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大学数学基礎解説
文献あり

完全列と押し出し・引き戻し

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はじめに

お久しぶりです. (約2年ぶり)
今回は完全性と押し出し・引き戻しの関係性について見ていこうと思います.

以下, Rは可換環とし, 特に断りの無い限りL,M,NなどはR加群とします.

定義と基本的な性質

まずは今回使うものを用意していきます.

準同型定理

f:M1M2R準同型, NM1の部分加群とする.
NKerfならば, 次の図式を可換にするR準同型f~:M1/NM2f~([x]):=f(x)によりwell-definedかつ一意に定まる:
M1fπM2M1/Nf~
ここで, π:M1M1/Nは自然な全射である.

特に, N=Kerfのときf~:M1/KerfImfは同型写像となる.

完全列

R加群{Mi}iZの列()
Mi+1fi+1MifiMi1
を考える. (各fiR準同型とする)
()Mi完全(exact)defImfi+1=Kerfi
()完全列defImfi+1=Kerfi(iZ)

()が完全列であるとき, ()
Mi+1fi+1MifiMi1(exact)
と書くことにする.

特に, 短完全列と呼ばれるものに対しては次のような性質があります.

L,M,NR加群に対し, 次は同値:
(1)0LfMgN0(exact)
(2) fは単射かつgは全射かつg~:M/ImfN
  ただし, g~([x]):=g(x)

完全性および準同型定理より示せる.

押し出し・引き戻し

次の可換図式を考える:
Lf1f2M1p1M2p2N

(1)この図式が押し出し図式であるとは, 次の条件を満たしていることである:
q1f1=q2f2を満たす任意のR準同型qi:MiN(i=1,2)に対して, φpi=qiを満たすR準同型φ:NNが一意に存在する.
Lf1f2M1p1q1M2p2q2N!φN
このとき, (N,p1,p2)f1,f2押し出しという.

(2)この図式が引き戻し図式であるとは, 次の条件を満たしていることである:
p1g1=p2g2を満たす任意のR準同型gi:LMi(i=1,2)に対して, fiψ=giを満たすR準同型ψ:LLが一意に存在する.
Lg1g2!ψLf1f2M1p1M2p2N
このとき, (L,f1,f2)p1,p2引き戻しという.

証明は省略しますが, 押し出し・引き戻しは同型を除いて一意であることが分かります. (テンソル積の普遍性と同様に示すことができる)

次の可換図式を考える:
Lf1f2M1p1M2p2N
このとき, 次が成り立つ:
(1) (N,p1,p2),(N,q1,q2)f1,f2の押し出しNN
(2) (L,f1,f2),(L,g1,g2)p1,p2の引き戻しLL

本題

今回示したいのは次の定理です.

次の可換図式を考える:
LfMg0N
(1) 次は同値:
  (i) LfMgN0(exact)
  (ii) (N,g,0)f,0の押し出し
(2) 次は同値:
  (i) 0LfMgN(exact)
  (ii) (L,f,0)g,0の引き戻し

  1. (i)(ii)を示す.
    命題1より, gは全射である. 任意のR加群Nおよびhf=0を満たすR準同型h:MNに対し, R準同型φ:NNを次のように構成する:
    xNに対し, g(a)=xとなるaMをとり, φ(x):=h(a)と定める.
    (φaの取り方によらないこと)
    xNに対し, g(a1)=x=g(a2)(a1,a2M)であるとする.
    このとき, a1a2Kerg=Imfなので, a1a2=f(c)(cL)と表せる.
    これにより,
    φ(a1)φ(a2)=h(a1a2)=h(f(c))=0
    となるので, φ(a1)=φ(a2)となる.
    (φR準同型であること)
    x,yNに対し, g(a)=x,g(b)=y(a,bM)と表せる.
     このとき, g(a+b)=g(a)+g(b)=x+yであるので,
    φ(x+y)=h(a+b)=h(a)+h(b)=φ(x)+φ(y)
     となる.
    xN,rRに対し, g(a)=x(aM)と表せる.
     このとき, g(ra)=rg(a)=rxとなるので,
    φ(rx)=h(ra)=rh(a)=rφ(x)
     となる.
    (φg=hであること)
    φの定義から明らか.
    (一意性)
    φg=hとなるR準同型φ:NNを考える.
    xNに対し, g(a)=xとなるaMをとると,
    φ(x)=φ(g(a))=h(a)=φ(g(a))=φ(x)
    となるので, φ=φを得る.
    (ii)(i)を示す.
    (ii)の仮定より, ImfKergであることに注意する.
    (M/Imf,π,0)f,0の押し出しであることは, 準同型定理により分かる. (ただし, π:MM/Imfは自然な全射)
    命題3より, NM/Imfとなる. (このときのR同型写像をg~:M/ImfNとおく.)
    g~π=gであることとπ,g~が全射であることから, gも全射であることが分かり,
    Kerg={xM | g(x)=0}={xM | g~(π(x)))=0}={xM | [x]=[0]}(g~:全単射)={xM | xImf}=Imf
    となるので, (i)の完全性が得られる.

  2. (i)(ii)を示す.
    命題1よりfは単射であるので, 自然な同型f:LImfが成り立つ. 任意のR加群Lおよびgh=0を満たすR準同型h:LLに対し, R準同型ψ:LLを次のように構成する:
    ImhKerg=ImfLであることから, 各aLに対し, f(x)=h(a)となるxLが一意に存在する. これにより, ψ(a):=xと定める.
    (ψR準同型であること)
    a,bLに対し, f(x)=h(a),f(y)=h(b)(!x,yL)と表
     せる. これより, f(x+y)=h(a+b)であるので, ψ(a+b)=x+y=ψ(a)+ψ(b)
     を得る.
    aL,rRに対し, f(x)=h(a)(!xL)と表せるので,  f(rx)=rf(x)=rh(a)=h(ra)となり,
    ψ(ra)=rx=rψ(a)
     を得る.
    (fψ=hであること)
    ψの定義から明らか.
    (一意性)
    fψ=hとなるR準同型ψ:LLを考える.
    aLに対し, f(ψ(a))=h(a)=f(ψ(a))であることと, fの単射性よりψ(a)=ψ(a)となるので, ψ=ψとなる.
    (ii)(i)を示す.
    i:KergMを包含写像とすると,
    0KergiMgN(exact)
    が成り立つので, (i)の証明より(Kerg,i,0)g,0の引き戻しとなる. 命題3よりR同型写像ψ:LKergが存在する.
    i,ψは単射なので, f=iψも単射となり,
    Imf={xM | aL s.t. x=f(a)}={xM | pKerg s.t. x=i(p)}={xM | xKerg}=Kerg
    となるので, (i)の完全性が示される.

使用例

この定理の使用例として, Homとテンソル積の完全性を示したいと思います.
テンソル積の普遍性よりHom(L,Hom(M,N))Hom(LM,N)となることから, R加群の圏において関手Mは関手Hom(M,)の左随伴となることが分かります.

ここで, 一般の圏に対して次が成り立ちます.

C,Dを圏とし, F:CD,G:DCを関手とする.
FGの左随伴であるとき,
Gは極限を保つ
Fは余極限を保つ

引き戻しと押し出しはそれぞれ極限と余極限の例の一つなので, これらより完全性に関する次の結果が得られます.

  1. M1fM2gM30(exact)M1Nf1NM2Ng1NM3N0(exact)
    ただし, f1N:M1NM2N(f1N)(xy):=f(x)yにより定める. (g1Nも同様)
  2. 0M1fM2gM3(exact)0Hom(N,M1)fHom(N,M2)gHom(N,M3)(exact)
    ただし, f:Hom(N,M1)Hom(N,M2)f(φ):=fφにより定める. (gも同様)
  1. 定理4の(1)より,
    M1fM2gM30(exact)
    であることは, 次の図式が押し出し図式であることと同値である:
    M1fM2g0M3
    定理5の(2)より, Mは余極限を保つので, 次の図式もまた押し出し図式となる:
    M1Nf1NM2Ng1N0M3N
    再び定理4の(1)を用いることで,
    M1Nf1NM2Ng1NM3N0(exact)
    を得る.

  2. 定理4の(2)より,
    0M1fM2gM3(exact)
    であることは, 次の図式が引き戻し図式であることと同値である:
    M1fM2g0M3
    定理5の(1)より, Hom(N,)は極限を保つので, 次の図式もまた引き戻し図式となる:
    Hom(N,M1)fHom(N,M2)g0Hom(N,M3)
    再び定理4の(2)を用いることで,
    0Hom(N,M1)fHom(N,M2)gHom(N,M3)(exact)
    を得る.

このように, 随伴による極限・余極限の保存を示すのが少々面倒だけど随伴の性質を用いることで, 完全性を楽に示すことができます!

参考文献

[1]
T.レンスター, ベーシック圏論 普遍性からの速習コース, 丸善出版
投稿日:2024216
更新日:2024216
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