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東大数理院試過去問解答例(2024B02)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2024B02の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2024B02

剰余環
$$ R:=\mathbb{C}[X,Y]/(X^2-Y^5) $$
を考え、$X,Y$で代表される$R$の元を$x,y$とおく。$R$のイデアル$\mathfrak{m}=(x,y)$をとり、集合
$$ (x\mathfrak{m},\mathfrak{m}):=\{r\in R|r\mathfrak{m}\subseteq x\mathfrak{m}\} $$
を定める。

  1. $R$が整域であることを示しなさい。また$K$$R$の商体としたとき、その部分集合
    $$ \frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m}):=\left\{\frac{r}{x}\in K\middle|r\in(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})\right\} $$
    $K$の体でない部分環であることを示しなさい。
  2. $R$代数の同型
    $$ \mathrm{Hom}_R(\mathfrak{m},\mathfrak{m})\simeq \frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m}) $$
    を示しなさい。但し左辺は$\mathfrak{m}$$R$加群としての自己準同型全体の為す集合を表し、関数の合成を積とすることで$R$代数の構造を定めている。
  3. $\mathbb{C}$-代数の同型
    $$ \mathbb{C}[S,T]/I\simeq \mathrm{Hom}_R(\mathfrak{m},\mathfrak{m}) $$
    が存在するような$\mathbb{C}[S,T]$のイデアル$I$の生成系を一つ挙げなさい。
  1. まず前半については $X^2-Y^5$は既約多項式である から、$R$は整域であることがわかる。以下後半を示していく$\mathbb{C}[x,y]$の元$r=xf+y^4g(y)+h(y)$(但し$f$は二変数多項式、$g$は一変数多項式、$h$$3$次以下の一変数多項式である)が$r\mathfrak{m}\subseteq x\mathfrak{m}$を満たすとき、$xf+y^4g\in (x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$であるから$h(y)\in (x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$である必要がある。ここで$yh(y)\in(x^2,xy)$であったとすると、$Yh(Y)\in(X^2,XY,X^2-Y^5)=(X^2,XY,Y^5)$になるが、$h$$3$次以下の多項式であることから$h=0$が従う。以上から
    $$ (x\mathfrak{m},\mathfrak{m})=\langle x,y^4\rangle_R $$
    であることがわかる。よって集合として
    $$ \frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})=\left\{r+\frac{y^4}{x}s\middle|r,s\in R\right\} $$
    であり、$x^2=y^5$であることを考慮すると$1,0$を含んでいて和と積で閉じていることがわかる。また$\frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$$x$を含む一方$\frac{1}{x}$を含んでいないから体ではない。以上から$\frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$$K$の体でない部分環である。以上で後半が示せた。
  2. まず$\frac{r}{x}\in \frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$で定義される写像$f_{\frac{r}{x}}$$x$$r$に、$y$$\frac{yr}{x}$に送る写像とする。ここで$R$が整域であることと、$yr\in x\mathfrak{m}$であること、そして$f_{\frac{r}{x}}(x^2-y^5)=xr^2-y^4\frac{ry}{x}=0$であるからwell-definedな写像
    $$ \begin{split} F:\frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})&\to \mathrm{Hom}_{R}(\mathfrak{m},\mathfrak{m})\\ \frac{r}{x}&\mapsto f_{\frac{r}{x}} \end{split} $$
    が定まる。定義よりこれは$R$-代数の準同型になっているから、あとは全単射性を示せば良い。まず$f\in \mathrm{Hom}_{R}(\mathfrak{m},\mathfrak{m})$が与えられたとする。このとき$f(x)\mathfrak{m}=f(x\mathfrak{m})=xf(\mathfrak{m})\subseteq x\mathfrak{m}$であるから、$f(x)\in (x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$である。以上から$\frac{f(x)}{x}\in\frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$が従う。このとき$f_{\frac{f(x)}{x}}(y)=\frac{f(x)y}{x}=f(y)$であるから、$f$$\frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$の元$\frac{f(x)}{x}$を用いて$f=f_{\frac{f(x)}{x}}$と表せることがわかった。よって$F$の全射性が示せた。次に$f_{\frac{r}{x}}=0$であったとする。このとき$r=0$であるから$F$の単射性がわかった。以上から$F$$R$代数の同型であることがわかったから、$F^{-1}$が所望の同型である。
  3. いま
    $$ \begin{split} G:\mathbb{C}[S,T]&\to \frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})\\ S&\mapsto x\\ T&\mapsto \frac{y^4}{x} \end{split} $$
    と定める。ここで$\frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$$x,\frac{y^4}{x}$で生成される$\mathbb{C}$代数であるから、$G$$\mathbb{C}$代数の全射準同型である。この核を$I$とする。まず$T^5-S^3\in I$である。ここで$\frac{1}{x}(x\mathfrak{m},\mathfrak{m})$が体でない整域であることと$\mathbb{C}[S,T]$のクルル次元が$2$であることから$I=(T^5-S^3)$であることが従う。以上から$\color{red}T^5-S^3$が所望の生成系である。
投稿日:22日前
更新日:22日前

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佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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