今回は,数列の収束定理について考えてみたいと思います.大学入試の問題では「この数列の極限値を求めよ」というような問題は頻出です.特に,漸化式によって定義される数列の極限を求める問題は,漸化式から一般項を求めたり,不等式で評価してはさみうち,など色々と問題のタイプが考えられます.
そんな(無限)数列の極限についての定理について紹介し,大学入試の問題への応用を考えてみようと思います.まあ,大学数学すげえ!たのしい!ってなりたいだけなんですけどね
まず,有界数列について紹介します.
数列$\{a_n\}$が有界であるとは,すべての$n$に対して
$$ |a_n| \leq K$$
なる,$n$に依存しない定数$K$が存在すること.特に,$a_n \leq K$となることを上に有界であるといい,$a_n \geq - K$となることを下に有界であるという.
これは数列のいずれの項も,数直線上にプロットしたときに有限な区間$[-K, \ K]$の中に収まる,ということを意味します.
例えば$a_n = \frac{(-1)^n}{n}$は,すべての$n$に対して$-1 \leq a_n \leq 1$が成り立つので,有界数列です.
次に,数列の単調性について紹介します.
数列$\{a_n\}$が単調増加であるとは,すべての$n$に対して$a_n \leq a_{n+1}$が成立すること.また,数列$\{a_n\}$が単調減少であるとは,すべての$n$に対して$a_n \geq a_{n+1}$が成立すること.
これは分かりやすいと思います.数列の各項が増加していけば単調増加,減少していけば単調減少です.
さて,今回のメインテーマである数列の収束定理を紹介します.
上に有界で単調増加な数列は収束する.また,下に有界で単調減少な数列は収束する.
この定理は増加(または減少)に限界のある数列は収束するという意味だと解釈できます.
前述の定理は,漸化式で与えられた数列の極限を求める際に便利です.次のように考えます.
$a_{n+1} = f(a_n)$で定義されている数列$\{a_n\}$が$\alpha$に収束するとき,$\alpha = f(\alpha)$が成立する.
漸化式$a_{n+1} = f(a_n)$で$n \to \infty$とすると,$a_n$と$a_{n+1}$は共に$\alpha$に収束するので$\alpha = f(\alpha)$を得る.
それでは,上記の定理を用いて大学入試の問題を解いてみましょう.数列の収束を示すためには,有界性と単調性を言えばよいです.これを示せば,前述の命題2を使うことが出来ます.あとはそれによって得られた方程式を解くだけです.
$a$を実数とし,数列$\{x_n\}$を次の漸化式によって定める.
$$ x_1 = a, \qquad x_{n+1} = x_n + x_n^2 \quad (n = 1,\ 2,\ 3, \cdots)$$
(3) $-1< a<0$のとき,数列$\{x_n\}$の極限を調べよ.
$x_{n+1} - x_n = x_n^2 \geq 0$ゆえ,数列$\{x_n\}$は単調増加.また$-1 < x_1 < 0$であり,$-1 < x_k < 0$ならば$-\frac{1}{2} < x_n + \frac{1}{2} < \frac{1}{2}$ゆえ
$$ x_{k+1} = \left(x_k + \frac{1}{2}\right)^2 - \frac{1}{4}$$
から$-1 < -\frac{1}{4} < x_{k+1} < 0$を得る.よって数列$\{x_n\}$は上に有界である.以上より数列$\{x_n\}$は収束し,その極限値を$X$とすると
$$ X = X + X^2 \qquad \therefore X = 0.$$
よって数列$\{x_n\}$は$0$に収束.
関数$f(x)$は実数全体で定義されており,$x \leqq 2$において
$$ \frac{2}{3} - \frac{1}{3} x \leqq f(x) \leqq 2 - x$$
を満たしているものとする.数列$\{a_n\}$は漸化式
$$ a_{n+1} = a_n + f(a_n)$$
を満たしているものとする.
関数$f(x)$を$f(x) = \dfrac{1}{2} x \{1 + e^{-2(x - 1)}\}$とする.ただし,$e$は自然対数の底である.
(1) $x > \dfrac{1}{2}$ならば$0 \leqq f'(x) < \dfrac{1}{2}$であることを示せ.
(2) $x_0$を正の数とするとき,数列$\{x_n\} \ (n = 0,\ 1, \cdots)$を,$x_{n+1} = f(x_n)$によって定める.$x_0 > \dfrac{1}{2}$であれば,$\displaystyle \lim_{n \to \infty} x_n = 1$であることを示せ.
流石の東大,といったところでしょうか.先ほどの問題たちは,出題される数列がそのまま単調数列になっているのですが,本問の$\{x_n\}$は単調数列ではないんですよね.この問題を解くためには,とある工夫が必要です.
ちなみに(1)は頑張って微分して増減表を描けば示せるので省略します.
数列$\{|x_n - 1|\}$を考え,これが$0$に収束することを示す.$y_n = |x_n - 1|$とおくと$y_n \geq 0$で下に有界.あとは$\{y_n\}$が単調減少であることを示す.
$$
y_{n+1} - y_n = \left|\dfrac{1}{2} x_n \{1 + e^{-2(x_n - 1)}\} - 1\right| - |x_n - 1| = \frac{1}{2} |f(x_n) - f(1)| - |x_n - 1|
$$
で,平均値の定理により
$$
f(x_n) - f(1) = f'(c_n) (x_n - 1)
$$
なる$c_n$が$x_n$と$1$の間に存在.区間$x>1/2$では$f(x)$は単調増加ゆえ,$x_k > 1/2$ならば$x_{k+1} = f(x_k) > f(1/2) = (1+e)/4 > 1/2$.これと$x_0 > 1/2$から帰納的に$x_n > 1/2$.したがって,$c_n$は$x_n$と$1$の間ゆえ$c_n > 1/2$を得る.よって(1)から$0 \leq f'(c_n) < 1/2$だから
$$
y_{n+1} - y_n < \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{2} |x_n - 1| - |x_n - 1| < 0
$$
となって単調減少.よって$\{y_n\}$は収束するので$\{x_n\}$も収束.$\{x_n\}$の極限値を$X$とおくと,$x_n > 1/2$から$X \neq 0$ゆえ
$$
X = \frac{1}{2} X \{1 + e^{-2(X - 1)}\}
\qquad \therefore
X = 1.
$$