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東大数理院試過去問解答例(2023B04)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2023B04の解答例を解説していきます(ただし解説の都合で問題を少し改変しています)。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

個人的な話になりますが私はこの手の問題が非常に苦手です。いつも冒頭で「間違ってるかもしれないから参考にするときは慎重にね」みたいなことを言っていますが、今回に関してはどこかで致命的なミスをしている可能性が特に高いので、参照される際はあまり内容を鵜呑みせずに「徹底的に粗を探してやるぜ、ぐへへ」くらいの心持ちで読んでいただけると幸いです。粗が見つかったときはコメントでご指摘くださいm(_ _)m

2023B04(改)

$p$を奇素数とする。群$G=\mathrm{GL}_3(\mathbb{F}_p)$の部分群$H$に関する条件

  • $H$は極大アーベル部分群(つまり$G$のアーベル部分群で$H$を真に含むようなものは存在しない)であり、巡回群である。

を考える。
(1) 条件を満たす$H$の生成元$h$の固有多項式は既約$3$次多項式であることを示せ。
(2) $3$次の既約多項式$f$をうまく選ぶことで、$f$を固有多項式にもつような行列を任意にとったとき、これによって生成された部分群は条件を満たすことを示せ。
(3) (2)で取った$f$について、任意の$H$$f$を固有多項式にもつような元で生成されることを示せ。
(4) 条件を満たす$H$の個数を求めよ。

  1. まず最小多項式が固有多項式に一致しない行列は中心を含まないから、$h$$\mathbb{F}_{p^3}$で対角化可能である。次にこの固有多項式が$\mathbb{F}_p$に根$a$を持つとする。このとき$h$
    $$ \begin{pmatrix} A&0\\ 0&a \end{pmatrix} $$
    の型で表されるが、これで生成される巡回群は$(1,1)$成分と$(2,2)$成分が等しい対角行列の為す群の任意の元と可換であるが、この群を真に含まないから矛盾。よって$h$の固有多項式は$\mathbb{F}_p$に根を持たない、つまり既約であることが従う。
  2. 乗法群$\mathbb{F}_{p^3}^\times$を生成するような$\alpha$及びそれを根に持つ最小多項式$f$をとり、$f$を固有多項式にもつ行列$A\in G$をとる。$A$で生成される巡回群を$H'$とおく。これは位数$p^3-1$の巡回群である。いま行列$B$$A$と可換であるとする。このとき$B$$\mathbb{F}_{p^3}$-係数で対角化可能であり、この対角化は
    $$ B=a_0+a_1A+a_2A^2 $$
    の型($a_i\in\mathbb{F}_{p^3}$)の対角化で表されている。ここで$B$$G$の元であったから、$a_i\in\mathbb{F}_p$である。いま$1,A,A^2$の線型結合で表される$G$の元の集合$S$を余域にもつ写像
    $$ \begin{split} H'&\to S\\ A^i&\mapsto A^i \end{split} $$
    を考えたとき、これは単射であるが$B$$S$の濃度は等しいからこれによってこの写像は全単射であること、特に$B\in H'$がわかる。以上から$H$は条件を満たす部分群である。
  3. まず上で構成した$H'$を一つ固定する。$\mathbb{F}_p$-係数$3$次既約多項式の個数は
    $$ \frac{(p-1)p(p+1)}{3} $$
    である。ここで$H$の元のうち$\mathbb{F}_p^\times$以外の元は既約多項式を固有多項式に持ち、同じ固有多項式を持つような元は高々$3$つであるから、鳩の巣原理により任意の既約多項式は$H'$のある元の固有多項式として実現される。
    いま条件を満たす部分群$H< G$をとり、その生成元を$h$とし、その固有多項式が$A^i$と同じであったとする。ここで$A^i=PhP^{-1}$なる行列$P$を取ったとき、単射群準同型
    $$ \begin{split} H&\to H'\\ h^j&\mapsto Ph^jP^{-1} \end{split} $$
    を考えることができる。更に条件によってこの群準同型は全射である。よって$H$$P^{-1}AP$によって生成されるから(2)が示せた。
  4. まず(2)で取った$f$をここでも固定する。ここで固有多項式$f$を持つような$G$の元の集合$T$及び条件を満たす部分群の集合$X$をとると、(2)から写像
    $$ \begin{split} T&\to X\\ g&\mapsto \langle g\rangle \end{split} $$
    をwell-definedに定めることができ、(2)からこの写像は全射である。
    次に$T$に含まれる行列の個数は
    $$ \frac{(p^3-1)(p^3-p)(p^3-p^2)}{(p^3-1)}=p^3(p+1)(p-1)^2 $$
    であり、(3)に於ける議論から$X$の任意の元の逆像の濃度は$3$であるから、条件を満たす部分群の個数は$$ \frac{p^3(p+1)(p-1)^2}{3} $$であることがわかる。

$p=2$の場合が除外されているのは、$p=2$のときは(1)が成り立たない為です。実際$p=2$のとき、対角行列は自明なものしかなく議論が回りません。具体例を挙げると例えば
$$ \begin{pmatrix} 0&0&1\\ 1&0&0\\ 0&1&0 \end{pmatrix} $$
によって生成される群や
$$ \begin{pmatrix} 1&1&0\\ 0&1&1\\ 0&0&1 \end{pmatrix} $$
によって生成される群などが生成元の固有多項式が既約でないのに条件を満たしてしまっていて、これらを数え上げるのは非常に大変です($p=2$のとき条件を満たす部分群は$58$個あります(c.f. https://people.maths.bris.ac.uk/~matyd/GroupNames/163/GL(3,2).html ))。一方で(2)(3)(4)の議論は$p=2$でも問題なく回るので、条件を元々のものに加えて「生成元の固有多項式が既約」を足したものに代えると、(4)の答えに$p=2$を代入したもの(つまり$8$)が答えになります(上記のURLから確認できます)。おそらく作問者が(1)を設けたのは(誘導の意味も多少はあるかもしれないですがそれよりは)$p=2$のときは議論が回らないことを強調したかったのではないでしょうか?

いつも問題を改変する場合、

  • 基本的すぎて解説するところがない
  • 問題としての意図がわからない
  • 解説が面倒

などの理由で問題を削ることがほとんどですが、今回に関しては誘導を増やしました(元々の設問は(1)と(4)だけでした)。

  • (1)から(4)までギャップが大きいように感じたこと
  • (2)及び(3)を入れた方が$H$がどのような姿をしているか見通しが良くなること

が主な理由です。

投稿日:20231015

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投稿者

佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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