どうもー色数です. かなり久しぶりの更新ですね.
もう散々予告しているように大きめの論文(ともう$1$本)を準備中で、最近は少し研究が落ち着いてきたので1992年周辺の多重ゼータ値の論文を読んだりしています.
そんなときに多重ゼータ値の正規化定理をきちんと理解していないことを思い出したので、いい機会だし少しかじってみることにしました.
内容は参考文献[1]のp28~49に載っていることを追っているだけですが, 個人的な趣味で右向きに統一してみました. まあ今後誰かが参考文献[1]を読むときの一助になれば幸いです.
ですます調が混ざっていて気持ち悪いですが, 我慢してください.
正整数 $k_1,\ldots,k_r$ に対し, $\mathbf{k}\coloneqq(k_1,\ldots,k_r)$ をインデックスと呼ぶ.
ここで特に $k_r\ge2$ を満たすインデックスを収束(許容)インデックスと呼ぶ.
$k_r=1$ であれば $\zeta(\mathbf{k})$ は発散します.
みなさんお馴染みのように $\zeta(1)\zeta(2)$ を調和積とシャッフル積それぞれで計算すれば $\zeta(3)=\zeta(1,2)$ を得ます. 同様に和公式も.($\zeta(1)$ などの発散する項は形式的に扱う)
今回触る正規化定理はこれを厳密な形で与えてくれるらしいです.
有理数係数の $2$ 変数非可換多項式環を $\mathfrak{H}\coloneqq\mathbb{Q}\langle x,y\rangle$ と書く. また, $\mathfrak{H}^0\coloneqq\mathbb{Q}+y\mathfrak{H}x$, $\mathfrak{H}^1\coloneqq\mathbb{Q}+y\mathfrak{H}$ でその部分代数を定める.
Hoffman の論文や参考文献[1]はインデックスの向きが $\mathbf{k}=(k_r,\ldots,k_1)$ なので $\mathfrak{H}^0$, $\mathfrak{H}^1$ の定義ではこことは違い $x$, $y$ の前後が変わります.
空でない $\mathbf{k}=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し $z_{\mathbf{k}}=yx^{k_1-1}\cdots yx^{k_r-1}$ と定める. (これをwordと呼びます)
$\mathfrak{H}^0$ の元は 収束インデックスに対応し, $\mathfrak{H}^1$ の元は $k_r=1$ であるインデックスにも対応していることがわかります.
調和積を
$w\ast1=1\ast w=w$
$(w_1z_p)\ast (w_2z_q)=(w_1\ast z_qw_2)z_p+(z_pw_1\ast w_2)z_q+(w_1\ast w_2)z_{p+q}$
で帰納的に定める. ここで $w,w_1,w_2\in\mathfrak{H}^1$ とした.
シャッフル積を
$w\sh1=1\sh w=w$
$(w_1u_1)\sh(w_2u_2)=(w_1u_1\sh w_2)u_2+(w_1\sh w_1u_2)u_1$
で帰納的に定める. ここで $u_1,u_2$ は $x,y$ のいずれかとした.
$\ast$ や $\sh$ を備えた Hoffman 代数を $\mathfrak{H}_\ast^0$ や $\mathfrak{H}_\sh^1$ と書きます.
調和積は $$\zeta(2)\zeta(2)=\left(\sum_{0< n}\frac{1}{n^2}\right)\left(\sum_{0< n}\frac{1}{n^2}\right)=\left(\sum_{0< m_1< m_2}+\sum_{0< m_2< m_1}+\sum_{0< m_1=m_2}\right)\frac{1}{m_1^2m_2^2}=2\zeta(2,2)+\zeta(4)$$
といった計算に対応しています.
同じようにシャッフル積は
$$\zeta(2)=\int_0^1\frac{dt_2}{t_2}\int_0^{t_2}\frac{dt_1}{1-t_1}$$
と多重ゼータ値が反復積分表示できたことを思い出すと,
$$\zeta(2)\zeta(2)=\left(\int_0^1\frac{dt_2}{t_2}\int_0^{t_2}\frac{dt_1}{1-t_1}\right)\left(\int_0^1\frac{ds_2}{s_2}\int_0^{s_2}\frac{ds_1}{1-s_1}\right)=4\int_{0< t_1< s_1< t_1< s_2}\frac{dt_1dt_2ds_1ds_2}{s_1(1-s_2)t_1(1-t_2)}+2\int_{0< t_1< t_2< s_1< s_2}\frac{dt_1dt_2ds_1ds_2}{s_1(1-s_2)t_1(1-t_2)}=4\zeta(1,3)+2\zeta(2,2)$$
という計算に対応していることがわかります.
$\mathbb{Q}$ 線形写像 $Z:\mathfrak{H}^0\longrightarrow \mathbb{R}$ を $\mathfrak{H}^0$ の元 $w=z_{k_1}\cdots z_{k_r}$ に対し$Z(w)=\zeta(k_1,\ldots,k_r)$ で定める. $Z(1)=1$ とする.
$\mathfrak{H}_\ast^1\cong\mathfrak{H}_\ast^0[y]$ や $\mathfrak{H}_\sh^1\cong\mathfrak{H}_\sh^0[y]$ といった同型が成り立ちます. まあこれはここではそこまで重要ではないと思うのでまたの機会にでも.
この同型が成り立つおけげで $\mathfrak{H}^1$ に属する任意の word が
$$w_0+w_1\ast y+w_2\ast y^{2\ast}+w_n\ast y^{n\ast}$$や
$$w_0^\prime+w_1^\prime\sh y+w_2^\prime\sh y^{2\sh}+w_n\sh y^{n\sh}$$
という形でそれぞれ一意に表せる. 収束インデックスに対応する word でこれが成り立つのは当たり前ですね. ですが今回は正規化の話. $\mathfrak{H}^1$ の元を考えているので $(3,2,1)$ などのインデックスに対応する word について扱います.
具体例で考えたら納得できます.
$z_1\ast z_2=(1yx)\ast(1y)=y^2x+yxy+yx^2$ より $yxy=-y^2x-yx^2+yx\ast y$ となります. 確かに $(2,1)$ に対応する word が $\mathfrak{H}^0$ と $y$ で表せますね. シャッフル積に関しても同じようにできます.
先ほどの
$$w_0+w_1\ast y+w_2\ast y^{2\ast}+w_n\ast y^{n\ast}$$や
$$w_0^\prime+w_1^\prime\sh y+w_2^\prime\sh y^{2\sh}+w_n\sh y^{n\sh}$$
の $y$ を $T$ にし, $w_i$ を $Z$ に代入する写像をそれぞれ $Z^\ast$, $Z^\sh$ とする. $Z^\ast:\mathfrak{H}_\ast^1\longrightarrow \mathbb{R}[T]$ であり $Z^\ast|_{\mathfrak{H}_\ast^0}=Z$ と $Z^\ast(y)=T$ を満たす. ($Z^\sh$ も同じ)
以降, インデックス $\mathbf{k}$ に対応する word の $Z^\ast$ による像を $Z_{\mathbf{k}}^\ast(T)$ と書く.
実際に先ほどの具体例で考えると
$Z_{2,1}^\ast(T)=\zeta(2)T-\zeta(3)-\zeta(1,2)$
となります.
ここで, かなり天下り的ですがとある写像を導入します.
$\mathbb{R}$ 線形写像で $\rho:\mathbb{R}[T]\longrightarrow\mathbb{R}[T]$ を
$\rho(e^{Tu})=A(u)e^{Tu}$ で定める. $A(u)$ は
$$A(u)\coloneqq\exp\left(\sum_{n=2}^\infty\frac{(-1)^n}{n}\zeta(n)u^n\right)$$
で定める.
僕は最初この定義を見てもいまいち理解できませんでした.
$\mathfrak{H}^1$ 上で $Z^\sh=\rho\circ Z^\ast$ が成り立つ
やばすぎますよね!!!!!!
実際に具体例を見るために $\rho$ たちを計算して求めていきます.
$$\exp(x)=\sum_{m=0}^\infty\frac{x^m}{m!}$$
より
\begin{align}
A(u)&=1+\left(\frac{\zeta(2)}{2}u^2-\frac{\zeta(3)}{3}+\cdots\right)+\frac{1}{2}\left(\frac{\zeta(2)}{2}u^2-\frac{\zeta(3)}{3}u^3\right)^2+\cdots\\
&=1+\frac{\zeta(2)}{2}u^2-\frac{\zeta(3)}{3}u^3+\cdots
\end{align}
と求まります.
さて, $\rho$ の同様に定義式の左辺を計算すると,
\begin{align}
\rho\left(\sum_{m=0}^\infty\frac{(Tu)^m}{m!}\right)
\end{align}
となり, $\rho$ が $\mathbb{R}$ 線形写像であったことから
\begin{align}
\rho(1)+\rho(T)u+\rho(T^2)\frac{u^2}{2}+\rho(T^3)\frac{u^3}{6}+\cdots&=A(u)\left(\sum_{m=0}^\infty\frac{(Tu)^m}{m!}\right)\\
&=1+Tu+(T^2+\zeta(2))\frac{u^2}{2}+\cdots
\end{align}
$T^n$ でそれぞれ係数比較していくと, $\rho(1)=1$, $\rho(T)=T$, $\rho(T^2)=T^2+\zeta(2),\ldots$ と求まっていきます.
$Z_{2,1}^\ast(T)=\zeta(2)T-\zeta(1,2)-\zeta(3)$
と
$z_1\sh z_2=(yx)\sh(1y)=(1\sh yx)y+(y\sh y)x=yxy+2y^2x$
$Z_{2,1}^\sh(T)=\zeta(2)T-2\zeta(1,2)$
より実際に $\zeta(3)=\zeta(1,2)$ が得られることが確認できますね.
証明は参考文献[1]を各自頑張って読んでください.
この記事は忘備録?なので用語の使い方がおかしかったり数学的に不十分かもしれないので参考にする場合は気をつけてください.
正規化定理を初めてきちんと追ったらやばすぎたので布教したくなりこの記事を書いてみましたが, 駄文すぎるのでいつか消すと思います.
それにしても何食ったらこんなこと思いつくんですかねー. $A(u)$ を
$$\exp\left(\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{n}z_nu^n\right)$$
みたいに $Z$ に代入する前の形で考えたらもっと納得できそうですが(pdfを眺めてて思った), 疲れたのでこのへんで.