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大学数学基礎解説
文献あり

集合の演算まとめ

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実は集合の演算がまごつくから数学書読めない説

これ、実は結構あると思ってまして。
定理や命題の証明とか読んでいても「○○は△△と同値なので~」とさらっとお出しされたり、当たり前のように出てくる集合の式変形で手が止まってしまうことってあると思うんですよね。
逆に教科書に出てきた分にはどうにか読み解くことができても、いざ自力で問題と向き合ったとき、すっと式変形ができないのはあるあるなんじゃないかと思っていまして。
一応元を取ってくれば頑張って証明することはできるけれども……という状態では、まごついて進みが悪くなりがちです。

かく言う私も実は苦手意識が拭えないので、今回自分なりの攻略法を考えてみました。参考になる人がいれば幸いです。
なお、公式は調べればすぐ出てくるので、網羅的に語ることはしないです。あくまで個人的にポイントと思ったところに絞ってやります。

結合法則や交換法則なんかは誰が見ても当たり前に見えると思うので、逐一語りません。
この記事は一々元を取らなくてもなるべく集合の演算で考えたいを「お気持ち」とします。

以下、約束事として $f: X \to Y$ を写像とします。$A$補集合$A^c$ と書くことにします。
また、$A$の元であって、$B$ の元でないもの全体の集合(差集合)を $A \setminus B$ と書くことにします。

ポイント① ド・モルガンの法則と分配法則を一般形で使えるようにしよう

◆ド・モルガンの法則

和集合の補集合は、補集合の共通部分になる:
$$\left( \bigcup_{i \in I} A_i \right)^c = \bigcap_{i \in I} A_i^c$$
共通部分の補集合は、補集合の和集合になる:
$$\left( \bigcap_{i \in I} A_i \right)^c = \bigcup_{i \in I} A_i^c$$

◆分配法則

和集合同士の共通部分は、各要素の共通部分の和集合になる:
$$\left( \bigcup_{i \in I} A_i \right) \cap \left( \bigcup_{j \in J} B_j \right) = \bigcup_{i \in I, j \in J} (A_i \cap B_j)$$
共通部分同士の和集合は、各要素の和集合の共通部分になる:
$$\left( \bigcap_{i \in I} A_i \right) \cup \left( \bigcap_{j \in J} B_j \right) = \bigcap_{i \in I, j \in J} (A_i \cup B_j)$$

これらに関しては一般形で覚えておくべきです。というのも、数学書では一般の族に関するこの手の計算がわんさか出てくるからです。ですので、族を使った書き方から逃げてはいけません。諦めて下さい。

ポイント② 差集合はよくわからなくなったら補集合で書いてしまおう

差集合 $A \setminus B$ ですが、初学者でたまにある勘違いとして、

別に $A \supset B$ である必要はない!

これマジで注意しましょう。 $B$ の一部が $A$ からはみ出ているケースも普通によくあります。

数学書を読んでいると、差集合の中にさらに差集合が入ってきたりしてぱっと見よくわからないことがあります。そういうときは、以下の言い換えが便利です。

$$A \setminus B = A \cap B^c$$

定義より $A \setminus B$$A$ の元であって $B$ の元でないもの全体の集合なので、この等号が成り立ちます。

これを使うと、例えば $A \setminus (B \setminus C)$ のような集合もベン図に頼らなくても計算できます。ド・モルガンや分配法則を使ってガチャガチャ書き換えていきましょう。
逆に言えば、この2つさえちゃんと使えれば、差集合に関する公式はほとんど覚える必要はありません。
いくつか例を出してみましょう。

$$\begin{aligned} A \setminus (B \setminus C) &= A \cap (B \cap C^c)^c \\ &= A \cap (B^c \cup (C^c)^c) \\ &= A \cap (B^c \cup C) \\ &= (A \cap B^c) \cup (A \cap C) \\ &= (A \setminus B) \cup (A \cap C) \end{aligned}$$

$$\begin{aligned} (A \setminus B) \setminus C &= (A \cap B^c) \cap C^c \\ &= A \cap (B^c \cap C^c) \\ &= A \cap (B \cup C)^c \\ &= A \setminus (B \cup C) \end{aligned}$$

$$\begin{aligned} (A \cup B) \setminus C &= (A \cup B) \cap C^c \\ &= (A \cap C^c) \cup (B \cap C^c) \\ &= (A \setminus C) \cup (B \setminus C) \end{aligned}$$
$$\begin{aligned} (A \cap B) \setminus C &= (A \cap B) \cap C^c \\ &= (A \cap C^c) \cap (B \cap C^c) \\ &= (A \setminus C) \cap (B \setminus C) \end{aligned}$$

$$\begin{aligned} A \setminus B &= A \cap B^c \\ &= B^c \cap (A^c)^c \\ &= B^c \setminus A^c \end{aligned}$$

また、次の言い替えも実はよく使うのではないかと思われます。

以下の条件はすべて同値である。
1.$A \subset B$
2.$A \cap B = A$
3.$A \setminus B = \emptyset$

ポイント③ 像と逆像の演算を攻略しよう

たくさん式が出てくるのですが、標語は以下の4点です。
これらを唱えつつ、コンセプト的に覚えると良いと思います。

  • 逆像はお行儀が良い
  • 和集合はお行儀が良い
  • はお行儀が悪い
  • 共通部分はお行儀が悪い

パート1 基本となる同値関係と罠

定義に立ち戻って考えるとすぐわかりますが、次が成り立ちます。

$$f(A) \subset B \iff A \subset f^{-1}(B)$$

これは数学書において、まさに湯水のように使われる同値関係です。
しかし、ここにちょっとした罠があります。よく似た式ですが、次はまったく成り立ちません。

$B \subset f(A) $ であっても $ f^{-1}(B) \subset A$ とは限らない。
逆に $ f^{-1}(B) \subset A$ であっても $B \subset f(A) $ とも限らない。

像のお行儀の悪さが出ているわけですが、具体例で見てみましょう。

1.写像 $f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}$$f(x) = x^2$ とする。
$A = [0, 2]$ とすると、その像は $f(A) = [0, 4]$ となる。
$B = \{4\}$ とすると、$B \subset f(A)$ を満たしている。
ここで $f^{-1}(B)$ を考えると
$f^{-1}(\{4\}) = \{-2, 2\}$ となるから、$f^{-1}(B) \not\subset A$

2.写像 $f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}$$f(x) = x^2$ とする。
$A, B$ をそれぞれ $A = \{1, -1\}, B = \{1, -1\}$ とおく。
このとき
$$f^{-1}(B) = \{ x \in \mathbb{R} \mid x^2 \in \{1, -1\} \} = \{1, -1\}$$
となる。したがって $f^{-1}(B) = A$ であり、$f^{-1}(B) \subset A$ を満たしている。
一方で
$$f(A) = \{ 1^2, (-1)^2 \} = \{1\}$$
となる。
ここで $-1 \in B$ であるが $-1 \notin f(A)$ なので、$B \not\subset f(A)$

パート2 像も逆像も集合の大きさは保存する

当たり前に見えますが、嬉しい性質です。並べておきます。

  1. $A \subset A' \implies f(A) \subset f(A')$
  2. $B \subset B' \implies f^{-1}(B) \subset f^{-1}(B')$

パート3 逆像はお行儀が良い

逆像に関しては、演算で成り立って欲しい性質がすべて成り立っています。
これが位相の議論で連続写像の定義や像位相などを考える際に、像ではなく逆像をベースに考えることの根拠になっていたりします。

  1. 和集合と共通部分の保存
    ① 和集合の保存
    $$f^{-1}\left( \bigcup_{\lambda \in \Lambda} B_\lambda \right) = \bigcup_{\lambda \in \Lambda} f^{-1}(B_\lambda)$$
    ② 共通部分の保存
    $$f^{-1}\left( \bigcap_{\lambda \in \Lambda} B_\lambda \right) = \bigcap_{\lambda \in \Lambda} f^{-1}(B_\lambda)$$

  2. 補集合と差集合の保存
    ③ 補集合の保存
    $$f^{-1}(B^c) = (f^{-1}(B))^c$$
    (※全体集合を明記して $f^{-1}(Y \setminus B) = X \setminus f^{-1}(B)$ と書くことも多い)
    ④ 差集合の保存
    $$f^{-1}(B_1 \setminus B_2) = f^{-1}(B_1) \setminus f^{-1}(B_2)$$

  3. 空集合と全体集合
    ⑤ 空集合の保存
    $$f^{-1}(\emptyset) = \emptyset$$
    ⑥ 全体集合の保存
    $$f^{-1}(Y) = X$$

パート4 像はお行儀が悪い

一方、像に関しては逆像ほど素直に演算が成り立ってくれません。
和集合はお行儀が良いので保ちますが、共通部分はお行儀が悪いので保ちません。
差集合も保ちませんが、ポイント②を思い出すと、差集合は共通部分で書けることが保たない由来になっています。
諸々保たない反例は演習問題とします(一度言ってみたかった)。

  1. 和集合と共通部分
    ① 和集合の保存
    $$f\left( \bigcup_{\lambda \in \Lambda} A_\lambda \right) = \bigcup_{\lambda \in \Lambda} f(A_\lambda)$$
    ② 共通部分の縮小(等号は成り立たず、左辺が縮む)
    $$f\left( \bigcap_{\lambda \in \Lambda} A_\lambda \right) \subset \bigcap_{\lambda \in \Lambda} f(A_\lambda)$$

  2. 差集合と補集合
    ③ 差集合の膨張(等号は成り立たず、左辺が大きい)
    $$f(A_1 \setminus A_2) \supset f(A_1) \setminus f(A_2)$$
    ④ 補集合
    $$f(A^c) \supset f(X) \setminus f(A)$$
    (※差集合の $A_1$ を全体 $X$ に置き換えただけ)

  3. 空集合と全体集合
    ⑤ 空集合の保存
    $$f(\emptyset) = \emptyset$$
    ⑥ 全体集合(等号は成り立たず、部分集合になる)
    $$f(X) \subset Y$$
    (※等号が成り立つとき、$f$ は全射であるという)

パート5 像と逆像の組み合わせ

送ってから戻すやつと戻してから送るやつの関係です。これもめっちゃ使います。

  1. $A \subset f^{-1}(f(A))$
  2. $f(f^{-1}(B)) = f(X) \cap B$ (特に $ f(f^{-1}(B)) \subset B $

$f^{-1}(f(A))$$f(f^{-1}(B)) $ のように具体的に書くことは一般にはできません。
書籍によっては $ f(f^{-1}(B)) \subset B $ としか書かれていないことがありますが、実はこのように書けることは知っておいてもよいと思います。

ここで、特に$f$ が単射や全射であるときには、この関係は等号になるという重要な性質があります。これも数学書では当然のように使われます。

  1. $f \text{ は単射である} \iff \text{任意の } A \subset X \text{ に対して } f^{-1}(f(A)) = A$
  2. $f \text{ は全射である} \iff \text{任意の } B \subset Y \text{ に対して } f(f^{-1}(B)) = B$
  1. 単射と同値であることの証明
    $(\implies)$ の証明:
    $f$ を単射とし、$A \subset X$ を任意にとる。
    集合 $A$ はその要素の1点集合の和集合として $A = \bigcup_{x \in A} \{x\}$ と書ける。
    また、$f(A)$ も同様に $f(A) = \bigcup_{x \in A} \{f(x)\}$ と書ける。
    この両辺の逆像をとると、逆像は和集合を保存する性質により、次のようにかける。
    $$\begin{aligned} f^{-1}(f(A)) &= f^{-1}\left( \bigcup_{x \in A} \{f(x)\} \right) \\ &= \bigcup_{x \in A} f^{-1}(\{f(x)\}) \end{aligned}$$
    ここで $f$ は単射だから
    $$f^{-1}(\{f(x)\}) = \{x\}$$
    が成り立つ。これを上の式に代入すると、
    $$\begin{aligned} \bigcup_{x \in A} f^{-1}(\{f(x)\}) &= \bigcup_{x \in A} \{x\} \\ &= A \end{aligned}$$
    したがって、$f^{-1}(f(A)) = A$ が示された。
    $(\impliedby)$ の証明:
    任意の $A \subset X$ に対して $f^{-1}(f(A)) = A$ が成り立つと仮定する。
    任意の $x \in X$ として、$A = \{x\}$ とおくと、仮定より $f^{-1}(f(\{x\})) = \{x\}$ である。
    ここで、$y \in X$$f(y) = f(x) \in f(\{x\})$ であるとすると、逆像の定義より $y \in f^{-1}(f(\{x\}))$ となる。
    したがって $y \in \{x\}$、すなわち $x = y$ となる。
    ゆえに、$f$ は単射である。$\square$
  2. 全射と同値であることの証明
    $(\implies)$ の証明:
    $f$ を全射とし、$B \subset Y$ を任意にとる。
    任意の写像において $f(f^{-1}(B)) = f(X) \cap B$ が成り立つ。
    仮定より $f$ は全射であるから、$f(X) = Y$ である。これを代入すると、
    $$f(f^{-1}(B)) = Y \cap B$$
    となる。
    ここで $B \subset Y$ であるから、$Y \cap B = B$ である。
    ゆえに、$f(f^{-1}(B)) = B$ が成り立つ。
    $(\impliedby)$ の証明:
    任意の $B \subset Y$ に対して $f(f^{-1}(B)) = B$ が成り立つと仮定する。
    $B = Y$ とおくと、仮定より $f(f^{-1}(Y)) = Y$ である。
    ここで、任意の写像において $f^{-1}(Y) = X$ であるから、これを代入して $f(X) = Y$ を得る。
    これは $f$ が全射であることを示している。$\square$

とりあえずこのくらい押さえておけば、ある程度戦えると思います。お疲れ様でした。

最後に計算例を1つ

本を読んでて「ん?」とちょっと引っかかった部分があるのですが、本質的には次の命題でした。
ここまででやった集合の演算だけで示してみましょう。

写像 $f: X \to Y$ と、部分集合 $A \subset X, B \subset Y$ について、以下が成り立つ。
$$A \cap f^{-1}(B) \neq \emptyset \iff f(A) \cap B \neq \emptyset$$

対偶である $A \cap f^{-1}(B) = \emptyset \iff f(A) \cap B = \emptyset$ を示す。
$$\begin{aligned} A \cap f^{-1}(B) = \emptyset &\iff A \subset (f^{-1}(B))^c \\ &\iff A \subset f^{-1}(B^c) \\ &\iff f(A) \subset B^c \\ &\iff f(A) \cap (B^c)^c = \emptyset \\ &\iff f(A) \cap B = \emptyset \end{aligned}$$
両端の否定をとることで、$A \cap f^{-1}(B) \neq \emptyset \iff f(A) \cap B \neq \emptyset$ が得られる。$\square$

一般には像はお行儀が悪いので、こういうことは成り立たないです。
$$A \cap C = \emptyset \not\implies f(A) \cap f(C) = \emptyset$$
【反例】
$f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}$$f(x) = x^2$ とする。
$A = \{-1\}, C = \{1\}$ とすると、
$$A \cap C = \emptyset$$
である。
しかし、それぞれの像は $f(A) = \{1\}, f(C) = \{1\}$ となるため、
$$f(A) \cap f(C) = \{1\} \neq \emptyset$$

命題では片方の集合に $f^{-1}$ というお行儀の良いやつが噛んでいたので、送って戻しても問題が起きなかったわけですね。

参考文献

[1]
斎藤毅, 集合と位相
投稿日:2日前
更新日:2日前
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趣味でカジュアルに数学をしている社会人です。そんなに数学ができるわけではありませんが、楽しもうと思います。

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