ここでは東大数理の修士課程の院試の2024B12の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
自然数$m\geq1$に対し、開円板$\{z\in\mathbb{C}||z=1|\}$上の正則関数
$$
\mathrm{Li}_m(z):=\sum_{n=1}^\infty\frac{z^n}{n^m}
$$
を考える。
今回の問題は元の問題から大幅に変えてあります。元々の問題は本記事の(3)がなく代わりに「(3) $\mathrm{Li}_m(z)$は$\mathbb{C}\backslash\{0,1\}$上、$\frac{1}{2}$を始点とする任意の曲線に沿って解析接続できることを示せ」「(4) $\mathrm{Li}_m(z)$は$\mathbb{C}\backslash\{1\}$上、$\frac{1}{2}$を始点とするある曲線に沿っては解析接続できないことを示せ」という問題がついていました。ただ本記事の(3)を述べた後だとこの問題が蛇足になるという理由でここでは述べませんでした。以下蛇足になる理由を述べることで元の問題の解説の代わりとさせていただきます。ご了承ください。
まず$\log(1-x)$が可算個の$\mathbb{C}\backslash[1,\infty)$を張り合わせたリーマン面$Y$上で定義できるのと同じように、$\mathrm{Li}_m$も同じリーマン面で定義できるように一見見えます。しかしここで(3)で示した等式
$$
\mathrm{Li}_{m}(x+i0)-\mathrm{Li}_{m}(x-i0)=i\frac{2\pi\log^{m-1} x}{(m-1)!}
$$
を思い出してみましょう。これはつまり上記の$Y$上で$\mathrm{Li}_m$を定義しようとすると、$z=1$の周りを一周するごとに$\mathrm{Li}_{m}(z)$は$i\frac{2\pi\log^{m-1} x}{(m-1)!}$だけ増えて(or減って)いくことを表しています。つまり$\mathrm{Li}_m$は$\mathbb{C}\backslash[1,\infty)$上では問題なく定義できるものの、隣の$\mathbb{C}\backslash[1,\infty)$では$\mathrm{Li}_m$が$\mathrm{Li}_m\pm i\frac{2\pi\log^{m-1} x}{(m-1)!}$になる、特に$z=0$を分枝に持つようになってしまうので、$Y$上の一価関数として定義できません。$\mathrm{Li}_m$だけをみてもわからないですが、$(-\infty,0]$が実は$\mathrm{Li}_m$の分岐点になってしまっています。ですから$\mathbb{C}\backslash\{1\}$上の曲線で解析接続しようとしても、この分枝を無視しているからうまく行かないというわけです。逆にこの分枝を考慮して$\mathbb{C}\backslash\{0,1\}$を考えるとこの上の任意の曲線に沿って解析接続することができます。本記事の(3)が元問題の(3)(4)の核心になっていると考え、本記事ではこれらを省略させていただきました。
$\mathrm{Li}_m$は具体的に
$$
\mathrm{Li}_m(z)=\frac{z}{(m-1)!}\int_0^\infty\frac{t^{m-1}}{e^t-z}dt
$$
と書き表すこともできます。証明は積分
$$
\frac{1}{n^m}=\frac{1}{(m-1)!}\int_{0}^\infty t^{m-1}e^{-nt}dt
$$
を元の巾級数に代入するだけです。
$\mathrm{Li}_m(z)$は多重対数関数と呼ばれています。