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大学数学基礎解説
文献あり

log(xy)=log(x)+log(y) をマクローリン展開で見る

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はじめに

対数関数logには,log(xy)=log(x)+log(y)という基本的な性質がありますが,
この性質は多くの場合,対数関数を指数関数の逆関数として定義し,指数関数の性質ex+y=exeyに持ち込んで証明されます.
では,この指数関数の性質ex+y=exeyがどのように証明されるかというと,これは指数法則から証明されたり,
ex:=n=0xnn!
と指数関数をマクローリン展開で定義したときでも,
exey=(n=0xnn!)(n=0ynn!)=n=0k=0nxkk!ynk(nk)!=n=01n!k=0nn!k!(nk)!xkynk=n=01n!(x+y)n=ex+y
というように,コーシー積と二項展開を用いて証明されたりします.

しかし,logをマクローリン展開で定義して,log(xy)=log(x)+log(y)の性質を示す,という文献を私は見たことがありません.
というのも,指数関数のマクローリン展開は収束半径がであるのに対し,対数関数のマクローリン展開
n=1(1)n1nxn
は収束半径が1<x1と限られているため,そもそもマクローリン展開で対数関数を定義するのは間違いだからです.

しかし,ゼミで読んでいる「数論Ⅰ Fermatの夢と類体論」においてp進数体Qp上の対数関数は,xQpに対して,
log(x):=n=1(1)n1n(x1)n    (x1pZp)
と定義します.そして,この定義からlog(xy)=log(x)+log(y)が成立するという命題が掲載されていますが,この証明は「RCの場合と同様である」と書かれていただけでした.

よって,logをマクローリン展開し,無限級数の形で定義したとき,級数が収束する範囲でlog(xy)=log(x)+log(y)を示すことが果たして本当にできるだろうか,と思ったのが今回の記事を書こうと思った始まりです.

完全に独自に与えた証明なので,間違っていたらお手柔らかにご指摘いただけますと幸いです.
なお,この記事の始まりはp進数体Qp上での対数関数の話でしたが,本記事の内容はR上の話として進めていきます.

本記事の主題

log(x)の定義(収束半径内のみ)

1<x1に対し,log(1+x):=n=1(1)n1nxnと定義する。

1<x,y1に対し,
log{(x+1)(y+1)}=log(x+1)+log(y+1).

(前半)

定義通りに左辺を計算すると,
log{(x+1)(y+1)}=n=1(1)n1n(xy+x+y)n
となる.
上式の右辺にある(xy+x+y)nを展開したときの,(xの何乗)×yの何乗)の係数に注目して考える.
(xy+x+y)nの展開について,xya個,xb個,yc個かかった項,つまりxa+bya+cの係数は,n!a! b! c!  (a+b+c=n)となる.

  1. yを含まず,xn (n1)という形をした項の係数について,
    上のa,b,cで,a=0かつb=nかつc=0より,xnの係数はn!0! n! 0!=1である。
    よって,元の式n=1(1)n1n(xy+x+y)nにおける各xn (n1)の係数は
    (1)n1n
    である.

  2. xを含まず,yn (n1)という形をした項の係数について,
    上と同様にして,ynの係数はn!0! 0! n!=1である.
    よって,元の式n=1(1)n1n(xy+x+y)nにおける各yn (n1)の係数は
    (1)n1n
    である.

  3. xiyn (i1, ni)という形をした項の係数について考える.(例えば,x2y2xy2x2y5
    xiynという形をした項が初めて出てくる展開は(xy+x+y)n,最後に出てくるのは(xy+x+y)n+iなので,xy,x,yの組み合わせを考えることにより,
    (xy+x+y)n        n!i! 0! (ni)!(xy+x+y)n+1     (n+1)!(i1)! 1! (ni+1)!(xy+x+y)n+2     (n+2)!(i2)! 2! (ni+2)!                                                                                             (xy+x+y)n+i2   (n+i2)!2! (i2)! (n2)!(xy+x+y)n+i1   (n+i1)!1! (i1)! (n1)!(xy+x+y)n+i      (n+i)!0! i! n!
    となる.
    よって,元の式n=1(1)n1n(xy+x+y)nにおけるxiyn (i1, ni)の係数,
    つまり,上の(xy+x+y)n+k (0ki)を展開したときのxiynの係数に(1)n+k1n+kをかけたものの総和は,
    k=0i(1)n+k1n+k(n+k)!(ik)! k! (n+ki)!=k=0i(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki)!
    となる.

  4. xnyj (j1, nj+1)という形をした項の係数について,
    xy+x+yx,yの対称式より,xnyj (nj+1)の係数についての議論は(3)と同様になる(同様とは言っても,(3)において,n=iの場合は除いている).

(1),(2)より,
log{(x+1)(y+1)}=(x+y12x212y2+13x3+13y3)                                                      +(xiyjの多項式 (i,j0))=n=1(1)n1nxn+n=1(1)n1nyn+(xiyjの多項式 (i,j0))()=log(x+1)+log(y+1)+(xiyjの多項式 (i,j0))
となることがわかるので,(xiyjの多項式 (i,j0))=0が示されれば,この定理は証明されたことになる.
(証明は後半に続く)

予想の証明

ここで,天下り的ではあるが,示したいlogの基本性質は成り立つはずなので,次が成り立つと予想される.

(予想)

整数i,nに対してi1,niとするとき,次の等式が成り立つ.
k=0i(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki)!=0

この予想が証明されれば,(3),(4)より,(xiyjの多項式 (i,j0))=0が示されたことになる.

それでは,この予想の証明を与える.

k=0i(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki)!=k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki)!+(1)n+i1(n+i1)!i! n!=k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+ki+1)!n+ki+1ik+(1)n+i1(n+i1)!i! n!=k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+ki+1)!(ik)+n+1ik+(1)n+i1(n+i1)!i! n!=k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+ki+1)!(n+1ik1)+(1)n+i1(n+i1)!i! n!=(n+1)k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki+1)!k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+ki+1)!+(1)n+i1(n+i1)!i! n!=(n+1)k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki+1)!+(1)n+i1(n+1)(n+i1)!i! (n+1)!k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+ki+1)!=(n+1){k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki+1)!+(1)n+i1(n+i1)!i! (n+1)!}k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+ki+1)!=(n+1)k=0i(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki+1)!k=0i1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+ki+1)!.
よって,1miに対し,
Ti,m:=k=0i(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km)!
と定義すれば,上の計算によって,
Ti,i=(n+1)Ti,i1Ti1,i1
がわかる.Ti,i=0が示したい式である.
一般に,2miに対して,
Ti,m=k=0i(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km)!=k=0m1(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km)!+k=mi(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km)!=k=0m1(1)n+k1(n+k1)!(m1k)! k! (n+km+1)!n+km+1(mk)(m+1k)(ik)+k=mi(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km)!=k=0m1(1)n+k1(n+k1)!(m1k)! k! (n+km+1)!(n+im+1)(ik)(mk)(m+1k)(ik)+k=mi(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km)!=(n+im+1)k=0m1(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!k=0m1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+km+1)!+k=mi(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km)!.
ここで,上式の第3項について考える.
ak:=(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km)!とおくと,mkiのとき,
ak=(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km)!=(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!(n+km+1)=(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!(n+im+1(ik))=(n+im+1)(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!(ik)=(n+im+1)(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!(1)n+k1(n+k1)!(ik1)! k! (n+km+1)!
となるので,
Ti,m=(n+im+1)k=0m1(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!k=0m1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+km+1)!+k=miak=(n+im+1)k=0m1(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!k=0m1(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+km+1)!+(n+im+1)k=mi(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!k=mi(1)n+k1(n+k1)!(ik1)! k! (n+km+1)!=(n+im+1)k=0i(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+km+1)!k=0i(1)n+k1(n+k1)!(i1k)! k! (n+km+1)!=(n+im+1)Ti,m1Ti1,m1.
よって,次のような関係式を得る.
Ti,i   =(n+1)Ti,i1Ti1,i1 ,Ti,i1=(n+2)Ti,i2Ti1,i2 ,Ti,i2=(n+3)Ti,i3Ti1,i3 ,                                 Ti,4   =(n+i3)Ti,3Ti1,3 ,Ti,3   =(n+i2)Ti,2Ti1,2 ,Ti,2   =(n+i1)Ti,1Ti1,1 .
ここで,上で得た関係式は,任意のTi,m (2mi)が,Tj,1  (1ji)の1次結合で表されることを示している.
例えば,Ti,2=(n+i1)Ti,1Ti1,1なので,
Ti,3=(n+i2)Ti,2Ti1,2=(n+i2){(n+i1)Ti,1Ti1,1}{(n+i2)Ti1,1Ti2,1}=(n+i2)(n+i1)Ti,12(n+i2)Ti1,1+Ti2,1
となり,Ti,2,Ti,3Tj,1の1次結合である.
そして,このTj,1  (1ji)について計算すると,
Tj,1=k=0j(1)n+k1(n+k1)!(jk)! k! (n+k1)!=k=0j(1)n+k1(jk)! k!=(1)n1j!k=0jj!(jk)! k!(1)k=(1)n1j!k=0jjCk(1)k=(1)n1j!(1+(1))j     (  二項展開 )=0
となるので,Ti,iTj,1の1次結合で表されることを踏まえれば,Ti,i=0が成り立つことが分かる.

それでは,定理1の証明を最後まで行おう.

(後半)

(3)について,上の予想が成り立つことから,
k=0i(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki)!=0
である.
したがって,n=1(1)n1n(xy+x+y)nにおけるxiyn (i1, ni)の係数は0となる.
よって,(3),(4)より,()において
(xiyjの多項式 (i,j0))=0
となり,
log{(x+1)(y+1)}=log(x+1)+log(y+1)
が成り立つ.

補題2

整数i,nに対してi1,niとするとき,次の等式が成り立つ.
k=0i(1)n+k1iCkn+k1Ci1=0

補題2の左辺を以下のように変形する.
k=0i(1)n+k1(n+k1)!(ik)! k! (n+ki)!=k=0i(1)n+k1i!(ik)! k!(n+k1)!i! (n+ki)!=1ik=0i(1)n+k1i!(ik)! k!(n+k1)!(i1)! (n+ki)!=1ik=0i(1)n+k1iCkn+k1Ci1
よって,i0より,
k=0i(1)n+k1iCkn+k1Ci1=0

さいごに

ここまで煩雑な計算に最後までお付き合いいただき,誠にありがとうございました.

収束半径の中だけで,logをマクローリン展開で定義した場合にも,log(xy)=log(x)+log(y)という基本性質を示すことができました!
解析的というより,どちらかと言うと組合せ論的な議論が多かったと思います。

上の予想を示す際,数学的帰納法などを使ってもっと簡単に示せるもんだと思っていましたが,かなり手こずり,新しくパラメータを1つ増やして考える,という発想で何とかごり押して証明しました.

もっと良い証明方法があるかもしれませんので,興味があったらぜひ挑戦してみて下さい!

さいごに,友人のKくんには何度も意見を聞いてもらったり,また,証明の穴を指摘してくれたりして,たくさん助けてもらいました.
この場をお借りして感謝を伝えておきます.

参考文献

[1]
加藤和也,黒川信重,斎藤毅, 数論Ⅰ Fermatの夢と類体論, 岩波書店, 2005
投稿日:202474
更新日:202476
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B4数学科 / 整数論の勉強をしています!

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