融合積は具体的に計算するのが難しいが、融合積が自明になってしまうことが簡単に示せる例がある。そのような例が参考文献の演習問題に挙げられていたので、記事にした。
$A,G_1,G_2$を群とし、$f_1:A\to G_1$,$f_2:A\to G_2$を準同型とする。
ここで、
とする。
このとき、$f_i$は$A/A^{\infty}$から$G_i/G_i^{\infty}$への単射準同型$\hat{f}_i$を誘導する。
さらに、$\tilde{G}=G_1/G_1^{\infty}*_{A/A_{\infty}} G_2/G_2^{\infty}$は$G=G_1*_{A}G_2$と同型である。
命題1の状況で、ある群$H$と準同型$h_i:G_i\to H$が存在して、$h_1\circ f_1=h_2\circ f_2$が成り立つとする。
このとき、$h_1(G_1^{\infty})=h_2(G_2^{\infty})=e$である。
\begin{equation}
\xymatrix{
&G_1\ar[rd]^{h_1}&\\
A\ar[ru]^{f_1}\ar[rd]_{f_2}& &H\\
& G_2\ar[ru]_{h_2} &
}
\end{equation}
$n=1$のとき、$h_1(G_1^1)=h_1(f_1(A^1))=h_1(e)=e=h_2(e)=h_2(f_2(A^1))=h_2(G_2^1)$である。
$h_1(G_1^n)=h_2(G_2^n)=e$であると仮定する。このとき、任意の$a^{n+1}\in A^{n+1}$は$a^{n+1}_{1,1},a^{n+1}_{1,2},\dots,a^{n+1}_{1,k}\in f^{-1}_1(G_1^n)$と$a^{n+1}_{2,1},a^{n+1}_{2,2},\dots,a^{n+1}_{2,k}\in f^{-1}_2(G_2^n)$を用いて、$a^{n+1}=a^{n+1}_{1,1}a^{n+1}_{2,1}\cdots a^{n+1}_{1,k}a^{n+1}_{2,k}$と表せる($a^{n+1}_{i,j}$は適宜$e$として取る)。
このとき、
\begin{align*}
h_1(f_1(a^{n+1}))&=h_1(f_1(a^{n+1}_{1,1}a^{n+1}_{2,1}\cdots a^{n+1}_{1,k}a^{n+1}_{2,k}))\\
&=h_1(f_1(a^{n+1}_{1,1}))h_1(f_1(a^{n+1}_{2,1}))\cdots h_1(f_1(a^{n+1}_{1,k}))h_2(f_2(a^{n+2}_{2,1}))\\
&=h_1(f_1(a^{n+1}_{1,1}))h_2(f_2(a^{n+2}_{2,1}))\cdots h_1(f_1(a^{n+1}_{1,k}))h_2(f_2(a^{n+2}_{2,k}))\ (\because 図式の可換性)\\
&=e
\end{align*}
となる。
よって、全ての$g^{n+1}_1\in f_1(A^{n+1})$について$h_1(g^{n+1}_1)=e$で、$f_1(A^{n+1})\subset \ker h_1$であり、$G_1^{n+1}$は$f_1(A^{n+1})$を含む最小の正規部分群であることから、$G_1^{n+1}\subset \ker h_1$、つまり$h_1(G_1^{n+1})=e$である。同様に、$h_2(G_2^{n+1})=e$である。
正規部分群の逆像は正規部分群であり、正規部分群の自由積は正規部分群であることから、$A^n$は$A$の正規部分群である。よって、$A/A^{\infty}$を定義できる。
ここで、$f_i^{-1}(G_i^{\infty})=A^{\infty}$なので、$f_i$は$A/A^{\infty}$から$G_i/G_i^{\infty}$への単射準同型$\hat{f}_i$を誘導する。
ここで、融合積$\tilde{G}=G_1/G_1^{\infty}*_{A/A_{\infty}} G_2/G_2^{\infty}$に伴う準同型$g_i:G_i/G_i^{\infty}\to \tilde{G}$を考える。
このとき、$a\in A$に対して
\begin{equation}
g_1(\pi_1(f_1(a)))=g_1(f_1(a)+G_1^{\infty})=g_1(\hat{f}_1(a+A^{\infty}))=g_2(\hat{f}_2(a+A^{\infty}))=g_2(f_2(a)+G_2^{\infty})=g_2(\pi_2(f_2(a)))
\end{equation}
である。3番目の等号は融合積の定義より従う。よって、以下の可換図式が成立する。
\begin{equation}
\xymatrix{
&G_1\ar[r]^-{\pi_1}&G_1/G_1^{\infty}\ar[rd]^{g_1}&\\
A\ar[ru]^{f_1}\ar[rd]_{f_2}&&&\tilde{G}\\
&G_2\ar[r]^-{\pi_2}&G_2/G_2^{\infty}\ar[ru]_{g_2} &
}
\end{equation}
$\tilde{G}\cong G$を示すには、以下の可換図式\eqref{xy1}が成立することを示せば良い。
\begin{equation}
\xymatrix@C=5em{
&G_1\ar[rd]_{g_1\circ\pi_1}\ar[rrd]^{h_1}&&\\
A\ar[ru]^{f_1}\ar[rd]_{f_2}&&\tilde{G}\ar@{.>}[r]^{\exists! h}&H\\
&G_2\ar[ru]^{g_2\circ\pi_2}\ar[rru]_{h_2}&&
}
\tag{1}
\label{xy1}
\end{equation}
ここで、補題より$G_i^{\infty}\subset \ker h_i$なので、$h_i$は$G_i/G_i^{\infty}$から$H$への準同型$\hat{h}_i$を誘導する。ここで、
\begin{equation}\hat{h}_1\circ\hat{f}_1(a+A^{\infty})=\hat{h}_1(f_1(a)+G_1^{\infty})=h_1(f_1(a))=h_2(f_2(a))=\hat{h}_2(f_2(a)+G_2^{\infty})=\hat{h}_2\circ\hat{f}_2(a+A^{\infty})\end{equation}
より、$\hat{h}_1\circ\hat{f}_1=\hat{h}_2\circ\hat{f}_2$なので、$\tilde{G}$に融合積の普遍性を適用して、以下の可換図式\eqref{xy2}が成立する($h$を一意に取れる)。
\begin{equation}
\xymatrix@C=5em{
&G_1/G_1^{\infty}\ar[rd]_{g_1}\ar[rrd]^{\hat{h}_1}&&\\
A/A^{\infty}\ar[ru]^{\hat{f}_1}\ar[rd]_{f_2}&&\tilde{G}\ar@{.>}[r]^{\exists! h}&H\\
&G_2/G_2^{\infty}\ar[ru]^{g_2}\ar[rru]_{\hat{h}_2}&&
}
\tag{2}
\label{xy2}
\end{equation}
するとこの$h$は可換図式\eqref{xy1}も可換にする。あとは図式\eqref{xy1}の$h$の一意性を示せば良い。
$g_1\circ\pi_1$と$g_2\circ\pi_2$の像は$\tilde{G}$を生成し、$h$は一意である。
よって、$\tilde{G}\cong G_1*_{A}G_2=G$である。
$A=\mathbb{Z},G_1=\mathrm{PSL}(2,\mathbb{Q}),G_2=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$とし、$f_1:A\to G_1$を単射準同型、$f_2:A\to G_2$を全射準同型とする。
このとき、$G_1*_A G_2$は自明である。
$A^2\supset f_2^{-1}(f_1(A^1))=2\mathbb{Z}$であり、$G^2_2\supset f_2(A^2)\supsetneq \{e\}$となるが、$\mathrm{PSL}(2,\mathbb{Q})$は単純群であることから、$G_2^2=G_2$となる。よって、$A_3=A$であり、$A^{\infty}=A,G_1^{\infty}=G_1,G_2^{\infty}=G_2$となり、命題 1より、$G_1*_A G_2\cong \tilde{G}=G_1/G_1^{\infty}*_{A/A_{\infty}} G_2/G_2^{\infty}=\{e\}$である。
上の例において$f_2$は全射準同型ということから一つの写像に定まるが、$f_1$は定まらない。しかし、どのような単射準同型をとっても融合積は自明になる。
たとえば、$n\mapsto \begin{pmatrix}
1 & n\\
0 & 1
\end{pmatrix}$などがある。$\mathrm{PSL}(2,\mathbb{Q})$が単純群であることは後日別途記事にしようと思っている。