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大学数学基礎解説
文献あり

超丁寧に解説するゲーデルの完全性定理(前編)

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この記事について

この記事は、数理論理学を一通り勉強したけれど、完全性定理の証明が結局よく分からなかったという人に向けて書かれている。
完全性定理の証明は、個々のステップは難しくない。実際、使われている道具は「有限性」「Zornの補題」「同値類による商」「論理式の複雑さに対する帰納法」だけで、どれも学部の数学で見慣れたものばかりである。にもかかわらず難しく感じるのは、証明の各パーツが何のために存在しているのかが見えにくいからだ。
・極大無矛盾集合が突然出てくる。
・Henkin定数が天下り的に大量に追加される。
・同値類で構造を作る。
一つ一つは追えても、全体としてなぜそうするのかが分からない。
そこでこの記事では、次の方針をとる。
・まず命題論理で証明の骨格を完成させる。述語論理の証明は、命題論理の証明に「登場人物を用意する」という一手間を加えたものにすぎない。骨格を先に手に入れてしまえば、述語論理は差分だけを理解すればよい。
・各補題の前に「なぜそれが要るのか」を書く。天下りに見える定義には、必ずそれを要求している場所がある。その場所を先に示す。
証明体系はŁukasiewicz流のHilbert体系、推論規則は分離規則$\text{MP}$と一般化規則$\text{Gen}$の二つとする。
なお、体系内部での純粋に命題論理的な導出($\vdash \varphi \to \varphi$のような、Hilbert体系特有の技巧を要する部分)は、「道具箱」としてまとめて列挙し、完全性定理の骨格に集中する。これらはどの教科書にも載っている機械的な演習であり、ここを追わなくても以降の議論は完全に追える。逆に言えば、完全性定理の本質はそこには一切ない。

導入:完全性定理は何を主張しているのか

二つの「正しさ」

論理学には、「$\varphi$が正しい」ということの意味が二つある。

構文論的な正しさ
$T \vdash \varphi$:公理と推論規則だけを使って、$T$から$\varphi$に至る有限の記号列(証明)が存在する。これは純粋に有限的・機械的な概念である。原理的にはコンピュータに検証させられる。

意味論的な正しさ
$T \models \varphi$$T$ のすべてのモデルにおいて$\varphi$が真である。これは「すべてのモデル」という、とてつもなく大きなクラスにわたる量化を含んでいる。$T$が群の公理なら、宇宙に存在するすべての群を見渡すという主張である。

完全性定理は、この二つが一致することを主張する。

Gödelの完全性定理

$T$を言語$L$の理論、$\varphi$$L$の文とする。このとき
$$ T \vdash \varphi \iff T \models \varphi $$

どちらの向きが難しいのか

$(\Rightarrow)$ の向きは健全性 (soundness) と呼ばれ、易しい。「公理はすべて恒真であり、推論規則は恒真性を保つ」ことを確かめて、証明列に関する帰納法を回すだけである。これは体系を設計するときに当然要求される最低限の性質であって、むしろこれが成り立たない体系はゴミである。
$(\Leftarrow)$ の向きが完全性 (completeness) であり、これが定理の本体である。難しさの所在ははっきりしている。
仮定は「すべてのモデルで$\varphi$が真」という無限個の対象についての情報である。そこから結論として「有限の記号列である証明が存在する」ことを言わねばならない。
無限の情報から有限の対象を取り出さねばならない。これが完全性定理の難所であり、素朴な直接証明が通用しない理由である。

発想の転換:対偶をとる

そこで対偶をとる。$T \nvdash \varphi$を仮定して、$T \models \varphi$が破れること、すなわち$T$のモデルであって$\varphi$を偽にするものが存在することを示せばよい。$T \nvdash \varphi$から$T \cup \lbrace \neg\varphi \rbrace $が無矛盾であることが従う(背理法の補題、後述)ので、結局示すべきは次である。

モデル存在定理

$T$が無矛盾ならば、$T$はモデルを持つ。

これが完全性定理の実質的な内容である。逆に、モデル存在定理から完全性定理はただちに従う。以下、我々が本当に証明するのはこちらである。
仮定と結論の顔ぶれを見比べてほしい。
仮定「$T$は無矛盾である」は、構文論的な情報だけである。「$T$から$\varphi$を導く証明列と$\neg\varphi$を導く記号列が両方存在することはない」。
結論「$T$はモデルを持つ」は、意味論的な対象、すなわち集合と、その上の関数・関係の存在を要求する。
つまり我々は、記号列についての情報だけを元手に、集合と構造を作り出さねばならない。材料は構文しかない。ならば、構文そのものを材料にして構造を組み立てるしかない。これが完全性定理の証明を貫くただ一つのアイデアである。
命題論理では、真理値割り当てを作ればよい。これは「どの命題変数を真とするか」を決めることだから、$T$を拡大した「どの論理式についても真偽が決まっている無矛盾な論理式の集合」を作り、その集合に属することをもって「真」と定義する。
述語論理では、それに加えて台集合の元、すなわち登場人物が要る。ならば、定数記号そのものを登場人物にする。ただしこれには「$\exists x\varphi(x)$が真なのに、それを目撃(witness)する定数記号が言語にない」という致命的な問題があり、その対処がHenkinの工夫である。

不完全性定理の「完全」とは別概念であり、衝突してない

混乱の温床なので先に潰しておく。ここでいう完全性は、証明体系が「意味論的に正しいものはすべて証明できる」という、$\vdash$$\models$の一致を指す。
一方、不完全性定理の「完全」は、理論$T$が「任意の文$\varphi$について $T \vdash \varphi$または$T \vdash \neg\varphi$」という性質(完全な理論)を指す。第一不完全性定理は「自然数論の十分強い公理系$T$はこの意味で完全でない」と言っている。
完全性定理と不完全性定理は(当たり前だが)両立している。完全性定理は「$T \models \varphi$なら$T \vdash \varphi$」と言っているだけで、「$T \models \varphi$$T \models \neg\varphi$のどちらかである」とは一言も言っていない。$T$のモデルが複数あって、$\varphi$が真のものと偽のものが混在していればよいだけである。

ウォーミングアップ:命題論理の完全性定理

述語論理の証明の骨格は、命題論理の証明にすべて含まれている。ここを完全に理解することが最短経路である。

舞台設定

可算個の命題変数$p_0, p_1, p_2, \dots$と命題結合子$\neg, \to$を今回は採用する。
論理式は通常どおり定義する。
命題変数全体、論理式全体をそれぞれ$\mathrm{PV},\mathrm{Fml}$と書く。
$\lor, \land$ は以下の略記とする。
$$ \begin{eqnarray} \varphi \lor \psi &\equiv& \neg\varphi \to \psi \\ \varphi \land \psi &\equiv& \neg(\varphi \to \neg\psi) \end{eqnarray}$$

命題論理の証明体系(Łukasiewicz流)

次の三つの公理図式と、推論規則$\text{MP}$からなる。
$\mathbf{P1}$ $\varphi \to (\psi \to \varphi)$
$\mathbf{P2}$ $(\varphi \to (\psi \to \chi)) \to ((\varphi \to \psi) \to (\varphi \to \chi))$
$\mathbf{P3}$ $(\neg\psi \to \neg\varphi) \to (\varphi \to \psi)$
$\mathrm{MP}$ $\varphi$$\varphi \to \psi$から$\psi$を導く

$T$から$\varphi$が証明できる」ことの定義は、この先で二度、証明列に関する帰納法の土台になる。場合分けが尽きていることを主張できるよう、条項の形で正確に述べておく。

証明

論理式の有限列$\varphi_0, \varphi_1, \dots, \varphi_n$$T$からの証明であるとは、各$k \le n$について次のいずれかが成り立つことをいう。
$1.$ $\varphi_k$$\mathbf{P1}$$\mathbf{P3}$のいずれかの実例である
$2.$ $\varphi_k \in T$
$3.$ ある$i, j < k$が存在して、$\varphi_j$$\varphi_i \to \varphi_k$という形をしている$(\mathrm{MP})$
$\varphi_n = \varphi$となる$T$からの証明が存在するとき$T \vdash \varphi$と書く。
$\vdash \varphi$$\emptyset \vdash \varphi$の略。

条項$3$$i, j < k$と要求していること、すなわち$\mathrm{MP}$の前提は必ず先行する項であることに注意しておく。これが証明列に関する帰納法の型を決める。

単調性

$T \subseteq T'$ かつ $T \vdash \varphi$ ならば $T' \vdash \varphi$

$T$からの証明列は、そのまま$T'$からの証明列の条件を満たす(条項$2$$T'$でも成り立つため)。$\square$

矛盾

$T$が矛盾するとは、ある$\varphi$について$T \vdash \varphi$かつ$T \vdash \neg\varphi$となること。
そうでないとき無矛盾という。

以下、論理式の集合を理論と呼び、$T,U$などで表す。

モデル

真理値割り当てとは写像$v \, \colon \text{PV} \to \lbrace \mathbb{T},\mathbb{F} \rbrace $ のこと。
これは$\bar v \, \colon \mathrm{Fml} \to \lbrace \mathbb{T},\mathbb{F} \rbrace$に一意に拡張される:
$$ \begin{eqnarray} \bar v(\neg\varphi) = \mathbb{T} &\iff& \bar v(\varphi) = \mathbb{F} \\ \bar v(\varphi \to \psi) = \mathbb{T} &\iff& \bar v(\varphi)=\mathbb{F} \text{または} \bar v(\psi) = \mathbb{T} \end{eqnarray}$$
$\bar v(\varphi) = \mathbb{T}$のとき$v \models \varphi$と書き、$v$$\varphi$のモデルという。$v$$T$のすべての要素のモデルであるとき$v \models T$と書く。$T$のすべてのモデルが$\varphi$のモデルであるとき$T \models \varphi$と書く。

ここで、$\bar v(\varphi \to \psi) = \mathbb{F} \iff \bar v(\varphi)=\mathbb{T} \text{かつ} \bar v(\psi) = \mathbb{F}$が成り立つことに注意しておく。実際に使うときはこの形で使うことが多い。

$\bar v$の一意な存在は、論理式の複雑さに関する帰納法(正確には、論理式の一意分解可能性)から従う。ここは「明らかだから」と飛ばされることが多いが、後で述語論理の真理補題を証明するときの帰納法は、これとまったく同じ形をしている。命題論理の$\bar v$の定義が、そのまま述語論理の真理定義の雛形なのだと思ってよい。

意味論版$\mathrm{MP}$

$\bar v(\varphi) = \mathbb{T}$かつ$\bar v(\varphi \to \psi) = \mathbb{T}$ならば$\bar v(\psi) = \mathbb{T}$

$\bar v(\psi) = \mathbb{F}$とすると、$\bar v(\varphi)=\mathbb{T}$と併せて$\bar v$の定義より$\bar v(\varphi \to \psi) = \mathbb{F}$となり不合理。$\square$

健全性は認めて先へ進む

完全性定理は$T \vdash \varphi \iff T \models \varphi$という同値であり、$(\Rightarrow)$の向きは健全性 (soundness)と呼ばれ、これは易しい。難しいのは$(\Leftarrow)$であって、本稿が扱うのはそちらである。
とはいえ健全性がまったく不要になるわけではない。以下で使う箇所は二つだけである。
・完全性定理の$(\Rightarrow)$の向き
・コンパクト性定理を導くときの「モデルを持つ理論は無矛盾である」という一歩
必要なのはこれだけなので、証明は要点のみを述べる。

健全性定理

$T \vdash \varphi$ならば$T \models \varphi$
とくに、モデルを持つ理論は無矛盾である。

前半:$\mathbf{P1}$$\mathbf{P3}$の実例がトートロジーであることは、真理値表を書けば確かめられる(たとえば$\mathbf{P3}$は、値が$\mathbb{F}$と仮定すると$\bar v(\varphi)=\mathbb{T}\, , \bar v(\psi)=\mathbb{F}$、ゆえに $\bar v(\neg\psi)=\mathbb{T} \, ,\bar v(\neg\varphi)=\mathbb{F}$となり、前件が$\mathbb{F}$になって不合理)。
$v \models T$なる任意の$v$を固定し、$T$からの証明$\varphi_0,\dots,\varphi_n = \varphi$の添字$k$に関する累積帰納法で$\bar v(\varphi_k) = \mathbb{T}$を示す。定義2の三つの場合のうち、条項$1$は公理のトートロジー性から、条項$2$$v \models T$から従い、どちらも帰納法の仮定を使わない。条項$3$では$i, j < k$だから帰納法の仮定が両方に使えて、補題4より$\bar v(\varphi_k) = \mathbb{T}$$k = n$とすれば$v \models \varphi$であり、$v$は任意だったから$T \models \varphi$
後半:$v \models T$とする。$T$が矛盾するなら$T \vdash \chi$かつ$T \vdash \neg\chi$ なる$\chi$があり、前半より$\bar v(\chi) = \bar v(\neg\chi) = \mathbb{T}$となって$\neg$の真理条件に反する。$\square$

「証明の長さに関する帰納法」と書かれることが多いが、正確には長さではなく添字についての累積帰納法である。条項$3$で使う前提の添字は$k-1$とは限らず$k$より小さいだけなので、「直前まで成り立つ」という仮定では足りない。

道具箱:演繹定理と背理法

Hilbert流は証明を書くのが極端に面倒である。そこで、以降で必要になる導出をここでまとめておく。これらは機械的な演習であり、完全性定理の本質とは無関係であるから、要点だけ示して先へ進む。
ただし一点だけ順序に注意が要る。演繹定理の証明は $\vdash \varphi \to \varphi$ を使うので、これを演繹定理の系として出すわけにはいかない。$\mathbf{P1}$$\mathbf{P2}$だけから直接導いておく。

任意の論理式$\varphi$について$\vdash \varphi \to \varphi$

次の五行が$\emptyset$からの証明列である。
$(1)$ $\big(\varphi \to ((\varphi\to\varphi) \to \varphi)\big) \to \Big(\big(\varphi\to(\varphi\to\varphi)\big) \to (\varphi \to \varphi)\Big)$
根拠:$\mathbf{P2}$ $(\psi = \varphi\to\varphi \, , \chi = \varphi)$
$(2)$ $\varphi \to ((\varphi\to\varphi) \to \varphi)$
根拠:$\mathbf{P1}$ $(\psi = \varphi\to\varphi)$
$(3)$ $\big(\varphi\to(\varphi\to\varphi)\big) \to (\varphi\to\varphi)$
根拠:$(1)$,$(2)$$\mathrm{MP}$
$(4)$ $\varphi \to (\varphi\to\varphi)$
根拠:$\mathbf{P1}$ $(\psi = \varphi)$
$(5)$ $\varphi \to \varphi$
根拠:$(3)$,$(4)$$\mathrm{MP}$
$\square$

演繹定理

$T \cup \lbrace \varphi \rbrace \vdash \psi$ならば$T \vdash \varphi \to \psi$
逆も成り立つ。

$T \cup \lbrace \varphi \rbrace$からの証明$\psi_0, \dots, \psi_n = \psi$を固定し、添字$k$に関する累積帰納法で$T \vdash \varphi \to \psi_k$を示す。定義2より場合は三つ。
$(\text{i})$ $\psi_k$が公理の実例、または$\psi_k \in T$のとき:
どちらも$T \vdash \psi_k$である。
$\mathbf{P1}$の実例$\psi_k \to (\varphi \to \psi_k)$$\mathrm{MP}$により$T \vdash \varphi \to \psi_k$
$(\text{ii})$ $\psi_k = \varphi$ のとき:
補題6と単調性(補題3)より $T \vdash \varphi \to \varphi$
$(\text{iii})$ ある$i, j < k$について$\psi_j = \psi_i \to \psi_k$のとき:
帰納法の仮定より$T \vdash \varphi\to\psi_i$および$T \vdash \varphi \to (\psi_i \to \psi_k)$$\mathbf{P2}$の実例
$$ \big(\varphi \to (\psi_i \to \psi_k)\big) \to \Big(\big(\varphi\to\psi_i\big) \to \big(\varphi\to\psi_k\big)\Big)$$
$\mathrm{MP}$を二回適用して$T \vdash \varphi\to\psi_k$
なお$\psi_k$$T \cup \lbrace \varphi \rbrace$の要素である場合は、$\psi_k \in T$なら$(\text{i})$$\psi_k = \varphi$なら$(\text{ii})$で処理されている。$k=n$として結論を得る。
逆向き:$T \vdash \varphi\to\psi$なら、単調性より$T \cup \lbrace \varphi \rbrace\vdash\varphi\to\psi$であり、$T \cup \lbrace \varphi \rbrace\vdash\varphi$$\mathrm{MP}$から$T \cup \lbrace \varphi \rbrace\vdash\psi$$\square$

$(\text{i})$$\mathbf{P1}$が、$(\text{iii})$$\mathbf{P2}$が、ちょうど一回ずつ使われた。$\mathbf{P1}$$\mathbf{P2}$は演繹定理を成立させるために置かれた公理であると理解しておくとよい。一方$\mathbf{P3}$はここに一度も登場しない。$\mathbf{P3}$が効くのは次の背理法であり、体系の古典論理性を担っているのは$\mathbf{P3}$だけである。

演繹定理があれば、以下は日常的な数学の議論とほぼ同じ感覚で示せる。

道具箱

次はすべて導出可能である。
$(1)$ $\vdash \neg\varphi \to (\varphi \to \psi)$ (矛盾からは何でも従う)
$(2)$ $\vdash (\neg\varphi \to \varphi) \to \varphi$
$(3)$ $\vdash \varphi \to \neg\neg\varphi$
$(4)$ $\vdash \neg\neg\varphi \to \varphi$
$(5)$ $T \vdash \varphi \to \psi$かつ$T \vdash \psi \to \chi$ならば$T \vdash \varphi \to \chi$(三段論法)

これらを使って、完全性定理で実際に必要になる補題を出す。

背理法

$T \cup \lbrace \neg\varphi \rbrace $が矛盾するならば$T \vdash \varphi$
同様に、$T \cup \lbrace \varphi \rbrace$が矛盾するならば$T \vdash \neg\varphi$

$T \cup \lbrace \neg\varphi \rbrace $が矛盾するなら、ある$\chi$について $T \cup \lbrace \neg\varphi \rbrace \vdash \chi$かつ$T \cup \lbrace \neg\varphi \rbrace \vdash \neg\chi$。演繹定理より$T \vdash \neg\varphi \to \chi$および$T \vdash \neg\varphi \to \neg\chi$。後者と$\mathbf{P3}$から$T \vdash \chi \to \varphi$。これと前者を三段論法でつないで$T \vdash \neg\varphi \to \varphi$。道具箱$(2)$$\mathrm{MP}$より $T \vdash \varphi$。後半も同様(道具箱$(4)$を併用する)。$\square$

$T$が無矛盾ならば、任意の$\varphi$について、$T \cup \lbrace \varphi \rbrace $$T \cup \lbrace \neg\varphi \rbrace $の少なくとも一方は無矛盾である。

両方矛盾するとすると、補題9より$T \vdash \neg\varphi$かつ$T \vdash \varphi$となり、$T$が矛盾する。$\square$

有限性

$T \vdash \varphi$ならば、ある有限部分集合$S \subseteq T$について$S \vdash \varphi$
$T$が矛盾するならば、$T$のある有限部分集合が矛盾する。

前半:証明は有限列だから、条項$2$によってそこに現れる$T$の要素は有限個。それを$S$とすればよい。
後半:$T \vdash \chi$, $T \vdash \neg\chi$なる$\chi$ をとり、前半を二回使って有限部分集合$S_1, S_2$を得れば、$S_1 \cup S_2$が矛盾する有限部分集合である。$\square$

補題11が使っているのは「証明は有限列である」という、体系のもっとも素朴な性質だけである。にもかかわらず、これは以下で二度、決定的に効く(Lindenbaumの補題の証明と、コンパクト性定理の導出)。構文論の有限性が、意味論のコンパクト性という性質に化けるというのが、この分野のもっとも面白いところの一つである。

極大無矛盾集合:なぜそれが必要か

さて本題である。無矛盾な$T$からモデル、すなわち真理値割り当て$v$を作りたい。手元にあるのは論理式の集合$T$だけだから、素直な発想はこうだ。
$$ v(p) = \mathbb{T} \iff p \in T$$
しかしこれではうまくいかない。たとえば$T = \lbrace p_0 \lor p_1 \rbrace $を考えよう。$T$は無矛盾だが、$p_0 \notin T$かつ$p_1 \notin T$なので、この定義だと $v(p_0)=v(p_1)=\mathbb{F}$となり、$\bar v(p_0 \lor p_1) = \mathbb{F}$となってしまう。$v \models T$ではない。
何が起きたか。$T$は「$p_0$$p_1$のどちらかは真だ」としか言っておらず、どちらなのかについて態度を保留している。ところが真理値割り当てというものは、すべての命題変数について真偽をきっぱり決めてしまう対象である。両者のあいだにはギャップがある。
ならば、そのギャップを先に埋めてしまえばよい。$T$を、あらゆる論理式について賛否が決まっている無矛盾な集合にまで拡大する。それが極大無矛盾集合である。

無矛盾な理論$U$が極大無矛盾であるとは、$U \subsetneq U'$なる無矛盾な理論$U'$が存在しないことである。

$U$を無矛盾な理論とする。次は同値。
$(1)$ $U$は極大無矛盾である。
$(2)$ 任意の論理式$\varphi$について、$\varphi \in U$または$\neg\varphi \in U$

$(1)\Rightarrow(2)$:補題10より$U \cup \lbrace \varphi \rbrace $$U \cup \lbrace \neg\varphi \rbrace $の一方は無矛盾。極大性よりそれは$U$自身に等しく、$\varphi \in U$または$\neg\varphi \in U$
$(2)\Rightarrow(1)$$U \subsetneq U'$$\varphi \in U' \setminus U$をとる。$(2)$より$\neg\varphi \in U \subseteq U'$。一方$\varphi \in U'$だから$U'$は矛盾する。$\square$

演繹的閉包

$U$が極大無矛盾で$U \vdash \varphi$ならば$\varphi \in U$

$\varphi \notin U$とすると補題12より$\neg\varphi \in U$、すなわち$U \vdash \neg\varphi$$U \vdash \varphi$と併せて$U$が矛盾し、不合理。$\square$

この二つの補題が、極大無矛盾集合の使いやすさのすべてである。
すなわち極大無矛盾集合$U$は、
$\varphi \in U$$\neg\varphi \in U$かのちょうど一方(排中律と無矛盾律)
$U \vdash \varphi$なら$\varphi \in U$(推論について閉じている)
を満たす。つまり $U$ は「$\in U$」という関係によって、すでに真理値割り当てそのものとして振る舞っている。あとはそれを確認するだけである。

Lindenbaumの補題

無矛盾な理論$T$は、$T \subseteq U$なる極大無矛盾な理論$U$に拡大できる。

Zornの補題による

$X = \lbrace T' \subseteq \mathrm{Fml} : T \subseteq T' \text{ かつ } T' \text{ は無矛盾} \rbrace $ とおき、包含関係で半順序集合とみなす。$T \in X$より$X \neq \emptyset$
$\mathcal{Y} \subseteq X$を空でない鎖(全順序部分集合)とし、$T_{\mathcal{Y}} = \bigcup \mathcal{Y}$とおく。$T_{\mathcal{Y}}$が無矛盾であることを示す。矛盾したとすると、補題11より矛盾する有限部分集合$ \lbrace \varphi_1,\dots,\varphi_n \rbrace \subseteq T_{\mathcal{Y}}$がとれる。各$\varphi_i$はある$T_i \in \mathcal{Y}$に属し、$\mathcal{Y}$は鎖だから、これら有限個のうち最大のもの$T_j$が存在して$\lbrace \varphi_1,\dots,\varphi_n \rbrace \subseteq T_j$。すると$T_j$が矛盾し、$T_j \in X$に反する。よって$T_{\mathcal{Y}} \in X$$\mathcal{Y}$の上界である。
Zornの補題より$X$は極大元$U$を持ち、これが求める極大無矛盾な拡大である。$\square$

可算言語なら選択公理は要らない

命題変数が可算個なら、論理式全体も可算なので$\varphi_0, \varphi_1, \varphi_2, \dots$と枚挙できる。
そこで
$$ T_0 = T \qquad T_{n+1} = \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} T_n \cup \lbrace \varphi_n \rbrace & (\text{これが無矛盾なとき}) \\ T_n \cup \lbrace \neg\varphi_n \rbrace & (\text{それ以外}) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
と定め、$U = \bigcup_n T_n$とすればよい。補題10より各$T_n$は無矛盾、補題11より$U$も無矛盾、作り方から任意の$\varphi_n$について$\varphi_n \in U$ または$\neg\varphi_n \in U$
Zornの補題は不要である。

真理補題

材料はそろった。極大無矛盾集合$U$から真理値割り当てを作る。

$U$を極大無矛盾な理論とする。真理値割り当て$v_U$
$$ v_U(p) = \mathbb{T} \iff p \in U \qquad (p \text{ は命題変数})$$ と定める。

命題変数についてはこう定義した。問題は、この定義から自動的に決まる$\bar v_U$が、複合的な論理式についても同じ性質を持つかである。それを保証するのが次であり、完全性定理の心臓部である。

真理補題

$U$を極大無矛盾な理論とする。任意の論理式$\varphi$について
$$ \bar v_U(\varphi) = \mathbb{T} \iff \varphi \in U$$

$\varphi$の複雑さ(結合子$\neg, \to$の個数)に関する帰納法

$(\text{i})$ $\varphi$が命題変数のとき:定義そのもの。
$(\text{ii})$ $\varphi = \neg\psi$のとき:
$$ \bar v_U(\neg\psi) = \mathbb{T} \iff \bar v_U(\psi) = \mathbb{F} \iff \psi \notin U \iff \neg\psi \in U$$
一つ目は $\bar v$ の定義、二つ目は帰納法の仮定、三つ目は補題12($\psi \in U$$\neg\psi \in U$)と $U$ の無矛盾性(両方は入らない)である。
$(\text{iii})$ $\varphi = \psi \to \chi$ のとき:示すべきは
$$ (\psi \to \chi) \in U \iff (\psi \notin U \text{ または } \chi \in U)$$
(左辺が$\bar v_U(\psi\to\chi)=\mathbb{T}$と、右辺が$\bar v_U(\psi)=\mathbb{F}$または$\bar v_U(\chi)=\mathbb{T}$と、帰納法の仮定により対応する。)
$(\Rightarrow)$$(\psi \to \chi) \in U$かつ$\psi \in U$とすると、$\mathrm{MP}$より$U \vdash \chi$、補題13より$\chi \in U$
$(\Leftarrow)$$\chi \in U$なら、$\mathbf{P1}$より$U \vdash \chi \to (\psi \to \chi)$$\mathrm{MP}$と補題13より$(\psi\to\chi) \in U$$\psi \notin U$なら補題12より$\neg\psi \in U$で、道具箱$(1)$より $U \vdash \neg\psi \to (\psi \to \chi)$、よって $(\psi \to \chi) \in U$$\square$

真理補題の証明を振り返ると、使ったのは
$\neg$のケース:極大性(排中律)と無矛盾性
$\to$のケース:$\mathrm{MP}$、演繹的閉包、公理$\mathbf{P1}$、道具箱$(1)$
だけである。極大無矛盾集合という概念は、真理補題を回すためだけに導入されたのだと理解してよい。$\neg$の真理条件を再現するには「$\varphi$$\neg\varphi$のちょうど一方」が要り、$\to$の真理条件を再現するには演繹について閉じている必要がある。極大無矛盾性とは、その二つの要求をそのまま定義にしたものである。

完全性定理の証明

モデル存在定理

$T$が無矛盾ならば、$T$はモデルを持つ。

Lindenbaumの補題より、$T \subseteq U$なる極大無矛盾な理論$U$をとる。真理補題より、$\varphi \in U$なる任意の$\varphi$について$\bar v_U(\varphi) = \mathbb{T}$。とくに$T \subseteq U$だから$v_U \models T$$\square$

命題論理の完全性定理

$T \vdash \varphi \iff T \models \varphi$

$(\Rightarrow)$は健全性そのもの。$(\Leftarrow)$は対偶を示す。$T \nvdash \varphi$とすると、補題9の対偶より$T \cup \lbrace \neg\varphi \rbrace $は無矛盾。モデル存在定理より$T \cup \lbrace \neg\varphi \rbrace $のモデル$v$が存在する。この$v$$v \models T$かつ$\bar v(\varphi) = \mathbb{F}$を満たすから、$T \not\models \varphi$$\square$

副産物:コンパクト性定理

コンパクト性定理

$T$のすべての有限部分集合がモデルを持つならば、$T$はモデルを持つ。

$T$の任意の有限部分集合$S$はモデルを持つから、健全性より$S$は無矛盾。補題11の後半の対偶より$T$は無矛盾。モデル存在定理より$T$はモデルを持つ。$\square$

有限性(補題11)が、そのままコンパクト性に化けているのが見える。

ここまでの骨格

後編に進む前に、証明の骨格を三行にまとめておく。
$$ \text{無矛盾な } T \ \xrightarrow{\ \text{Lindenbaum}\ } \ \text{極大無矛盾な } T \subseteq U \ \xrightarrow{\ \text{真理補題}\ } \ T \text{ のモデル}$$
Lindenbaumの補題は、$T$ の「態度保留」をすべて解消し、真理値割り当てと同じ形の対象にする。真理補題は、$\in U$ という構文的な関係が、実際に意味論的な「真」と一致することを保証する。
述語論理の証明は、この骨格をそのまま維持したまま、真理補題を回すために必要な追加の準備をするだけである。


後編:工事中

参考文献

[1]
田中一之編著 鹿島亮、角田法也、菊池誠著, 数学基礎論講義 不完全性定理とその発展, 日本評論社, 1997
[2]
菊池誠, 不完全性定理, 共立出版, 2014
投稿日:1日前
更新日:6時間前
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