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大学数学基礎解説
文献あり

ルベーグ積分 (テレンス・タオ) 第1.1章 ジョルダン測度

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1.1.1 基本測度

この本の著者によるドラフト版はwebで公開されています: https://terrytao.wordpress.com/wp-content/uploads/2012/12/gsm-126-tao5-measure-book.pdf

このセクションでは, ルベーグ測度の導入に先立って, ジョルダン測度を取り扱っている. ルベーグ測度とジョルダン測度は前者が後者の一般化になっているという関係がある. ジョルダン測度の概念は簡単であるし, この測度で多くの集合を測量することができるため, このセクションで説明されている. しかし, ジョルダン測度では極限として現れる集合をしばしば取り扱うことができない. そのような集合に対処するためにルベーグの理論を考える必要がある.

まず有限個の直方体の和集合であらわされる集合を基本集合と呼び, この集合の上での測度を定義する. 単なる直方体$B$の測度は直方体の体積(各辺の長さの積)として定義し(これを$|B|$と書く), 一般の基本集合については, 集合を互に素な直方体に分割して, それぞれの直方体の測度の和をこの集合の測度と定める. 次の命題によって, 基本集合上の測度のwell-definednessが保証される. (演習1.1.1.はほとんど自明だったので省略.)

基本集合上の測量 (参考: 補題1.1.2. tao)

$E \subset \mathbb{R}^d$を基本集合とする.
(1) $E$は互いに素な有限個の直方体の和集合として書かれる. それを分割と呼ぶ.
(2) $B_1, \cdots, B_n$$E$の分割として, $m(E) = |B_1| + \cdots + |B_n|$と定める. この値は分割の取り方に依らない. これを基本測度を呼ぶ.

(2)の別証を考える問題が演習問題として記されている.

(参考: 演習 1.1.2 tao

上の命題の(2)を証明せよ. (二つの分割方法があるとすると, さらにこれらよりも細かい分割があることを利用する)

$E$の分割が$(B_i)_{1 \leq i\leq n}$, $(B'_i)_{1 \leq i\leq m}$と二通りあるとする. $|B_1| + \cdots + |B_n|=|B'_1| + \cdots + |B'_m|$を示したい. それぞれの直方体 $B_1, \cdots, B_n, B'_1 \cdots , B'_m$の辺の端点を全て集めて, それらの点で格子を作る. その格子のうち, $E$に含まれているものだけを取り出し, それらを$(A_i)_{1 \leq i\leq l}$とする. (説明は言葉足らずですので, 下の図1をご覧ください. ) 各$A_i$は直方体になっており, $(A_i)_{1 \leq i\leq l}$の分割になっていることに注意する. この分割で測った基本測度は, $\sum_{i =1}^l |A_i|$である.
一方で, $B_1, \cdots, B_n$はそれぞれ$A_1, \cdots, A_l$の中のいくつかの和集合でかける. さらに各$A_i$は必ず$B_1, \cdots, B_n$のどれか一つに含まれる. このことから, $|B_1| + \cdots + |B_n|=\sum_{i =1}^l |A_i|$が分かる. 同様に, $|B'_1| + \cdots + |B'_m|=\sum_{i =1}^l |A_i|$も分かり, $|B_1| + \cdots + |B_n|=|B'_1| + \cdots + |B'_m|$が示された.
!FORMULA[24][-1343464222][0], !FORMULA[25][-1884534122][0]から!FORMULA[26][694590145][0]を作ることを説明する図 $(B_i)_{1 \leq i\leq n}$, $(B'_i)_{1 \leq i\leq m}$から$(A_i)_{1 \leq i\leq l}$を作ることを説明する図

基本測度の非負性や有限加法性や平行移動不変性などは定義から直ちに従う. 更に, 興味深いことに非負性や有限加法性や平行移動不変性を満たす基本集合を引数に取る集合関数は基本測度に限られる(基本測度の一意性). これらの三つは測度がもつ性質としてとても自然なものである. 測度を面積と読み替えると分かり易い. 非負性はどの集合の面積も負ではないと言っている. 有限加法性は互いに交わらない二つの集合の和集合の面積はそれぞれの面積の和であると言っている. 平行移動不変性は4点$a,b,c,d$を頂点とする長方形と, 4点$a+x,b+x,c+x,d+x$を頂点とする長方形の面積が同じであると言っている(長方形である必要はない). このような条件を満たす集合関数は一見たくさんありそうだが, 実は基本測度だけなのだ! それを示すのが次の演習である.

基本測度の一意性 (参考: 演習 1.1.3 tao

$m'$$\mathbb{R}^d$上の基本集合の全てからなる集合から$\mathbb{R}_+$への写像とし, 非負, 有限加法的, 平行移動不変であるとする. このとき, ある定数$c\geq 0$が存在して, $m' = c m$となることを示せ.

  1. $c:=m'((0,1]^d)$と定義する. 非負性より, $c \geq 0$である. まずは任意の$d$個の実数$x_1\cdots x_d$について, $m'((0,x_1]\times \cdots \times (0,x_d]) = c x_1\cdots x_d$を示す. いきなり実数について考えるのは難しいので, [自然数の逆数]→[有理数]→[実数]というように順番に示していく.
    [自然数の逆数]: 任意の自然数$n$に対して, $m'((0,1/n]^d) = c (1/n)^d$となることを示す. 一辺の長さが$1$の立方体を$n^d$個の一辺の長さが$1/n$の立方体に分割するのである. そうすると有限加法性よりそれぞれの小さい立方体の測度の和が全体の立方体の測度に等しいことが分かり(小さな立方体は有限個しかない!), 平行移動不変性からそれぞれの小さな立方体の測度は互いに等しいことがわかる. つまり,
    \begin{align} c = m'((0,1]^d) &= m' \Big(\sum_{0 \leq k_i \leq n-1, i = 1, \cdots, d}\big(\frac{k_1}{n}, \frac{k_1+1}{n}\big]\times \cdots \times \big(\frac{k_d}{n}, \frac{k_d+1}{n}\big]\Big)\\ & = \sum m'\Big(\frac{k_1}{n}, \frac{k_1+1}{n}\big]\times \cdots \times \big(\frac{k_d}{n}, \frac{k_d+1}{n}\big]\Big) \ (\because \text{有限加法性})\\ & = \sum m' \big((0,1/n]^d\big)\ (\because \text{平行移動不変性})\\ & = n^d m' \big((0,1/n]^d\big) \end{align}
    これで, $m'((0,1/n]^d) = c (1/n)^d$を得た.
    [有理数]: $q_1\cdots q_d$を任意の有理数として, $m'\Big((0,q_1]\times \cdots \times (0,q_d]\Big)=c q_1 \cdots q_d$を示したい. 有理数の定義から, 自然数の組$m_1, \cdots, m_d, n$が存在して, $q_i = m_i/n$とできる. $m'\Big((0,m_1/n]\times \cdots \times (0,m_d/n]\Big) = (m_1\cdots m_d) \cdot m'((0,1/n]^d)$ を示せばよい. そうすると, $$m'\Big((0,q_1]\times \cdots \times (0,q_d]\Big)=m'\Big((0,m_1/n]\times \cdots \times (0,m_d/n]\Big) = (m_1\cdots m_d) c n^{-d}= c q_1 \cdots q_d$$が分かる. これは上の議論と全く同じようにできる(一辺の長さが$q_1, \cdots ,q_d$の直方体を$m_1\cdots m_d$個の一辺の長さが$1/n$の立方体に分割する).
    [実数]: 一辺の長さが有理数の直方体で近似する. $x_1, \cdots x_d$を任意の実数とする. $d$個の有理数の列$(q^{(i)}_n)_n \ (i = 1, \cdots ,d)$ で各$(q^{(i)}_n)_n$$x_i$に上から収束するものを取る. このような列の存在は有理数の稠密性によって保証される. 有限加法性と前段の結果から,
    \begin{align} m'((0,x_1]\times \cdots \times (0,x_d]) \leq m'((0,q_n^{(1)}]\times \cdots \times (0,q_n^{(d)}]) = c q_n^{(1)}\cdots q_n^{(d)} \end{align}
    よって, $n \rightarrow \infty$として,
    \begin{align} m'((0,x_1]\times \cdots \times (0,x_d]) \leq c x_1 \cdots x_d \end{align}
    を得る. 同様に下から$x_1, \cdots, x_d$に収束する$d$個の有理数の列を取ることで逆向きの不等式が得られるので, $m'((0,x_1]\times \cdots \times (0,x_d]) = c x_1 \cdots x_d$が示された.
  2. 1の結果と平行移動不変性から, 任意の直方体$B = I_1 \times \cdots \times I_d$について, $m'(B) = c |I_1|\cdots |I_d|$が示された. $E$を任意の基本集合とし, $B_1, \cdots ,B_n$をその分割の一つとする. このとき,
    \begin{align} m(E) = \sum_{i=1}^n m(B_i) = \sum_{i=1}^n |I_1^{(i)}|\cdots |I_d^{(i)}| = c^{-1}\sum_{i=1}^n c|I_1^{(i)}|\cdots |I_d^{(i)}| = c^{-1} \sum_{i=1}^n m'(B_i) = c^{-1}m'(E) \end{align}
    となり, 示された. 最後の等号は$m'$の有限加法性によって得られることに注意する.
  3. これまでは, 直方体の辺を構成する区間が左開きの半開区間であるケースのみを考えたが, その他のケースも全く同様である. そのためには, 一点集合の$m'$の値が$0$であることを示せばよい. これは次のようにして分かる. $a_1, a_2, \cdots$$[0,1]^d$に属する相異なる可算無限個の点とする. 任意の自然数$n$に対して, 有限加法性より, $m'([0,1]^d) \geq m'(\{a_1, \cdots a_n\})=\delta n$. ただしここで, $\delta = m(\{0\})$であり, 最後の等号は平行移動不変性から従う. しかし, $n$は任意であり, また仮定より$m'([0,1])<\infty$ なので, $\delta=0$が成立する. よって, 再び平行移動不変性から, 一点集合の$m'$の値が$0$である.
  1. まずは有限加法性と平行移動不変性がそのまま使える有理数のケースを考えて, 有理数の稠密性を用いて実数全体に拡張することがポイントである.
  2. この命題を最初に見たときはかなり強い結果のように思えたが, 実際に証明してみると, 平行移動不変性の仮定がかなり強いことが分かり, このような結果を得られて自然だなと感じた.(感想)

次が最後の演習問題である。この問題は易しい。基本集合の定義に沿って書き下していけばできる。

(参考: 演習 1.1.4 tao

$d_1, d_2$ は自然数で, 二つの基本集合$E_1 \in \mathbb{R}^{d_1}$, $E_2 \in \mathbb{R}^{d_2}$を考える. このとき, 直積$E_1 \times E_2 \in \mathbb{R}^{d_1+d_2}$もまた基本集合で, $m^{d_1+d_2}(E_1 \times E_2) = m^{d_1}(E_1)m^{d_2}(E_2)$となることを示せ.

$E_1$$E_2$は基本集合であるので, $E_1 = \bigcup_{i=1}^{n_1} B_i$, $E_2 = \bigcup_{j=1}^{n_2} C_j$と書ける. ただしここで, $B_i \ (i = 1 , \cdots, n_1)$, $C_j \ (j = 1 , \cdots, n_2)$は直方体で, 分割になっているとする(分割の存在は補題1.1.2.で保証されている). つまり, 各$B_i\times C_j$は互いに素である. このとき次に注意する:
\begin{align} x \in E_1 \times E_2 &\iff x= \exists ( x_1, x_2) \ \text{s.t.} \ x_1 \in E_1, x_2 \in E_2\\ & \iff x= \exists ( x_1, x_2) \ \text{s.t.} \ x_1 \in B_i, x_2 \in C_j \ \text{となる} \ i, j \ \text{が存在}\\ & \iff x \in \bigcup_{i = 1, \cdots n_1, .j = 1, \cdots n_2} B_i \times C_j \end{align}
つまり, $E_1 \times E_2 = \bigcup_{i = 1, \cdots n_1, j = 1, \cdots n_2} B_i \times C_j$. したがって, $E_1 \times E_2 $もまた基本集合. さらに,
\begin{align} m^{d_1+d_2}(E_1 \times E_2 ) &= \sum_{i = 1, \cdots n_1, j = 1, \cdots n_2} m^{d_1\times d_2} (B_i \times C_j) \\ &= \sum_{i = 1, \cdots n_1, j = 1, \cdots n_2} |B_i| |C_i|\\ &= \sum_{i = 1, \cdots n_1} \sum_{j = 1, \cdots n_2}|B_i| |C_i|\\ &= \sum_{i = 1, \cdots n_1}|B_i| \sum_{j = 1, \cdots n_2} |C_i| = m^{d_1}(E_1)m^{d_2}(E_2) \end{align}
が分かる. 最初の等号を得るためには, 各$B_i\times C_j$が互いに素であることと有限加法性を用いた.

1.1.2 ジョルダン測度

基本集合は直方体の有限和であるので, 基本測度では測れない図形がたくさんある. 例えば, 三角形や円も測れない. そこでジョルダン測度を導入する. アイデアは図形を上側と下側から近似するということである. 具体的には, 次のようにジョルダン内測度$m_{*,(J)}$とジョルダン外測度$m^{*,(J)}$を定義する.
\begin{align} m_{*,(J)}(E) = \sup_{A \in E, A \text{は基本集合}} m(A),\\ m^{*,(J)}(E)= \inf_{E \in B, B \text{は基本集合}} m(B). \end{align}
これらが一致するとき, $E$はジョルダン可測といい, その値を$E$のジョルダン測度といい, $m(E)$と書く.

因みに, ジョルダン測度の名は19世紀のフランス人数学者 Camille Jordan から取られているようです. ジョルダン標準形とかジョルダン曲線とかと同じ人です. Jordanという名前はよく聞きますが, 聖書に登場する ヨルダン川(Jordan River) に由来するらしいです. この名前を聞くと, Michael Jordanを思い出しますね.

次の演習はジョルダン可測集合の特徴付けを与える.

ジョルダン可測集合の特徴付け (参考: 演習1.1.5 tao)

次の(1)-(3)は同値である.
(1) $E$はジョルダン可測.
(2) 任意の$\varepsilon>0$について, 基本集合$A,B$$A \subset E \subset B$かつ$m(B\setminus A)\leq \varepsilon$となるものが存在.
(3) 任意の$\varepsilon>0$について, 基本集合$A$$ m^{*,(J)}(A \Delta E) \leq \varepsilon$となるものが存在.

  • [(1)⇒(2)] $\varepsilon>0$ を固定する. $E$がジョルダン可測であるので, $m(E)-\varepsilon/2< m(A)$となる基本集合$A \supset E$が取れる. 同様に, $m(E)+\varepsilon/2 >m(B)$なる$B \subset E$が取れる. よって, $m(B \setminus A) = m(B)-m(A) = (m(B)-m(E))-(m(E)-m(A))< \varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$. 一つ目の等号には基本測度の有限加法性を用いた.
  • [(2)⇒(1)] ジョルダン可測性の定義により, $$\inf_{B \supset E, B:基本集合}m(B) = \sup_{A \subset E, A:基本集合}m(A)$$
    を示せばよい. 基本測度の単調性と包含関係$A \subset E \subset B$より, $''\geq''$は明らかであるので, $''\leq''$を示す. したがって, $\sup$の定義に基づいて考えると, 任意の$\varepsilon>0$に対して, 次を満たす基本集合$A \subset E$が存在することを示せばよい.
    $$ \inf_{B \supset E, B:基本集合}m(B) \leq m(A)+ \varepsilon.$$
    更に$\inf$の定義に基づいて考えると, 任意の$\varepsilon, \varepsilon'>0$に対して, 次を満たす基本集合$A,B$$A \subset E \subset B$を満たすものが存在することを示せばよい.
    $$ m(B)-\varepsilon' \leq m(A)+ \varepsilon$$
    $\varepsilon, \varepsilon'>0$は任意であるので, この不等式が成立することは(2)によって保証される.
  • [(2)⇒(3)] $\varepsilon>0$ を固定する. (2)より, $m(B \setminus A)\leq \varepsilon$なる基本集合$A, B$$A \subset E \subset B$となるものが取れる. $B \setminus A$が基本集合であり, $A \Delta E = E \setminus A \subset B \setminus A$であることより, $m^{*,(J)}(A \Delta E)\leq m(B\setminus A) \leq \varepsilon$.
  • [(3) ⇒(2)]$\varepsilon>0$ を固定する. (3)より, 基本集合$A$$m^{*,(J)}(A \Delta E)\leq \varepsilon/2$を満たすものが存在する. したがって, ジョルダン外測度の定義より, 基本集合$C \supset A \Delta E$$m(C) \leq \varepsilon$なるものが存在する. このとき, $A\setminus C \subset E \subset A \cup C$であり, $A \cup C \setminus (A\setminus C) = C$であり, $A\setminus C, A \cup C $はともに基本集合であるので, (2)を満たす.
    !FORMULA[151][440061178][0]の(とても雑な)図. $A,C,A\Delta E$の(とても雑な)図.

(3)の形の可測性の定義は後からルベーグ可測性を定義するときに登場する.

ジョルダン可測の基本的性質 (参考: 演習1.1.6.)

$E$, $F$はそれぞれジョルダン可測とする. 次の性質を示せ.
(1) $E \cup F$, $E \cap F$, $E\setminus F$, $E \Delta F$はジョルダン可測である. (ブール閉包性)
(2) $m(E) \geq 0$. (非負性)
(3) $E,F$が互いに素であれば, $m(E \cup F)=m(E)+m(F)$. (有限加法性)
(4) $E \subset F$ならば, $m(E) \leq m(F)$. (単調性)
(5) $m(E \cup F)\leq m(E)+m(F)$. (有限劣加法性)
(6) $m(E+x) = m(E)$. (平行移動不変性)

前回の演習で得たジョルダン可測性の同値な定義(2)を用いることがポイントである.
  1. $E \cup F$がジョルダン可測であることだけを示す. 残りも同様にできる. $\varepsilon>0$を任意に固定する. $E$のジョルダン可測性の仮定と演習1.1.5.より, 基本集合$A,B$$A \subset E\subset B$$0< m(B)-m(A)\leq \varepsilon/2$を満たすものが存在する. 同様に, 基本集合$A',B'$$A' \subset F\subset B'$$0< m(B')-m(A')\leq \varepsilon/2$を満たすものが存在する. このとき, $A\cup A'$$B\cup B'$はともに基本集合で, $A\cup A'\subset E \cup F \subset B\cup B'$を満たし, 更に$m(B\cup B')-m(A\cup A')= m((B\setminus A)\cup (B'\setminus A')) \leq m(B\setminus A)+m(B\setminus A) \leq \varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$である. 一つ目の不等号は基本測度の劣加法性から従う. よって, 演習1.1.5.より$E\cup F$はジョルダン可測である.
  2. 背理法を用いる. $m(E)=-\delta<0$なるジョルダン可測な$E$が存在するとする. このとき, $E$の可測性から, $E \subset A$なる基本集合$A$$0< m(A)-m(E)<\delta/2$なるものが存在する. したがって, $m(A)<-\delta/2<0$であり, これは基本測度の非負性に矛盾する.
  3. $\varepsilon>0$を任意に固定する. $E,F$のジョルダン可測性の仮定と演習1.1.5.より, 基本集合$A,B,A',B'$$A \subset E \subset B$, $A' \subset F \subset B'$$0< m(B)-m(A)\leq \varepsilon/2$, $0< m(B')-m(A')\leq \varepsilon/2$を満たすものが存在する. 特に, $0< m(B)-m(E)\leq \varepsilon/2$, $0< m(B')-m(E)\leq \varepsilon/2$,$0< m(E)-m(A)\leq \varepsilon/2$, $0< m(E)-m(A')\leq \varepsilon/2$が成立していることに注意する. まず次の評価が得られる:
    \begin{align} m(E \cup F) &\geq m(A \cup A')  (\because \text{ジョルダン測度の定義と}A \cup A'\text{が基本集合であること})\\ &= m(A)+m(A') (\because A\text{と}A'\text{が互いに素であることと基本測度の有限加法性})\\ &\geq m(E)-\varepsilon/2+m(F)-\varepsilon/2\\ &=m(E)+m(F)-\varepsilon \end{align}
    また次の評価を得る:
    \begin{align} m(E \cup F) &\leq m(B \cup B') (\because \text{ジョルダン測度の定義と}B \cup B'\text{が基本集合であること})\\ & \leq m(B)+m(B') (\because \text{基本測度の劣加法性})\\ & \leq m(E)+\varepsilon/2+m(F)+\varepsilon/2\\ &=m(E)+m(F)+\varepsilon. \end{align}
    よって, $\varepsilon>0$の任意性から, $m(E \cup F)=m(E)+m(F)$を得る.

(4)非負性と有限加法性より直ちに従う: $m(F)=m(F\setminus E)+m(E) \geq m(E)$.
(5) (3)の後半の評価から得られる. そこでは$E$$F$が互いに素であることを使っていなかったことに注意する.
(6) ほぼ定義から明らかなので割愛. $\sup$$\inf$をとるときの基本集合も平行移動させればよい.

連続関数のグラフのジョルダン可測性 (参考: 演習1.1.7)

$B$$R^{n-1}$上の直方体とする. $f$$B$上の連続関数とする.

  1. $f$のグラフ$G=\{(x, f(x)): x\in B\}$$R^{n}$上のジョルダン可測集合であり, その測度は$0$である.
  2. $f\geq 0$とする. $I=\{(x, y): x\in B, y \in [0,f(x)]\}$はジョルダン可測である.

この演習の(2)はコンパクト集合上の連続関数がリーマン可積分であることと同等であることを示唆しています.

  1. 各辺の長さが$B$$1/N$である直方体による分割を考える. それぞれの分割された直方体を$B^N_n (n = 1, \cdots , N^d)$ とかくことにする. $\varepsilon>0$を任意にとる. $f$はコンパクト集合$B$上では一様連続であるから, $N$を十分大きくとることで, それぞれの$B^N_n$について, $|f(x)-f(y)|<\varepsilon;$ $x,y \in B^N_n$とできる.
    \begin{align} \varnothing \subset G \subset \sum_{n=1}^{N^d} B^N_n \times [\min_{x \in B^N_n}f(x), \max_{x \in B^N_n}f(x)]=:C \end{align}
    の包含関係に注意する. ただしここで, $\sum$の記号は互いに素な集合同士の合併を表す. また, $\varnothing$$C$は基本集合であることに注意する. まず$m(\varnothing)=0$より, $m_{*,J}(G)\geq 0$. 一方で,
    \begin{align} m\Big(\sum_{n=1}^{N^d} B^N_n \times [\min_{x \in B^N_n}f(x), \max_{x \in B^N_n}f(x)]\Big) &= \sum_{n=1}^{N^d} m(B^N_n) m( [\min_{x \in B^N_n}f(x), \max_{x \in B^N_n}f(x)])\\ &\leq \varepsilon \sum_{n=1}^{N^d} m(B^N_n) = \varepsilon m(B). \end{align}
    ただしここで, 一行目の不等号はジョルダン測度の単調性, 二行目の等号は有限加法性と演習1.1.4より, 三行目の不等号は$\varepsilon $の取り方により, 最後の等号は, 再び有限加法性による. よって, $\varepsilon>0 $が任意であることから,$m^{*,J}(G)\leq 0$. よって, $G$がジョルダン可測で, $m(G)=0$が分かる.

  2. $\varepsilon>0$を任意にとる. $N$を(1)と同じようにとる. このとき, 次の包含関係に注意する.
    $$ \sum_{n=1}^{N^d} B^N_n \times [0, \max_{x \in B^N_n}f(x)] \subset I \subset \sum_{n=1}^{N^d} B^N_n \times [0, \max_{x \in B^N_n}f(x)] $$
    左辺と右辺の集合をそれぞれ, $A,C$と書く. これらは基本集合である. このとき, (1)と同じ議論により,
    $m(C)-m(A) \leq \varepsilon m(B) $が分かる. $\varepsilon>0$は任意であるので, 演習1.1.5 (2)より, $I$がジョルダン可測であることが示された.

・(1)ではジョルダン可測性の定義をそのまま用いたのに対して, (2)では演習1.1.5(2)で与えた同値な定義を用いた. その心は, (1)では考えている集合の測度が具体的に分かる(このケースでは$m(G)=0$になる)ので, 測度が$0$よりも少しだけ大きくなる集合と小さくなる集合を考えて, ジョルダン可測性の定義をそのまま用いた. 一方で, (2)では最終的に$m(G)$の値は分からない. なので, 大きい集合と小さい集合の差を評価することで可測性をチェックできる演習1.1.5(2)の定義を用いた.

参考文献

[1]
テレンス・タオ , ルベーグ積分, 朝倉書店, 2016
投稿日:78
更新日:725
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