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東工大数学院試過去問解答例(2022午後01)

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ここでは東工大数学科の修士課程の院試の2022午後01の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2022午後01

$p$を奇素数とする。
(1) 位数$p^3$の非可換群$G$及びその中心$Z(G)$について、$G/Z(G)$の構造を決定しなさい
(2) 位数$p^3$の群で、位数$p^2$の元を持たないものを決定しなさい。

補題を一つ示した後、証明を行います。

非自明な$p$-群は自明な中心を持たない。

まず非自明な$p$-群$G$をとり、その位数を$p^n(>1)$とする。中心に含まれない各共役類から代表元$x_1,\cdots,x_s$をとったとき、類等式
$$ |Z(G)|=p^n-(\sum_{i=1}^s[G:C_G(x_i)]) $$
が成り立っている(ここで$C_G(x):=\{g\in G|xg=gx\}$)。ここである$x_i$について$[G:C_G(x_i)]=1$であることは$x_i\in Z(G)$と同値であるから、全ての$x_i$について$p|[G:C_G(x_i)]$である。以上から$p|Z(G)$、特に$Z(G)\neq1$が従う。

以下問題を証明していきます。

  1. まず$G$の非可換性から$Z(G)\neq p^3$である。次に$|Z(G)|=p^2$の場合は$G/Z(G)\simeq \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$である。しかしこのとき特に$G/Z(G)$は巡回群であるから$G$はアーベル群であり、これは起こり得ない。またこれと補題1を合わせることで$|Z(G)|=p$がわかる。
    このとき$|G/Z(G)|=p^2$であるが、ここで$G/Z(G)$が巡回群のとき$G$はアーベル群になるから、$G/Z(G)\simeq(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2$が従う。実際これは非自明な群準同型$$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\to \mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})=\mathrm{Aut}((\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2)$$から誘導される群$G=(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2\rtimes\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$によって実現される。
  2. $G$が非可換であったとする。このとき(1)から$G/Z(G)=(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2$であった。ここで$G/Z(G)$の生成元の$G$に於ける引き戻しを$g_1,g_2$とする。このとき$g_1g_2g_1^{-1}g_2^{-1}\in Z(G)$であるから、$Z(G)$$g_1$で生成される群$H(\simeq(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2)$$G$の正規部分群である。また$g_2$によって生成される部分群$N(\simeq\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})$を考えると、位数の比較で$G=HN$であるから、$G\simeq H\rtimes N$が従う。ここでこの群構造は準同型
    $$ f:\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\simeq N\to \mathrm{Aut}(H)\simeq\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}) $$
    をどう取るかに依存する。しかし$\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})$の位数$p$の元は全て互いに共役であるから$f(g_2)=\begin{pmatrix} 1&1\\ 0&1 \end{pmatrix}$から定まる群と同型である。よって$G$は、上記で定めた$f$から誘導される半直積$G=(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2\rtimes\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$になることがわかった。ここで任意の元$((z^a,g_1^b),g_2^c)\in (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2\rtimes\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$について
    $$ \begin{split} ((z^a,g_1^b),g_2^c)^p&=((z^{ap},g_1^bz^{cb}g_1^{b}z^{2cb}\cdots z^{(p-1)cb}g),g_2^{cp})\\ &=((z^{pa},g_1^{\frac{cbp(p-1)}{2}}),g_2^{cp})\\ &=((1,1),1) \end{split} $$
    であるから、このとき$G$は位数$p^2$の元を持たない。
    一方$G$がアーベル群のとき、有限生成アーベル群の基本定理から同型類としてあり得るのは$G\simeq(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^3$のみである。
    以上で$G$が分類できた。

解答作成中は失念していましたが、問題中に登場した$G=(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2\rtimes(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})$はより具体的には
$$ \left\{\begin{pmatrix} 1&a&b\\ 0&1&c\\ 0&0&1 \end{pmatrix}\middle| a,b,c\in\mathbb{F}_p\right\} $$
と表すこともできます。

投稿日:20231010

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佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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