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東大数学1996-2を行列を用いて解く

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$$\newcommand{bm}[1]{\boldsymbol{#1}} $$
東大1996理前-2

$a,b,c,d$を正の数とする。不等式$\begin{cases} s(1-a)-tb>0\\ -sc+t(1-d)>0 \end{cases}$を同時に満たす正の数$s,t$があるとき、二次方程式$$ x^2-(a+d)x+(ad-bc)=0 $$
$-1< x<1$の範囲に異なる2つの実数解をもつことを示せ。

前提知識

$L^\infty$ノルム

$\bm{x}\in\mathbb{R}^n$に対し、$L^\infty$ノルム$\lVert \bm{x}\rVert_\infty$$\displaystyle\lVert\bm{x}\rVert_\infty=\sup\limits_{1\leq i \leq n} |x_i|$で定める。

$\infty$とついているのは、$0< p$に対し$L^p$ノルムを$$\lVert \bm{x}\rVert_p=(|x_1|^p+\dots+|x_n|^p)^{1/p}$$
と定義し、$p\to\infty$とすると$L^\infty$ノルムの定義に一致するからです。

誘導された作用素ノルム

行列$A\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$に対し、$L^\infty$ノルムによって誘導された作用素ノルム$\lVert\,\cdot\,\rVert_\infty$$\lVert A\rVert_\infty=\sup\limits_{\bm{x}\ne 0}\frac{\lVert A\bm{x}\rVert_\infty}{\lVert\bm{x}\rVert_\infty}=\sup\limits_{\lVert\bm{x}\rVert_\infty=1}\lVert A\bm{x}\rVert_\infty$で定義する。

定義の2つ目の等号は$\bm{x}$を単位ベクトルとスカラー倍に分解すれば分かります。

$\lVert\,\cdot\,\rVert_\infty$の成分表示

$\displaystyle\lVert A\rVert_\infty=\max_{1\leq i \leq n}\sum_{j=1}^n |a_{ij}|$である。

$n=2$のときの場合を証明する。一般の$n$についても同様の議論が成り立つ。
$$\begin{align} \lVert A\rVert_\infty &=\sup_{\lVert \bm{x}\rVert_\infty=1}\lVert A\bm{x}\rVert_\infty\\ &=\sup_{\lVert\bm{x}\rVert_\infty=1}\left\lVert\begin{pmatrix} a_{11}x_1+a_{12}x_2\\ a_{21}x_1+a_{21}x_2 \end{pmatrix}\right\rVert_\infty\\ &=\max_{\max\{x_1,x_2\}=1} \max\{a_{11}x_1+a_{12}x_2,a_{21}x_1+a_{22}x_2\}\\ &=\max\{|a_{11}|+|a_{12}|,|a_{21}|+|a_{22}|\} \end{align}$$である。

スペクトル半径

$A$の固有値全体の集合を$\sigma(A)$とするとき、$A$のスペクトル半径$\sigma(A)$$\rho(A)=\max\limits_{\lambda\in\sigma(A)}|\lambda|$と定義する。

半径、と呼ばれているのは収束半径と同じ感じで、$\rho(A)<1$のとき$A^n\to O\ (n\to\infty)$が成り立つからです。

証明

東大1996理前-2(再掲)

$a,b,c,d$を正の数とする。不等式$\begin{cases} s(1-a)-tb>0\\ -sc+t(1-d)>0 \end{cases}$を同時に満たす正の数$s,t$があるとき、二次方程式$$ x^2-(a+d)x+(ad-bc)=0 $$
$-1< x<1$の範囲に異なる2つの実数解をもつことを示せ。

$A=\begin{pmatrix} a&b\\c&d \end{pmatrix},\bm{v}=\begin{pmatrix} s\\t \end{pmatrix}$とする。題意の二次方程式は$A$の固有多項式$\Phi_A(\lambda)$と一致するから、$A$の固有値$\lambda_1,\lambda_2$がともに実数で$\lambda_1\ne\lambda_2$かつ$A$のスペクトル半径$\rho(A)$$\rho(A)<1$を満たすことを示せばよい。
判別式を考えればともに実数で$\lambda_1\ne\lambda_2$であることは分かる。
いま、成分ごとの不等式で$A\bm{v}<\bm{v}$である。$D=\begin{pmatrix} s&0\\0&t \end{pmatrix}$とし、$P=D^{-1}AD$とすると$P$の固有値は$A$の固有値と一致するから$\rho(P)=\rho(A)$である。また、$s,t>0$より$D^{-1}A\bm{v}< D^{-1}\bm{v}$である。このとき、$$ \begin{pmatrix} p_{11}+p_{12}\\ p_{21}+p_{22} \end{pmatrix}=P\begin{pmatrix} 1\\1 \end{pmatrix}=D^{-1}AD\begin{pmatrix} 1\\1 \end{pmatrix}=D^{-1}A\bm{v}< D^{-1}\bm{v}=\begin{pmatrix} 1\\1 \end{pmatrix} $$より$L^{\infty}$ノルムによって誘導される作用素ノルムを$\lVert\,\cdot\,\rVert_\infty$と書くとすると$P$の各成分は正だから$\lVert P\rVert_\infty<1$である。
ここで、$P$の固有値$\lambda$とそれに対応する固有ベクトルを$\bm{x}$とすると$P\bm{x}=\lambda\bm{x}$である。両辺に作用素ノルム$\lVert\,\cdot\,\rVert_\infty$をとると、作用素ノルムの定義より$$ \lVert P\bm{x}\rVert_\infty=\lVert \lambda\bm{x}\rVert_\infty \Rightarrow |\lambda|\lVert \bm{x}\rVert_\infty \leq \lVert P\rVert_\infty \lVert \bm{x}\rVert_\infty \Rightarrow |\lambda|\leq \lVert P\rVert_\infty $$であるが、$\lambda$は任意だから$\rho(A)=\rho(P)\leq \lVert P\rVert_\infty<1$より題意は示された。

投稿日:3日前
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