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ここでは東大数理の修士課程の院試の2021B02の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
2021B02
- 任意の正整数$m$に対して、環準同型$\mathbb{C}\to \mathbb{R}[x]/(x^2+1)^m$が存在することを示せ。
- $\mathbb{R}$上単元生成される可換$\mathbb{R}$-代数$A$で、$\mathrm{Aut}_{\mathbb{R}\textsf{-}\mathrm{alg}}(A)$が有限集合になるようなものを同型を除いて全て挙げなさい。
- まず実係数多項式
$$
f(x):=\int_{0}^x(t^2+1)^{m-1}dt
$$
及び実数$a_i:=\frac{f(i)}{i}$を考える。ここで
$$
f(i)=i\int_0^1(1-t^2)^{m-1}dt
$$
であり、特に虚軸上の$0$でない値である。よって$a_i$は$0$でない実数であるから、実係数多項式
$$
F(x):=\frac{1}{a_i}f(x)
$$
を取れる。ここでまず$F(x)^2+1$は$x^2+1$を割り切り、また微分$\frac{d}{dx}(F(x)^2+1)$は$(x^2+1)^{m-1}$を割り切るから、$F(x)^2+1$は$(x^2+1)^m$を割り切る。よって写像
$$
\begin{split}
\mathbb{C}&\to \mathbb{R}[x]/(x^2+1)^m\\
i&\mapsto F(x)
\end{split}
$$
はwell-definedな$\mathbb{R}$-代数の準同型を定めている。 - まず(1)で求めた準同型は単射である。これによって$S=\mathbb{R}[x]/(x^2+1)^m$は単項生成$\mathbb{C}$-代数の構造をもつ。ここで$\mathbb{C}$代数の準同型
$$
\begin{split}
\mathbb{C}[T]/(T^m)&\to S\\
i&\mapsto F(x)\\
T&\mapsto 1+x^2
\end{split}
$$
がとれる。この核は$T^m$を含み$T^{m-1}$を含まないイデアルなので、$\dim_\mathbb{C}S=\frac{1}{2}\dim_{\mathbb{R}}S=m=\dim_\mathbb{C}\mathbb{C}[T]/(T^m)$であることを考慮すると、$\mathbb{C}$代数の同型
$$
\mathbb{C}[T]/(T^m)\simeq S
$$
が誘導されることがわかる。ここで任意の複素数$a\neq0$に対して$f(T)\mapsto f(aT)$は$\mathbb{C}[T]/(T^n)$の$\mathbb{C}$代数としての自己同型を定めているから、特に$S$は$\mathbb{R}$-代数としての自己同型を無数に持つ。
いま$A$を問題の条件を満たす可換$\mathbb{R}$-代数とする。このとき$A$は単項生成されるから$\mathbb{R}[X]$のあるイデアル$I=(f)$による剰余でかける。ここで$f$が$0$であるか重根を持つ場合、前半の議論から$A$は自己同型を無数に持つ。一方$f\neq0$が重根を持たない場合、ある$r$及び$s$について環同型
$$
A\simeq\mathbb{C}^r\times\mathbb{R}^s
$$
がとれる。
以下この$\mathbb{R}$-代数の同型$f$は有限個しかないことを示していく。$\mathbb{R}^s\times\mathbb{C}^r$の標準的な基底を$e_1,\cdots,e_{s},e_{s+1},ie_{s+1},\cdots,e_{s+r},ie_{s+r}$とおき、$s_j=f(e_j)$及び$t_j=f(ie_j)$とおく。このとき$f$は環準同型であることから
$$
s_j^2=f(e_j)^2=f(e_j^2)=f(e_j)=s_j
$$
$$
t_j^2=f(ie_j)^2=-f(e_j^2)=-f(e_j)=-s_j
$$
であるから、$e_j,ie_j$の$f$による像は各成分が$0,1,\pm i$のいずれかであるものに限られる。よって所望の同型の個数は有限である。
以上から所望の$A$は${\color{red}\mathbb{C}^r\times\mathbb{R}^s}$の形のもので尽くされる。