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f(x)^2-f(y)^2=f(x+y)f(x-y) をみたす函数

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{K}[0]{\mathbb{K}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{sgn}[0]{\operatorname{sgn}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

ここでは以下の問題を考えます。
$\K$$\R$または$\C$であるとします。(しばらくは$\K$の性質として$\Q$線型空間であることしか使わないので、$\Q$線型空間と考えてもよいです。)

$f:\K\to\C$であって任意の$x,y\in\K$に対して
$$f(x)^2-f(y)^2=f(x+y)f(x-y)\tag{1}$$
をみたすものを全て求めよ。

この方程式の解は実質的に$x$$\sin x$のみであることを以下で示します。

連続性を仮定しない場合

はじめに結果を示しておきます。

$f:\K\to\C$が任意の$x,y\in\K$に対して
$$f(x)^2-f(y)^2=f(x+y)f(x-y)\tag{1}$$
をみたすとき、以下のいずれかが成り立つ。

  • 任意の$x,y\in\K$に対して$f(x+y)=f(x)+f(y)$が成り立つ。
  • $c\in\C\setminus\{0\}$および$g:\K\to\C\setminus\{0\}$であって任意の$s,t\in\K$に対して$g(s+t)=g(s)g(t)$が成り立つものが存在して、任意の$x\in\K$に対して$f(x)=c(g(x)-g(x)^{-1})$が成り立つ。
逆に、$f$が上のいずれかをみたすとき、函数方程式(1)が成り立つ。

証明の概略

$f(t)$$f(2t)$の値がわかっているときに$P(2t,t)$から$f(3t)=\frac{f(2t)^2-f(t)^2}{f(t)}$が得られ、$P(nt,t)$を考えることで$f(nt)$が帰納的にわかります。これを用いて$f(t),f(2t),f(3t),\ldots$という列を$4$パターンに分類し、$f$の定義域$\K$$S_1$, $S_2$, $S_3$, $S_4$に分割します。(これらの定義は後述。)
$\K=S_1\cup S_4$のときは$f(t),f(2t),f(3t),\ldots$という列が大きな情報を持っているので$P(nx,ny)$を考えることで考察が進められます。
$\K=S_1\cup S_2$のときは$f(2t)=2f(t)$がつねに成り立つので$P(x,y)$$P(x+y,x-y)$を連立することで考察が進められます。

簡単な考察

与式を$P(x,y)$で表します。
$P(0,0)$により$f(0)=0$が、$P(0,y)$$P(0,-y)$により$f(-y)=-f(y)$がわかります。また、$f(a)=f(b)=0$のとき$P(a+b,b)$により$f(a+b)=0$です。
以上により、$f$の零点集合は加法群をなすことがわかります。
さらに、$f(a)=0$のとき、$P(x+a,x)$から$f(x+a)^2=f(x)^2$であり、$P(x+a,a)$$P(x,0)$の比較から$f(x+2a)f(x)=f(x)^2$となります。$f$の零点集合が加法群であったことから、$f(x)=0$ならば$f(x+2a)=0$となることを踏まえると、$f(x+2a)=f(x)$が得られます。
したがって、$f(a)=0$ならば$2a$$f$の周期です。

$f(t),f(2t),f(3t),\ldots$の分類

$t\in\K$を任意にとります。$f(t)=0$のとき任意の$n\in\Z$に対して$f(nt)=0$となります。$f(t)\neq 0$のときを考えます。
$f(2t)$の値によって場合分けをします。

$f(2t)=2f(t)$の場合

$P(nt,t)$により$f(nt)^2-f(t)^2=f\bigl((n+1)t\bigr)f\bigl((n-1)t\bigr)$なので正の整数$n$に対して$f(nt)=nf(t)$が帰納的にわかり、$f(-y)=-f(y)$から任意の整数についてわかります。

$f(2t)=-2f(t)$の場合

前段落と同様にして$f(nt)=(-1)^{n-1}nf(t)$がわかります。

$f(2t)\neq \pm 2f(t)$の場合

複素数$c\neq 0$および$z\neq 0,1$を用いて$f(t)=c(z-z^{-1}),\ f(2t)=c(z^2-z^{-2})$と表すことができます。

理由

$\frac{f(2t)}{f(t)}\neq\pm 2$なので$\frac{f(2t)}{f(t)}=z+z^{-1}$となるような$z\in\C\setminus\{\pm 1\}$をとることができる。
$c=\frac{f(t)}{z-z^{-1}}$と定めればよい。


$f(kt)=c(z^k-z^{-k})$$k=1,\ldots,n$について成り立っているとします。
$f\bigl((n-1)t\bigr)\neq 0$のときは$$f\bigl((n+1)t\bigr)=\frac{f(nt)^2-f(t)^2}{f\bigl((n-1)t\bigr)}=c(z^{n+1}-z^{-(n+1)})$$
となります。
$f\bigl((n-1)t\bigr)=0$のときは、$c(z^{n-1}-z^{-(n-1)})=0$から$z^{2(n-1)}=1$であり、$2(n-1)t$$f$の周期であることから$f\bigl((n+1)t\bigr)=-f\bigl((n-3)t\bigr)=-c(z^{n-3}-z^{-(n-3)})=c(z^{n+1}-z^{-(n+1)})$となります。
以上をあわせると任意の整数$n$について$f(nt)=c(z^n-z^{-n})$がわかります。

以上をまとめると以下のようになります。

$t\in\K$について以下のいずれかが成り立つ。

  • 任意の整数$n$に対して$f(nt)=0$が成り立つ。
  • 複素数$c_t\neq 0$が存在して任意の整数$n$に対して$f(nt)=c_tn$が成り立つ。
  • 複素数$c_t\neq 0$が存在して任意の整数$n$に対して$f(nt)=(-1)^{n-1}c_tn$が成り立つ。
  • 複素数$c_t\neq 0$, $z_t\neq 0,\pm 1$が存在して任意の整数$n$に対して$f(nt)=c_t({z_t}^n-{z_t}^{-n})$が成り立つ。

ここで、以下のように集合を定めます。

$S_1\coloneqq\{t\in\K\mid\forall n\in\Z\,\,\,f(nt)=0\}$
$S_2\coloneqq\{t\in\K\mid\exists c\in\C\setminus\{0\}\,\,\forall n\in\Z\,\,\,f(nt)=cn\}$
$S_3\coloneqq\{t\in\K\mid\exists c\in\C\setminus\{0\}\,\,\forall n\in\Z\,\,\,f(nt)=(-1)^{n-1}cn\}$
$S_4\coloneqq\{t\in\K\mid\exists c\in\C\setminus\{0\}\,\,\exists z\in\C\setminus\{0,\pm 1\}\,\,\forall n\in\Z\,\,\,f(nt)=c(z^n-z^{-n})\}$

$S_1\sqcup S_2\sqcup S_3\sqcup S_4=\K$であることに注意します。

$S_2$, $S_4$が両立しないことの証明

まず、$S_3$が空であることを示します。$\frac t2$$S_1,S_2,S_3,S_4$のどれに属していても$t\in S_3$とはなりえないので$S_3$は空です。

$S_2$$S_4$がどちらも空でないと仮定し、$x\in S_2$および$y\in S_4$を一組とります。
$P(nx,ny)$により
$${c_x}^2n^2-{c_y}^2({z_y}^n-{z_y}^{-n})^2=f(n(x+y))f(n(x-y))$$
となるが、これは$f(n(x+y))$, $f(n(x-y))$がどのようであったとしても成り立ちません。

証明

一般性を失わず、$\lvert z_y\rvert$, $\lvert z_{x+y}\rvert$, $\lvert z_{x-y}\rvert$はいずれも$1$以上であると仮定する。
左辺は$\lvert z_y\rvert=1$のとき$n^2$が、$\lvert z_y\rvert>1$のとき${z_y}^{2n}$が支配的となるので$x+y$, $x-y$はどちらも$S_1$の元ではない。
$x+y,x-y\in S_2$のときは${c_y}^2({z_y}^n-{z_y}^{-n})^2=({c_x}^2-c_{x+y}c_{x-y})n^2$となり、両辺が$0$となることが必要だが、これは$z_y\neq\pm 1$に矛盾。
$x+y\in S_2$, $x-y\in S_4$のときは右辺のオーダーは$n{z_{x-y}}^n$となり、$\lvert z_{x-y}\rvert=1$のときもそうでないときも、左辺のオーダーをこれに合わせることはできない。
$x+y\in S_4$, $x-y\in S_2$のときは同様。
$x+y,x-y\in S_4$のとき、$\lvert z_y\rvert=1$ならば左辺のオーダーは$n^2$となり、右辺をこれに合わせることはできない。したがって、$\lvert z_y\rvert>1$である。右辺のオーダーは${z_{x+y}}^{n}{z_{x-y}}^{n}$であり、$\lvert z{x+y}\rvert=\lvert z_{x-y}\rvert=1$となることはない。
$\lvert z_{x-y}\rvert=1$のとき、右辺の支配的な項${z_{x+y}}^n({z_{x-y}}^n-{z_{x-y}}^n)$は左辺では打ち消すことができず矛盾。$\lvert z_{x+y}\rvert=1$のときも同様。
$\lvert z_{x+y}\rvert$, $\lvert z_{x-y}\rvert$がどちらも$1$でないときは、最高次の項が打ち消しあって残った式${c_x}^2n^2=-c_{x+y}c_{x-y}({z_{x+y}}^n{z_{x-y}}^{-n}+{z_{x+y}}^{-n}{z_{x-y}}^{n})$が成り立ちえないので矛盾。


したがって、$S_2$$S_4$の少なくとも一方は空です。

$S_2$, $S_4$がどちらも空の場合

言わずもがな$f=0$です。

$S_2$が空の場合

ここまでに示したことから、任意の$t\in\K$に対して$c_t\in\C$および$z_t\in\C\setminus\{0\}$が存在して$f(nt)=c_t({z_t}^n-{z_t}^{-n})$が成り立ちます。ただし、$t\in S_1$の場合は$c_t=0$であるように定めます。また、$t\in S_4$の場合は$(c_t,z_t)$として$(c,z)$$(-c,z^{-1})$$2$つがありうることに注意します。
$P(nx,ny)$により、
$${c_x}^2({z_x}^n-{z_x}^{-n})^2-{c_y}^2({z_y}^n-{z_y}^{-n})^2=c_{x+y}c_{x-y}({z_{x+y}}^n-{z_{x+y}}^{-n})({z_{x-y}}^n-{z_{x-y}}^{-n})\tag{2}$$
が得られます。
$z\in\C$とし、$\lvert z\rvert$が十分小さいとき、(2)の両辺に$z^n$を掛けて$n\geq 1$で足し合わせたものは収束し、
\begin{align} &{c_x}^2\biggl(\frac{1}{z-{z_x}^2}-\frac{2}{z-1}+\frac{1}{z-{z_x}^{-2}}\biggr)-{c_y}^2\biggl(\frac{1}{z-{z_y}^2}-\frac{2}{z-1}+\frac{1}{z-{z_y}^{-2}}\biggr)\\ &=c_{x+y}c_{x-y}\biggl(\frac{1}{z-{z_{x+y}}{z_{x-y}}}+\frac{1}{z-{z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}^{-1}}-\frac{1}{z-{z_{x+y}}{z_{x-y}}^{-1}}-\frac{1}{z-{z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}}\biggr) \end{align}
となります。これを極を除いた$\C$全体に解析接続し、(詳細は省きますが)右辺の極の個数について場合分けを行うことで以下が得られます。

(全て書くと煩雑になるため、$x,y$を入れ替えただけのようなものは省略した。また、$(c,z)$$(-c,z^{-1})$のうち"都合のいい"方を選ぶものとする。)

  1. $c_{x+y}c_{x-y}=0$かつ
    1. $c_x=c_y=0$
    2. ${c_x}^2={c_y}^2\neq 0$かつ$z_x=z_y$
  2. $c_{x+y}c_{x-y}\neq 0$かつ
    1. $(z_{x+y},z_{x-y})=(\sqrt{-1},\sqrt{-1})$かつ
      1. $c_xc_y\neq 0$かつ${c_x}^2-{c_y}^2=c_{x+y}c_{x-y}$かつ$z_x=z_y=\sqrt{-1}$
      2. ${c_x}^2=c_{x+y}c_{x-y}$かつ$z_x=\sqrt{-1}$かつ$c_y=0$
    2. $(z_{x+y},z_{x-y})\neq(\sqrt{-1},\sqrt{-1})$かつ
      1. $z_{x+y}=z_{x-y}=z_x=z_y$かつ$c_xc_y\neq 0$かつ${c_x}^2-{c_y}^2=c_{x+y}c_{x-y}$
      2. $z_{x+y}=z_{x-y}=z_x$かつ${c_x}^2=c_{x+y}c_{x-y}$かつ$c_y=0$
      3. $z_{x+y}=-z_{x-y}$かつ$z_x=\sqrt{-1}z_{x+y}$かつ$z_y=\sqrt{-1}$かつ${c_x}^2={c_y}^2=c_{x+y}c_{x-y}$
      4. $z_{x+y}\neq\pm z_{x-y}$かつ${z_x}^2=z_{x+y}z_{x-y}$かつ${z_y}^2=z_{x+y}{z_{x-y}}^{-1}$かつ${c_x}^2={c_y}^2=c_{x+y}c_{x-y}$

$z_t=\pm\sqrt{-1}$の場合を除いて$(c_{2t},z_{2t})=(c_t,{z_t}^2)$となることに注意して上の場合分けの1-1, 2-1-1, 2-2-1について再考します。
1-1の場合、$P(n(x+y),n(x-y))$を考えると、$c_{2x}c_{2y}=0$なので$c_{x+y}=c_{x-y}=0$または${c_{x+y}}^2={c_{x-y}}^2\neq 0$となることから$c_x=c_y=c_{x+y}=c_{x-y}=0$が得られます。
2-1-1の場合、$P(n\cdot\frac{x+y}2,n\cdot\frac{x-y}2)$を考えると、$c_{x}c_{y}\neq 0$かつ$(z_{x},z_{y})=(\sqrt{-1},\sqrt{-1})$かつ$c_{\frac{x+y}2}c_{\frac{x-y}2}\neq 0$であるが$(z_{\frac{x+y}2},z_{\frac{x-y}2})\neq(\sqrt{-1},\sqrt{-1})$なので矛盾します。
2-2-1の場合、$P(n(x+y),n(x-y))$を考えると、$c_{2x}c_{2y}\neq 0$かつ$z_{x+y}=z_{x-y}\neq z_{2x}=z_{2y}$なので上のいずれの場合にも当てはまらず矛盾します。
このことから、上の場合分けは次のように書き直せます。

(全て書くと煩雑になるため、$x,y$を入れ替えただけのようなものは省略した。また、$(c,z)$$(-c,z^{-1})$のうち"都合のいい"方を選ぶものとする。)

  1. $c_{x+y}c_{x-y}=0$かつ
    1. $c_x=c_y=c_{x+y}=c_{x-y}=0$
    2. ${c_x}^2={c_y}^2\neq 0$かつ$z_x=z_y$
  2. $c_{x+y}c_{x-y}\neq 0$かつ
    1. $(z_{x+y},z_{x-y})=(\sqrt{-1},\sqrt{-1})$かつ
      1. ${c_x}^2=c_{x+y}c_{x-y}$かつ$z_x=\sqrt{-1}$かつ$c_y=0$
    2. $(z_{x+y},z_{x-y})\neq(\sqrt{-1},\sqrt{-1})$かつ
      1. $z_{x+y}=z_{x-y}=z_x$かつ${c_x}^2=c_{x+y}c_{x-y}$かつ$c_y=0$
      2. $z_{x+y}=-z_{x-y}$かつ$z_x=\sqrt{-1}z_{x+y}$かつ$z_y=\sqrt{-1}$かつ${c_x}^2={c_y}^2=c_{x+y}c_{x-y}$
      3. $z_{x+y}\neq\pm z_{x-y}$かつ${z_x}^2=z_{x+y}z_{x-y}$かつ${z_y}^2=z_{x+y}{z_{x-y}}^{-1}$かつ${c_x}^2={c_y}^2=c_{x+y}c_{x-y}$

上を見てわかるとおり、$c_x$, $c_y$がどちらも$0$でないときは${c_x}^2={c_y}^2$です。したがって、全ての$t\in\K$について共通の$c\in\K\setminus\{0\}$を使うことができます。
すなわち、任意の$t\in\K$に対してある$z_t\in\C\setminus\{0\}$が存在して任意の$n\in\Z$に対して$f(nt)=c({z_t}^n-{z_t}^{-n})$が成り立ちます。ここで、$t\in S_4$に対して$z_t$は一意に定まり、さらに$z_t\neq\pm 1$となります。また、$t\in S_4$に対しては$\frac t2\in S_1$のとき$z_t=1$、そうでないとき$z_t=-1$と定めておくことにします。また、任意の$t\in\K$に対して$z_{2t}={z_t}^2$が成り立つことに注意します。
まとめると以下のようになります。

$c\in\C\setminus\{0\}$および$(z_t)_{t\in\K}\in(\C\setminus\{0\})^\K$が存在して任意の$t\in\K$, $n\in\Z$に対して$f(nt)=c({z_t}^n-{z_t}^{-n})$および$z_{2t}={z_t}^2$が成り立つ。

ふたたび以下の式を考察します。
\begin{align} &\frac{1}{z-{z_x}^2}+\frac{1}{z-{z_x}^{-2}}-\frac{1}{z-{z_y}^2}-\frac{1}{z-{z_y}^{-2}}\\ &=\frac{1}{z-{z_{x+y}}{z_{x-y}}}+\frac{1}{z-{z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}^{-1}}-\frac{1}{z-{z_{x+y}}{z_{x-y}}^{-1}}-\frac{1}{z-{z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}} \end{align}
この式の意味するところは$\{{z_x}^2,{z_x}^{-2},{z_{x+y}}{z_{x-y}}^{-1},{z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}\}=\{{z_y}^2,{z_y}^{-2},{z_{x+y}}{z_{x-y}},{z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}^{-1}\}$(個数も含めて一致)です。
このことから、各$(x,y)\in\K^2$について以下のいずれかが成立します。

$\varepsilon$$1$または$-1$を表すものとする。

  1. $z_x=\varepsilon z_y$かつ$z_{x+y}=\varepsilon^\prime$
  2. $z_x=\varepsilon z_y$かつ$z_{x-y}=\varepsilon^\prime$
  3. $z_x=\varepsilon {z_y}^{-1}$かつ$z_{x+y}=\varepsilon^\prime$
  4. $z_x=\varepsilon {z_y}^{-1}$かつ$z_{x-y}=\varepsilon^\prime$
  5. ${z_x}^2={z_{x+y}}{z_{x-y}}$かつ${z_y}^2={z_{x+y}}{z_{x-y}}^{-1}$
  6. ${z_x}^2={z_{x+y}}{z_{x-y}}$かつ${z_y}^2={z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}$
  7. ${z_x}^2={z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}^{-1}$かつ${z_y}^2={z_{x+y}}{z_{x-y}}^{-1}$
  8. ${z_x}^2={z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}^{-1}$かつ${z_y}^2={z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}$

ここで、もし$(x,y)$が1をみたしたとします。
$(\frac{x+y}2,\frac{x-y}2)$が1, 2, 3, 4のどれかをみたしたとき、$(z_x,z_y,z_{\frac{x+y}2},z_{\frac{x-y}2})=(\varepsilon^{\prime\prime},\varepsilon^{\prime\prime}\varepsilon,\varepsilon^\prime,\varepsilon^\prime)$となるので$(x,y)$は5をみたします。
また、$(\frac{x+y}2,\frac{x-y}2)$が5, 6, 7, 8のどれかをみたしたとき、$z_{x+y}$$\varepsilon{z_x}^2$または$\varepsilon{z_x}^{-2}$で、$z_{x-y}=\varepsilon$なので$(x,y)$は5または8をみたします。
2, 3, 4についても同様の議論ができるので、上の8つのうち5, 6, 7, 8のみを考えればよいです。
また、$(x,y)$が6を、すなわち${z_x}^2={z_{x+y}}{z_{x-y}}$かつ${z_y}^2={z_{x+y}}^{-1}{z_{x-y}}$をみたしたとします。
このとき、${z_{x+y}}^2=z_{2x}{z_{2y}}^{-1}$かつ${z_{x-y}}^2=z_{2x}z_{2y}$となることに注意します。$(x+y,x-y)$が5または6をみたすとき$z_{2y}=\varepsilon$なので$(x,y)$は5をみたし、$(x+y,x-y)$が7または8をみたすとき$z_{2x}=\varepsilon$なので$(x,y)$は8をみたします。
$(x,y)$が7をみたすときも同様の議論ができるので場合分けのうち5, 8のみを考えればよいです。変数を$(x,y)$から$(\frac{{x+y}}2,\frac{x-y}2)$に置き換えると以下のように書くことができます。

$(x,y)\in\K^2$に対して以下のいずれかが成り立つ。

  • $(z_{x+y},z_{x-y})=({z_x}{z_y},{z_x}{z_y}^{-1})$,
  • $(z_{x+y},z_{x-y})=({z_x}^{-1}{z_y}^{-1},{z_x}^{-1}{z_y})$

$z_y\neq\pm 1$となるように$y\in\K$を選び、$x\in\K$を任意にとります。
$z_{x+y}={z_x}^{-1}{z_y}^{-1}$となったと仮定します。
このとき、$z_{x+2y}=z_{(x+y)+y}$$z_x$または${z_x}^{-1}$となります。一方、$z_{x+2y}$$z_xz_{2y}=z_x{z_y}^2$または${z_x}^{-1}{z_y}^{-2}$となります。このことから${z_x}^2{z_y}^2=1$が得られ、$z_{x+y}=z_xz_y$となります。
また、$z_{x+y}\neq{z_x}^{-1}{z_y}^{-1}$のときも$z_{x+y}=z_xz_y$です。
したがって、$z_y\neq\pm 1$となる$(x,y)$に対して$z_{x+y}=z_xz_y$が成り立ちます。$z_x\neq\pm 1$のときも同様にわかり、${z_x}^2={z_y}^2=1$のときは簡単にわかります。
したがって、任意の$x,y\in\K$に対して$z_{x+y}=z_xz_y$です。
$z_x=g(x)$と書き直してまとめると以下のようになります。

$c\in\C\setminus\{0\}$および$g:\K\to\C\setminus\{0\}$が存在して任意の$s,t\in\K$に対して$f(t)=c(g(t)-g(t)^{-1})$および$g(s+t)=g(s)g(t)$が成り立つ。

$g(t)=e^{h(t)}$かつ$h(s+t)=h(s)h(t)$となるような$h:\K\to\C$が存在するとは限らないことに注意しましょう。
例えば、$\K=\Q$として、$g(2^{-k})=\begin{cases}e^{2\sqrt{-1}\pi/3}&\text{($k$ が奇数)},\\e^{4\sqrt{-1}\pi/3}&\text{($k$ が偶数)}\end{cases}$および奇素数$p$に対して$g(p^{-k})=e^{2\sqrt{-1}\pi/3\cdot p^{-k}}$
みたすように$g:\K\to\C\setminus\{0\}$を定義することができ、この$g$に対しては上述の$h$は存在しません。

$S_4$が空の場合

任意の$t\in\K$に対して$f(2t)=2f(t)$が成り立ちます。
$P(x,y)$$P(x+y,x-y)$から
\begin{align} f(x)^2-f(y)^2&=f(x+y)f(x-y),\\ f(x+y)^2-f(x-y)^2&=4f(x)f(y) \end{align}
が成り立ち、これらから
\begin{align} &(f(x+y)^2+f(x-y)^2)^2\\ &=(f(x+y)^2-f(x-y)^2)^2+4(f(x+y)f(x-y))^2\\ &=4(f(x)^2+f(y)^2)^2 \end{align}
が成り立ちます。これにより、$f(x+y)^2+f(x-y)^2=\pm 2(f(x)^2+f(y)^2)$であり、$f(x+y)$$\pm(f(x)+f(y))$, $\pm\sqrt{-1}(f(x)-f(y))$のいずれかとなります。

ここで、$(x,y)$$f(y)\neq 0$かつ$f(x+y)=\sqrt{-1}(f(x)-f(y))$をみたしたとします。
$n\in\Z$として$f(x+(n+1)y)$を考えます。
$f(x+(n+1)y)=f((x+y)+ny)$$\pm(\sqrt{-1}(f(x)-f(y))+nf(y))$または$\pm\sqrt{-1}(\sqrt{-1}(f(x)-f(y))-nf(y))$となります。
一方、$f(x+(n+1)y)$$\pm(f(x)+(n+1)f(y))$または$\pm\sqrt{-1}(f(x)-(n+1)f(y))$となります。
$n$が十分大きなときを考えると$n$の係数が等しいものどうしでしか等しくなりえず、以下のいずれかが成り立ちます。

  • $\sqrt{-1}(f(x)-f(y))+nf(y)=f(x)+(n+1)f(y)$
  • $\sqrt{-1}(f(x)-f(y))-nf(y)=f(x)-(n+1)f(y)$
前者の場合は$f(x+y)=\sqrt{-1}(f(x)-f(y))=f(x)+f(y)$となります。後者の場合は$f(x+y)=0$が得られます。
また、$f(y)=0$かつ$f(x+y)=\sqrt{-1}(f(x)-f(y))$の場合は$f(x+y)^2-f(x)^2=f(2x+y)f(y)$から$f(x+y)=f(x)=0$が得られ、結果として$f(x+y)=f(x)+f(y)$が成り立ちます。
$f(x+y)=-\sqrt{-1}(f(x)-f(y))$の場合も同様の結論が得られます。
したがって、各$(x,y)$について以下のいずれかが成り立ちます。
  • $f(x+y)=f(x)+f(y)$
  • $f(x+y)=-f(x)-f(y)$
  • $f(x+y)=0$かつ$f(x)=f(y)$
ここで、$x+y=s$, $-x=t$と置きなおして$f(-t)=-f(t)$を用いると以下のようになります。
  • $f(s+t)=f(s)+f(t)$
  • $f(s+t)=-f(s)-f(t)$
  • $f(s+t)=-f(s)-f(t)$かつ$f(s)=0$
$S_2$が空のときと同じ議論を行うと任意の$(x,y)$について$f(x+y)=f(x)+f(y)$がわかります。

まとめ

$f:\K\to\C$が任意の$x,y\in\K$に対して
$$f(x)^2-f(y)^2=f(x+y)f(x-y)\tag{1}$$
をみたすとき、以下のいずれかが成り立つ。

  • 任意の$x,y\in\K$に対して$f(x+y)=f(x)+f(y)$が成り立つ。
  • $c\in\C\setminus\{0\}$および$g:\K\to\C\setminus\{0\}$であって任意の$s,t\in\K$に対して$g(s+t)=g(s)g(t)$が成り立つものが存在して、任意の$x\in\K$に対して$f(x)=c(g(x)-g(x)^{-1})$が成り立つ。
逆に、$f$が上のいずれかをみたすとき、函数方程式(1)が成り立つ。

$f$が連続の場合

$\K=\R$であるとします。

連続な函数$f:\R\to\C$が任意の$x,y\in\R$に対して
$$f(x)^2-f(y)^2=f(x+y)f(x-y)\tag{1}$$
をみたすとき、以下のいずれかが成り立つ。

  • $c\in\C$が存在して任意の$x\in\R$に対して$f(x)=cx$が成り立つ。
  • $c\in\C\setminus\{0\}$および$k\in\C\setminus\{0\}$が存在して、任意の$t\in\R$に対して$f(x)=c\sin kx$が成り立つ。
逆に、$f$が上のいずれかをみたすとき、函数方程式(1)が成り立つ。

上は有名事実であるため、下を考える。
$f(t)=c(g(t)-g(t)^{-1})$となるような$c,g$をとる。

$g$が連続であることを示す。任意の$x\in\R$について$g(x)=\pm 1$のときは$f=0$なので上の場合分けに帰着する。
$g(a)\neq\pm 1$となる$a\in\R$をとる。$U_r=\{z\in\C\mid\lvert g(a)-z\rvert< r\}$, $U_r^\prime=\{\frac 1z\mid z\in U_r\}$と定義する。このとき、$0< r<\lvert g(a)\rvert$に対して$\delta^\prime>0$が存在して$\lvert x-a\rvert<\delta^\prime\implies f(x)\in U_r$となることを示す。
もしそうでなければ、$g(s+t)=g(s)g(t)$の条件から、$0$に収束する点列$(x_n)$$g(x_n)\to g(a)^2$となるものが存在することになり、$f(t)=c(g(t)-g(t)^{-1})$が連続であることに矛盾する。
したがって、$g$$a$において連続であり、$g(s+t)=g(s)g(t)$からある$1$点で連続であることと任意の点で連続であることは同値なので$g$$\R$全体で連続である。

$f$が連続で$f(0)=0$であることから、$\lvert x\rvert<\delta\implies\lvert f(x)\rvert<\frac 16\lvert c\rvert$となるような$\delta>0$をとることができる。
ここで、$\lvert z-1\rvert\geq\frac 12$かつ$\lvert z+1\rvert\geq\frac 12$のとき
$$\lvert z-z^{-1}\rvert=\lvert z-1\rvert\bigg\lvert 1+\frac 1z\bigg\rvert\geq\frac 16$$
であることから、$\lvert x\rvert<\delta\implies\min\{\lvert g(x)-1\rvert,\lvert g(x)+1\rvert\}<\frac 12$である。
また、$g(2x)=g(x)^2$を用いると$\lvert x\rvert<\delta\implies\lvert g(x)-1\rvert<\frac 12$がわかる。

$D=\{x\in\R\mid\lvert x\rvert<\delta\}$とおき、$h:D\to\C$を構成する。
$x\in D$に対し、$e^{\sqrt{-1}h(x)}=g(x)$かつ$\lvert\Re h(x)\rvert<\frac \pi 6$となるように$h(x)$を定める。
このとき、$x,y,x+y\in D$ならば$h(x+y)=h(x)h(y)$が成り立ち、$g$の連続性から$h$は連続である。このことから、$k\in\C$が存在して$x\in D$に対し$h(x)=kx$が成り立つ。

このことから、任意の$x\in\R$に対して$g(x)=e^{\sqrt{-1}kx}$がわかり、$f(x)=2\sqrt{-1}c\sin kx$が得られる。

投稿日:27日前
更新日:18日前
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