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ここでは東大数理の修士課程の院試の2025B03の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
2025B03
$A$を可換環とする。以下の問いに答えなさい
(1) 有限生成$A$加群$M$が$M\otimes_AM=0$を満たすとき、$M=0$であることを示しなさい。
(2) $A$はネーターであるとする。以下の条件(a)(b)は同値であることを示しなさい。
(a) $M\otimes_AM=0$を満たす$A$加群$M$は$M=0$のみである。
(b) $A$はアルティン環である。
- $M=0$を示すには、$A$の任意の極大イデアルに於ける局所化が$0$であることを示せば良い(アティマクProposition 3.8.)から$A$は局所環として良い。$m$を局所環$A$の極大イデアルとする。このとき
$$
M/mM\otimes_{A/m}M/mM=0
$$
であることから$M/mM=0$が従う。このことと$M$の有限生成性、そして中山の補題から$M=0$が従う。 - (a)を仮定する。ここで${p}$を$A$の素イデアル、$R=A/p$を剰余環、$k$を$R$の商体とする。このとき$A$加群$k/R$は$k/R\otimes_Ak/R=0$であるから、(a)より$k/R=0$が従う。よって$p$は極大イデアルである。よって$A$は$0$次元ネーター環であるから、(b)が従う。
次に(b)を仮定する。まずアルティン環はアルティン局所環の有限直積で表せること、有限直積環上の加群は各直積成分上の加群の積で表されることを考慮すると、$A$はアルティン局所環であるとしてよい。アルティン局所環$A$の極大イデアルを$m$とおき、$m^n=0$なる自然数$n$を取る。ここで$A$加群$M$が$M\otimes_{A}M=0$を満たしているとする。このとき$A/mM\otimes_{A/m}M/mM=0$であるから、これによって$M/mM=0$が従う。ここで
$$
M=mM=m^2M=\cdots=m^nM=0
$$
であることから(a)が示せた。