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東大数理院試過去問解答例(2024B12)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2024B12の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2024B12(改)

自然数$m\geq1$に対し、開円板$\{z\in\mathbb{C}||z=1|\}$上の正則関数
$$ \mathrm{Li}_m(z):=\sum_{n=1}^\infty\frac{z^n}{n^m} $$
を考える。

  1. 等式
    $$ \mathrm{Li}_{m+1}'(z)=\frac{\mathrm{Li}_m(z)}{z} $$
    を示しなさい。
  2. $\mathrm{Li}_m(z)$$\mathbb{C}\backslash[1,\infty)$上の正則関数に解析接続されることを示しなさい。
  3. (2)で定義された$\mathbb{C}\backslash[1,\infty)$上の正則関数も$\mathrm{Li}_m$とおく。任意の$x\in(1,\infty)$に対して極限
    $$ \mathrm{Li}_{m+1}(x+i0):=\lim_{\varepsilon\to +0}\mathrm{Li}_m(x+i\varepsilon) $$
    $$ \mathrm{Li}_{m+1}(x-i0):=\lim_{\varepsilon\to +0}\mathrm{Li}_m(x-i\varepsilon) $$
    が存在すること、これらが$\mathbb{R}$上の連続関数を定めていること、そして等式
    $$ \mathrm{Li}_{m}(x+i0)-\mathrm{Li}_{m}(x-i0)=i\frac{2\pi\log^{m-1} x}{(m-1)!} $$
    が成り立つことを示しなさい。
  1. 項別微分で直接確かめれば良い。
  2. 初めに$X=\mathbb{C}\backslash[0,\infty)$上帰納的に
    $$ \mathrm{Li}_2(z)=-\int_0^z\frac{\log{1-t}}{t}dt $$
    $$ \mathrm{Li}_m(z):=\int_{0}^z\frac{\mathrm{Li}_{m-1}(t)}{t}dt $$
    と定義する(但し$\log$の分枝は$[0,\infty)$にとる)。このとき$\mathrm{Li}_m$$z=0$に零点を持つ正則関数であることが帰納的に従う。
  3. まず(2)の定義によって$\mathrm{Li}_m$$\log(1-z)$が一価関数として定義されるリーマン面上で$X$上の正則関数を定め、その閉包$\overline{X}$上の連続関数を定めていることが帰納的にわかる。特に任意の$x\in(1,\infty)$に対して極限
    $$ \mathrm{Li}_{m+1}(x+i0):=\lim_{\varepsilon\to +0}\mathrm{Li}_m(x+i\varepsilon) $$
    $$ \mathrm{Li}_{m+1}(x-i0):=\lim_{\varepsilon\to +0}\mathrm{Li}_m(x-i\varepsilon) $$
    が存在すること、これらが$(1,\infty)$上の連続関数を定めていることがわかる。また(2)の定義から$m>1$に対して極限
    $$ \lim_{z\to1}\mathrm{Li}_m(z) $$
    が存在することも帰納的にわかる。よって等式
    $$ \begin{split} \mathrm{Li}_m(x+i0)-\mathrm{Li}_m(x-i0)&=\lim_{\varepsilon\to0}\int_{C_\varepsilon}\frac{\mathrm{Li}_{m-1}(x)}{x}dx\\ &=\int_1^x\frac{\mathrm{Li}_{m-1}(t+i0)-\mathrm{Li}_{m-1}(t-i0)}{t}dt\\ &=\int_1^x\frac{i2\pi\log^{m-2}t}{(m-2)!t}dx\\ &=\frac{i2\pi}{(m-2)!}\int_1^x\frac{\log^{m-2}t}{t}dt\\ &=\frac{i2\pi}{(m-2)!}\int_0^{\log x}s^{m-2}ds\\ &=i\frac{2\pi\log^{m-1}x}{(m-1)!} \end{split} $$
    が成り立つ(但し$C_\varepsilon$$x$から実軸上を$\varepsilon$まで移り、$z=1$を中心とする半径$\varepsilon$の円周を反時計回りに周り、実軸上を$\varepsilon$から$x$に移動する経路を表す)。よって所望の等式が得られた。

今回の問題は元の問題から大幅に変えてあります。元々の問題は本記事の(3)がなく代わりに「(3) $\mathrm{Li}_m(z)$$\mathbb{C}\backslash\{0,1\}$上、$\frac{1}{2}$を始点とする任意の曲線に沿って解析接続できることを示せ」「(4) $\mathrm{Li}_m(z)$$\mathbb{C}\backslash\{1\}$上、$\frac{1}{2}$を始点とするある曲線に沿っては解析接続できないことを示せ」という問題がついていました。ただ本記事の(3)を述べた後だとこの問題が蛇足になるという理由でここでは述べませんでした。以下蛇足になる理由を述べることで元の問題の解説の代わりとさせていただきます。ご了承ください。

まず$\log(1-x)$が可算個の$\mathbb{C}\backslash[1,\infty)$を張り合わせたリーマン面$Y$上で定義できるのと同じように、$\mathrm{Li}_m$も同じリーマン面で定義できるように一見見えます。しかしここで(3)で示した等式
$$ \mathrm{Li}_{m}(x+i0)-\mathrm{Li}_{m}(x-i0)=i\frac{2\pi\log^{m-1} x}{(m-1)!} $$
を思い出してみましょう。これはつまり上記の$Y$上で$\mathrm{Li}_m$を定義しようとすると、$z=1$の周りを一周するごとに$\mathrm{Li}_{m}(z)$$i\frac{2\pi\log^{m-1} x}{(m-1)!}$だけ増えて(or減って)いくことを表しています。つまり$\mathrm{Li}_m$$\mathbb{C}\backslash[1,\infty)$上では問題なく定義できるものの、隣の$\mathbb{C}\backslash[1,\infty)$では$\mathrm{Li}_m$$\mathrm{Li}_m\pm i\frac{2\pi\log^{m-1} x}{(m-1)!}$になる、特に$z=0$を分枝に持つようになってしまうので、$Y$上の一価関数として定義できません。$\mathrm{Li}_m$だけをみてもわからないですが、$(-\infty,0]$が実は$\mathrm{Li}_m$の分岐点になってしまっています。ですから$\mathbb{C}\backslash\{1\}$上の曲線で解析接続しようとしても、この分枝を無視しているからうまく行かないというわけです。逆にこの分枝を考慮して$\mathbb{C}\backslash\{0,1\}$を考えるとこの上の任意の曲線に沿って解析接続することができます。本記事の(3)が元問題の(3)(4)の核心になっていると考え、本記事ではこれらを省略させていただきました。

$\mathrm{Li}_m$は具体的に
$$ \mathrm{Li}_m(z)=\frac{z}{(m-1)!}\int_0^\infty\frac{t^{m-1}}{e^t-z}dt $$
と書き表すこともできます。証明は積分
$$ \frac{1}{n^m}=\frac{1}{(m-1)!}\int_{0}^\infty t^{m-1}e^{-nt}dt $$
を元の巾級数に代入するだけです。

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藍色の日々。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。リンクはX(旧Twitter)アカウント

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