最近は指数昇降という操作に関心があります。Nappleです。
その指数昇降を考えていて
「対数関数が0以下で定義されないのって不便だな〜」
と思ったので、今回の記事です。
一旦おさらいです。
色々定義があるらしいですが、一番始めに聞くのは以下ではないでしょうか。
1でない正の実数$a$および$x$に対して、
$$x = a^p$$
を満たす実数$p$がただ一つに定まり、
$$p = \log_a x$$
と表す時、$p$を$a$を底とする$x$の対数と呼ぶ。
特に底が$e$であるとき、$\ln x$と書き、自然対数と呼ぶ。
以下が成り立ちます。
$$\log_a(xy) = \log_a(x) + \log_a(y)$$
証明は右辺左辺それぞれ、定義に従って変形すればできると思います。
このように定義された対数は、$x>0$においてのみ定義され、加えて$\log_a(1)=0$となります。
これによって、$\log_a \log_a (x)$や$\log_a \log_a \log_a (x)$としていったときに、
それぞれの定義域は$x>1$, $x>a$と、どんどん正の方向にずれていってしまうのです。
$\log_a^n (x)$の定義域は$x > a\uparrow \uparrow (n-2)$
これでは扱いづらいのでどうにかしようというのがこの記事の本題ですね。
ここで、注目したいのは公式1の性質です。
対数の世界では積が和に、和が積になるわけですね。
では逆にこの性質をもとに対数を再定義してみればいいのではないでしょうか。
任意の$x$, $y$について、
$$L(xy) = L(x)+L(y)$$
を満たす関数$L$を仮対数関数と呼ぶ。
こうすれば、すべての$x$で和↔積の性質を持つ関数が作れたでしょうか。検証しましょう。
\begin{eqnarray} L(x) &=& L(1x) \\ &=& L(1) + L(x) \end{eqnarray}
あれ?
もし$L(1) \neq 0$なら、$L(x) \neq L(x)$になってしまいますから、$L(1) = 0$とするしかありませんね。
$L(1) = 0$
とりあえず先に進みましょう。
別に$L(0)$が定義できればもんだいないですからね。
\begin{eqnarray} L(0) &=& L(0x) \\ &=& L(0) + L(x) \end{eqnarray}
あれ??
どうやら$L(0)$は定義できないようです。
あ……
ということで、和↔積の性質のみから対数を再定義しても、$x=0$では定義できませんでした。
ちなみに、負の範囲ではどうかというと、
$ x \neq 0 \text{とする。} $
\begin{eqnarray}
L(x^2) &=& L((-x)\cdot (-x)) \\
&=& L(-x)+L(-x) \\
&=& 2L(-x) \\
L(-x) &=& \frac{1}{2} L(x^2)
\end{eqnarray}
という感じなので、$L(0)$が定義できないだけで、それ以外は大丈夫な感じがします。
同様にして、他の性質も導けます。
$x \neq 0$について、
\begin{equation}
L(x) = L(-x) = \frac{1}{n} L(x^n)
\end{equation}
$ x \neq 0 \text{とする。} $
\begin{eqnarray}
L(x^2) &=& L(x\cdot x) \\
&=& 2L(x) \\
L(x) &=& \frac{1}{2} L(x^2) = L(-x)
\end{eqnarray}
$ x \neq 0, n \in \mathbb{N} \text{とする。} $
\begin{eqnarray}
L(x^n) &=& L(x^{n-1}\cdot x) \\
&=& L(x^{n-1}) + L(x) \\
&=& \cdots = nL(x)
\end{eqnarray}
$$x, y \neq 0$$
\begin{equation}
L\left(\frac{x}{y}\right) = L(x) - L(y)
\end{equation}
$ x,y \neq 0 \text{とする。} $
\begin{eqnarray}
L(1) &=& L(x \cdot \frac{1}{x}) \\
0 &=& L(x) + L\left(\frac{1}{x}\right) \\
L\left(\frac{1}{x}\right) &=& -L(x)
\end{eqnarray}
ゆえに、
\begin{eqnarray} L\left(\frac{x}{y}\right) &=& L(x) + L\left(\frac{1}{y}\right) \\ &=& L(x) - L(y) \end{eqnarray}
$\ln$のテイラー展開って、よく$f(x)=\ln(1+x)$として表現されるじゃないですか。あれって$0$まわりのテイラー展開ができないから、ちょうど$f(0) = 0$になる$\ln(1+x)$を採用してると思うんですよ。テイラー展開もきれいな形になりますし。
じゃあ$\ln(1+x)$のほうが対数として適切というか、こっちをメインにしてしまっても良いんじゃないでしょうか。
$x \geq 0$について
$$L_\mathrm{pseudo}(x) := \ln(1 + x)$$
を擬対数関数$L_\mathrm{pseudo}(x)$と定義する。
この定義だと、$x\geq 0$のすべての範囲で定義されていて、
その上$L_\mathrm{pseudo}(x) \geq 0$なのがいいですね。素敵!
$L_\mathrm{pseudo}^n(x)$の定義域は$x \geq 0$
しかし、失われているものがあります。
\begin{eqnarray} L_\mathrm{pseudo}(x) + L_\mathrm{pseudo}(y) = L_\mathrm{pseudo}(xy+x+y) \\ \end{eqnarray}
\begin{eqnarray} L_\mathrm{pseudo}(x) + L_\mathrm{pseudo}(y) &=& \ln(1+x) + \ln(1+y) \\ &=& \ln((1+x)(1+y))\\ &=& \ln(xy+x+y+1) \\ &=& L_\mathrm{pseudo}(xy+x+y) \\ \end{eqnarray}
そう。余剰な項が出てきてしまうんです。
$$L_\mathrm{pseudo}(x) + L_\mathrm{pseudo}(y) = L_\mathrm{pseudo}(xy) $$
が真に成り立つのは$x,y=0$のときだけと、まあちょっと扱いづらい感じもしますね。
おまけ的に、当然といえば当然ですが、以下も成り立ちます。
$n \in \mathbb{N},$
\begin{eqnarray}
n L_\mathrm{pseudo}(x) = L_\mathrm{pseudo}((1+x)^n-1) \\
\end{eqnarray}
今回は2つのパターンで、対数関数を合成に耐えうる使いやすい関数にしようとしました。
結果的に完全無欠で強靭な関数は作れませんでしたが、$\ln(1+x)$は将来性がありそうでした。
今後またもう少し詳しく見ていきたいですね。
それではまた〜