はじめに
Mathlog ユーザーのみなさん,はじめまして.初投稿なので緊張しています(テンプレ).
今回は,直交群が鏡映で生成されること,そしてその応用として正規直交群が弧状連結であることを示します.
まずは用語確認から.
定義
直交群の定義についておさらいします.詳しいことは Google 先生に聞いてください.
を正の整数とします.線形空間には標準的な内積
が入っています.この内積を保つ自己同型全体のことを直交群というのでした.つまり、
です.
は,行列の積に関して群をなすことがわかります.
直交群には,鏡映と呼ばれる特別な元が存在します.
鏡映
に関する鏡映とは,以下で定義される写像のことである.
式の形から「に関する折返し」という感じがするかと思います.
訂正(6/11):が「に関する折返し」と口走りましたが,指摘があったように「に直交する次元超平面に関する折返し」が正しいです.「に関する折返し」は鏡映を用いてと表すことができます.一般には直交群の元はたちの積で書くことはできません(たとえばが奇数のときはの行列式はになってしまう).ご指摘くださった方,ありがとうございます.
がの元であることを確認しておきましょう.
鏡映の基本性質
鏡映に関して次が成り立つ.
- は線形写像である.
- である.とくにである.
- は内積を保つ.よってである.
- はの生成する部分空間上倍,の直交補空間上恒等写像である.
この命題の4.は鏡映の折返しとしての性質をよく表していると思います.
Cartan–Dieudonné の定理
先ほど,直交群の特別な元として鏡映を導入しました.実は,直交群の任意の元は鏡映の有限個の積で書けることが従います.
の場合,このことは図形的かつ直感的に理解できます.すなわち,角度の回転をしたかったら,まず軸に関して折り返して,次に直線に関して折り返せばよいわけです(下図参照).
2次元回転は鏡映の合成
次元に関する帰納法によります.方針としては,が与えられたとき,「」の形の元で,を固定するものを探します.これをとおくと,はの直交補空間,すなわちの直交群の元を引き起こすことがわかり,帰納法が使えます.では証明に移ります.
の場合,の元はたかだか1個の鏡映の合成である.
以下とする.このとき,を以下で定める.
(i) の場合,とおく.
(ii) の場合,とおく.
すると,いずれの場合もであることがわかる.実際,(i)の場合は明らかなので(ii)について考えればよいが,定義1によって計算すると
となる(が内積を保つことを用いて計算する).
さて,のへの制限がの元を引き起こすことを見る.の内積をに制限したものは自然にの内積とみなせることに注意する.いま,なので,任意のに対して
よってである.つまりなので,は上の自己同型を引き起こす.すなわち.はの元の制限として与えられているのだから,明らかに内積を保つ.よってである.
に関する帰納法から,たかだか個の元があり,
となる.上ではとは共に恒等写像(命題1.4を参照)なので,結局上
となる(と分解されている).(i),(ii)のそれぞれの場合に応じて,
(i)
(ii)
となる.以上で定理が示された.
お疲れ様でした.結構骨が折れますね.
応用:特殊直交群は連結である
以下行列全体の空間を Euclid 空間と同一視することで位相を与え,やにはその相対位相を考えるものとします.このときの連結性が気になります.
まず簡単にわかるように,は連結ではありません.実際,を行列式として
は空でない開集合による分割を与えます.ここで気になるのは,右辺に現れる
が連結かということです(を特殊直交群と呼びます).実は次が成り立ちます.
任意のと単位行列が弧状連結であることを示せばよい.Cartan–Dieudonné の定理よりは有限個の鏡映の合成で書けるのだった.とくには偶数個の鏡映の積になる.それを示すには,鏡映の行列式が負であることを示せばよいが,これは命題1.4より従う.そこで
と書いてみる.のいずれとも向きが異なるを取り,に対して
とおく.の取り方から任意のとでなので well-defined である.これが内でとを結ぶ path を与える(はに関する鏡映の偶数個の積なので恒等写像).なお,の連続性については,写像が連続であることを示せばよいが,これはの第列が標準基底を用いて
で与えられ,これは明らかにに関して連続であることから従う.
おわりに
最後まで読んでいただいてありがとうございます.はじめての投稿であり,数学の文章を書くことにも慣れていないので読みづらいところも多いと思います(中の人は執筆当時 B3 のしがない数学系学生です).
ちなみに定理2,3は去年の代数学の演習授業で出題されたものであり,ぼくは定理2(をより一般的な設定にしたもの)を証明する問題を解き,発表しました.同じ方法で証明している文献を見たことがないので,もし知っている人がいれば教えてください.
これからも面白いと思ったことについてつれづれなるままに書いていきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いします.いまは力学系理論に興味があっていろいろ勉強しているので,次はそれについて書きたいですね.