0
大学数学基礎解説
文献あり

接ベクトル空間の些末な部分

179
1

 本記事では単に多様体と言えばC級可微分多様体とし,多様体上の関数f:MRとはC級関数,多様体の間の写像φ:MNC級とします.滑らかな方が簡単だしね.

今回話したいこと

Uを多様体Mの空でない開集合とする.このとき,任意のpUに対してR上の線形空間としての同型Tp(M)Tp(U)が成り立つ.

 それはそうでは?だって接ベクトル空間って点p周りの情報しか持ってないわけだから…….

準備

 まず確認として,多様体M上の関数全体の集合C(M)に対して,各点ごとに演算を定めることで和,積,スカラー倍が定義できます.つまり任意のf,gC(M)aRに対して,各pM

  • (f+g)(p)=f(p)+g(p),
  • (fg)(p)=f(p)g(p),
  • (af)(p)=af(p)

によって和,積,スカラー倍が定義できます.これを踏まえたうえで多様体M上の点pにおける接ベクトルを次で定義します.つまり,写像X:C(M)Rであって,任意のf,gC(M)aRに対して

  1. X(f+g)=X(f)+X(g),X(af)=aX(f).
  2. X(fg)=X(f)g(p)+f(p)X(g)

を満たすもののことを,多様体M上の点pにおける接ベクトルということにします.1.のことを線形性,2.のことをライプニッツ則と呼ぶことにします.点pにおける接ベクトル全体の集合をTp(M)と表記することにしましょう.これがR上の線形空間になることも,各点ごとに和とスカラー倍を定義すればよく,具体的には任意のX,XTp(M),aRに対して,各fC(M)

  • (X+X)(f)=X(f)+X(f),
  • (aX)(f)=aX(f)
    で与えることでR上の線形空間になることが分かります.

 続いて多様体Mの開集合Uを任意にとれば,Mの持つチャートをUに制限したもの全体をUはアトラスとして持つわけですから,U自身も多様体になります.そうすると上の議論をMの開集合Uにそのまま適応することで,pU上の接ベクトル空間Tp(U)が定まります.

関数の拡張

 多様体上の関数の激偉ポイントとして,局所的に定義された関数を全体に拡張することが常に出来るというのがあります.ちゃんと準備しようとするとめんどくさいので松本多様体や村上多様体を読んでいただければと思います.ここではファクトとして次を持ってきます。

多様体M上のpMとその開近傍Uを任意にとる.このときpの開近傍Vと関数f:MRであって,次のような条件を満たすものが存在する.

  1. VU.
  2. {f(q)=1qV0f(q)<1qUVf(q)=0qUc
  3. {qMf(q)0}U

 要はpまわりの開集合を一つ取れば,その中で滑らかに0から1で値を取って,その外では常に0に値を取るような関数が常に取れるということですね.
 これを認めると(正確にはどのように関数を構成しているかを思い出せば),次が分かります.

Mを多様体,Uを空でないMの開集合とし,fC(U)とする.このとき空でないある開集合VU上でfと一致するような関数FC(M)が存在する.

 証明のスケッチだけ.Uに対して命題1から,空でない開集合VUと関数g:MRであって,V上恒等的に1でUc上では0をとるようなものがとれるから,写像F:MR

F(q)={f(q)g(q)(qU)0(qUc)
で定義すると,これはV上ではFfに一致していて,Uの境界上以外ではC級である.なら境界上ではどうかというと,gの構成から境界上の点の開近傍を"十分小さく取れば"その上では0になると分かるので,証明が終わります.

ごちゃごちゃと証明していくパート.

 多様体Mとその空でない開集合Uに対して,包含写像i:UMC級写像になるのですから,C級関数fC(M)iの合成fiもまたC級です.つまり写像i:C(M)C(U),ffiがwell-definedに定義できます.pUを任意にとって固定し,任意にYTp(U)を一つとります.YC(U)からRへの写像なのですから,合成Y(i)C(M)からRへの写像となります.これがpにおけるM上の接ベクトルになることは具体的にM上の関数を代入すれば自明ですから,写像ΦU:Tp(U)Tp(M)YY(i)で定義できます.

 これが線形写像になることは難しくないでしょう.実際,任意のY,YTp(U),fC(M)に対して
(ΦU(Y+Y))(f)=((Y+Y)(i))(f)=(Y+Y)(fi)=Y(fi)+Y(fi)=(Y(i))(f)+(Y(i))(f)=(ΦU(Y)+ΦU(Y))(f)
となるので,ΦU(Y+Y)=ΦU(Y)+ΦU(Y)となります.任意のYTp(U),aRに対してΦU(aY)=aΦU(Y)となることも同様の議論で証明ができます.

 あとは逆写像が構成できればよいわけですが,ΦUが関数を制限して定義できていたのに対して,今度は関数を拡張して定義してあげないと逆写像になってくれないので少し注意して議論を進める必要があります.観察しましょう.写像ΨU:Tp(M)Tp(U)が定義できているとして,XTp(M)に対してΨU(X)Tp(U)U上の関数を入力して実数を出力するわけで,さらにこれがΦUの逆写像でなければなりません.そう考えると任意のXTp(M)に対して
(ΦUΨU)(X)=ΨU(X)(i)
となるのですから,任意のfC(M)に対して
ΨU(X)(f|U)=X(f)
が成り立ってていなければならないことが分かります.ここでff|UMへの拡張と見れば,例えばΨU(X)を,任意のgC(U)に対してΨU(X)(g)=X(g~)で定義すれば逆写像になってくれそうだと分かります.ここでg~とはgMへの拡張です.しかし(返信欄でも指摘してくださっているように)一般にはU上の関数をそのままM上に拡張することはできないわけですが,命題2で見たように,VUなるpの開近傍V上ではgに一致するM上の関数g~は常にとれます.ただこの開近傍Vの取り方と拡張の取り方は一意ではないですから,それらの取り方に依らずに接ベクトルの値が一致することを確認することを示さなければなりません.すなわち,

Mを多様体,pUをその開近傍,gC(U)XTp(M)とする.このとき任意のpの開近傍V,VUg|V=h|V,g|V=h|Vを満たすM上の関数h,hC(M)に対して,X(h)=X(h)が成り立つ.

 これが分からなければΨUは写像として定義できませんが,嬉しいことに成り立ってくれていると分かります.Xの線形性から,X(hh)=0を示せばよいです.h,hVV上ではgに一致するのでVV上でhhは恒等的に0です.また先に示したように,VVに対して開集合WVVと可微分関数H:MRであって,W上恒等的に1で(VV)c上0となるようなものが存在します.このときF:MRF(x)=H(x)(h(x)h(x))とおくと,これもまたC級関数でM上恒等的に0となります.そうするとX(F)=0で,接ベクトルのライプニッツ則から
0=X(F)=X(H(hh))=X(H)(h(p)h(p))+H(p)X(hh)=X(hh)
となるので,証明が終わります.

 さて,ΨUΦUの逆写像になっていることを計算して確かめてみましょう.任意にYTp(U)をとると,任意のgC(U)に対して
(ΨUΦU(Y))(g)=ΨU(Y(i))(g)=(Y(i))(g~)=Y(g~|U)=Y(g)
となります.g~pVU上でgに一致するM上の関数ですから最後の等式が成り立ちます.同様にXTp(M)をとると,任意のfC(M)に対して
(ΦUΨU(X))(f)=ΦU(ΨU(X))(f)=(ΨU(X)(i))(f)=ΨU(X)(f|U)=X(f|U~)=X(f)
となります.ここでf|U~pVU上でf|Uに一致するM上の関数ですから,やはり最後の等式が成り立ちます.以上でΨUΦUの逆写像になっていることが分かったので,R上の線形空間としての同型Tp(U)Tp(M)が得られると分かりました.

おまけ

 こうやって接ベクトル空間を定義しても,接ベクトル空間の次元を与えるときには局所座標系を取って議論しないとキツそうで,大人しく最初から局所座標系取って定義した方が絶対にいい.pUMの開部分多様体として取って,Upまわり座標近傍(V,x1,,xm)を一つ取ればここまでの議論で同型Tp(V)Tp(U)が成り立つから,x1p,,xmpが直接Tp(V)の基底になることを示せれたら(例えば村上多様体p23-24),同型だからTp(U)の次元も分かる.ここで注意しなきゃいけないのは基底は(いろいろな多様体の入門書にかかれているように)局所座標を取ったうえで初めて得られるものだから,今回の記事の立場で接ベクトル空間を定義するとTp(U),あるいはTp(M)の基底がいわゆるx1p,,xmpで"直接"与えられるわけではなくて,記事中に与えた同型写像で移したものが基底になっているということ.とはいえその表示を見れば元の基底の性質を色濃く残しているのだから,まぁ最初からこれらが基底だとみなして議論を進めた方が楽なのは間違いなさそう.

結論! Tp(U)=Tp(M)だと思おう!

参考文献

[1]
松本幸夫, 多様体の基礎
[2]
村上信吾, 多様体
投稿日:2024728
更新日:2024729
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

ほし
ほし
7
1553
ぴちぴちJK/ほったる~ん/やってる分野の備忘録と過去の進捗

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 今回話したいこと
  2. 準備
  3. 関数の拡張
  4. ごちゃごちゃと証明していくパート.
  5. おまけ
  6. 参考文献