小ネタです。この記事では、重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列を簡単に作る方法を紹介します。言ってる意味が分かる方が対象です。
早速見ていきましょう!単位行列を$E$とします。
1: 階数1の3次正方行列$A$を用意する。ただし$\mathrm{tr}A\neq 0$とする。
2: 任意にスカラー$\lambda$をとり、$A+\lambda E$を求めれば完成!
階数1の3次正方行列は、零ベクトルでない3次元ベクトル(横でも縦でもよい)を適当にとり、それを定数倍して並べればすぐに作ることができます。ね、簡単でしょ?
こうしてできた$A+\lambda E$は、重複度2の固有値$\lambda$と重複度1の固有値$\lambda + \tr A$を持ち、対角化可能となります。
$A$を階数1の3次正方行列で$\mathrm{tr}A\neq 0$を満たすものとし、$\lambda$を任意のスカラーとする。$B=A+\lambda E$とおく。このとき$B-\lambda E=A$は階数1であるため正則でない。すなわち$|B-\lambda E|=0$であり、したがって$B$は$\lambda$を固有値に持つ。固有値$\lambda$に対する$B$の固有空間の次元は
$$ 3-\mathrm{rank}(B-\lambda E)=3-\mathrm{rank}(A)=3-1=2$$
であるので、固有値$\lambda$の重複度は2以上である。$B$の固有値を$\lambda,\lambda,\mu$とおくと$\mathrm{tr}B=2\lambda +\mu$であるが、一方
$$ \mathrm{tr}B=\mathrm{tr}(A+\lambda E)=\tr A+3\lambda$$
であるので、$2\lambda+\mu=\tr A+3\lambda$,したがって
$$ \mu=\lambda + \tr A$$
である。$\tr A\neq 0$であったので、$\mu$は$\lambda$と異なる。以上から、$B$の固有値は重複度2の$\lambda$と重複度1の$\lambda+\tr A$である。
$\lambda$に対する$B$の固有空間の次元は2であったので、$B$は対角化可能である。
$A=\matcc 12{-1}12{-1}24{-2}$とおくと、$A$は階数$1$で$\mathrm{tr}A \neq 0$を満たす。
$A+3E$を求めると$\matcc 42{-1}15{-1}241$ となり、これは重複度2の固有値$3$と重複度1の固有値$4$を持ち、対角化可能である。
更に、重複度2の固有値を持つ対角化可能な3次正方行列は、実はすべてこの手順で得られます。
$B$を重複度2の固有値$\lambda$を持つ対角化可能な3次正方行列とする。対角化可能であることから、固有値$\lambda$に対する$B$の固有空間の次元は2であり、したがって
$$ \rank(B-\lambda E) = 3-2 = 1$$
である。
あとは$\tr(B-\lambda E)\neq 0$を示せば、「手順」の$A$として$B-\lambda E$をとり、$\lambda$は$\lambda$をとることで$B$が得られる。
$B$は$\lambda$の他に重複度1の固有値を持つ。それを$\mu$とおく。すると
$$ \tr(B- \lambda E) = (2 \lambda + \mu) - 3 \lambda = \mu-\lambda$$
であり、$\lambda$と$\mu$は異なるので$\mu-\lambda \neq 0$である。
「手順」において、もし$\tr A=0$としてしまった場合、「重複度3の固有値を持ち、その固有値に対する固有空間の次元が2であるような(したがって対角化不可能な)3次正方行列」が得られます。証明は上と同様。
以前、線形代数の演習問題を作る立場になったことがあり、その際に大変重宝しました。対角化の演習問題となると対角化可能、不可能や固有値が重複する、しないなど色々な種類の問題を作る必要があり、そのうち1,2種類がこれだけ手軽に作れるというのはかなり助かりました。解く側にも気づかれにくいですし。
演習問題を作ることがあれば、ぜひご活用ください!