1
大学数学基礎解説
文献あり

整列集合の比較定理の証明

227
0

はじめに

久しぶりの投稿で何を書こうか迷ったが, 私が個人的に好きな定理である整列集合の比較定理を証明する.
ある程度の集合論の知識と半順序集合についての理解があれば読み進めることができるようにした.
主にutidaを参考にして書いた.

実数全体の集合をR, 有理数全体の集合をQ, 整数全体の集合をZ, 自然数全体の集合をNとする.

半順序集合

詳しくは解説しないが簡単に定義や例などを挙げる.

半順序集合

集合X上の二項関係ρについて反射律, 推移律, 反対称律の3条件を満たすものを順序関係といい, 対(X,ρ)を半順序集合という.

順序関係が明らかなときは省略して書くことがある.
例えば以下のように書く.
「半順序集合Xについて~」
この後解説する全順序集合, 整列集合についても同様.

通常の大小関係によりR,Q,Z,Nは半順序集合となる.

半順序部分集合

(X,)を半順序集合とし, Xの空でない部分集合をAとする.
A上の二項関係Aを次で定義するとAA上の順序関係になる.
Aの任意の元a,bに対して,
aAbab
を満たす.

(A,A)を半順序部分集合という.

(A,A)を単に(A,)と書く.

全順序集合

(X,)を半順序集合とする.
Xに属す任意の元a,bについて, abまたはbaが成り立つとき(X,)を全順序集合という.

順序を保つ写像

(X,)(X,)を半順序集合とする.
写像f:XXが任意のa,bXに対してabならばf(a)f(b)を満たすとき, 写像fは順序を保つ写像であるという.

順序を保つ写像同士の合成は順序を保つ

 証明
(X,),(Y,),(Z,)を半順序集合とし, f:XY, g:YZを順序を保つ写像とする. 合成写像gf:XZが順序を保つことを示そう.
任意の元a,bXに対してfは順序を保つ写像であるのでabf(a)f(b), さらにgは順序を保つ写像であるのでf(a)f(b)g(f(a))g(f(b))である. 即ち, 任意の元a,bXに対してab(gf)(a)(gf)(b)が成り立つので合成写像gfは順序を保つ写像である.
順序同型

(X,)(X,)を半順序集合とする.
全単射f:XXが存在して写像f及びその逆写像f1が順序を保つ写像であるとき, (X,)(X,)は順序同型であるといい, (X,)(X,)で表す.
また, このとき写像fを順序同型写像という.

順序同型について次が成り立つ.(下で出てくる集合と二項関係の対はすべて半順序集合である)
(1) (X,)(X,).
(2) (X,)(X,)ならば(X,)(X,).
(3) (X,)(X,)かつ(X,)(X,)ならば(X,)(X,).

証明のヒント
  1. 恒等写像を用いる.
  2. 順序同型写像f:XXの逆写像f1:XXを考える.
  3. 順序同型写像f:XX,g:XXの合成写像gfを考える.
最小元・最大元

(X,)を半順序集合とし, AXの空でない部分集合とする.
xXAの最小元であるとは, xAに属しAに属する任意の元aに対してxaとなることである.
このときAの最小元xx=minAと書く.
yXAの最大元であるとは, yAに属しAに属する任意の元aに対してayとなることである.
このときAの最大元yy=maxAと書く.

整列集合

定理の要である整列集合を定義する.

整列集合

(X,)を半順序集合とする.
Xの空でない部分集合が常に最小元を持つとき, 半順序集合(X,)は整列集合であるという.

通常の大小関係によりR,Q,Z,Nは半順序集合となったが, このうちR,Q,Zは整列集合でないがNは整列集合である.

整列集合の部分集合は整列集合である.

(X,)を整列集合とし, YXの部分集合とし半順序部分集合(Y,)を考える. Yの空でない部分集合AXの空でない部分集合であるので最小元minAが存在する. つまり, 半順序部分集合(Y,)は整列集合となる.

整列集合は全順序集合である.

(X,)を整列集合とする. x,yXをとり, 集合A:={x,y}を作る. Aは空でないXの部分集合であるため最小元を持つ. Aの最小元はxまたはyである. xAの最小元であればxy, yAの最小元であればyxである. Xに属する任意の元x,yについてxyまたはyxが成り立つ. つまり(X,)は全順序集合である.

切片

(X,)を半順序集合とする.
a,bXabかつabのときa<bと書くことにする.
Xの元aに対して
Xa={xXx<a}
Xaによる切片という.

整列集合の比較定理

整列集合の比較定理の証明に必要な定理を示していく.
補題の証明は冗長であるかもしれないができるだけ行間を埋めて書いた.

整列集合の比較定理

整列集合(X,X),(Y,Y)について
(1) (X,X)(Y,Y)が順序同型である.
(2) (X,X)(Y,Y)のある切片と順序同型である.
(3) (X,X)のある切片が(Y,Y)と順序同型である.
のいずれか一つが成り立つ. (つまり, どの二つも同時には起こりえない.)

以下, 補題をいくつか示す.

(X,)を整列集合とする.
写像φ:XXが順序を保つ単射であるとき, 任意の元xXについてxφ(x)が成り立つ.

A={xXφ(x)<x}とおく. これが空集合であることを示せばよい.
A と仮定する. prop:seiretuからAは整列集合でAの最小元をaとする.
aAよりφ(a)aかつφ(a)aである. (つまりφ(a)<a)
φは順序を保つ単射であるので, φ(φ(a))φ(a)かつφ(φ(a))φ(a)である. (つまりφ(φ(a))<φ(a))
従って, φ(a)Aであるがφ(a)<aであるのでaAの最小元であることに矛盾.
つまり, A=となる.

以下の二つが成り立つ.
(1) 整列集合はそのどんな切片とも順序同型にならない.
(2) 整列集合の相異なる二つの切片は互いに順序同型にならない.

(X,)を整列集合とする.
(1)
aXとする.
順序同型写像φ:XXaが存在すると仮定する.
XaXであり, φは順序を保つ単射であるのでlem:junjo*よりaφ(a)が成り立つ.
φ(a)Xaであるからφ(a)<aであるので矛盾.
よって, 任意のaXに対して整列集合(X,)は切片Xaと順序同型にならない.
(2)
a,bを相異なるXの元とする.
a<bとしても一般性を失わない.
このとき, (Xb)a=Xaとなる.

(Xb)a={xxXbx<a}={xxXx<bx<a}={xxXx<a}=Xa

prop:seiretuと(1)よりXb(Xb)a=Xaは順序同型ではない.
よって, 相異なる任意のa,bXに対してXaXbは順序同型にならない.

上の証明において, 一つ上の補題を参照したが実際の補題の番号とあっていない.
アンカーテキストを自分で変えればよいのだがそれはしたくない. 果たしてどうすればよいのか.

背景グレーの文章で前文の証明若しくはヒントを与える.

(A,)(B,)を整列集合とする. f:ABを順序同型写像とすれば, Aの任意の元aに対して
f(Aa)=Bf(a)
が成り立つ.

f(Aa)={f(x)xAa}={f(x)xAx<a}={f(x)xAf(x)<f(a)}Bf(a).( fは特に順序を保つ単射である.)よって, f(Aa)Bf(a).
bBf(a)とすると, fは順序同型写像であるのでb=f(x)かつx<aとなるxが存在する. 従って, bf(Aa)となる. 故にf(Aa)=Bf(a)である.

(X,)(Y,)を整列集合とする. Xの部分集合X1を次で定義する:
X1={aXXaYbとなるbYが存在する}.
このとき, X1Xと一致するか, Xのある切片と一致する.

aX1をとると, XaYbとなるbYが存在し, 順序同型写像φ:XaYbとする. xXaに対してy=φ(x)とすればXxYyとなる.

ψ:XxYyを任意のαXxに対してψ(α)=φ(α) で定義するとこれは順序同型写像になる.

従って, xX1となる. つまり, Xaに属する元はX1に属するのでXaX1となる.
XX1と仮定する.
このときXX1Xの空でない部分集合であるので最小元が存在してそれをa1とおく.
Xa1の任意の元αX1に属さないと仮定するとαXX1でありα<a1であるのでa1XX1の最小元であることに矛盾する. 従って, αX1となる.
従って, Xa1X1である.
a1<aとなるaX1が存在すれば, a1Xaである. XaX1であるのでa1X1である. これはa1X1に矛盾する. よって, X1Xa1となる.
従って, X1XならばX1=Xa1となる.
また, X=X1であれば定理は成り立つ.

整列集合の比較定理の証明

整列集合の比較定理を再掲して証明を与える.
先ほどと同様に補題の参照番号が違うので各々確認しながら証明を追ってほしい.

整列集合の比較定理
整列集合(X,X),(Y,Y)について
(1) (X,X)(Y,Y)が順序同型である.
(2) (X,X)(Y,Y)のある切片と順序同型である.
(3) (X,X)のある切片が(Y,Y)と順序同型である.
のいずれか一つが成り立つ. (つまり, どの二つも同時には起こりえない.)

XYの部分集合X1,Y1をそれぞれ次で定義する:

X1={aXXaYbとなるbYが存在する},Y1={bYXaYbとなるaXが存在する}.
まず, X1Y1を示す.
任意の元aX1に対してXaYbとなる元bYはただ一つ存在する. またbY1となる.

一意性:XaYb1,XaYb2となる元b1,b2Yが存在すればY(b1)Y(b2)であるのでb1=b2である.(lem:seppen)
bY1:bYに関してみればXaYbとなる元aXがあるのでbY1である.

つまり, aX1に対してbY1が一意に定まるのでこの元をb=φ(a)とおくと写像φ:X1Y1が定まる.
このφは順序同型写像となる. 従って, X1Y1となる.

ψ:Y1X1φと同様に定める.
つまり, bY1に対してXaYbとなる元aXはただ一つ存在しaX1となる. この元をa=ψ(b)とおくことでψ:Y1X1を定める.
φψの定め方によりψφ=1X1,φψ=1Y1となるのでφ,ψは全単射になり, 互いに逆写像である.
a,aXa<aとする. X1,φの定義によりXaYφ(a)となる. つまり順序同型写像f:XaYφ(a)が存在する.
lem:fよりf(Xa)=Yf(a)が成り立つ. また, f(a)Yφ(a)の元であるのでφ(a)=f(a)<φ(a)となる.
従ってφは順序を保つ全単射である. 同様にψも順序を保つ全単射になることがわかる.
以上からφ,ψは順序同型写像である.

lem:ittiからX1Xと一致するか, Xのある切片と一致する. Y1についてもlem:ittiを用いてY1Yと一致するか, Yのある切片と一致する.
もしX1=XaかつY1=YbとするとX1Y1であるからXaYbとなりx1の定義からaX1となるがこれはaXaに矛盾する.
よって, X1=XまたはY1=Yのいずれかは成り立つので(1)~(3)のいずれかは必ず成り立つ.

次にどの二つも同時に成り立たないことを示す.
(1)と(2)が同時に成り立つと仮定する.
するとXYかつXYβなるβYが存在する. YYβとなるがこれはlem:seppenに矛盾する.
よって(1)と(2)は同時には成り立たない.
同様に(1)と(3)も同時に成り立たないことがわかる.
(2)と(3)が同時に成り立つと仮定する.
するとXYβかつYXαなるαX, βYが存在するので順序同型写像f:XYβ, g:YXαが存在する.
包含写像ιX:XαX, ιY:YβXはどちらも順序を保つ単射であるので合成写像h=ιXgιYfは順序を保つ単射である.

包含写像が順序を保つ単射であることは簡単に確認できる.
単射の合成は単射であり, 順序を保つ写像の合成は順序を保つ写像である.
故にh:XXが順序を保つ単射であることがわかる.

ここでh(α)Xαであるのでh(α)<αである. これはlem:junjoに矛盾する.
よって(2)と(3)は同時に成り立たない.
以上より(1)~(3)のどの二つも同時には成り立たない.

これで目的であった整列集合の比較定理の証明ができた.

最後に

補題の番号が合ってないのはすみません.

今回の記事は内田伏一「集合と位相」utidaを大いに参考した. 証明に関しては初学者が躓きやすい場所を詳細に解説した.
証明は流れを理解して自分で何も見ずにできるようになるまで確認してほしい.
また多忙のため推敲があまりできていないため見にくくなっていたかもしれない.

次の記事はいつになるかわからないです.

参考文献

[1]
内田伏一, 集合と位相, 数学シリーズ, 裳華房
投稿日:202481
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 半順序集合
  3. 整列集合
  4. 整列集合の比較定理
  5. 整列集合の比較定理の証明
  6. 最後に
  7. 参考文献