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ここでは東大数理の修士課程の院試の2020B04の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
2020B04
以下の問いに答えなさい
- $\mathbb{F}_3(S_2)$の素イデアルの個数を求めなさい。
- $R=\mathbb{F}_3(S_3)$をとり、その中心を$A$とおく。$A$の素イデアルの個数を求めなさい。
- $I$を$A$の巾ゼロ根基とする。ここで$R\otimes_AA/I$の全ての極大左イデアルの共通部分を$J$とする。このとき$J$の$\mathbb{F}_3$-線型空間としての次元を求めなさい。
- まず環同型
$$
\begin{split}
\mathbb{F}_3(S_2)&\to \mathbb{F}_3[T]/(T^2-1)\\
a+b\sigma&\mapsto a+bT
\end{split}
$$
があるから、素イデアルの個数は$\mathbb{F}_3[T]$の$(T^2-1)$を含む素イデアルの個数に等しい。よって$\color{red}2$つである。 - まず$R$の元
$$
x=a+b(1,2)+c(2,3)+d(1,3)+e(1,2,3)+f(1,3,2)
$$
を考える。このときこれに右から$(1,2)$を作用させたものは
$$
a(1,2)+b+c(1,3,2)+d(1,2,3)+e(1,3)+f(2,3)
$$
である一方左から$(1,2)$を作用させたものは
$$
a(1,2)+b+c(1,2,3)+d(1,3,2)+e(2,3)+f(1,3)
$$
であるから、$x\in A$であるためには$c=d$及び$e=f$であることが必要になる。また$(2,3),(1,3)$でも同様の議論を行うことで、$x\in A$のとき$b=c=d$かつ$e=f$であることがわかる。一方
$$
a+b((1,2)+(2,3)+(3,1))+c((1,2,3)+(1,3,2))
$$
のとき、これは任意の$S_3$の元と可換である。以上から$A$は$\mathbb{F}_3$上$\tau=(1,2)+(2,3)+(3,1)$と$\sigma=(1,2,3)+(1,3,2)$で生成される。ここで環準同型
$$
\mathbb{F}_3[T,S]\twoheadrightarrow\mathbb{F}_3[\tau,\sigma]
$$
の核は$I'=((S+1)^2,T^2)$を含んでいて、$\mathbb{F}_3[S,T]/I'$は$A$と同じ$3$次元$\mathbb{F}_3$-線型空間であるから、
$$
A\simeq\mathbb{F}_3[S,T]/((S+1)^2,T^2)
$$
である。よって$A$の素イデアルは$\mathbb{F}_3[S,T]$の$S-1$及び$T^2$を含む素イデアルに対応しているから、このようなイデアルの個数は$(S+1,T)$の$\color{red}1$つである。 - まず$R$は$6$次元$\mathbb{F}_3$-線型空間である。また$I$は$\sigma+1$によって生成される$1$次元線型空間である。ここで
$$
(\sigma+1)(1,2)=(\sigma+1)(2,3)=(\sigma+1)(1,3)=\tau
$$
$$
(\sigma+1)(1,2,3)=(\sigma+1)(1,3,2)=\sigma+1
$$
$$
\tau(1,2)=\tau(2,3)=\tau(1,3)=\sigma+1
$$
$$
\tau(1,3,2)=\tau(1,3,2)=\tau
$$
であるから、$J'=\{a(\sigma+1)+b\tau|a,b\in\mathbb{F}_3\}$は$R$のイデアルを定めている。ここで$R/J'=R\otimes_AA/I$である。ここで
$$
\begin{split}
\mathrm{arg}_+:R&\to \mathbb{F}_3\\
\sum_{a\in S_3}x_aa&\mapsto \sum_{a\in S_3}x_a
\end{split}
$$
$$
\begin{split}
\mathrm{arg}_-:R&\to \mathbb{F}_3\\
\sum_{a\in S_3}x_aa&\mapsto \sum_{a\in S_3}\mathrm{sgn}(a)x_a
\end{split}
$$
を考えたとき、$\mathfrak{m}=\mathrm{Ker}(\mathrm{arg}_+)$と$\mathfrak{n}=\mathrm{Ker}(\mathrm{arg}_-)$は$R$の極大イデアルを定めている。ここで$\mathfrak{m}\cap\mathfrak{n}$は$\sigma+1,\tau,\tau':=(1,2)-(1,3),\sigma':=(1,2,3)-(1,3,2)$の線型結合として表される。ここで
$$
\tau'^2=\sigma'^2=-(\sigma+1)
$$
$$
\tau'\sigma'=\sigma'\tau'=\tau
$$
であるから、$\mathfrak{m}\cap\mathfrak{n}$は巾ゼロイデアルである。以上から$J=(\mathfrak{m}\cap\mathfrak{n})/J'$がわかり、$\dim_{\mathbb{F}_3}J=\color{red}2$であることもわかる。