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東大数理院試過去問解答例(2019B01)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2019B01の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2019B01

多項式環$\mathbb{F}_p[X]$をとり、集合
$$ S:=\left\{A\subseteq\mathbb{F}_p[X]\middle|A\textsf{ は }\mathbb{F}_p[X]\textsf{ の部分}\mathbb{F}_p\textsf{-代数で、}\dim_{\mathbb{F}_p}\mathbb{F}_p[X]/T=1\right\} $$
を考える。
(1) $S$は有限集合であることを示し、その濃度を求めなさい。
(2) $S$の元として現れる環の同型類の個数を求めなさい。

  1. 初めに$A$$1$次式を含まない。次に$2$次式を一切含んでいないとする。このとき$x$及び$x^2$$\mathbb{F}_p[X]/A$で線型独立になってしまうから、$A$はある$2$次式を含む。同様の議論から$A$はある$3$次式も含む。この$2$次式及び$3$次式を$f$及び$g$とする。このとき$\mathbb{F}_p[f,g]$$A$の部分環を定めている。ここで組$\{1,x,f^ig^j\}_{i,j\in\mathbb{N}}$$\mathbb{F}_p$-線型空間として$\mathbb{F}_p[X]$を生成するから、$\dim_{\mathbb{F}_p}\mathbb{F}_p[X]/\mathbb{F}_p[f,g]=1$であり、これによって$A=\mathbb{F}_p[f,g]$が従う。以上から$S$の濃度は$\mathbb{F}_p$係数$2$次多項式及び$3$次多項式の組の個数以下であるから、特に有限集合である。
    次に濃度を求めていく。$A=\mathbb{F}_p[f,g]$なる$f,g$をとったとき、これは定数項及び$g$$2$次の項を引いて$f=X^2-aX$及び$g=X^3-bX$と取ることができる。ここでこのように取った$2$次式$f_1=X^2-a_1X,f_2=X^2-a_2X$及び$3$次式$g_1=X^3-b_1X,g_2=X^3-b_2X$について$\mathbb{F}_p[F_1,g_1]=\mathbb{F}_p[f_2,g_2]$が成り立っていたとすると、$f_1-f_2$及び$g_1-g_2$$1$次式になってはいけないので、$a_1=a_2$及び$b_1=b_2$が従う。以上の議論から写像
    $$ \begin{split} \mathbb{F}_p\times\mathbb{F}_p&\to S\\ (a,b)&\mapsto \mathbb{F}_p[X^2-aX,X^3-bX] \end{split} $$
    は全単射であることがわかるから、$|S|=$$p^2$である。
  2. まず$p\neq2$とする。このとき全ての$A\in S$は、ある適切な$a\in\mathbb{F}_p$について$X$$X-a$に移すような$\mathbb{F}_p[X]$の自己同型によって$X^2$とある$3$次式で生成される部分代数に移る。よって$S$の元の同型類は全て$\mathbb{F}_p[X^2,X^3-cX]$の形をした元で代表される。
    次に$X^2$$f$に、$X^3-cX$$g$に送るような環準同型$\mathbb{F}_p[X^2,X^3-cX]\to\mathbb{F}_p[X]$があったすると、このとき$g^2=f(f-c)^2$が満たされているから、このときある$h\in \mathbb{F}_p[X]$を用いて$f=h^2$が満たされていて、結局このような環準同型は$X\mapsto h$の形をしていることがわかる。ここで環同型$A=\mathbb{F}_p[X^2,X^3-cX]\to B=\mathbb{F}_p[X^2,X^3-dX]$があったとする。このとき$h$$2$次以上のとき$B\notin S$であるから、$h$$1$次でなければならない。$1$次式$h$$h^2\in B$を満たすには$h=sX$の型をしている必要がある。このとき$X^3$$s^3(X^3-\frac{c}{s^2}X)$に移るから、$A$$B$の間に環同型が存在するためには、
    $$ \exists s\in \mathbb{F}_p^\times\textrm{ s.t. }c=s^2d $$
    が満たされていることが必要充分である。以上から$S$に含まれる同型類の個数は$1+\frac{p-1}{2}=$$\frac{p+1}{2}$であることがわかる。
    一方$p=2$のとき、環同型
    $$ \mathbb{F}_2[X^2,X^3-cX]\to\mathbb{F}_2[X^2-bX,X^3-dX] $$
    が存在したとすると、前半と同様の議論から$X\mapsto h$なる$1$次式$h$の存在が言えるが、$h$の形に関わらず$h^2$$1$次係数は$0$なので、このとき$b=0$かつ$c=d$であることが従う。次に環同型
    $$ \mathbb{F}_2[X^2-X,X^3-X]\to\mathbb{F}_2[X^2-X,X^3] $$
    が存在したとする。このとき$X^2-X$及び$X^3-X$の送り先を$f,g$とするとこれは$f^3=g(f-g)$を満たしていることから、ある多項式$h$を用いて$f=h^2-h$及び$g=h^2(h-1)$とおくことができる。よってこの同型はある$1$次式$h$を用いて$X\mapsto h-1$と表すことができる。ここで$X$$X-a$に移るとすると、$X^3-X$$X^3-3aX^2+(3a^2-1)X-(a^3+a)=X^3-aX^2+(a^2-1)X$に送られ、これは$X^2-X$及び$X^3+(a^2+a+1)x=X^3-X$で生成される環に移される。以上から上記のような環同型は存在しないことがわかる。ここまでの議論から$\mathbb{F}_2[X^2-aX,X^3-bX]$(ここで$a,b\in\mathbb{F}_2$)
    と表される$4$つの$\mathbb{F}_2$-代数はどの二つも同型でないことがわかる。以上から$p=2$のとき$S$に含まれる同型類の個数は$4$個である。

問題中では環同型
$$ A=\mathbb{F}_p[X^3-aX,X^2-bX]\to B=\mathbb{F}_p[X^3-cX,X^2-dX] $$
が(存在するとすれば)同型$\mathbb{F}_p[X]\to\mathbb{F}_p[X]$に延長されることを愚直に示しました。しかし$A$の商体$K\subseteq\mathbb{F}_p(X)$及び$B$の商体$L\subseteq\mathbb{F}_p(X)$を取ったとき、$K$及び$L$は実は$\mathbb{F}_p(X)$に等しいことを用いれば、この同型を商体に延長して、それを$A$及び$B$$K$及び$L$に於ける整閉包(つまり$\mathbb{F}_p[X]$)に制限することでもう少しスマートに示すこともできます。

投稿日:20231014

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佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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