0

重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列の簡単な作り方

177
0

 小ネタです。この記事では、重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列を簡単に作る方法を紹介します。言ってる意味が分かる方が対象です。


 早速見ていきましょう!単位行列をEとします。

手順

1: 階数1の3次正方行列Aを用意する。ただしtrA0とする。
2: 任意にスカラーλをとり、A+λEを求めれば完成!

 階数1の3次正方行列は、零ベクトルでない3次元ベクトル(横でも縦でもよい)を適当にとり、それを定数倍して並べればすぐに作ることができます。ね、簡単でしょ?
 こうしてできたA+λEは、重複度2の固有値λと重複度1の固有値λ+trAを持ち、対角化可能となります。

Aを階数1の3次正方行列でtrA0を満たすものとし、λを任意のスカラーとする。B=A+λEとおく。このときBλE=Aは階数1であるため正則でない。すなわち|BλE|=0であり、したがってBλを固有値に持つ。固有値λに対するBの固有空間の次元は
3rank(BλE)=3rank(A)=31=2
であるので、固有値λの重複度は2以上である。Bの固有値をλ,λ,μとおくとtrB=2λ+μであるが、一方
trB=tr(A+λE)=trA+3λ
であるので、2λ+μ=trA+3λ,したがって
μ=λ+trA
である。trA0であったので、μλと異なる。以上から、Bの固有値は重複度2のλと重複度1のλ+trAである。
λに対するBの固有空間の次元は2であったので、Bは対角化可能である。

A=(121121242)とおくと、Aは階数1trA0を満たす。
A+3Eを求めると(421151241) となり、これは重複度2の固有値3と重複度1の固有値4を持ち、対角化可能である。

 更に、重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列は、実はすべてこの手順で得られます。

Bを重複度2の固有値λを持つ対角化可能な3次正方行列とする。対角化可能であることから、固有値λに対するBの固有空間の次元は2であり、したがって
rank(BλE)=32=1
である。
あとはtr(BλE)0を示せば、「手順」のAとしてBλEをとり、λλをとることでBが得られる。

Bλの他に重複度1の固有値を持つ。それをμとおく。すると
tr(BλE)=(2λ+μ)3λ=μλ
であり、λμは異なるのでμλ0である。

trA=0の場合は?

 「手順」において、もしtrA=0としてしまった場合、「重複度3の固有値を持ち、その固有値に対する固有空間の次元が2であるような(したがって対角化不可能な)3次正方行列」が得られます。証明は上と同様。

役に立つの?

 以前、線形代数の演習問題を作る立場になったことがあり、その際に大変重宝しました。対角化の演習問題となると対角化可能、不可能や固有値が重複する、しないなど色々な種類の問題を作る必要があり、そのうち1,2種類がこれだけ手軽に作れるというのはかなり助かりました。解く側にも気づかれにくいですし。
 演習問題を作ることがあれば、ぜひご活用ください!

投稿日:202447
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

koumei
koumei
18
2705
(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中