この記事は、
Mathlog Advent Calendar 2023(高校数学部門)
の12月10日の記事となっています。ぜひ、他の方の記事もご覧ください。
さて、今回は、円に外接する四角形に関する定理を紹介・証明したいと思います。ちなみに、証明も含めて高度な知識は使わないため、幾何が苦手な方もご安心ください。
まず、今回の主定理は以下となります。
$O$を中心とする円に外接する四角形$ABCD$について、図のように接点を$P,Q,R,S$とする。
このとき、次が成り立つ。
$AP \cdot PB + BQ \cdot QC + CR \cdot RD + DS \cdot SA = \dfrac{(OA \cdot OB + OC \cdot OD)(OB \cdot OC + OA \cdot OD)}{OA \cdot OC + OB \cdot OD} $
そして、今回この定理1を証明するために、以下の二つの定理を証明します。
$(OA \cdot OC + OB \cdot OD)^{2} = AB \cdot BC \cdot CD \cdot DA$
$AP \cdot PB + BQ \cdot QC + CR \cdot RD + DS \cdot SA = \dfrac{(OA \cdot OB + OC \cdot OD)^2}{BC \cdot DA} = \dfrac{(OB \cdot OC + OA \cdot OD)^2}{AB \cdot CD} $
定理2は、
こちらのWikipedia
を見て知りました。非常にきれいな式ですね。
定理3は、以前私が
こちらのツイート
で紹介したもので、私が自力で見つけた式になります。このときは、証明を書きませんでした(書くのが面倒だったので放置していました)。
定理2と定理3から定理1が出てくることは、簡単にわかると思います。もともとは、定理3を主定理として記事を書く予定でしたが、Wikipediaで定理2を知り、定理1へと進化しました。
では、定理2と定理3を証明していきます。実は、どちらも同じような手法で示すことができます。どちらも私自身による証明なので、参考文献はありません。
$ \triangle OAB$ と$ \triangle OCD$ に注目します。$ \angle AOB + \angle COD = \angle AOD + \angle BOC$ より、$ \angle AOB + \angle COD = 180 \degree $ が成り立つので、以下のように二つの三角形を合体させることができます。線分$OA$と線分$OD$を同じ長さにして、重ね合わせるイメージです。
$ \triangle OAB$を$OD$倍したものと、$\triangle OCD$を$OA$倍したものをくっつけて、$\triangle XB' C'$ を作りました。いま、$\angle XB'C'= \angle ABO= \angle OBC$ で、$ \angle XC'B'= \angle DCO = \angle OCB$ ですので、$ \triangle XB'C'$と$ \triangle OBC$は相似です。したがって、以下が成り立ちます。
$ \quad \dfrac{OA \cdot OC + OB \cdot OD}{BC} = \dfrac{AB \cdot OD}{OB} \qquad \cdots (1) $
今度は、$ \triangle OAB$を$OC$倍したものと、$ \triangle OCD$を$OB$倍したものをくっつけることで、以下のような三角形ができます。線分$OB$と線分$OC$を同じ長さにして、重ね合わせるイメージです。
このとき、$ \triangle YA'D'$は$ \triangle OAD$と相似ですので、以下が成り立ちます。
$\quad \dfrac{OA \cdot OC + OB \cdot OD}{AD} = \dfrac{CD \cdot OB}{OD} \qquad \cdots (2)$
$(1)$と$(2)$の辺々を掛け合わせることで、目標の式が得られます。
$\quad (OA \cdot OC+OB \cdot OD)^2 = AB \cdot BC \cdot CD \cdot DA$
(証明終)
まず、$OQ=OS$なので、下図のように、$ \triangle OAS$と$ \triangle OCQ,$ $ \triangle ODS$と$ \triangle OBQ$をそれぞれくっつけて、三角形を作ることができます。
$ \triangle O'A'C'$と$ \triangle O''B'D'$という二つの三角形ができました。次に、$ \angle A'O'C' + \angle B'O''D'= \angle BOC + \angle AOD=180 \degree $ なので、以下のように、$ \triangle O'A'C'$と$ \triangle O''B'D'$を合体させることができます。
$ \triangle O'A'C'$を$OD$倍したものと$ \triangle O''B'D'$を$OA$倍したものをくっつけて、$ \triangle ZB''C''$を作りました。このとき、$ \triangle ZB''C''$は$ \triangle OBC$と相似なので、以下が成り立ちます。
$ \quad \dfrac{OA \cdot (BQ+DS)}{OB} = \dfrac{OA \cdot OB+OC \cdot OD}{BC} \qquad \cdots (3)$
また、$ \triangle O'A'C'$を$OB$倍したものと$ \triangle O''B'D$を$OC$倍したものをくっつけて、以下のように$ \triangle WA''D''$を作ることができます。
このとき、$ \triangle WA''D''$は$ \triangle OAD$と相似なので、以下が成り立ちます。
$\quad \dfrac{OB \cdot (AS+CQ)}{OA} = \dfrac{OA \cdot OB+OC \cdot OD}{AD} \qquad \cdots (4)$
$(3)$と$(4)$の辺々を掛け合わせることで、以下を得ます。
$\quad (AS+CQ)(BQ+DS)= \dfrac{(OA \cdot OB + OC \cdot OD)^2}{AD \cdot BC}$
ここで、
$(AS+CQ)(BQ+DS)=AS \cdot BQ + BQ \cdot CQ+CQ \cdot DS+ DS \cdot AS$
$=AP \cdot PB+BQ \cdot QC +CR \cdot RD+ DS \cdot SA$
なので、目標の式
$AP \cdot PB + BQ \cdot QC + CR \cdot RD + DS \cdot SA = \dfrac{(OA \cdot OB + OC \cdot OD)^2}{BC \cdot DA}$
を得ます。もう一つの式
$AP \cdot PB + BQ \cdot QC + CR \cdot RD + DS \cdot SA = \dfrac{(OB \cdot OC + OA \cdot OD)^2}{AB \cdot CD} $
も同様に示すことができます。どのような意味で「同様」なのかは、演習問題とします(笑)。考えてみてください。
(証明終)
ほぼ明らかだとは思いますが、一応、定理1の導出も書いておきます。まず、定理3の二つの式
$AP \cdot PB + BQ \cdot QC + CR \cdot RD + DS \cdot SA = \dfrac{(OA \cdot OB + OC \cdot OD)^2}{BC \cdot DA}$
$AP \cdot PB + BQ \cdot QC + CR \cdot RD + DS \cdot SA = \dfrac{(OB \cdot OC + OA \cdot OD)^2}{AB \cdot CD} $
の辺々を掛け合わせることで、以下を得ます。
$(AP \cdot PB + BQ \cdot QC + CR \cdot RD + DS \cdot SA)^2 = \dfrac{(OA \cdot OB + OC \cdot OD)^2(OB \cdot OC + OA \cdot OD)^2}{AB \cdot BC \cdot CD \cdot DA}$
定理2の式を代入します。
$(AP \cdot PB + BQ \cdot QC + CR \cdot RD + DS \cdot SA )^2= \dfrac{(OA \cdot OB + OC \cdot OD)^2(OB \cdot OC + OA \cdot OD)^2}{(OA \cdot OC + OB \cdot OD)^2} $
従って、定理1の式が得られます。
$AP \cdot PB + BQ \cdot QC + CR \cdot RD + DS \cdot SA = \dfrac{(OA \cdot OB + OC \cdot OD)(OB \cdot OC + OA \cdot OD)}{OA \cdot OC + OB \cdot OD} $
(証明終)
円に内接する四角形は、さまざまな場面でよく出会いますが、円に外接する四角形は高校数学であまり登場せず、知られている性質も多くないと思います。そこで、余談として、円に外接する四角形に関して私が好きな問題(定理)を二つ紹介します。
四角形$ABCD$が、点$O$を中心とする円に外接しており、$OA=5,$$OB=6,$$OC=7,$$OD=8$が成立している。線分$AC$の中点を$M,$線分$BD$の中点を$N$とするとき、$OM:ON$を求めよ。
(
https://www.imojp.org/archive/challenge/old/jmo21yq.html
より引用)
こんな感じです(実際の問題に図は描かれていません)
円$X$は四角形$PQRS$に内接している。また、四角形$PQRS$の辺を延長した直線のうち$3$本と接するような円$A,B,C,D$を下図のようにとる。円$A,B,C,X$の半径はそれぞれ$2,1,4,3$である。このとき、円$D$の半径を求めよ。
(
https://www.imojp.org/archive/challenge/old/jjmo10yq.html
より引用)
問題通りの図を描いてみると、実際の問題に描かれている図と全然違いますね
まず、問題設定がシンプルでありながら、考えてみるとなかなか難しいのがいいですね。そして、最終的に、どちらの問題も結果がきれいになるのが面白いです。ちなみに、 Wikipedia は、この二つの構図も網羅しています(すごい)。このWikipediaには他にもいろいろ書いてあり、内容が豊富なので、興味がある方は見てみてください。日本語版がないのが残念ですが…。
今回は、円に外接する四角形に関する定理とその証明を述べました。
前回
も初等幾何の定理を紹介・証明しましたが、計算が主になっていたと思います。今回は、図形を切り貼りして相似な三角形を作るという、パズル的な証明を紹介しました。このような証明は、まさに「初等幾何」という感じがして好きです。
ところで、$AP \cdot PB+BQ \cdot QC +CR \cdot RD+ DS \cdot SA=(AS+CQ)(BQ+DS)$なので、最初から$ (AS+CQ)(BQ+DS)$と書いてもよかったのですが、サイクリックな式がきれいだと思い、展開した形で定理を書きました。個人的に、式の見た目はけっこう重要だと思っていて、式の美しさを眺めるのも数学の楽しみ方の一つかなと思っています。
私は文系学部の大学生ですので、普段数学の勉強をすることはありませんが、この記事を書いているうちに、やっぱり数学って面白いなと再認識しました。これからも何かネタがあれば記事を書いていきたいと思います。
お読みいただきありがとうございました!