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ABの固有値はBAの固有値である

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$$\newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{End}[0]{\mathrm{End}} \newcommand{inpro}[1]{\mathopen{\langle}#1\mathclose{\rangle}} \newcommand{mapsfromup}[0]{\genfrac{}{}{0}{}{\xymatrix@=3pt{{} \\ {}\ar@/^15pt/[u]}}{}} \newcommand{mapstodown}[0]{\genfrac{}{}{0}{}{\xymatrix@=3pt{{} \ar@/^15pt/[d] \\ {}}}{}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{norm}[1]{\left\lVert#1\right\rVert} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{set}[2]{\{\, #1 \mid #2\,\}} \newcommand{setmid}[0]{\mathrel{}\middle|\mathrel{}} \newcommand{span}[0]{\mathrm{span}} \newcommand{tr}[0]{\mathrm{tr}} \newcommand{ve}[0]{\varepsilon} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

正方行列$A,B$に対して$AB,BA$の固有値が一致する(正方行列でなくても0を除けば一致する)ことの色んな証明を書きます。思い出せる範囲で大体の証明を書いた気がしますが、抜けてる証明があったら教えてください。

1.ランク標準形

多分一番普通の証明。$A=UA'V$をランク標準形、つまり$U,V$は可逆行列であり$A'$$1,\dots,1,0,\dots,0$が並ぶ対角行列。$B':=V^{-1}BU^{-1}$と置くと、$A'B',B'A'$の固有値が一致することを見たらいい。それは
$$A'=\pmatrix{1 &0\\ 0&0},B'=\pmatrix{B_{11} & B_{12}\\ B_{21} & B_{22}}$$
とブロック行列表示すると、
$$\det(\lambda-A'B')=\det\pmatrix{\lambda-B_{11} & -B_{12}\\ 0& \lambda}=\lambda^{n-r}\det(\lambda-B_{11})$$
ここで、$r:=\rank(A')$である。同じことを$\det(\lambda-B'A')$について行うと$A'B'$$B'A'$が一致することが分かる。

2.稠密性(特に$\C$係数の場合)

$A$が可逆な場合は、$AB=A(BA)A^{-1}$により$AB,BA$は相似となり、求める主張を得る。故に可逆でない場合が問題である。$A$の固有値は有限個だから、十分小さい$\ve\neq0$に対して$A_\ve:=\ve+A$は可逆である。特に、$A_\ve B,BA_\ve$の固有値は一致する。
さて、固有値は成分に関して連続に動く(固有多項式が連続に動き、その根はRoucheの定理から連続に動く)。故に$\ve\to0$とした極限で所望の主張を得る。

$\C$以外では、係数体$K$を代数関数体$K(x)$に拡げて $A':=x+A$ について考える。$\det(A')$$A$の固有多項式だが、これは$K(x)$の非零な元。上のように$A'B,BA'$の固有多項式が一致するが、ここで$x=0$を入れると$AB,BA$の固有多項式の一致を得る。

3.トレースを計算する(標数0のみ)

$$\Tr((AB)^k)=\Tr((BA)^k)$$
がトレースの巡回性から出る。$AB,BA$の固有値を重複度込みでそれぞれ$\lambda_1,\dots,\lambda_n$$\rho_1,\dots,\rho_n$と書くと
$$\sum_i\lambda_i^k=\sum_i\rho_i^k$$
が任意の$k$について成り立つことになるので、Newtonの恒等式からそれらの基本対称式も一致する。つまり、固有多項式の係数が一致する。

4.外積代数を使う

正方行列$T$に対し$\det(\lambda+T)$$\lambda^{n-k}$の係数とは、$T$のサイズ$k$の主小行列式の総和になることが具体的に分かる。これは特に、
$$\wedge^kT:\wedge^k(K^n)\to\wedge^k(K^n)$$
という線形写像のトレースとして書ける。特に、$AB,BA$の固有多項式の一致を言いたかったら
$$\wedge^k(AB),\wedge^k(BA):\wedge^k(K^n)\to\wedge^k(K^n)$$
のトレースが一致することを見ればいいが、$\wedge^k(AB)=\wedge^kA\circ\wedge^kB$ であるから、$\wedge^k(K^n)$でのトレースの巡回性から出る。

5.広義固有空間を見る

$\lambda\neq0$に対して$AB,BA$の固有値$\lambda$での広義固有空間の間に線形同型が作れればいい。実際、もしそうなら、次元を見ることで固有値$\lambda\neq0$の重複度が一致する。行列のサイズが一致しているから、残る$\lambda=0$も重複度が一致する。
$V:=\bigcup_{k}\ker((AB-\lambda)^k),\ \ W:=\bigcup_k\ker((BA-\lambda)^k)$
$v\in V$に対して$(AB-\lambda)^kv=$なる$k$を取る。両辺$B$を掛けることで$(BA-\lambda)^kBv=0$となり、$B(V)\subset W$が分かる。同様に$A(W)\subset V$だから、これらは線形同型である。実際、$\lambda\neq0$より$AB$$V$上で可逆($\lambda$の広義固有空間と0の広義固有空間は交わらない)になり、$BA$$W$上可逆だから。

6.レゾルベントの恒等式

十分小さい複素数$z$に対して
$$(1-zAB)^{-1}=1+zAB+z^2(AB)^2+\dots$$
と展開する。$(AB)^{k+1}=A(BA)^kB$を使うと
$$(1-zAB)^{-1}=1+zA(1-zBA)^{-1}B$$
となる。これは小さくない複素数でも成立する(一致の定理を使ってもいいし、具体的に確かめてもいい)から、右辺が意味を持つとき左辺も意味を持つ。即ち$1-zBA$が可逆なときに$1-zAB$も可逆になる。$A,B$を入れ替えればこの二つが同値になり、これは$\lambda=z^{-1}$に対して$\lambda$を固有値に持つことが同値になる。更に、極が何位の極か(極に近づけたときの漸近挙動)を見ると固有値の重複度まで一致することが分かる。今、非零固有値についての情報が分かったので、先と同じ理由で0固有値の重複度も一致する。

7.ブロック行列

$$\pmatrix{1&A\\B&1}$$に行基本変形、列基本変形を施したものの$\det$を計算する。ここでブロック行列の基本変形とは、ブロック三角行列であって対角成分が単位行列$1$なものを左右(それぞれ行列)から掛ける操作であり、この操作で$\det$は変わらない。
まずは左から掛けて$A$を消し、右から掛けて整える:
$$\pmatrix{1&A\\B&1}\to\pmatrix{1-AB&0\\B&1}\to\pmatrix{1-AB&0\\0&1}$$
次は左から掛けて$B$を消し、右から掛けて整える:
$$\pmatrix{1&A\\B&1}\to\pmatrix{1&A\\0&1-BA}\to\pmatrix{1&0\\0&1-BA}$$
この操作で$\det$が変わらないから、$\det(1-AB)=\det(1-BA)$$A$$\lambda A$に取り換えて$\det(1-\lambda AB)=\det(1-\lambda BA)$となる、これは固有多項式が等しいことを意味する。

投稿日:1011
更新日:1012
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投稿者

SOFT ANALYSIS

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