ここでは東大数理の修士課程の院試の2024B02の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
2024B02
剰余環
を考え、で代表されるの元をとおく。のイデアルをとり、集合
を定める。
- が整域であることを示しなさい。またをの商体としたとき、その部分集合
はの体でない部分環であることを示しなさい。 - 代数の同型
を示しなさい。但し左辺はの加群としての自己準同型全体の為す集合を表し、関数の合成を積とすることで代数の構造を定めている。 - -代数の同型
が存在するようなのイデアルの生成系を一つ挙げなさい。
- まず前半については
は既約多項式である
から、は整域であることがわかる。以下後半を示していくの元(但しは二変数多項式、は一変数多項式、は次以下の一変数多項式である)がを満たすとき、であるからである必要がある。ここでであったとすると、になるが、が次以下の多項式であることからが従う。以上から
であることがわかる。よって集合として
であり、であることを考慮するとを含んでいて和と積で閉じていることがわかる。またはを含む一方を含んでいないから体ではない。以上からはの体でない部分環である。以上で後半が示せた。 - まずで定義される写像ををに、をに送る写像とする。ここでが整域であることと、であること、そしてであるからwell-definedな写像
が定まる。定義よりこれは-代数の準同型になっているから、あとは全単射性を示せば良い。まずが与えられたとする。このときであるから、である。以上からが従う。このときであるから、はの元を用いてと表せることがわかった。よっての全射性が示せた。次にであったとする。このときであるからの単射性がわかった。以上からは代数の同型であることがわかったから、が所望の同型である。 - いま
と定める。ここではで生成される代数であるから、は代数の全射準同型である。この核をとする。まずである。ここでが体でない整域であることとのクルル次元がであることからであることが従う。以上からが所望の生成系である。