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大学数学基礎解説
文献あり

連結準同型を記述する

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この記事では蛇の補題や長完全列における連結準同型がどんな写像になっているかを記述する.実質的に連結準同型は真ん中の縦の射によって記述されると言ってよい.そのことを見てみよう.また,トポロジーで活躍するMayer-Vietoris完全列における連結準同型が「切り口」を返す写像になっていることを見てみよう.(これについては 1 p.97,98に書かれている.)

なおこの記事における加群とは,ある環上の加群だと思っても良いし,単なる可換群だと思っても良い.また,商加群における元は代表元に上線を書くことで表す.

この記事では証明は省略し,結果だけを述べる.連結準同型の定義に従って図式を追跡すれば,どの命題も示すことができるだろう.

蛇の補題における連結準同型

次の図式は加群の可換図式であり,2つの行はそれぞれ完全であるとする.

$\xymatrix{ &M_1 \ar[r]^{f_1} \ar[d]^{h_1} & M_2 \ar[r]^{f_2}\ar[d]^{h_2} & M_3\ar[r]^{}\ar[d]^{h_3}&0\\0\ar[r]^{}& N_1\ar[r]_{g_1} & N_2\ar[r]_{g_2}& N_3}$

このとき$\delta:\text{Ker}h_3\rightarrow \text{Coker}h_1$を次のように定める.

$m_3\in \text{Ker}h_3$とする.$f_2(m_2)=m_3$を満たす$m_2\in M_2$をとる.$h_2(m_2)=g_1(n_1)$を満たす$n_1\in N_1$をとる.
この$n_1$により$\delta(m_3)=\overline{n_1}\in \text{Coker}h_1$とする.

この$\delta$は加群の準同型になる.これをこの図式の連結準同型と呼ぶ.

$M_3$$f_1$の余核で,$N_1$$g_2$の核であるときは,連結準同型をもう少し簡単に記述できる.

次の図式は加群の可換図式であるとする.

$\xymatrix{ &M_1 \ar[r]^{f} \ar[d]^{h_1} & M_2 \ar[r]^{\pi}\ar[d]^{h_2} & \text{Coker}f\ar[r]^{}\ar[d]^{h_3}&0\\0\ar[r]^{}& \text{Ker}g\ar[r]_{i} & N_2\ar[r]_{g}& N_3}$

ただし,$\pi$は自然な全射,$i$は包含写像とする.

このとき,この図式の連結準同型$\delta$は次のような写像である.
\begin{array}{rccc}\delta:&\text{Ker}h_3&\longrightarrow&\text{Coker}h_1 \\&\overline{x}&\longmapsto&\overline{h_2(x)}\end{array}
(ただし$x\in M_2$.)

つまり$\delta$は図式の真ん中の縦の射$h_2$によって表される.

長完全列における連結準同型

$C=(C_q,d_q)_{q\in\mathbb{Z}},\;C'=(C'_q,d'_q)_{q\in\mathbb{Z}},\;C''=(C''_q,d''_q)_{q\in\mathbb{Z}}$はそれぞれ加群の複体で

$\xymatrix{0\ar[r]&C'\ar[r]^{i} & C\ar[r]^{\pi} &C''\ar[r]_{}&0}$

は複体の短完全列とする.

このとき長完全列

$\xymatrix{\cdots\ar[r]&H_q(C')\ar[r]&H_q(C)\ar[r]^{} & H_q(C'') \ar[r]^{\delta} &H_{q-1}(C')\ar[r]_{}&\cdots}$

が得られる.(詳しくは 1 p.88.)
このとき,それぞれの$q\in\mathbb{Z}$に対する$\delta:H_q(C'')\to H_{q-1}(C')$を,この長完全列に関する連結準同型と呼ぶ.(複体の短完全列に関する連結準同型,とも呼ぶことにする.)

定義2の状況下で,$q\in\mathbb{Z}$を1つとり固定する.複体の完全列から,次の可換図式が誘導され,2つの行が完全になる.

$\xymatrix{ & \text{Coker}d'_{q+1} \ar[r]^{} \ar[d]^{} & \text{Coker}d_{q+1} \ar[r]^{\overline{\pi_q}}\ar[d]^{\widetilde{d_{q}}} & \text{Coker}d''_{q+1}\ar[r]^{}\ar[d]^{}&0\\0\ar[r]^{}& \text{Ker}d'_{q-1}\ar[r]_{i_{q-1}} & \text{Ker}d_{q-1}\ar[r]_{}& \text{Ker}d''_{q-1}}$

ただし$\overline{\pi_q}(\overline{x})=\overline{\pi_q(x)},\;\widetilde{d_q}(\overline{x})=d_q(x)$であり,$i_{q-1}:\text{Ker}d'_{q-1}\to\text{Ker}d_{q-1}$$i_{q-1}:C'_{q-1}\to C_{q-1}$の制限である.他の射も複体の完全列から誘導されるものである.

このとき,この図式に関する定義1の意味での連結準同型は,定義2の意味での連結準同型$\delta:H_q(C'')\to H_{q-1}(C')$に一致する.

すなわち,上の$\delta:H_q(C'')\to H_{q-1}(C')$は次のような写像になっている.

$\overline{z}\in H_q(C'')$とする.(ただし$z\in \text{Ker}d''_q(\subset C''_q)$.)
$\pi_q(x)-z\in \text{Im}d''_{q+1}$を満たす$x\in C_q$をとる.
$d_q(x)=i_{q-1}(y)$を満たす$y\in C'_{q-1}$をとる.(このとき自動的に$y\in \text{Ker}d'_{q-1}$となる.)

この$y$により$\delta(\overline{z})=\overline{y}$

任意の$q\in\mathbb{Z}$に対して$C'_q\subset C_q$$C''_q=C_q/C'_q$となっているときは,もう少し簡単に記述できる.

任意の$q\in\mathbb{Z}$に対して$C'_q\subset C_q$は加群の包含とする.
$C=(C_q,d_q)_{q\in\mathbb{Z}},\;C'=(C'_q,d'_q)_{q\in\mathbb{Z}},\;C''=(C_q/C'_q,d''_q)_{q\in\mathbb{Z}}$はそれぞれ加群の複体で,

$\xymatrix{0\ar[r]&C'\ar[r]^{i} & C\ar[r]^{\pi} &C''\ar[r]_{}&0}$

は複体の短完全列とする.ただし任意の$q\in\mathbb{Z}$に対して$i_q:C'_q\to C_q$は包含写像,$\pi_q:C_q\to C_q/C'_q$は自然な全射とする.

このとき,$q\in\mathbb{Z}$に対して,この複体の完全列に対する連結準同型$\delta:H_q(C'')\to H_{q-1}(C')$は次のように記述される.

まず$\text{Coker}d''_{q+1}$$C_q$の商加群として記述できる.よって$\text{Coker}d''_{q+1}$の部分加群である$H_q(C'')$の元は,ある$x\in C_q$を用いて$\overline{x}\in H_q(C''_q)$と書ける.

この$x$により$\delta(\overline{x})=\overline{d_q(x)}\in H_{q-1}(C')$

命題3における複体の短完全列は次のような加群の可換図式である.

$\xymatrix{&\vdots\ar[d]_{d'_{q+1}} & \vdots\ar[d]_{d_{q+1}} &\vdots\ar[d]_{d''_{q+1}}&\\ 0\ar[r]&C'_q\ar[r]_{i_q}\ar[d]_{d'_q} & C_q\ar[r]_{\pi_q}\ar[d]_{d_q} &C_q/C'_q\ar[r]_{}\ar[d]_{d''_q}&0\\ 0\ar[r]&C'_{q-1}\ar[r]_{i_{q-1}}\ar[d]_{d'_{q-1}} & C_{q-1}\ar[r]_{\pi_{q-1}}\ar[d]_{d_{q-1}} &C_{q-1}/C'_{q-1}\ar[r]\ar[d]_{d''_{q-1}}&0\\ &\vdots & \vdots &\vdots& }$

連結準同型$\delta:H_q(C'')\to H_{q-1}(C')$は,やはり真ん中の縦の射$d_q$によって表されている.

Mayer-Vietoris完全列における連結準同型

位相空間$X$とその2つの開集合による表示$X=U\cup V$に対して,長完全列の一種としてMayer-Vietoris完全列が定まる.その連結準同型を記述するのに必要な標準$n$-単体と特異チェイン複体を定義する.

整数$n\geq 0$に対して
$\Delta^n:=\{x=(x_0,...,x_n)\in\mathbb{R}^{n+1}\mid \forall i,x_i \geq 0,\;\displaystyle\sum_{i=0}^n x_i=1\}$
と定め,これを標準$n$-単体と呼ぶ.

位相空間$X$と整数$n\geq 0$に対して,$\Delta^n$から$X$への連続写像全体の集合が$\mathbb{Z}$上で生成する自由加群を$S_n(X)$と書く.また,$\partial=\partial_n:S_n(X)\to S_{n-1}(X)$を境界写像とする.(詳しくは 1 p.58.)
複体$(S_n(X),\partial_n)_{n\geq 0}$$X$の特異チェイン複体と呼ぶ.

$X$は位相空間で$U,V\subset X$は開集合で$X=U\cup V$であるとする.以下で複体の短完全列から得られる長完全列とある加群の同型を用いてMayer-Vietoris完全列を構成する.

任意の整数$n\geq 0$に対して,自然に$S_n(U\cap V),S_n(U),S_n(V)$はそれぞれ$S_n(X)$の部分$\mathbb{Z}$加群とみなせる.よって$C''_n:=S_n(U)+S_n(V)(=\{\sigma_U+\sigma_V\mid \sigma_U\in S_n(U),\sigma_V\in S_n(V)\})$もまた$S_n(X)$の部分$\mathbb{Z}$加群みなせる.

すると次の$\mathbb{Z}$加群の複体の短完全列がある.

$\xymatrix{0\ar[r]^{} & S_{\bullet}(U\cap V) \ar[r]^{} &S_{\bullet}(U)\oplus S_{\bullet}(V) \ar[r]^{} &C'' \ar[r]^{} &0}$

(ただし任意の整数$n\geq 0$に対して
\begin{array}{rccc}&S_{n}(U\cap V)&\longrightarrow&S_{n}(U)\oplus S_{n}(V)\\ &\sigma&\longmapsto&(\sigma,-\sigma)\end{array}

および
\begin{array}{rccc}&S_{n}(U)\oplus S_{n}(V)&\longrightarrow&C''_n\\ &(\sigma_U,\sigma_V)&\longmapsto&\sigma_U+\sigma_V\end{array}
という準同型を考えている.)

この複体の短完全列から得られる長完全列は次の通りである.

$\xymatrix{\cdots \ar[r]& H_{n}(U\cap V) \ar[r]^{} &H_{n}(U)\oplus H_{n}(V) \ar[r]^{} &H_n(C'') \ar[r]^{} &H_{n-1}(U\cap V)\ar[r]&\cdots}$

さて,任意の整数$n\geq 0$に対して,実は包含写像$C''_n\to S_n(X)$から誘導される同型$H_n(C'')\cong H_n(X)$がある.(この同型はラフに言えば,$H_n(X)$の元は$U$に含まれる部分と$V$に含まれる部分とに分割することができるということを意味する.)この同型により$H_n(C'')$$H_n(X)$に置き換えることにより,次の長完全列を得る.

$\xymatrix{\cdots \ar[r]& H_{n}(U\cap V) \ar[r]^{} &H_{n}(U)\oplus H_{n}(V) \ar[r]^{} &H_n(X) \ar[r]^{\delta\qquad} &H_{n-1}(U\cap V)\ar[r]&\cdots}$

上の長完全列を$X=U\cup V$に対するMayer-Vietoris完全列と呼ぶ.

それぞれの$n$に対する$\delta:H_n(X)\to H_{n-1}(U\cap V)$をこのMayer-Vietoris完全列の連結準同型と呼ぶ.

この連結準同型$\delta:H_n(X)\to H_{n-1}(U\cap V)$は次のような(意外とシンプルな)写像になっている.

同型$H_n(C'')\cong H_n(X)$により,$H_n(X)$の元はある$\sigma_U\in S_n(U)$$\sigma_V\in S_n(V)$を用いて$\overline{\sigma_U+\sigma_V}$と書くことができる.

この表示を用いると定義5の$\delta:H_n(X)\to H_{n-1}(U\cap V)$は次のように記述できる.

\begin{array}{rccc}\delta:&H_n(X)&\longrightarrow&H_{n-1}(U\cap V)\\ &\overline{\sigma_U+\sigma_V}&\longmapsto&\overline{\partial(\sigma_U)}(=-\overline{\partial(\sigma_V)})\end{array}

命題4の記号で$\sigma=\sigma_U+\sigma_V\in S_n(X)$とおくと,$\partial(\sigma_U)\in S_{n-1}(U\cap V)$は,$\sigma$$U$に含まれる部分$\sigma_U$$V$に含まれる部分$\sigma_V$に分割したときの境目,あるいは切り口だと思える.したがってMayer-Vietoris完全列の連結準同型は,「切り口」を返す写像であると思うことができる.(詳しくは 1 のp.97,98.)

$\delta:H_2(X)\to H_{1}(U\cap V)$$\delta:H_1(X)\to H_{0}(U\cap V)$のイメージを載せておく.
!FORMULA[126][1142806915][0] $\delta:H_2(X)\to H_{1}(U\cap V)$
!FORMULA[127][-231040285][0] $\delta:H_1(X)\to H_{0}(U\cap V)$

参考文献

[1]
河澄響矢, トポロジーの基礎 上, 東京大学出版会, 2022
投稿日:61
更新日:62
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