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重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列の簡単な作り方

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$$\newcommand{disp}[0]{\displaystyle} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{matab}[2]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matac}[3]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matba}[2]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matbb}[4]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{pmatrix}} \newcommand{matbc}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matca}[3]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \\ #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matcb}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \\ #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matcc}[9]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \\ #7 & #8 & #9 \end{pmatrix}} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb Z / #1 \mathbb Z} $$

 小ネタです。この記事では、重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列を簡単に作る方法を紹介します。言ってる意味が分かる方が対象です。


 早速見ていきましょう!単位行列を$E$とします。

手順

1: 階数1の3次正方行列$A$を用意する。ただし$\mathrm{tr}A\neq 0$とする。
2: 任意にスカラー$\lambda$をとり、$A+\lambda E$を求めれば完成!

 階数1の3次正方行列は、零ベクトルでない3次元ベクトル(横でも縦でもよい)を適当にとり、それを定数倍して並べればすぐに作ることができます。ね、簡単でしょ?
 こうしてできた$A+\lambda E$は、重複度2の固有値$\lambda$と重複度1の固有値$\lambda + \tr A$を持ち、対角化可能となります。

$A$を階数1の3次正方行列で$\mathrm{tr}A\neq 0$を満たすものとし、$\lambda$を任意のスカラーとする。$B=A+\lambda E$とおく。このとき$B-\lambda E=A$は階数1であるため正則でない。すなわち$|B-\lambda E|=0$であり、したがって$B$$\lambda$を固有値に持つ。固有値$\lambda$に対する$B$の固有空間の次元は
$$ 3-\mathrm{rank}(B-\lambda E)=3-\mathrm{rank}(A)=3-1=2$$
であるので、固有値$\lambda$の重複度は2以上である。$B$の固有値を$\lambda,\lambda,\mu$とおくと$\mathrm{tr}B=2\lambda +\mu$であるが、一方
$$ \mathrm{tr}B=\mathrm{tr}(A+\lambda E)=\tr A+3\lambda$$
であるので、$2\lambda+\mu=\tr A+3\lambda$,したがって
$$ \mu=\lambda + \tr A$$
である。$\tr A\neq 0$であったので、$\mu$$\lambda$と異なる。以上から、$B$の固有値は重複度2の$\lambda$と重複度1の$\lambda+\tr A$である。
$\lambda$に対する$B$の固有空間の次元は2であったので、$B$は対角化可能である。

$A=\matcc 12{-1}12{-1}24{-2}$とおくと、$A$は階数$1$$\mathrm{tr}A \neq 0$を満たす。
$A+3E$を求めると$\matcc 42{-1}15{-1}241$ となり、これは重複度2の固有値$3$と重複度1の固有値$4$を持ち、対角化可能である。

 更に、重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列は、実はすべてこの手順で得られます。

$B$を重複度2の固有値$\lambda$を持つ対角化可能な3次正方行列とする。対角化可能であることから、固有値$\lambda$に対する$B$の固有空間の次元は2であり、したがって
$$ \rank(B-\lambda E) = 3-2 = 1$$
である。
あとは$\tr(B-\lambda E)\neq 0$を示せば、「手順」の$A$として$B-\lambda E$をとり、$\lambda$$\lambda$をとることで$B$が得られる。

$B$$\lambda$の他に重複度1の固有値を持つ。それを$\mu$とおく。すると
$$ \tr(B- \lambda E) = (2 \lambda + \mu) - 3 \lambda = \mu-\lambda$$
であり、$\lambda$$\mu$は異なるので$\mu-\lambda \neq 0$である。

$\tr A=0$の場合は?

 「手順」において、もし$\tr A=0$としてしまった場合、「重複度3の固有値を持ち、その固有値に対する固有空間の次元が2であるような(したがって対角化不可能な)3次正方行列」が得られます。証明は上と同様。

役に立つの?

 以前、線形代数の演習問題を作る立場になったことがあり、その際に大変重宝しました。対角化の演習問題となると対角化可能、不可能や固有値が重複する、しないなど色々な種類の問題を作る必要があり、そのうち1,2種類がこれだけ手軽に作れるというのはかなり助かりました。解く側にも気づかれにくいですし。
 演習問題を作ることがあれば、ぜひご活用ください!

投稿日:21日前

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投稿者

koumei
koumei
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(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

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