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大学数学基礎解説
文献あり

クラフチック法の証明

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本稿では,非線形方程式の解を精度保証つき数値計算で求めるのによく使われる,クラフチック法(Krawczyk method)を証明する.なお,本稿では以下の記法を用いる.

  1. 集合SRの直径sup{|xy|x,yS}diamSと書く.
  2. 集合SRnの内部をintSと書く.
  3. 写像fの始域に含まれる集合Aについて,像{f(a)aA}f[A]と書く.

次の記法は独自のものなので,注意されたい.ベクトル値関数
f(x)=(f1(x)f2(x)fn(x))T(x=(x1x2xn)T)
に対して,If(X)
If(X)=((f1)x1(f2)x2(fn)xn)T(X=(x1x2xn))
で定義する.x1=x2==xn=xのとき,If(X)f(x)のヤコビ行列である.

平均値の定理

I=[a,b]Rnを内部が空でない有界閉区間とする.また,関数f:IRnIで連続,intIで偏微分可能とする.このとき,行列Cint(I)nが存在して
f(b)f(a)=If(C)(ba)
を満たす.

ベクトルf(x)の第i成分をfi(x)とおく.仮定から,関数gi(t)=fi(a+t(ba))は閉区間[0,1]上で連続,開区間(0,1)上で微分可能である.よって,平均値の定理よりgi(1)gi(0)=gi(θi)を満たすθi(0,1)が存在する.ci=a+θi(ba)とおくと
fi(b)fi(a)=(fi)ciT(ba)
なので,C=(c1c2cn)とおくと
f(b)f(a)=If(C)(ba)
である.

クラフチック法

I=I1×I2××InRnを内部が空でない有界閉区間,cをその中心とする.また,Rn値関数fIを含むある開区間上で定義され,C1級であるとする.仮に,あるn次正方行列Aが存在し,関数
K(X,y)=cAf(c)+(IAIf(X))(yc)(XInyI)
が条件K[In×I]intIを満たすのであれば,I上にfの零点がただ一つ存在する.

仮定が成り立つとき,関数g(x)=xAf(x)xI)は縮小写像かつ,Aは正則であることを示す.これが示せれば,バナッハの不動点定理からxAf(x)=xを満たすxIがただ一つ存在するので,定理が示せたことになる.

まずg[I]Iを示す.任意にxIをとる.平均値の定理より,f(x)f(c)=If(C)(xc)を満たすCInが存在する.
g(x)=xA(f(x)f(c))Af(c)=xAIf(C)(xc)Af(c)=cAf(c)+(IAIf(C))(xc)
なのでg(x)=K(C,x)intIである.これでg[I]Iが示せた.

次に,gが縮小写像であることを示す.任意にx,yIをとる.g(x)g(y)=Ig(C)(xy)を満たすCInが存在するから
g(x)g(y)Ig(C)opxysupXInIg(X)opxy
である(opは作用素ノルム).fC1級なので,Xの関数Ig(X)opは有界閉集合InRn×n上で最大値をとる.よって,Ig(X)op<1XIn)を証明できれば,gが縮小写像といえる.

XInを任意にとる.新たにノルムI
(x1x2xn)TI=max1kn|xk|ϕk(ϕk=diamIk)
で定義し,ベクトルK(X,y)の第i成分をKi(y)とおく.
Ig(X)=IAIf(X),K(X,y)=Ig(X)y+cAf(c)Ig(X)c
より,Ig(X)の第i行ベクトルをgiTとおくと
diamKi[I]=diam{giTyyI}=sup{|giT(y1y2)|y1,y2I}=sup{|giT(δ1δ2δkδn)T||δk|ϕk}=sup{|giTδ|δI1}
だからdiamKi[I]=max{|giTe|eI1}である.よって
max1indiamKi[I]ϕi=max1in(1ϕimaxeI1|giTe|)=maxeI1max1in|giTe|ϕi=maxeI1Ig(X)eI=Ig(X)op
である.

一方,n変数関数Ki(y)は有界閉区間I上の連続関数なので,I上で最大値と最小値に達する.そのため,仮定K[In×I]intIから
diamKi[I]<diamIi=ϕi,diamKi[I]ϕi<1
である.よってIg(X)op<1である.これでgが縮小写像であることが示せた.

最後に,Aが正則であることを示す.Aが正則でないと仮定する.このときAIf(X)も正則でないから,連立1次方程式AIf(X)v=0は非自明な解v0を持つ.するとIg(X)v=vであるが,これはIg(X)op<1に反する.

参考文献

投稿日:2023524
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数学、特に応用数学が好きです。Mathlogでは主に、数学とプログラミングを絡めたようなことを書けたらいいなと思っています。

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