ここでは東大数理の修士課程の院試の2018B05の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
$3$次元球面
$$
S^3=\left\{(x,y,z,w)\in\mathbb{R}^4\middle|x^2+y^2+z^2+w^2=1\right\}
$$
をとり、その部分集合
$$
M_\alpha=\left\{(x,y,z,w)\in S^3\middle|xw-yz=\alpha\right\}
$$
を考える。任意の$\alpha\in\mathbb{R}^{\times}$について、$M_\alpha$は$S^3$の閉部分多様体であることを示せ。ただし空集合は多様体とみなす。
$C^\infty$級写像
$$
\begin{split}
f:S^3&\to\mathbb{R}\\
(x,y,z,w)&\mapsto xw-yz
\end{split}
$$
を考える。まず$f\left(\frac{1}{\sqrt{2}},0,0,\frac{1}{\sqrt{2}}\right)=\frac{1}{2}$かつ$f\left(\frac{1}{\sqrt{2}},0,0,-\frac{1}{\sqrt{2}}\right)=-\frac{1}{2}$であるから、中間値の定理より$f$は$[-\frac{1}{2},\frac{1}{2}]$の任意の値を取る。ここで$\alpha\in\left(0,\frac{1}{2}\right]$及び$f(p)=\alpha$なる$p=(s,t,u,r)\in S^3$を考える。ここで$S^3$を自然に$\mathbb{R}^4$の部分多様体と見做したとき、$p$に於ける$S$に直交する法線は$s\frac{\partial}{\partial x}+t\frac{\partial}{\partial y}+u\frac{\partial}{\partial z}+r\frac{\partial}{\partial w}$であるから、$T_p\mathbb{R}^4$の元のうち
$$
g:=t\frac{\partial}{\partial x}-s\frac{\partial}{\partial y}
$$
は$T_pS^3$の元を定めている。ここで$f$は$S^3$の近傍に$xw-yz$の型で拡張できるから
$$
(df)_pg=t(\frac{\partial f}{\partial x})_p-s(\frac{\partial f}{\partial y})_p=tr-su=\alpha\neq0
$$
であるから、正則値定理より任意の$\alpha\in(0,\frac{1}{2}]$に対して$M_\alpha=f^{-1}(\alpha)$は$S$の閉部分多様体を定めている。また$\alpha\in (\frac{1}{2},\infty)$に対して$xw-yz=\alpha$が成り立っているとすると、
$$
(x-w)^2+(y+z)^2=1-2\alpha<0
$$
であるから$f^{-1}(\alpha)=\emptyset$であり、特に閉部分多様体である。以上から任意の$\alpha\in(0,\infty)$について$M_\alpha$は$S^3$の閉部分多様体である。また微分同相
$$
\begin{split}
S^3&\to S^3\\
(x,y,z,w)&\mapsto(x,-y,z,-w)
\end{split}
$$
によって$M_\alpha$は$M_{-\alpha}$に移されるから、$\alpha\in(-\infty,0)$に対しても$M_{\alpha}$は閉部分多様体である。