ギャンブルには様々な戦略が考えられる。ここでいう戦略とは、ギャンブルの進行に応じて刻々と変化する状況に対して、賭け金を決めていく操作であるといえる。
このうち、過去の賭けの結果のみから、次の賭け金を決める戦略を考える。例えば、前回負けた場合は1000円、前回買った場合は5000円賭けるようにする、倍々に賭け金を増やしていく(マルチンゲール法)、ある程度勝ったら賭けから降りる、等のような戦略が考えられる。直感的にはうまく行くような気がする。
しかし、実際には、一回あたりの賭けの期待値が0より大きくない限り、上記のような方法で賭けを実施しても、儲けられないのである。一回当たりの賭けの期待値が0より大きい賭けというのは、胴元にとって不利な賭けであるから、現実世界には存在しないとみてよい。
前述の命題は、後に述べるように数学的に証明できる。
証明を述べていく前に、一旦上記の操作を数式で書き表そう。
今、過去の賭けの結果のみから、次の賭け金を決める戦略を採用しているため、
1回目の賭け金
となる。式は長いが、やっていることは単純で、初期財産に1回目の賭けの儲け、2回目の賭けの儲け、3回目の賭けの儲け……
前節の問題設定において、一般に次の定理が成り立つ。
特に、確率変数
が成り立ち、さらに確率変数
が成り立つ。ただし、
定理の前半から一つずつ見ていこう。
同分布であるというのは、1回目の賭けにおける当たる確率・賭けの配当金の組み合わせと、2回目の賭けにおける当たる確率・賭けの配当金の組み合わせが同じであると言っている。同分布でない場合も、
条件付き期待値という概念に慣れていない人にとっては、難解な数式に感じるかもしれない。だが、一度理解してしまえば、そこまで難解な概念ではない。
定理の核となっているのは、
確率0.001で賭け金の100倍、確率0.02で賭け金の10倍、確率0.95で賭け金の-1倍(=賭けに負ける)得られる賭けの場合、
となる。
以上を踏まえると、上記の定理は
賭け一回の期待値が0以下の賭け(公平or不公平な賭け)において、過去の賭けの結果から上手く次の賭け金を決めて、次の賭け終了時の財産の期待値を大きくしようとしても、その財産の期待値は、今持っている財産より大きくなることはない。
という事実を述べている。期待値上不利な賭けは、どうこねくり回しても不利な賭けにしかなり得ないのだ。
式変形には、以下の条件付き期待値に関する性質を利用する。
・
・XとYが独立なとき
なお、確率変数
が成り立つ。以降の議論は、先ほどと同様に進めればよい。
ちなみに
のような性質を持つとき、上から順に、
現実世界に存在する賭け事の大半が、優マルチンゲールである。