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牛刀割鶏 1(数列の単調収束定理)

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導入

 今回は,数列の収束定理について考えてみたいと思います.大学入試の問題では「この数列の極限値を求めよ」というような問題は頻出です.特に,漸化式によって定義される数列の極限を求める問題は,漸化式から一般項を求めたり,不等式で評価してはさみうち,など色々と問題のタイプが考えられます.
 そんな(無限)数列の極限についての定理について紹介し,大学入試の問題への応用を考えてみようと思います.まあ,大学数学すげえ!たのしい!ってなりたいだけなんですけどね

牛刀の準備

用語の定義

 まず,有界数列について紹介します.

数列の有界性(有界数列)

 数列$\{a_n\}$有界であるとは,すべての$n$に対して
$$ |a_n| \leq K$$
なる,$n$に依存しない定数$K$が存在すること.特に,$a_n \leq K$となることを上に有界であるといい,$a_n \geq - K$となることを下に有界であるという.

 これは数列のいずれの項も,数直線上にプロットしたときに有限な区間$[-K, \ K]$の中に収まる,ということを意味します.

有界数列の例

 例えば$a_n = \frac{(-1)^n}{n}$は,すべての$n$に対して$-1 \leq a_n \leq 1$が成り立つので,有界数列です.

 次に,数列の単調性について紹介します.

数列の単調性(単調増加数列・単調減少数列)

 数列$\{a_n\}$単調増加であるとは,すべての$n$に対して$a_n \leq a_{n+1}$が成立すること.また,数列$\{a_n\}$単調減少であるとは,すべての$n$に対して$a_n \geq a_{n+1}$が成立すること.

 これは分かりやすいと思います.数列の各項が増加していけば単調増加,減少していけば単調減少です.

数列の単調収束定理

 さて,今回のメインテーマである数列の収束定理を紹介します.

数列の収束(数列の単調収束定理)

 上に有界で単調増加な数列は収束する.また,下に有界で単調減少な数列は収束する.

 この定理は増加(または減少)に限界のある数列は収束するという意味だと解釈できます.

どうやって応用するのか

 前述の定理は,漸化式で与えられた数列の極限を求める際に便利です.次のように考えます.

数列の極限値と漸化式

 $a_{n+1} = f(a_n)$で定義されている数列$\{a_n\}$$\alpha$に収束するとき,$\alpha = f(\alpha)$が成立する.

漸化式のまま極限をとる

 漸化式$a_{n+1} = f(a_n)$$n \to \infty$とすると,$a_n$$a_{n+1}$は共に$\alpha$に収束するので$\alpha = f(\alpha)$を得る.

大学入試問題で牛刀割鶏

 それでは,上記の定理を用いて大学入試の問題を解いてみましょう.数列の収束を示すためには,有界性単調性を言えばよいです.これを示せば,前述の命題2を使うことが出来ます.あとはそれによって得られた方程式を解くだけです.

2019 東北大

2019 東北大学 理系 第3問 (設問(1)(2)省略)

 $a$を実数とし,数列$\{x_n\}$を次の漸化式によって定める.
$$ x_1 = a, \qquad x_{n+1} = x_n + x_n^2 \quad (n = 1,\ 2,\ 3, \cdots)$$
(3) $-1< a<0$のとき,数列$\{x_n\}$の極限を調べよ.

解答

 $x_{n+1} - x_n = x_n^2 \geq 0$ゆえ,数列$\{x_n\}$は単調増加.また$-1 < x_1 < 0$であり,$-1 < x_k < 0$ならば$-\frac{1}{2} < x_n + \frac{1}{2} < \frac{1}{2}$ゆえ
$$ x_{k+1} = \left(x_k + \frac{1}{2}\right)^2 - \frac{1}{4}$$
から$-1 < -\frac{1}{4} < x_{k+1} < 0$を得る.よって数列$\{x_n\}$は上に有界である.以上より数列$\{x_n\}$は収束し,その極限値を$X$とすると
$$ X = X + X^2 \qquad \therefore X = 0.$$
よって数列$\{x_n\}$$0$に収束.

2024 慶應大

2024 慶應義塾大学 理工学部 第1問(2)

 関数$f(x)$は実数全体で定義されており,$x \leqq 2$において
$$ \frac{2}{3} - \frac{1}{3} x \leqq f(x) \leqq 2 - x$$
を満たしているものとする.数列$\{a_n\}$は漸化式
$$ a_{n+1} = a_n + f(a_n)$$
を満たしているものとする.

  1. $a_1 \leqq 2$ならば,すべての自然数$n$に対して$a_1 \leqq a_n \leqq 2$となることを証明しなさい.
  2. $a_1 \leqq 2$ならば,$a_1$の値によらず$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n = 2$となることを証明しなさい.
解答
  1. $P_n : a_1 \leq a_n \leq 2$とおく.$a_1 \leq 2$の下,まず$P_1$は真.さらに$P_k$が真ならば,$\frac{2}{3} - \frac{1}{3} a_k \leq f(a_k) \leq 2 - a_k$が成立し
    $$ a_{k+1} \geq a_k + \left(\frac{2}{3} - \frac{1}{3} a_k\right) = \frac{2}{3} (a_k + 1) \geq \frac{2}{3} \left(a_1 + \frac{a_1}{2}\right) = a_1, \qquad a_{k+1} \leq a_k + (2 - a_k) = 2 $$
    より$P_{k+1}$も成立.よって数学的帰納法により示された.
  2. $a_1 \leq 2$のとき,前問より$\{a_n\}$は上に有界.また,命題$P_n$から$a_{n+1} - a_n = f(a_n) \geq \frac{2 - a_n}{3} \geq 0$ゆえ$\{a_n\}$は単調増加数列.よって$\{a_n\}$は収束し,その極限値を$\alpha$とすると$\alpha = \alpha + f(\alpha)$,すなわち$f(\alpha) = 0$を得る.$\alpha \leq 2$なので
    $$ \frac{2}{3} - \frac{1}{3} \alpha \leq f(\alpha) \leq 2 - \alpha, \qquad \therefore 2 \leq \alpha \leq 2, \qquad \therefore \alpha = 2. $$
    よって$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n = 2$が示された.

2005 東京大

2005 東京大学 理類

 関数$f(x)$$f(x) = \dfrac{1}{2} x \{1 + e^{-2(x - 1)}\}$とする.ただし,$e$は自然対数の底である.
(1) $x > \dfrac{1}{2}$ならば$0 \leqq f'(x) < \dfrac{1}{2}$であることを示せ.
(2) $x_0$を正の数とするとき,数列$\{x_n\} \ (n = 0,\ 1, \cdots)$を,$x_{n+1} = f(x_n)$によって定める.$x_0 > \dfrac{1}{2}$であれば,$\displaystyle \lim_{n \to \infty} x_n = 1$であることを示せ.

解答の前に

 流石の東大,といったところでしょうか.先ほどの問題たちは,出題される数列がそのまま単調数列になっているのですが,本問の$\{x_n\}$は単調数列ではないんですよね.この問題を解くためには,とある工夫が必要です.
 ちなみに(1)は頑張って微分して増減表を描けば示せるので省略します.

(2)の解答

 数列$\{|x_n - 1|\}$を考え,これが$0$に収束することを示す.$y_n = |x_n - 1|$とおくと$y_n \geq 0$で下に有界.あとは$\{y_n\}$が単調減少であることを示す.
$$ y_{n+1} - y_n = \left|\dfrac{1}{2} x_n \{1 + e^{-2(x_n - 1)}\} - 1\right| - |x_n - 1| = \frac{1}{2} |f(x_n) - f(1)| - |x_n - 1| $$
で,平均値の定理により
$$ f(x_n) - f(1) = f'(c_n) (x_n - 1) $$
なる$c_n$$x_n$$1$の間に存在.区間$x>1/2$では$f(x)$は単調増加ゆえ,$x_k > 1/2$ならば$x_{k+1} = f(x_k) > f(1/2) = (1+e)/4 > 1/2$.これと$x_0 > 1/2$から帰納的に$x_n > 1/2$.したがって,$c_n$$x_n$$1$の間ゆえ$c_n > 1/2$を得る.よって(1)から$0 \leq f'(c_n) < 1/2$だから
$$ y_{n+1} - y_n < \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{2} |x_n - 1| - |x_n - 1| < 0 $$
となって単調減少.よって$\{y_n\}$は収束するので$\{x_n\}$も収束.$\{x_n\}$の極限値を$X$とおくと,$x_n > 1/2$から$X \neq 0$ゆえ
$$ X = \frac{1}{2} X \{1 + e^{-2(X - 1)}\} \qquad \therefore X = 1. $$

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更新日:315

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ItaRic
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