こんにちは。初めてmathlogなるものを使用します。簡単に自己紹介をしておきます。筆者は東大数学科の4年生で、来年度から東大数理の院生になる者です。
今年も東大入試の数学の問題を眺めていると、第2問で妙に見慣れた問題が出てきたので、せっかくなら記事を書いてみるかということになりました。
それでは早速本題です。今回扱うのは以下の問題です。
(1) $x>0$のとき、不等式$\log x\leqq x-1$を示せ。
(2) 次の極限を求めよ。$\begin{align} \lim_{n\to\infty}n\int_1^2\log\left(\dfrac{1+x^{1/n}}{2}\right)dx\end{align}$
本来は(1)で与えられた式を用いて(2)で被積分関数を評価する方法が想定されているのでしょうが、今回は誘導を無視して優収束定理を用いた解法を紹介したいと思います。
測度空間$(X,\mathcal{F},\mu)$上の可測関数$f_n~(n\geqq 1),~f$について、以下の2条件が満たされるとき、$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\int_Xf_nd\mu=\int_X f d\mu$が成立する:
1. $\mu$-a.e.なる$x\in X$について$|f_n(x)|\leqq g(x) ~(\forall n)$なる可積分関数$g(x)$(優関数)が存在。
2. $\displaystyle\lim_{n\to\infty} f_n=f$がa.e.各点収束の意味で成立。
証明はしませんので、気になった方はググってください。系として、以下の有界収束定理が得られます:
有限測度空間$(X,\mathcal{F},\mu)$上の可測関数$f_n~(n\geqq 1),~f$について、以下の2条件が満たされるとき、$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\int_Xf_nd\mu=\int_X f d\mu$が成立する:
1. $\mu$-a.e.なる$x\in X$について$|f_n(x)|\leqq M ~(\forall n)$なる定数$M$が存在。
2. $\displaystyle\lim_{n\to\infty} f_n=f$がa.e.各点収束の意味で成立。
定理1で$g(x)=M$としただけです。
それでは、問題を解いていきます。まず、被積分関数の収束先を観察します。$1\leqq x\leqq 2$について、
$\begin{align}n\log\left(\dfrac{1+x^{1/n}}{2}\right)=n\log\left(1+\dfrac{x^{1/n}-1}{2}\right)=\dfrac{n(x^{1/n}-1)}{2}\log\left(1+\dfrac{x^{1/n}-1}{2}\right)^{\frac{2}{x^{1/n}-1}}\end{align}$
と変形すると、$\log$の中身が$e$に収束することがわかります。その前の項については、$n=1/t$とすることによって$\dfrac{x^t-1}{2t}$の$t\to+0$での極限を調べればよく、これは$\varphi(t)=x^t$としたときの$\varphi^\prime(0)/2$と一致します。$\varphi^\prime(t)=x^t\log x$なので、$\varphi^\prime(0)/2=\log x/2$となり、以上より、
$\begin{align}\lim_{n\to\infty}n\log\left(\dfrac{1+x^{1/n}}{2}\right)&=\dfrac{1}{2}\log x\end{align}$
が得られます。
次に被積分関数の一様有界性を確認しましょう。再び$1\leqq x\leqq 2 $について、
$0=n\log\left(\dfrac{1+1}{2}\right)\leqq n\log\left(\dfrac{1+x^{1/n}}{2}\right)\leqq n\log\left(\dfrac{1+2^{1/n}}{2}\right)$
であることを踏まえ、さらに最右辺は$\log 2/2$に収束することを上で確認したので、「収束列は有界である」ことを用いると、最右辺は$n$によらないある定数$M$で抑えることができます。これで、有界収束定理の適用条件の確認が終了しました。以上を用いて、 $\displaystyle\lim_{n\to\infty}n\int_1^2\log\left(\dfrac{1+x^{1/n}}{2}\right)dx=\int_1^2\dfrac{1}{2}\log xdx=\dfrac{1}{2}\biggl[x\log x-x\biggr]^2_1=$$\log2-\dfrac{1}{2}$
と、答えが出ました。
というわけで大学で勉強する知識を用いて大学入試の問題を解いてみました。ぶっちゃけ正攻法と比べどちらが速く解けるのかは微妙なところですが、こういう知識があると非常に見通しが立てやすくなっていとも容易く解けてしまうことが多い気がします。まあ受験生がこの方法で解くことはほとんど不可能だと思うので気休めにしかなりませんが。あとこれ多分すでに同じようなことを誰かが書いてそう
誤り・ご指摘などがあればぜひ筆者までお知らせください。
それでは、また気が向いたら記事を書こうかと思います。では!