小ネタです。この記事では、重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列を簡単に作る方法を紹介します。言ってる意味が分かる方が対象です。
早速見ていきましょう!単位行列をとします。
手順
1: 階数1の3次正方行列を用意する。ただしとする。
2: 任意にスカラーをとり、を求めれば完成!
階数1の3次正方行列は、零ベクトルでない3次元ベクトル(横でも縦でもよい)を適当にとり、それを定数倍して並べればすぐに作ることができます。ね、簡単でしょ?
こうしてできたは、重複度2の固有値と重複度1の固有値を持ち、対角化可能となります。
を階数1の3次正方行列でを満たすものとし、を任意のスカラーとする。とおく。このときは階数1であるため正則でない。すなわちであり、したがってはを固有値に持つ。固有値に対するの固有空間の次元は
であるので、固有値の重複度は2以上である。の固有値をとおくとであるが、一方
であるので、,したがって
である。であったので、はと異なる。以上から、の固有値は重複度2のと重複度1のである。
に対するの固有空間の次元は2であったので、は対角化可能である。
とおくと、は階数でを満たす。
を求めると となり、これは重複度2の固有値と重複度1の固有値を持ち、対角化可能である。
更に、重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列は、実はすべてこの手順で得られます。
を重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列とする。対角化可能であることから、固有値に対するの固有空間の次元は2であり、したがって
である。
あとはを示せば、「手順」のとしてをとり、はをとることでが得られる。
はの他に重複度1の固有値を持つ。それをとおく。すると
であり、とは異なるのでである。
の場合は?
「手順」において、もしとしてしまった場合、「重複度3の固有値を持ち、その固有値に対する固有空間の次元が2であるような(したがって対角化不可能な)3次正方行列」が得られます。証明は上と同様。
役に立つの?
以前、線形代数の演習問題を作る立場になったことがあり、その際に大変重宝しました。対角化の演習問題となると対角化可能、不可能や固有値が重複する、しないなど色々な種類の問題を作る必要があり、そのうち1,2種類がこれだけ手軽に作れるというのはかなり助かりました。解く側にも気づかれにくいですし。
演習問題を作ることがあれば、ぜひご活用ください!