皆さんは「行列式は$n$次元平行$2n$面体の符号付き体積を表している」という話を聞いたことはありませんか?確かに列についての多重線形性,交代性と単位行列に対して$1$を返すことからある程度の納得感がある言い方のように思えます.しかし,$3$次元までならまだしも次元が$4$を超えると$n$次元平行体の「向き」を考えるのは一気に難しくなるでしょう.そこで,初めから向きを考えるのをやめて,多重線形性や交代性に対応する$n$次元平行$2n$面体の体積が満たしてほしい性質を備えた写像を考えてみるというのがこの記事のテーマです.
$n$を正の整数とする.
写像$V:M_n(\mathbb{R})\ni (a_1,a_2,...,a_n) \mapsto V(a_1,a_2,...,a_n)\in \mathbb{R}_{\geq 0}$で以下の条件を満たすものは$A\mapsto|\det A|$に限られる.
$n=1$の時は簡単.$n\geq 2$の時を考える.
条件を満たす写像$V$を固定する.
$1\leq i< j \leq n$である整数$i,j$と$n-2$本のベクトル$a_1,...,a_{i-1},a_{i+1},...,a_{j-1},a_{j+1},...,a_n \in \mathbb{R}^n$を固定して,$f:\mathbb{R}^n\times \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}_{\geq 0}$を\begin{align*}
f(x,y)=V(a_1,...,a_{i-1},x,a_{i+1},...,a_{j-1},y,a_{j+1},...,a_n)
\end{align*}
で定めると,
$x,y\in\mathbb{R}^n$と$c\in\mathbb{R}$に対して,条件より
\begin{align*}
f(x+cy,y) &\leq f(x,y)+f(cy,y) = f(x,y)+|c|f(y,y) = f(x,y) \\
&\leq f(x+cy,y)+f(-cy,y) = f(x+cy,y)+|c|f(y,y) \\
&= f(x+cy,y)
\end{align*}
なので,$f(x+cy,y)=f(x,y)$がわかる.
つまり,$E_{i,j}\in M_n(\mathbb{R})$を$(i,j)$成分が$1$でそのほかが$0$である行列とし$1\leq i,j\leq n$かつ$i\neq j$である整数$i,j$と$c\in\mathbb{R}$について,$P_{i,j}(c)=E+cE_{i,j}$とすると各$A\in M_n(\mathbb{R}),P_{i,j}(c)$に対して$ V(A)=V(AP_{i,j}(c))$,特に$ V(P_{i,j}(c))=1 $である.
また,(2)を繰り返し使うと,$\Lambda\in M_n(\mathbb{R})$が対角行列なら,任意の$A\in M_n(\mathbb{R})$に対して,$V(A\Lambda)=|\det \Lambda|V(A)$,特に$V(\Lambda)=|\det \Lambda|$がわかる.
これらを合わせると任意の$A\in M_n(\mathbb{R})$がこのような行列の積で書けることから,任意の$A\in M_n(\mathbb{R})$に対して
$$
V(A)=|\det A|
$$
が得られる.
この話題にはほかにもいろいろなアプローチがあると思いますが,今回は$1$~$3$次元での平行体の体積の概念を素朴に拡張した(つまり,体積を底面積×高さと思った)ときに,向きの概念を使わず平行体の体積としては行列式の絶対値しかありえないことがわかりました.
もうすこし議論すれば行列式の絶対値が底面積×高さを表すというのも示せると思います.
最後まで読んでいただいてありがとうございました.