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Spec A の構造層はA自身になるか?

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教授になりたい昆布さんの動画
【スキーム論入門 第4講】構造層の基本性質!!
を見て,ギャップを見つけたので解決してみました.この記事が後の人の役に立つことを願っています.

$A$を可換環とする.このとき素イデアル全体の構造層$\mathcal{O}_{\mathrm{Spec}A}(\mathrm{Spec}A)$$A$と同型になる.

ここで$\mathrm{Spec}A$の開集合$U$に対する構造層は以下のような定義をしているとします.

$\mathcal{O}(U)$ = $ \left\{s : \mathfrak{p} \mapsto \coprod_{\mathfrak{p} \in U} A_{\mathfrak{p}} \right\}$
ただし以下の条件を満たすもの.
$s(\mathfrak{p}) \in A_{\mathfrak{p}}$であり,任意の$\mathfrak{p}$に対して$\mathfrak{p} \in D(f)$$a/f^n \in A_{f}$であって,任意の$D(f)$の元$\mathfrak{q}$に対して$s(\mathfrak{q}) = a/f^n$となる$f$が存在する.

証明:(単射性 略)
(全射性)
$\mathrm{Spec}A$の擬コンパクト性から,有限個の$f_1,\ldots,f_r$$D(f_i)$$\mathrm{Spec}A$を被覆するように取ることができる.

このとき構造層の元は写像$s$であって
$i$に対して$a_i \in A$が存在して,$\mathfrak{q} \in D(f_i)$なる任意の素イデアルに対して
$s(\mathfrak{q})= a_i/f_i^n \in A_{\mathfrak{q}}$となるものと言い換えることができる.

さて$D(f_i f_j)$に属する任意の素イデアル$\mathfrak{q} \in D(f_i f_j)$に対して
$a_i/f_i^n = a_j/f_j^n \in A_{\mathfrak{q}}$が成り立つ.$\mathfrak{q}$が任意だったのでこれは
$a_i/f_i^n = a_j/f_j^n \in A_{f_i f_j}$
が成り立つことを意味する.(教授になりたい昆布さんの以前の動画で証明済み.)

ここから$A$において$(f_if_j)^m(a_if_j^n - a_j f_i^n) = 0$が言えるわけですが,
ここでギャップがあることに気付いてしまいました.$D(f_if_j)$が空集合でなければこの議論は回るのですが,$D(f_if_j)$が空集合のときこの議論はそもそもできないことになります.

例えば$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$においては,二つの素イデアル$2 \mathbb{Z}/6\mathbb{Z} \in D(3)$$3 \mathbb{Z}/6\mathbb{Z}\in D(2)$があります.$D(2)$$D(3)$は素イデアル全体を被覆しますが,共通部分がありません.

私は$D(f_i f_j)$が空集合でも$(f_if_j)^m(a_if_j^n - a_j f_i^n) = 0$となる自然数$m$が存在することを示して,このギャップを解決しようと思います.

$D(f_i f_j)$が空集合ということは$A$の元$f_if_j$がすべての素イデアルに含まれていることを意味します.これは有名な可換環論の定理を使うと,$f_i f_j$が冪零元根基に含まれていることを意味します.よってある自然数$m$が存在して$(f_if_j)^m = 0$とできます.これで任意の$i,j$の組に対して$(f_if_j)^m (a_if_j^n - a_j f_i^n) = 0$であることが示せました.

あとは教授になりたい昆布さんと同様の方法で示せます.
正の整数$N$を十分大きく取ると,
$a_i'f_j^N - a_j' f_i^N = 0$かつ
$a_i/f_i^n = a_i'/f_i^N$
とできる.

$D(f_1),\ldots , D(f_r)$$\mathrm{Spec}A$を被覆することから
$D(f_1^{N}),\ldots,D({f_r^N})$$\mathrm{Spec}A$を被覆します.
従って$b_i \in A$が存在して
$\sum_{i=1}^r b_i f_i^{N} = 1$
とできます.

ここで$g = \sum_{j = 1}^r b_j a_j'$と置けば
$f_i^N g = \sum_{j = 1}^r b_j f_i^N a_j' = \sum_{j = 1}^r b_j f_j^N a_i' = a_i'$
となり
それぞれの開近傍の$s$の行先は$A$の元一つで表せることが分かった.(証明終わり)

考えている対象が空集合になるのは恐ろしいですね.

投稿日:1019
更新日:1019
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