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ディリクレ積分の様々な解法(随時更新)

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ディリクレ積分の様々な解法(随時更新)

はじめに

ディリクレ積分0sinx/xdx=π/2の解法の中で,過去に自分が思いついたものを列挙してみました.学習にお役立てください.
理系学生であれば誰でもわかるような簡単な内容になるよう努めましたので,途中まででも見ていただければ幸いです.
また,ほかにも解法があれば教えていただきたいです(随時追加予定).

1.複素積分(オタク度☆☆☆☆☆)

まず,下図の積分路でeiz/zを複素積分することを考える.(R>0)

複素積分路(パイナポー) 複素積分路(パイナポー)

コーシーの積分定理より,

CReizzdz=0

また,

|C1eizzdz|<C1|eizz||dz| ()=0π|eiRcosθRsinθReiθ||iReiθdθ|(zeiθ)=0πeRsinθRRdθ<20π/2e2Rθ/πdθ ()=π1eRR0 (as R)

また,

C3eizzdz=C3[1z+n=1inzn1n!]dz=π0[Reiθ+n=1inei(n1)θRn1n!]ieiθRdθ ()=πi+n=1in[(1)n1]nRnn!πi (as R)

以上により,

limRCReizzdz=0+0eizzdzπi+0eizzdz=eizzdzπi=0

虚部を比較して,
sinzzdz=π

sinz/zは偶関数だから,以上により,

0sinzzdz=π2

を得る.

補足

・多くの参考書ではぐらかされていること:なぜsinのまま計算せず,eizの虚部をとるのかというと,C1の積分が発散するため,パイナポーを2回使わなければならないからです.複素積分は天下り的な解法が多いので定石を覚えましょう.
1/Rε0など,独立させるやり方のほうがポピュラーです.好みに応じて使い分けましょう.
C1の積分の絶対値の評価ですが,十分性を示せればよいので,無理に不等式に=をつける必要はありません.
・パイナポー(今回の積分路)にエポニムがあった気がします(古い本にあったような).ネットでいくら調べても出てこないので,知っている方は教えてください.

2.ラプラス変換を用いる方法(オタク度★☆☆☆☆)

公式
L[sint](s)=0sint estdt=1s2+1...(2,1) , L[f(t)t](s)=sL[f(t)](σ)dσ...(2,2)
を用いて計算する.せっかくなので,これらも証明する.

(2,1)について.
本来であればsC,Re(s)>0ゆえ,部分積分を用いて計算するのが適当だが,今回はsが実数の場合のみで十分だから,s>0として,

L[sint](s)=Im0eit estdt=Im0 e(si)tdt=Ime(si)tsi|t=0=Im1si=Ims+is2+1=1s2+1

(2,2)について.

L[f(t)t](s)=0f(t)t estdt=0sf(t) eσtdσdt=s0f(t) eσtdtdσ=sL[f(t)](σ)dσ

以上から,

L[sintt](s)=0sintt estdt=sL[sint](σ)dσ=sdσσ2+1=arctanσ|σ=s=π2arctans

上式において,s+0として,

0sinttdt=π2

を得る.

補足

・所謂,Feinman's trickは本質的に同一な気がするのでこれに含めます.
0sin(tx)/xdx をラプラス変換する方法もあります.
・工学部の院試で誘導付きでたまに出ます.

3.矩形関数のフーリエ逆変換を用いる方法(オタク度★★☆☆☆)

矩形関数rect(t)を次式で定義する(一般的な定義と異なるため注意).

rect(t):={1 |t|10 otherwise

よって,この関数のフーリエ変換は

F[rect(t)](ω)=rect(t) eiωtdt=11rect(t) eiωtdt=eiωtiω|t=11=2ωeiωeiω2i=2sinωω

となる.よって,フーリエ逆変換から,

rect(t)=F1[2sinωω](t)=12π2sinωω eiωtdω

t=0として,上式にπを掛けると,

sinωωdω=πrect(0)=π

sinω/ωは偶関数だから,以上により,

0sinωωdω=π2

を得る.

補足

・当たり前ですが,フーリエ変換や矩形関数の定義によらず導出できます.ですので,今回は一番ラクな定義を採用しています.
・矩形波のフーリエ変換の結果を知っていれば思いつける解法です.
・例によって院試でも見かけます.

4.1/sinxの部分分数展開を用いる方法(オタク度★★★☆☆)

sinxxdx=n=nπ(n+1)πsinxxdx=n=0πsin(x+nπ)x+nπdx(xx+nπ)

1/sinxの部分分数展開
1sinx=n=(1)nx+nπ

に注意すると,

n=0πsin(x+nπ)x+nπdx=n=0π(1)nsinxx+nπdx=0πsinxn=(1)nx+nπdx=0πdx=π

ゆえに,
sinxxdx=π

sinx/xは偶関数だから,以上により,

0sinxxdx=π2

を得る.

5.Frullani integralを用いる方法(オタク度★★★☆☆)

f(x)=ex,a=εi,b=ε+i (ε>0,arga=arctan(1/ε),argb=arctan(1/ε))として,Frullani integral

0f(ax)f(bx)xdx=[f()f(0)]logab

を計算すると,

2i0eεxsinxxdx=(01)logεiε+i=logε+iεi

ε+0として,上式を2iで割ると,

0sinxxdx=πi2i=π2
を得る.

6.sinxのメリン変換を用いる方法(オタク度★★★☆☆)

sinxのメリン変換

M[sinx](s)=0xs1sinxdx=Γ(s)sin(πs2)

を用いて証明する.せっかくなので,これも証明する.

今回,0<s<1としてよく,
M[sinx](s)=Imlimε+00xs1e(εi)xdx=Imlimε+0Lx[xs1](εi)=Imlimε+0Γ(s)(εi)s=ImΓ(s)eiπ/2(s)=ImΓ(s)eiπs/2=Γ(s)sin(πs2)

また,このとき,
Γ(s)sin(πs2)=πsin(πs/2)Γ(1s)sin(πs) ()=πsin(πs/2)Γ(1s)2sin(πs/2)cos(πs/2)=π2Γ(1s)cos(πs/2)

より,s+0として,
0sinxxdx=π2
を得る.

補足

・メリン変換ゆえ,Ramanujan's master theoremを用いる方法
0xs1sinxdx=0xs1n=0(1)n(2n+1)!x2n+1dx=120x(s+1)/21n=0Γ(1+n)Γ(2+2n)(x)nn!dx (xx)=12Γ(s+12)Γ(1s+12)Γ(2(s+1))=π2Γ(1s)cos(πs/2)π2 (as s+0)

もありますがこれに含めます.

投稿日:2023716
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投稿者

東北大学工学研究科出身 できるだけ受け売りはせず,自分で思いついた解法や妄想を備忘録がてら書き綴っていこうと思います.

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  4. 2.ラプラス変換を用いる方法(オタク度★☆☆☆☆)
  5. 3.矩形関数のフーリエ逆変換を用いる方法(オタク度★★☆☆☆)
  6. 4.$1/\sin x$の部分分数展開を用いる方法(オタク度★★★☆☆)
  7. 5.Frullani integralを用いる方法(オタク度★★★☆☆)
  8. 6.$\sin x$のメリン変換を用いる方法(オタク度★★★☆☆)