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大学数学基礎解説
文献あり

単純ルートからルート系を構成する

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単純ルートからルート系を構成する方法の説明。物理っぽいいいかげんな書き方になっているかもしれませんがご容赦ください。

例外群G2の単純ルートからルート系を具体的に構成します。以下の3つの方法で構成します:

  1. 逐次的構成
  2. ディンキン・インデックスを用いた方法
  3. 随伴表現の最高ウェイトから落として構成

主に参考にした文献はGeorgiKikkawaSatoです。Zeeは群論の物理への応用に関し平易に書かれた入門書です(ただし広範な分野をカバーしているため、ページ数は多いです)。

定義・公式集

まず必要最低限の定義・定理・公式を示しておきます。主にGeorgiの教科書Georgi、ところどころ吉川の教科書Kikkawaを参照しています(ほぼ引用の部分もあります)。証明は付していませんが、それに関してはこれら教科書をご参照ください。またリー代数に関して多少の知識を有していることを想定しています。カルタン生成子、随伴表現、構造定数等の言葉は定義なしに用います。

ウェイト

ウェイトとはカルタン生成子の固有値です:
Hi|μ,x,D=μi|μ,x,D
ここでHi (i=1,2,,r)はカルタン生成子、rはランクと呼ばれます。|μ,x,Dは生成子が作用する空間の元ですが、以降これを(量子力学っぽく)「状態」と呼びます。Dは表現に対するラベルであり、xμでは指定しきれないラベルを表します。随伴表現ではμのみで状態を完全にラベルできるのでxは必要ありません。

ルート

ルートとは随伴表現のウェイト。任意の生成子をXaとし、これに対応する状態を|Xaと書きます。これはすなわち
Xc|Xa|Xb=[Ta]cb
を意味します。ここでTaXaに対応する行列表現。随伴表現では
Xc|Xa|Xb=[Ta]cb=ifacb
です。ここでfacbは構造定数。この式より、随伴表現では生成子の状態への作用は交換子で表されることを示せます:
Xa|Xb=|[Xa,Xb]

カルタン生成子Hi (i=1,2,,r)に対応する状態はゼロのウェイトをもちます:
Hi|Hj=|[Hi,Hj]=0
随伴表現ではその逆も成り立ちます:随伴表現においてゼロのウェイトベクトルをもつ状態はすべてカルタン生成子に対応する。

カルタン生成子に対応しない随伴表現の他の生成子をE、その状態を|Eで表します。これらはゼロでないウェイトベクトルαをもちます。そこでEEαのようにラベルすることにします。その成分αi
Hi|Eα=αi|Eα
です。これは対応する生成子が
[Hi,Eα]=αiEα
を満たすことを意味します。

上記したように、随伴表現ではゼロでないウェイトは一意的に対応する状態を指定し、他のパラメータは必要ありません。随伴表現のウェイトαiはルートと呼ばれます。

随伴表現において|Eα,|Hiらはすべて直交します(そうなるように定めることができます)。

昇降演算子

E±αは、状態E±α|μ,Dがウェイトμ±αをもつので、ウェイトに対する昇降演算子です。

SU(2)部分代数

E±:=|α|1E±α, E3:=|α|2αH
とすると、これらはSU(2)部分代数をなします。|E3,|E±はスピン1表現をなします。

ルートの正負、順序

各ルートαの成分を(α1,α2,,αr)の順に並べたとき、最初のゼロでない成分が正(負)のとき、そのルートを正(負)ルートとよびます。

2つのルートα,βに対して、ベクトルαβの最初の0でない成分の差αiβiが正ならばα>βとします。

単純ルート

単純ルートとは、他の正ルートの和として書けない正ルート。単純ルートは線形独立かつ完全です。よって単純ルートはその代数のランクrだけ存在します。次章から行うように、単純ルートがわかれば他のルートを構築することができます。

ルートに関する制限

単純リー代数におけるルートに関し、以下のような制限が存在します:

ルートに関する制限

α,βをルートとする。n1,n2は非負整数とする。
4(αβ)2α2β2=n1n2,β2α2=n2n1
とすると、n1n2、2つのルートの角度θ、大きさの比は以下の表に限られる(Kikkawaの表8-1):
n1n2θ|α|/|β|090160,1201245,1352,1/2330,1503,1/340,180

また以下が成立する:
2αβα2=n2, 2αββ2=n1

またルートに関し、次のようなルールも存在します:

  • αがルートならαもルート。

  • αがルートなら、αのゼロでない倍数(※αは除く)はルートではない。

  • α,βが異なる正ルートであるとき、αβはルートではないことが示せる。

マスター公式

αをルート、μをある表現Dの任意のウェイトとすると
E3|μ,x,D=αμα2|μ,x,D
が成立します。E3は上記「SU(2)部分代数」に現れたE3。このE3の固有値に関し、Georgiの教科書Georgiで「マスター公式」と呼ばれている以下の関係が成立します:

マスター公式

2αμα2=qp

ここでq

μ,μα,μ2α,,μqαはルートであるが、μ(q+1)αはルートではなくなるような整数

p

μ,μ+α,μ+2α,,μ+pαはルートであるが、μ+(p+1)αはルートではなくなるような整数

です。この公式が以下重要になります。以下q,pが現れたときには、この意味でのq,pであることに注意してください。

最高ウェイト、ディンキン・インデックス, カルタン行列

最高ウェイトμは、すべての単純ルートαi (i=1,2,,r)に対してμ+αiがウェイトになり得ないという条件で定義されます。この場合p=0でなければならず、マスター公式より各αiに対して
2αiμ(αi)2=qi
となります。qi (i=1,2,,r)0または正の整数です。単純ルートは一次独立で最高ウェイトに縮退はないから、最高ウェイトμをもつ既約表現Dは、r個の0または正の整数の組[q1,q2,,qr]で完全に指定されます。このリストをディンキン・インデックスと呼びます。さらにμが最高ウェイトではないウェイトに対しても同様にディンキン・インデックスを定義します。このときディンキン・インデックスは「マスター公式」で示した意味でのqではなくなります。このときディンキン・インデックスの各要素は一般に負の整数も取り得ます。また最高ウェイトではない場合、違うウェイト(線形独立なウェイト)が同じディンキン・インデックスを持つこともあります。

ということで改めてディンキン・インデックスを

ディンキン・インデックス

μ:[l1,l2,,lr]
ただし
li:=2αiμ(αi)2

のように定めます。ディンキン・インデックスのi成分はμαiに対するqpに対応します(これをqipiと表記します)。

カルタン行列は単純ルートαiに対し、以下で定義されます:

カルタン行列

Cji=2αiαj(αi)2

Cはディンキン図形より構成でき、これが単純ルートからルート系を構成するのに重要です。

基本ウェイト

j番目のディンキン・インデックスが1で、ほかはすべて0となるような最高ウェイトをωjとします。ωjは各αiに対して
2αiωj(αi)2=δij
を満たします。もしαiがわかっていれば、この式からωjが定まります。ωjは基本ウェイトと呼ばれます。

一般のディンキン・インデックスに対応する最高ウェイトは、def1liに対して
μ=i=1rliωi
で与えられます。ωiを最高ウェイトとしてもつr個の表現ρiを基本表現といいます。

上式から、基本ウェイトはカルタン行列Cを用いて
ωi=j=1r(C1)jiαj
で与えられます。

ディンキン図形

上で述べたように、単純リー代数は単純ルートで特徴付けられます。単純ルートを図に表す方法がディンキン図形です。

ディンキン図形
  • ◯は単純ルートを表す
  • 2つの単純ルートの相対角度が
    • 120のとき(すなわちn1n2=1のとき)対応する2つの単純ルートの◯を1本線でつなぐ
    • 135のとき(すなわちn1n2=2のとき)対応する2つの単純ルートの◯を2本線でつなぐ
    • 150のとき(すなわちn1n2=3のとき)対応する2つの単純ルートの◯を3本線でつなぐ
    • 90のとき線ではつながない
  • 長さが違う単純ルートを線で結ぶ場合、不等号をつけて長さの大小を表現する(※不等号ではなく矢印かもしれませんが、不等号と理解する方が大小を理解しやすいのでこう言っておきます)

以下にディンキン図形の例を記しておきます。

ディンキン図形の例(SU(3),SU(4),SO(5),G2

SU(3) SU(3)
SU(4) SU(4)
SO(5) SO(5)
!FORMULA[115][2029452343][0] G2

α1,α2,α3は単純ルートです。SO(5),G2では|α1|<|α2|です。またSU(4)でα1α3の相対角度は90です。一般に線で直接つながれていない単純ルートの間の相対角度は90です。

ちなみに2つの単純ルートの相対角度が180のとき、2つのルートは線形独立ではないので、どちらか1つを採用します。

単純ルートからルート系を構成する

それでは具体的にG2の単純ルートからルート系を構成しましょう。

まずG2のカルタン行列Cを計算しておきます。ex1G2のディンキン図形より、2つの単純ルートα1,α2の相対角度は150ですが、これはn1n2=3ということです(ディンキン図形の線の本数がn1n2)。いま|α1|<|α2|とすれば、fml1の一番下の式より
2α1α2(α1)2=3, 2α1α2(α2)2=1
です。これとdef2にあるカルタン行列の定義より
C=(2132)
になります(これはGeorgiCといっしょ。Kikkawaではこの転置がC)。

1. 逐次的構成

まずは愚直にルート系を構成します。一般に正ルートはki (i=1,2,,r)0または正の整数の組として
α=i=1rkiαi
で書けます。そこで
k=i=1rki
として、k=1から順に正ルートを構成します。kをレベルと呼ぶことにします。k=lまで構成できたとして、このレベルのルートをϕlとします。このとき
ϕl+αi (i=1,2,,r)
が正ルートになるかどうかを逐次チェックします。ϕl+αiが正ルートになる条件はマスター公式
2αiϕl(αi)2=qp
においてpp>0を満たす整数となることです。pがこれを満たすなら、ϕl+1:=ϕl+αi
はレベルk=l+1の正ルートになります。

ということで上記のチェックを帰納的に行います:

  • k=1
    この場合kiのどれか1つが1、あとは0であるので、単純ルートそのもの。単純ルートは正ルートなので、この場合 ϕ1=α1,α2 が正ルートとして求まる。

  • k=2
    カルタン行列が
    C=(2132)
    であるから2(α1α2)(α1)2=3,2(α2α1)(α2)2=1
    である。いまα1,α2をそれぞれEα2,Eα1で落とした状態はルートではないのでq=0(※α,βを単純ルートとするとαβはルートではない)。ゆえにマスター公式よりそれぞれp=3,1であるからどちらもp>1であるためϕ2:=α1+α2 は正ルート。

    「ルートに関する制限」の章にあるように、2α1,2α2はルートではないことに注意。

  • k=3

    • まずはϕ2+α1が正ルートか調べる。 2(α1ϕ2)(α1)2=1 またq=1である(∵ϕ1α1はルートだが、もう一度引くとルートではない)。ゆえにp=2なので ϕ3:=ϕ2+α1=2α1+α2 は正ルート。
    • 次にϕ2+α2が正ルートか調べる。 2(α2ϕ2)(α2)2=1
      またq=1である(∵ϕ1α2はルートだが、もう一度引くとルートではない)。ゆえにp=0でありp>0を満たさないので ϕ2+α2 は正ルートではない。
  • k=4

    • ϕ3+α1が正ルートか調べる。 2(α1ϕ3)(α1)2=1
      またq=2である(∵ϕ3からα1を2回引いてもルートだが、3回引くとルートではなくなる)。ゆえにp=1なので
      ϕ4:=ϕ3+α1=3α1+α2
      は正ルート。
    • 次にϕ3+α2が正ルートか調べる。 2(α2ϕ3)(α2)2=1
      またq=0である(∵ϕ3からα2を引くと2α1となりルートではない)。ゆえにp=0なのでϕ3+α2は正ルートではない。
  • k=5

    • ϕ4+α1が正ルートか調べる。 2(α1ϕ4)(α1)2=3
      またq=3である(∵ϕ3からα1を3回引いてもルートだが、4回引くとルートではなくなる)。ゆえにp=0なのでϕ4+α1 は正ルートではない。
    • 次にϕ4+α2が正ルートか調べる。 2(α2ϕ4)(α2)2=1
      またq=0である(∵ϕ4からα2を引くと3α1となりルートではない)。ゆえにp=1なので
      ϕ5:=ϕ4+α2=3α1+2α2
      は正ルート。
  • k=6

    • ϕ5+α1が正ルートか調べる。 2(α1ϕ4)(α1)2=0
      またq=0である(∵ϕ3からα1を引くと2α1+2α2となる。k=4のルートは3α1+α2のみなので、これはルートではない)。ゆえにp=0なのでϕ5+α1は正ルートではない。
    • 次にϕ5+α2が正ルートか調べる。 2(α2ϕ4)(α2)2=1
      またq=1である(∵ϕ4からα2を引くと3α1+α2となりルート。もういちどα2を引くとルートではなくなる)。ゆえにp=0なのでϕ5+α2は正ルートではない。

これをまとめると
α1,α2α1+α22α1+α23α1+α23α1+2α2
の計6つが正ルート。これらの符号を反転したものが負ルート。合計12個の状態でG2のルート系が構成されます。図にすると以下のようになります。

!FORMULA[239][2029452343][0]を2次元ユークリッド空間に図示したもの。!FORMULA[240][923716761][0]とした。 G2を2次元ユークリッド空間に図示したもの。α1=(0,1), |α1|<|α2|, α1<α2とした。

2. ディンキン・インデックスを用いて構成

本章でも1.と同じように単純ルートからルートを構築していくのですが、それらルートをディンキン・インデックスの値でラベルして図示します。

あるウェイトμがルートであることがわかっているとします。μ
μ=μ+αj
のようにμαjを足したものだとします。このときμのディンキン・インデックスのi成分は
(1)2αiμ(αi)2=qμipμi+Cji=:lμi,qμi,pμiμqi,pi
となり、もとのディンキン・インデックスのi成分にCjiを足したものになることがわかります。

1.と同様、単純ルートからαを足して上のレベルに順次上がっていきます。下から構成する場合「あるウェイトからどの方向にどれだけ連続して下がれるか」の指標であるqがわかっています。またディンキン・インデックスが計算できるので、マスター公式よりpを計算することができます。pがわかれば「そのウェイトからどの方向にどれだけ連続して上がれるか」がわかります。こうして得られた新たなルートのディンキン・インデックスはEq.(1)で計算できます。これをくりかえしてウェイトのディンキン・インデックスを構成します。ここでμ
μi=1rlμiωi
のように基本ウェイトと対応します。

改めてルート系を構築しましょう。

まずは基本ウェイトを計算しておきます。基本ウェイトはランク2の代数の場合、ディンキン・インデックスが[1,0],[0,1]の状態に対応します。一般に基本ウェイトはカルタン行列Cを用いて
ωi=j=1r(C1)jiαj
で与えられます。いま
C=(2132)C1=(2312)
なので
ω1=2α1+α2, ω2=3α1+2α2
です。よって[a,b]に対応する状態は
[a,b]aω1+bω2=(2a+3b)α1+(a+2b)α2
です。

以下Georgiの教科書GeorgiP125に従って議論します。正ルートをディンキン・インデックスを用いて図にしたものを記します:

ディンキン・インデックスと正ルート系

k=5[0,1]3α1+2α2(0,1)q(0,0)pk=4[3,1]3α1+α2(3,0)q(0,1)pk=3[1,0]2α1+α2(2,0)q(1,0)pk=2[1,1]α1+α2(1,1)q(2,0)pk=1[2,1][3,2]α1,α2(2,0)q(0,1)p(0,2)q(3,0)pk=0[0,0]Hi

この図の構成を、kが小さい方から説明していきましょう。

  1. まずα1,α2に対応するqp
    [2,1],[3,2]
    k=1のレベルに書く。その下にk=0のレベルに[0,0](対応する代数で言えばカルタン部分代数Hi)を書く。α1を足す作業を左上向き矢印、α2を足す作業を右上向き矢印で表す。これらはex2のダイアグラムのk=0,1の部分になる。
  2. 次のレベルk=2に上がるために、pを計算する。一般論よりαiqi成分のみ2で、それ以外はゼロ(∵ルートαiは、EαiαiHがなすSU(2)のスピン1表現の最高ウェイト状態。またjiのときαiαjはルートではない)。よってα1:[2,1]に対してq:(2,0)α2:[3,2]に対してq:(0,2)である。これらからマスター公式を用いてpを計算すればα1:[2,1]に対してp:(0,1)α2:[3,2]に対してp:(3,0)である。ゆえに[2,1]から右上に1回(=α2を1回足す)、[3,2]から左上に3回進める(=α1を3回足す)。αi方向に上がるとき、ディンキン・インデックスはカルタン行列のi行ぶんだけ変化する。よって
     k=2:[23,1+2]=[3+2,21]=[1,1]α1+α2 k=3:[1+2,11]=[1,0]2α1+α2 k=4:[1+2,01]=[3,1]3α1+α2
    を得る。
  3. [3,1]pを計算する。ex2のダイアグラムにあるようにk=4以下の正ルートはすべて示してある。この図より、[3,1]から連続して下がれる方向は、左下は0、右下は3である。よって[3,1]qq:(0,3)であり、ゆえにp:(0,1)。すなわち右上にひとつ進むことができる。右上に進めば
     k=5:[0,1]3α1+2α2
    を得る。[0,1]qex2のダイアグラムよりq:(0,1)なのでp:(0,0)であり、これが最高のルート(随伴表現の最高ウェイト)であることがわかる。

結局やっていることは前章と同じですが、図にするとわかりやすくなります。

3. 随伴表現の最高ウェイトから落として構成

最後に随伴表現のウェイトを構成することで(正)ルートを構成します。2.では下からルートを構成しましたが、今度は上から下に構成していきます。

2.ではすべてのウェイトやルートに対してq,pを毎回計算していましたが、それをすることなくディンキン・インデックスの値のみでルート図を構成する方法があります。あるウェイトμにおいてディンキン・インデックスのi成分が正の整数lμiだった場合、αiを用いてそのウェイトからlμi回下に進むというルールでウェイトを構成します。この方法はSatoに記載されているため、ここでは「佐藤法」と呼ぶことにします(※一般的な呼び方ではありません)。

G2の随伴表現の最高ウェイトは[0,1]である(ω1,ω2のうち長い方)ことは既知とします。これから下に進むことにより構成した正ルートの図は以下です:

随伴表現の最高ウェイトを落としていく

[0,1]3α1+2α2      α2[3,1]3α1+α2      α1[1,0]2α1+α2      α1[1,1]α1+α2α1 α2[3,2][2,1]α1,α2α2α1[0,0]   [0,0]Hi

以下この図の構成法を説明します。

  1. まず最高ルートである[0,1]3α1+2α2を一番上に書く。
  2. ディンキン・インデックスのi成分が正の整数だった場合、αiでその正の整数ぶんだけ下に進む。いまの場合2番目のl1なので、α2で1つ下に進む。よって[3,1]3α1+α2を得る。
  3. [3,1]は第1成分が3なのでα1[2,1])で3回下に進む。すると[1,0], [1,1], [3,2]を得る。
  4. 3.で現れた[1,1]は第2成分が1なので、この状態からα2で1回下に進む。進むと[2,1]を得る。
  5. a. 3.で現れた[3,2]からα2で下に2回進む。1回進めば[0,0]を得る。これより下の状態は負ルートであり、正ルートと対称に構成される。
    b. 4.で現れた[2,1]からα1で2回下に進む。1回進めば[0,0]を得る。これより下の状態は負ルートであり、正ルートと対称に構成される。

このように構成しても、前2章と同じように正ルートが求まります。Appendixで、なぜ佐藤法でルートやウェイトが構成できるかについてコメントします。

ちなみに、前章ではq,pを計算することで上のレベルに登れるか否かを判断していましたが、たぶんこの章と同じような感じで計算できると思います。すなわち、ex2のダイアグラムでディンキン・インデックスが負の整数となる要素(これをi番目の要素とする)を持つ場合、その整数×(1)だけαi方向に上に登れるのではないかと思います。それだと[0,0]から上に登れないように見えますが、最低ウェイト状態からこのルールで構成すると問題なく最高ウェイトまで登れます。

まとめ

本記事では単純リー代数のうち例外群G2の代数において、3つの方法で単純ルートからルート系全体を具体的に構築しました。覚え書き替わりでした。

おしまい。

Appendix 佐藤法はなぜうまくいくか

ここでは佐藤法でルートやウェイトが構築できる理由に関してコメントします。そのために、ここではもうちょっと複雑なSU(3)15次元表現のウェイトを構成した図を示します。

SU(3)の15次元表現。佐藤教科書例4.5の図に!FORMULA[362][36658931][0]を付記した。 SU(3)の15次元表現。佐藤教科書例4.5の図にq,pを付記した。

q,pを計算してウェイトを構成する方法では、各ウェイトに対してどちらにどれだけ進めるかを付与していくため、正しくウェイトを構成できます。一方佐藤法では、ディンキン・インデックスのi成分が正の整数となるときαi方向にその整数分だけ進めるというルールでウェイトを構成します。ただし、図6左端にある[1,1][0,1]の部分のように、そこだけ見れば途中で止まるような場合でも、手前の部分でさらに先に進めることがわかっている場合は([2,3]の存在によりα2で3回下に進めることがわかる)先に進むようにします。すると佐藤法はq,pを計算する方法と同じウェイト図を再現します。よければex2のダイアグラムでも両者が一致することを確かめてみてください。

佐藤法が正しい結果をもたらす理由をざっくり言うと「分岐点や角で曲がるとき、その曲がる方向のディンキン・インデックスはその方向のqに一致する」(これを★とする)からです。

以下ランクは2であるとして議論を進めます。ランクがいくつでも同様の議論ができるかと思います。またliをディンキン・インデックスのi成分とします。

以下図7を基に議論します。★で言う「分岐点」とはあるウェイトから2方向にわかれて1つ下のレベルのウェイトに移る点のことを指します(図7の三角印)。「角」とはあるウェイトから分岐せずに方向を変えて下のレベルのウェイトに移る点のことです(図7の四角印)。

最高ウェイトから下に進みながらウェイトを構成する模式図 最高ウェイトから下に進みながらウェイトを構成する模式図

まず最高ウェイトのp(0,0)であることから、最高ウェイトのディンキン・インデックスlqに等しいです。そして最高ウェイトからα1方向に進むとき、他の方向に進まぬ限りその経路上のウェイトにおいてp2=0であり、よってl2=q2となります。ゆえにl2が正の整数になればそこからα2方向にl2だけ進めることがわかります。そしてα2方向に1つ以上進むと(他の方向に進まぬ限り)その経路上ではp1=0となるので、l1q1に等しくなります。ゆえにl1が正の整数になればそこからα1方向にl1だけ進めることがわかります。これを繰り返すことになるので、結局★が成立します。ex2のダイアグラムや図6を見ると実際に★が成立していることが確認できます。

ちなみにY,X型の合流点(図8)ではディンキン・インデックスのどの成分もqとは対応しなくなりますが、合流前の「上流」にある分岐点や角で既にどこまで進めるかは定まっているので、これが問題になることはないと思います。図6の左端[1,1]はY型の合流点の例ですが、q(0,2)であり、どの成分もディンキン・インデックスとは対応していません。しかし上述したように、より上流にある「角」[2,3]の存在により、問題なくウェイトを構成することができます。

Y,X型の合流点 Y,X型の合流点

参考文献

[1]
H. ジョージァイ 著、九後汰一郎 訳, 物理学におけるリー代数 − アイソスピンから統一理論へ −, 物理学叢書, 吉岡書店, 1996
[2]
吉岡圭二, 群と表現, 理工系の基礎数学 9, 岩波書店, 1996
[3]
佐藤光, 物理数学特論 群と物理, パリティ物理学コース, 丸善株式会社, 1992
[4]
A. Zee, Group Theory in a Nutshell for Physicists, Princeton University Press, 2016
投稿日:31日前
更新日:18日前
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  1. 定義・公式集
  2. ウェイト
  3. ルート
  4. 昇降演算子
  5. SU(2)部分代数
  6. ルートの正負、順序
  7. 単純ルート
  8. ルートに関する制限
  9. マスター公式
  10. 最高ウェイト、ディンキン・インデックス, カルタン行列
  11. 基本ウェイト
  12. ディンキン図形
  13. 単純ルートからルート系を構成する
  14. 1. 逐次的構成
  15. 2. ディンキン・インデックスを用いて構成
  16. 3. 随伴表現の最高ウェイトから落として構成
  17. まとめ
  18. Appendix 佐藤法はなぜうまくいくか
  19. 参考文献