ここでは東大数理の修士課程の院試の2012B08の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
$\mathbb{R}^3$を考え、その原点を$O$とする。
連続写像$g:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n$で、以下の条件
(x) $g(O)=O$
(y) $g$は単射である
(z) 任意の直線$L$に対して、$g(L)\subseteq L'$であるような直線$L'$が存在する。
を満たすものは$\mathbb{R}$-線型写像に限る。
初めに$a,b$をとおる直線を$\overline{ab}$、$a,b$を結ぶ線分を$[ab]$とおく。直線$L$への制限$g|_L:L\to L'$を考える。$a,b\in L$及び$g(a),g(b)$以外の$u\in L'$を任意にとる。ここでの$g$の連続単射性から$g(\mathbb{R}^2)\backslash L'\neq\varnothing$であるから、この集合の点$g(d)$を一つとる。ここで$u$を通り、$[g(a)g(d)],[g(b)g(d)]$と交わる直線$L''$を一つとり、それぞれの交点を$g(p),g(q)$とする。このとき$g(\overline{pq})\subseteq L''$である。このとき$g$の単射性から$\overline{pq}$と$L$は平行でなく、特に交点$c$を持つ。このとき$g(c)=u$を満たしている。以上から任意の$L$に対して$g(L)=L'$である。$g$の単射性とこの写像の直線への制限の全射性を合わせて、直線$L_1,L_2$が平行なとき$g(L_1),g(L_2)$は平行であるか捩れの関係であることが従う。特に$n=2$の場合直線が捩れの関係になることはないから、このとき$g$は平行を保つことがわかる。(2012B08の補題としてはここまで示せば充分)。
最後にここまでの議論から$g$の線型性を示す。初めに$f(x)+f(y)=f(x+y)$であることを示す。$0,x,y$を通る平面を$H$とする。$g|_H$は条件(x)(y)(z)を満たす平面上の写像でその像は$0,f(x),f(y)$を含む平面に含まれるから、前半の議論から平行を保つことがわかる。よって$\overline{0f(x)}$と$\overline{f(y)f(x+y)}$、$\overline{0f(y)}$と$\overline{f(x)f(x+y)}$は平行であるから、特に$f(x+y)=f(x)+f(y)$であることが従う。よって$f$は$\mathbb{Q}$-線型であり、$f$の連続性から$\mathbb{R}$-線型性が従う。
設問の都合上補題1は問題を解くための補題として取り扱いましたが、ステートメントを見てもらえればわかっていただける通り、これは問題(2)の一般化になっています。つまり問題(2)は一般の$n$に対して、条件(iii)を外し、$C^\infty$性を連続性まで弱めても成り立つということです。本来であればこのような時は(2)を補題1に差し替えるのですが、この解答例の作成時に補題1が$n=2$の場合でしか示せていなかったこと、このような差し替えを行うと問題(1)を載せる意味がなくなり(1)を省略せざるを得なくなるといった理由で今回は上記のような構成にしました。少々不便な議論になってしまいましたが、ご理解いただけると幸いです。