写像の始域または終域のいずれかに位相が定義されているとき,もう片方に位相を誘導することができる.
$(X,\O_X)$を位相空間,$Y$を集合,$f\colon X\to Y$を写像とする.$f$を連続にする最強の$Y$の位相$\O_Y$を$f$が誘導する終位相という.
定義1の$\O_Y$は
$$\O_Y=\{U\subset Y : f^{-1}(U)\in\O_X\}$$
で与えられる.
($\subset$) $U\in\O_Y$とする.$f$が連続であることから$f^{-1}(U)\in\O_X$が従う.
($\supset$) 右辺は$f$を連続にする$Y$の位相になっていることが確かめられるので$\O_Y$の最強性より従う.
連続写像は終域の開集合の引き戻しが始域の開集合になる写像である.よって感覚的には始域の開集合が豊富にあり,終域の開集合が少ないほど連続になりやすいといえると思う.極端な例では終域に密着位相を入れる,または始域に離散位相を入れれば写像は必ず連続になる.
そこで終域に誘導する位相は$f$が連続になるという条件を充たしながらも,これ以上開集合が多いと連続にならないギリギリまで開集合が豊富なものとして定義する.
Xを集合,$(Y,\O_Y)$を位相空間,$f\colon X\to Y$を写像とする.$f$を連続にする最弱の$X$の位相$\O_X$を$f$が誘導する始位相という.
定義2の$\O_X$は
$$\O_X=\{f^{-1}(U)\subset X : U\in\O_Y\}$$
である.
($\subset$) 右辺は$f$を連続にするXの位相になっていることが確かめられるので$\O_X$の最弱性より従う.
($\supset$) $f$が連続であることから,任意の$U\in\O_Y$に対して$f^{-1}(U)\in\O_X$が従う.
終域への誘導とは逆に,始域に誘導する位相は$f$が連続になるという条件を充たしながらも,これより開集合が少ないと連続にならない最低限の開集合を含んだものとして定義する.
積位相などを定義するためにより一般的な誘導を定義する.
$\{(X_\lambda,\O_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda}$を位相空間族,$Y$を集合,$\{f_\lambda\colon X_\lambda\to Y\}_{\lambda\in\Lambda}$を写像族とする.このとき全ての$f_\lambda$が連続になる最強の$Y$の位相$\O$を$\{f_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$が誘導する終位相という.
定義3の$\O$は
$$\displaystyle\O=\bigcap_{\lambda\in\Lambda}\{U\subset Y:f_\lambda^{-1}(U)\in\O_\lambda\}=\{U\subset Y:\forall\lambda\in\Lambda, f_\lambda^{-1}(U)\in\O_\lambda\}$$
で与えられる.右の等号は$\bigcap$の定義による.
($\subset$) $U\in\O$とする.任意の$\lambda\in\Lambda$に対し$f_\lambda$が連続であることから,$\forall\lambda\in\Lambda, f_\lambda^{-1}(U)\in\O_\lambda$が従う.
($\supset$) $\{U\subset Y:f_\lambda^{-1}(U)\in\O_\lambda\}$は$f_\lambda$が誘導する$Y$の位相であり,位相の交叉もまた位相なので右辺は全ての$f_\lambda$を連続にする$Y$の位相になっている.よって$\O$の最強性より従う.
$X$を集合,$\{(Y_\lambda,\O_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda}$を位相空間族,$\{f_\lambda\colon X\to Y_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$を写像族とする.このとき全ての$f_\lambda$が連続になる最弱の$X$の位相$\O$を$\{f_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$が誘導する始位相という.
定義4の$\O$は
$$\O=\hat{\mathcal{S}},\ \mathcal{S}:=\bigcup_{\lambda\in\Lambda}\{f_\lambda^{-1}(U)\subset X:U\in\O_\lambda\} $$
で与えられる.但し,$\hat{\mathcal{S}}$は$\mathcal{S}$で生成される位相を表す.
($\subset$) $\hat{\mathcal{S}}$は全ての$f_\lambda$を連続にするXの位相になっていることが確かめられるので$\O_X$の最弱性より従う.
($\supset$) 任意の$\lambda\in\Lambda$を取る.$f_\lambda$が連続であることから,任意の$U\in\O$に対して$f^{-1}(U)\in\O_\lambda$が従う.よって$\mathcal{S}\subset\O$を得る.従って$\hat{\mathcal{S}}$の最小性より$\hat{\mathcal{S}}\subset\O$である.
$\mathcal{S}$は一般に位相にならないので$\mathcal{S}$を含む最弱の位相を考える.
$(X,\O)$を位相空間,$\sim$を$X$上の同値関係,$\pi\colon X\to\widetilde{X}:=X/{\sim}$を自然な射影とする.このとき$\pi$が誘導する終位相$\widetilde{\O}$を商位相といい,$(\widetilde{X},\widetilde{\O})$を商空間という.
命題1から $\widetilde{\O}=\{U\subset X/{\sim}:\pi^{-1}(U)\in\O\}$ である.
$(X,\O)$を位相空間,$A\subset X$を部分集合,$\iota\colon A\hookrightarrow X$を包含写像とする.このとき$\iota$が誘導する始位相$\O|_A$を相対位相という.
命題2から
$$\O|_A=\{\iota^{-1}(U)\subset A:U\in\O\}=\{U\cap A:U\in\O\}$$
である.
$\{(X_\lambda,\O_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda}$を位相空間族,$\displaystyle\coprod_{\lambda\in\Lambda}X_\lambda:=\bigcup_{\lambda\in\Lambda}(\{\lambda\}\times X_\lambda)$を直和集合とする.また各$\lambda\in\Lambda$に対し $\displaystyle\iota_\lambda\colon X_\lambda\hookrightarrow\coprod_{\lambda\in\Lambda}X_\lambda$を自然な入射とする.このとき$\{\iota_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$が誘導する終位相$\O$を直和位相という.
命題3から$\O$は $\displaystyle\mathcal{O}=\bigcap_{\lambda\in\Lambda}\left\{U\subset \coprod_{\lambda\in\Lambda}X_\lambda:\iota_\lambda^{-1}(U)\in\O_\lambda\right\}$ である.
$\{(X_\lambda,\O_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda}$を位相空間族,$\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}X_\lambda$を直積集合とする.また各$\lambda\in\Lambda$に対し $\displaystyle\pi_\lambda\colon\prod_{\mu\in\Lambda}X_\mu\to X_\lambda$を射影とする.このとき$\{\pi_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$が誘導する始位相$\O$を積位相という.
命題4から$\O$は $\displaystyle\mathcal{S}:=\bigcup_{\lambda\in\Lambda}\{\pi_\lambda^{-1}(U):U\in\O_\lambda\}$ で生成される.
定義8について考える.$\pi_\lambda^{-1}(U)$は
$$\pi_\lambda^{-1}(U)
=\{(x_\mu)_\mu:\pi_\lambda((x_\mu)_\mu)\in U\}
=\{(x_\mu)_\mu:x_\lambda\in U\}=\displaystyle\prod_{\mu\in\Lambda}Y_\mu$$
という集合である.但し,$Y_\mu=\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
X_\mu\ &(\rm{if}\ \mu\ne\lambda )\\
U\ &(\rm{if}\ \mu=\lambda)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$ とした.イメージとしては底に$U$をもつ柱である.そこでこれらを柱状集合と呼ぶことにする.$\mathcal{S}$は柱状集合を集めた族である.$\mathcal{S}$が生成する位相は,柱状集合の有限交叉全体
$$\mathcal{B}=\left\{\bigcap_{j=1}^{N}C_j:\{C_j\}_{j=1}^{N}\subset\mathcal{S}\right\}$$
を開基とする位相である.$\pi_\lambda(U)\cap\pi_\lambda(V)=\pi_\lambda(U\cap V)$に注意すると,$\{C_j\}_{j=1}^{N}$の$C_j$は異なる$\lambda\in\Lambda$から取ると考えてよい.
$\R^n$には$n$次元Euclid距離によって位相が入るが,$\R$の直積として位相を誘導することもできる.(これらは一致する.)後者は$n$次元開矩形全体を開基とした位相である.
$\R^n$のように$n:=\#\Lambda<\infty$の場合を考えると$\Lambda=\{1,\cdots,n\}$としてよく,
\begin{align}
\mathcal{B}
&=\left\{\bigcap_{j=1}^{n}\pi_j^{-1}(U_j):U_j\in\O_j\ (j=1,\cdots,n)\right\}\\
&=\left\{\bigcap_{j=1}^{n}(X_1\times\cdots\times{U_j}\times\cdots\times X_n)
:U_j\in\O_j\ (j=1,\cdots,n)\right\}\\
&=\left\{\prod_{j=1}^n U_j:U_j\in\O_j\ (j=1,\cdots,n)\right\}
\end{align}
とかける.そこで有限個の積位相は最終辺のように開集合の直積全体が生成する位相として定義されることも多い.これを一般の$\Lambda$に自然に拡張しようとすると次のような位相が妥当だと思える.
$\{(X_\lambda,\O_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda}$を位相空間族とする.
$$\mathcal{B'}:=\left\{\prod_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda:U_\lambda\in\O_\lambda\ (\lambda\in\Lambda)\right\}$$
を開基とする$\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}X_\lambda$の位相$\O_\rm{box}$を箱位相またはBox位相という.
$\#\Lambda<\infty$のとき,積位相と箱位相が一致することを見たが,実は無限直積の場合は一致するとは限らない.これは準開基$\mathcal{S}$から開基$\mathcal{B}$を構成する過程では有限交叉までしか取らないからである.無限交叉を取ってしまった場合が箱位相であるから箱位相は積位相よりも強くなる.真に強い場合,射影が連続でなくなってしまうなど自然でない性質を持ってしまうため位相空間の直積には上の積位相が使われることが多い.また積位相は圏論的によい振る舞い(普遍性)をもつ点で重要である.
$\R$のEuclid位相$\O_\R$が誘導する$\R^\N$の積位相を$\O_{\R^\N}$,箱位相を$\O_\rm{box}$とする.このとき
$$(0,1)^{\N}\in\O_\rm{box}\setminus\O_{\R^\N}$$
である.実際,$(0,1)^{\N}\in\O_\rm{box}$は明らかである.また$\O_{\R^\N}$は
$$\mathcal{B}:=\left\{\prod_{j=1}^\infty U_j:U_j\in\O_j,\#\{j\in\N:U_j\ne\R\}<\infty\right\}$$
を開基とするが,$\mathcal{B}$の元は$(0,1)^\N$に包まれない.よって$(0,1)^{\N}\notin\O_{\R^\N}$.
従って$\R^\N$において箱位相は積位相より真に強い.