別の記事で直交補空間のことを扱いたかったので書くのです。
以下$F$を体とし、ベクトル空間は有限次元のものを扱います。
$V$:$F$ベクトル空間
$V^*:=\hom(V,F)=\{f:V→F:線形\}$
$V \simeq V^*$
$V$の基底$e_0,...,e_n$をとる。
$e_j^*:V→F;e_i↦δ_{ij}$とおくと、$e_0^*,...,e_n^*$は$v^*$の基底。
[1次独立性]
$c_0e_0^*+c_1e_1^*+...+c_ne_n^*=0$とおく
$e_i$を代入すると、$c_i=0$
よって、$c_0=c_1=...=c_n=0$
[生成性]
$\phi \in V^*$をとる。
$\phi(e_i)=c_i$とおく。
$v \in V$を$v = \sum_{i=0}^nd_ie_i$と表す。
$(\sum_{i=0}^nc_ie_i^*)(v)=\sum_{i=0}^nc_ie_i^*(v)=\sum_{i=0}^nc_ie_i^*(\sum_{k=0}^nd_ke_k)=\sum_{i=0}^nc_i\sum_{k=0}^nd_ke_i^*(e_k)=\sum_{i=0}^nc_id_i$
$\phi(v)=\phi(\sum_{i=0}^nd_ie_i)=\sum_{i=0}^nd_i\phi(e_i)=\sum_{i=0}^nc_id_i$
よって、$\phi=\sum_{i=0}^nc_ie_i^*$
$V,W$:$F$ベクトル空間
$W \simeq V^*$ならば$V \simeq W^*$
$W \simeq V^*$だから同型写像$\Phi:W→V^*$をとる。
$W \simeq W^*$だから同型写像$\Phi_W:W→W^*$をとる。
$V \simeq V^*$だから同型写像$\Phi_V:V→V^*$をとる。
$\Phi_W \circ \Phi^{-1} \circ \Phi_V:V → W^*$は同型
$W \simeq V^*$のとき、$V,W$は互いに双対であるという。
実は2つのベクトル空間の双対性は双線形形式を以って言い換えることが出来ます。
$V,W$:$F$ベクトル空間
$i:V \times W → F$であって、双線形性を満たすものを$V \times W$上の双線形形式と呼ぶ。
(双線形性)
第2引数についても同様
即ち第1引数・第2引数それぞれについて線形であるということ。
$V,W$:$F$ベクトル空間
$i$:$V \times W$上の双線形形式
$i$が$V$に関して非退化とは以下を満たすこと。
$i$が$W$に関して非退化とは以下を満たすこと。
$V,W$の両方に関して非退化であることを単に非退化であるという。
$i$:$V \times W$上の双線形形式
$\Phi_V:V→W^*$
$\Phi_V(v)(w)=i(v,w)$
$\Phi_W:W→V^*$
$\Phi_W(w)(v)=i(v,w)$
$\Phi_V,\Phi_W$は線形写像
\begin{align} \Phi_V(c_0v_0+c_1v_1)(w)&=i(c_0v_0+c_1v_1,w) \\ &=c_0i(v_0,w)+c_1i(v_1,w) \\ &=c_0\Phi_V(v_0)(w)+c_1\Phi_V(v_1)(w) \\ &=(c_0\Phi_V(v_0)+c_1\Phi_V(v_1))(w) \\ \end{align}
\begin{align} \Phi_W(c_0w_0+c_1w_1)(v)&=i(v,c_0w_0+c_1w_1) \\ &=c_0i(v,w_0)+c_1i(v,w_1) \\ &=c_0\Phi_W(w_0)(v)+c_1\Phi_W(w_1)(v) \\ &=(c_0\Phi_W(w_0)+c_1\Phi_W(w_1))(v) \\ \end{align}
以下は同値
$W$に関しても同様。
[$1.⇒2.$]
$i$が$V$に関して非退化とする。
[$⇒$]
$\forall w \in W, i(v,w)=0$とする。
$v \not = 0$と仮定する。
$i$の非退化性より$\exists w \in W;i(v,w)\not=0$
これは矛盾。
よって$v=0$
[$⇐$]
自明
[$2.⇒1.$]
$(\forall w \in W, i(v,w)=0) ⇔ v=0$とする。
$v \in V \setminus \{0\}$をとる。
仮定より$\exists w \in W;i(v,w)\not=0$
[$2.⇒3.$]
$(\forall w \in W, i(v,w)=0) ⇔ v=0$とする。
$v_0,v_1\in V(\Phi_V(v_0)=\Phi_V(v_1))$をとる。
$\Phi_V(v_0-v_1)=0$ ($\Phi_V$の線形性)
よって$\forall w \in W, i(v_0-v_1,w)=0$
仮定より$v_0-v_1=0$
ゆえに$v_0=v_1$
[$3.⇒2.$]
$\Phi_V$:単射とする。
[$⇒$]
$\forall w \in W, i(v,w)=0$とする。
これは$\Phi_V(v)=0$ということ。
$\Phi_V$は単射だから$v=0$
[$⇐$]
自明
$V,W$:$F$ベクトル空間
$i$:$V \times W$上の双線形形式
$i$が$V$に関して非退化ならば、$\Phi_V$は線形同型写像
$W$に関しても同様
$i$が非退化だから$\Phi_V$は単射線形。
有限次元だから$V$と$V^*$の次元は等しい。
よって$\Phi_V$は線形同型写像。
$v \in V$に対し、
$\forall \phi \in V^*, \phi(v)=0$ならば
$v=0$
対偶を示す。
$v \not= 0$をとる。
$(v,e_1,e_2,...,e_n)$が$V$の基底になるように$e_1,...,e_n$をとる。
$\phi(v)=1,\phi(e_i)=0$と定める。
これを線形に拡張したものは$V^*$の元であり、$\phi(v)\not=0$である。
$V,W$が互いに双対$⇔$$V \times W$上の非退化な双線形形式が存在する
[$⇒$]
$W \simeq V^*$だからその同型写像$\Phi:W → V^*$をとる。
$i:V \times W → F$
$i(v,w)=\Phi(w)(v)$
とおく。
[$i$が非退化双線形形式であることを示す]
[双線形性]
\begin{align}
i(c_0v_0+c_1v_1,w)&=\Phi(w)(c_0v_0+c_1v_1) \\
&=c_0\Phi(w)(v_0)+c_1\Phi(w)(v_1) \\
&=c_0i(v_0,w)+c_1i(v_1,w) \\
\end{align}
\begin{align} i(v,c_0w_0+c_1w_1)&=\Phi(c_0w_0+c_1w_1)(v) \\ &=(c_0\Phi(w_0)+c_1\Phi(w_1))(v) \\ &=c_0\Phi(w_0)(v)+c_1\Phi(w_1)(v) \\ &=c_0i(v,w_0)+c_1i(v,w_1) \\ \end{align}
[$W$に関して非退化]
$\Phi_W=\Phi$であるので、$\Phi_W$は単射。よって$i$は$W$に関して非退化。
[$V$に関して非退化]
$v \in V$に対し、
$\forall w \in W, i(v,w)=0$のとき、
$\{\Phi(w)\ |\ w \in W\}=V^*$だから、$\forall \phi \in V^*, \phi(v)=0$
これは$v = 0$を意味する。
よって$i$は$V$に関して非退化。
[$⇐$]
$V \times W$上の非退化な双線形形式$i$をとる。
$i$は$W$に関して非退化だから、$\Phi_W:W → V^*$は線形同型写像。
この定理により、$W → V^*$の同型写像と$V \times W$の非退化双線形形式は1:1に対応することが分かります。
$V,W$:$F$ベクトル空間
$V'$:$V$の双対空間
$W'$:$W$の双対空間
$f:V → W:$線形写像
$i_V$:$V \times V'$上の非退化双線形形式
$i_W$:$W \times W'$上の非退化双線形形式
このとき、以下を満たす線形写像$g:W' → V'$が一意に存在する。
[存在性]
$i_V$に対応する$\Phi_V:V'→V^*$:同型写像 をとる。
$i_W$に対応する$\Phi_W:W'→W^*$:同型写像 をとる。
$g:W' → V'$
$g(w')=\Phi_V^{-1}((\Phi_W(w')) \circ f)$
と定める。
$g$は線形写像である。
$\forall v \in V, \forall w' \in W'$に対し、
$i_V(v,g(w'))=i_V(v,\Phi_V^{-1}((\Phi_W(w')) \circ f))=\Phi_V(\Phi_V^{-1}((\Phi_W(w')) \circ f))(v)=((\Phi_W(w')) \circ f)(v)=\Phi_W(w')(f(v))$
$i_W(f(v),w')=\Phi_W(w')(f(v))$
[一意性]
$f$の双対$g_0,g_1$をとる。
[$\forall w' \in W', g_0(w')=g_1(w')$を示す。]
$w' \in W'$をとる。
$v \in V$をとる。
$i_V(v,g_0(w')-g_1(w'))=i_V(v,g_0(w'))-i_V(v,g_1(w'))=i_W(f(v),w')-i_W(f(v),w')=0$
よって、$i_V$の非退化性より、$g_0(w')-g_1(w')=0$
従って、$g_0(w')=g_1(w')$
上の定理の$g$を$f$の$i_V,i_W$に関する双対写像と呼ぶ。
同様にして$g$の双対写像が$f$であることも分かるので、$f,g$は$i_V,i_W$に関して互いに双対写像という。
$f:V → W$:線形写像 に対し $f^*:W^* → V^*;\phi↦\phi \circ f$と定めると
$\Phi_V:V→V^*$:同型写像、$\Phi_W:W→W^*$:同型写像 に対応する非退化双線形形式に関して$f,f^*$は互いに双対。
$A:\mathbb{R}^m → \mathbb{R}^n$:行列
$A$は$^tA$と標準内積に関して互いに双対
ここから先は$V \times V$上の対称双線形形式について考えていきます。
$V$:$F$ベクトル空間
$W \leq V$ (部分ベクトル空間)
$i$:$V \times V$上の非退化対称双線形形式
$ρ_W:V→W^*$
$ρ_W(v)(w)=i(v,w)$
とする。
このとき$ρ_W$は全射線形
[$\forall \phi \in W^*, \exists v \in V; ρ_W(v)=\phi$]
$\phi \in W^*$をとる。
$V=W \oplus U$となる$U$をとる。(有限次元だから取れる。)
$\tilde{\phi}:V→F;\tilde{\phi}(w+u)=\phi(w)$と定める。
$\tilde{\phi} \in V^*$である。
$v=ρ_V^{-1}(\tilde{\phi})$とおく。
[$ρ_W(v)=\phi$ i.e. $\forall w \in W,ρ_W(v)(w)=\phi(w)$]
$w \in W$をとる。
$ρ_W(v)(w)=i(v,w)=ρ_V(v)(w)=\tilde{\phi}(w)=\phi(w)$
$V$:$F$ベクトル空間
$i$:$V \times V$上の対称双線形形式
$W \leq V$
このとき
$W^{⊥_i}:=\{v \in V \ |\ \forall w \in W, i(v,w)=0\} = \ker(ρ_W)$
$W^{⊥_i}$を$W$の$i$に関する直交補空間という。
誤解のおそれがないときは単に$W^⊥$と書く。
$W^⊥ \leq V$
[和で閉じる i.e. $\forall v_0,v_1 \in W^⊥, v_0+v_1 \in W^⊥$]
[スカラー倍で閉じる i.e. $\forall v \in W^⊥, \forall c \in F, cv \in W^⊥$]
$W_0,W_1 \leq V$
このとき
$W_0 \leq W_1$ならば$W_1^⊥ \leq W_0^⊥$
[$W_1^⊥ \subset W_0^⊥$ i.e. $\forall v \in W_1^⊥, v \in W_0^⊥$]
$W_0^⊥,W_1 ^⊥\leq V$だから$W_1^⊥ \leq W_0^⊥$
$V$:$F$ベクトル空間
$W \leq V$
$i$:$V \times V$上の非退化対称双線形形式
このとき
$V/W^⊥ \simeq W^*$
$ρ_W$は全射だから$\im(ρ_W)=W^*$
準同型定理より
$V/\ker(ρ_W) \simeq \im(ρ_W)$
$V/W^⊥ \simeq W^*$
$\dim(V)=\dim(W)+\dim(W^⊥)$
$\dim(V/W^⊥)=\dim(V)-\dim(W^⊥)=\dim(W^*)=\dim(W)$
よって、$\dim(V)=\dim(W)+\dim(W^⊥)$
$V$:$F$ベクトル空間
$W \leq V$
$i$:$V \times V$上の非退化対称双線形形式
このとき
$W^{⊥⊥}=W$
[$W^{⊥⊥} \supset W$]
$w \in W$をとる。
$\forall v\ \in W^⊥, i(v,w)=0$
よって$w \in W^{⊥⊥}$
[$W^{⊥⊥} = W$]
上の命題より
$V/W^⊥ \simeq W^*$
よって$\dim(V)-\dim(W^⊥)=\dim(W^*)=\dim(W)$
同様に
$V/W^{⊥⊥} \simeq {W^⊥}^*$
よって$\dim(V)-\dim(W^{⊥⊥})=\dim({W^{⊥}}^*)=\dim(W^{⊥})$
従って$\dim(W)=\dim(W^{⊥⊥})$
$W^{⊥⊥} \supset W$で次元が等しいから$W^{⊥⊥} = W$
$V$:$F$ベクトル空間
$W \leq V$
$i$:$V \times V$上の非退化対称双線形形式
$i|_{W \times W}$が非退化
i.e. $\forall v \in W\setminus \{0\}, \exists w \in W; i(v,w)\not=0$
このとき
$V=W \oplus W^⊥$
[$W \cap W^⊥ = \{0\}$]
$v \in W \cap W^⊥$をとる。
$v\not=0$と仮定すると$\exists w \in W;i(v,w)\not=0$
$v \in W^⊥$だからこれは矛盾。
よって$v=0$
[$V=W+W^⊥$]
$\dim(W+W^⊥)=\dim(W)+\dim(W^⊥)-\dim(W \cap W^⊥)=\dim(V)$
よって$W+W^⊥=V$
$V,W$:$F$ベクトル空間
$i_V$:$V \times V$上の非退化対称双線形形式
$i_W$:$W \times W$上の非退化対称双線形形式
$\phi:V→W$と$\psi:W→V$は$i_V,i_W$に関して互いに双対写像
このとき
[$\im(\psi)^⊥ \subset \ker(\phi)$]
[$\im(\psi)^⊥ \supset \ker(\phi)$]
対称的だから逆も言える。
$\phi$と$\psi$は$i_V,i_W$に関して互いに双対写像
$\dim(\im(\phi))=\dim(\im(\psi))$
$\dim(\ker(\phi))=\dim(\ker(\psi))$
次元定理より
$\dim(V)=\dim(\ker(\phi))+\im(\im(\phi))$
$\dim(W)=\dim(\ker(\psi))+\im(\im(\psi))$
直交補空間だから
$\dim(V)=\dim(\ker(\phi))+\dim(\im(\psi))$
$\dim(W)=\dim(\ker(\psi))+\dim(\im(\phi))$
よって
$\dim(\im(\phi))=\dim(\im(\psi))$
$\dim(\ker(\phi))=\dim(\ker(\psi))$