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東大数理院試過去問解答例(2021B10)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2021B10の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2021B10

$\mathbb{R}^2$の有界閉集合
$$ D=\{(x,y)|x\geq0,y\geq0,x+y\leq1\} $$
をとる。ここで線型作用素$T,S:L^1(D)\to L^1(D)$
$$ (Tf)(x,y):=\int_{0}^{1-y}f(t,y)dt $$
$$ (Sf)(x,y):=\int_0^{1-x}f(x,s)ds $$
で定義する。

  1. $T$$L^1(D)$上の有界線型作用素であることを示し、作用素ノルム$\|T\|$を計算しなさい。
  2. 合成$ST$の正の固有値を全て求めなさい。
  1. まず
    $$ \begin{split} \|Tf\|&=\int_D\left|\int_0^{1-y}f(t,y)dt\right|dxdy\\ &\leq\int_D\int_0^{1-y}|f(t,y)|dtdxdy\\ &=\int_0^1\int_0^{1-y}\int_0^{1-y}|f(t,y)|dtdxdy\\ &=\int_0^1(1-y)\int_0^{1-y}|f(x,y)|dxdy\\ &=\int_0^1\int_0^{1-y}|(1-y)f(x,y)|dxdy\\ &\leq\int_D|f(x,y)|dxdy&\leq\|f\| \end{split} $$
    であるから$T$は有界線型作用素である。そして$f$$y=0$の充分小さい近傍で$1$、それ以外は$0$になるような関数としてとると$\frac{\|Tf\|}{\|f\|}$$1$に収束する。よって$\|T\|={\color{red}1}$である。
  2. まず$f$$ST$の固有ベクトルのとき、
    $$ f(x,y)=g(x) $$
    と表せる。このとき
    $$ \begin{split} (ST)(f)&=\int_0^{1-x}\int_0^{1-s}g(t)dtds \end{split} $$
    であり、$f$の固有値を$a$とすると
    $$ ag(x)=\int_0^{1-x}\int_0^{1-s}g(t)dtds $$
    である。これを辺々$x$$2$階微分すると
    $$ g''(x)=-\frac{1}{a}g(x) $$
    である。よって$ST$の固有ベクトルとしてあり得るのは
    $$ f_{A,B}(x,y)=A\exp(i\frac{x}{\sqrt{a}})+B\exp(-i\frac{x}{\sqrt{a}}) $$
    で表される関数である。このとき上で得られていた$g$に関する積分方程式に$x=1$を代入することで$g(1)=0$が得られ、積分方程式を$x$について$1$階微分したものに$x=0$を代入すると$g'(0)=0$が得られる。よって$A,B$
    $$ \left\{\begin{array}{ccc} A\exp(\frac{i}{\sqrt{a}})+B\exp(-\frac{i}{\sqrt{a}})&=&0\\ A-B&=&0\\ \end{array}\right. $$
    を満たしているから、$f_{A,B}$が固有値$a$の固有ベクトルになっているとき
    $$ \begin{vmatrix} \exp(\frac{i}{\sqrt{a}})&\exp(-\frac{i}{\sqrt{a}})\\ 1&-1 \end{vmatrix}=0 $$
    になっており、これを満たすためには整数$n$を用いて
    $$ \frac{1}{\sqrt{a}}=\left(n+\frac{1}{2}\right)\pi $$
    つまり
    $$ {\color{red}a=\frac{1}{\qty(n+\frac{1}{2})^2\pi^2}} $$
    と表される必要がある。一方$a$がこのように表されているとき、
    $$ f_a(x,y)=\cos\qty(n+\frac{1}{2})\pi x $$
    とおくと、
    $$ \begin{split} (ST)(f_a)&=\int_0^{1-x}\int_0^{1-t}\cos\qty(n+\frac{1}{2})\pi sdsdt\\ &=\frac{1}{(n+\frac{1}{2})\pi}\int_0^{1-x}\sin\qty(n+\frac{1}{2})\pi(1-t)dt\\ &=\frac{1}{(n+\frac{1}{2})^2\pi^2}\left[\cos\qty(n+\frac{1}{2})\pi(1-t)\right]_0^{1-x}&=af_a\\ \end{split} $$
    であるから$a$$ST$の固有値になっている。よって$ST$の正の固有値は上で挙げたもので尽くされている。
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藍色日和
藍色日和
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藍色の日々。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。リンクはX(旧Twitter)アカウント 

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