
$$|\Omega|= \binom{p^nm}{p^n} = \prod_{j=0}^{p^n-1} \dfrac {p^nm - j}{p^n - j} = \prod_{t,a\text{をうまいこと動かす}} \dfrac {p^{n-a}m - t}{p^{n-a} -t} $$
(最後は$j=p^at \quad (a< n,\, t \perp p)$と取り直している.)
よって$|\Omega| \perp p$であるから,次の軌道分解を考えれば,$|\mathcal O| \perp p$となる軌道$\mathcal O$の存在がわかる.(実はこの軌道こそが$G/P$)
$$|\Omega| = \sum_{\mathcal O \in \Omega/G} |\mathcal O|$$
(仮にすべての$|\mathcal O|$$p$の倍数なら,$|\Omega|$$p$の倍数になって矛盾.)


次に,軌道$\mathcal O$に対応する固定化群として$P$を復元する.

この軌道$\mathcal O$に対し,サイズが$p^n$の集合$P \in \mathcal O$を一つとり,軌道固定化群定理より,
$$ |\mathrm{Stab}_G(P)|=\dfrac {|G|}{|\mathcal O|} = \dfrac {p^n m}{|\mathcal O|} $$
つまり,$p^n \mid |\mathrm{Stab}_G(S)| $.特に,$p^n\le|\mathrm{Stab}_G(S)|$

ところで一般に誘導される左移動$\mathrm{Stab}_G(S)\curvearrowright S$が定義できる.これは自由である.(自由の補足は必要?)
つまり,$|\mathrm{Stab}_G(S)|\le|S| = p^n$

以上より,$|\mathrm{Stab}_G(S)| = p^n$
つまり$\mathrm{Stab}_G(S)$こそが$p\text{-Sylow}$部分群である.


(ii) 固定点から包含を導く.
(i)で存在を確認した$P$をつかい,左移動$Q\curvearrowright G/P$を考える.
$|G/P| = m \perp p$ なので,命題3より,ある$gP \in G/P$をとり,
$$Q \le \mathrm{Stab}(gP) = gPg^{-1}$$
とできる.(この作用の固定化部分群が共役になることは例1を確認)
共役作用で,群の位数は変わらないことから$gPg^{-1} \in \mathcal S$になるので,
$\exists P' \in \mathcal S\quad \text{s.t.}\quad Q \le P'$が言えた.


特に$Q \in \mathcal S$なら位数が同じ$p^n$なので$Q = gPg^{-1}$となり,$p\text{-Sylow}$部分群が互いに共役であることが言えた.


(iii) 軌道のサイズは作用する群の位数の約数である.
推移的な共役$G\curvearrowright \mathcal S$について,軌道固定化群定理より,軌道のサイズ$|\mathcal S|$(推移的なので全体)は,$|\mathcal S|= \dfrac{|G|}{|N_G(P)|} \mid \dfrac{|G|}{|P|}=m$.つまり,$|\mathcal S|\mid m $


(iv) 固定点が$P$のみであることを示す.
推移的な共役$G\curvearrowright \mathcal S$から誘導される$P\curvearrowright \mathcal S$の固定点を求める.

$$ P_i \in \mathrm{Fix}(P) \iff P \le \mathrm{Stab}(P_i) = N_G(P_i) $$
つまり$P$$N_G(P_i)$$p\text{-Sylow}$部分群.
ところで$P_i \triangleleft N_G(P_i)$だから$P_i$$N_G(P_i)$の唯一の$p\text{-Sylow}$部分群なので$P=P_i$
つまり$\mathrm{Fix}(P)=\{P\}$


$P$のみなので補題1固定点の補題より,$|\mathcal S| \equiv 1 \pmod p$が言える.

おわりに

本当は作用の定義からはじめて,自然に定まる同値類として軌道がうまれ......という流れからもっと自然にSylowにたどり着きたかったのですが,そこまでの構成をまとめきるのがなかなか厳しかったです.

これを書いたきっかけというのは,個人的にSylowの証明に出てくる,天から降ってきたような作用の取り方にずっと不審感を抱いていたところにあります.もっと天然自然にあるべき定理のはずで,もっと自然にでてこないとおかしいと.

そしてちょうど自主ゼミでこれをやるということでせっかくなら,その天から降ってきたように見えた作用の取り方を,どうにか自然なものと解釈できないかと,もっと自然に再構成してやろうと意気込んだのです.

一度寝かせておくため,いずれ修正が入ることは間違いないのですが,現状そこまでうまくは書けなかったと悔しがっています.

投稿日:22時間前
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