こんにちは. この夏, 東大および東工大の数学科修士課程の院試を受けたので, その体験記を書こうと思います.
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現在東大数学科4年で, 志望分野は代数系の数論(特に解析的整数論)です. 3Sくらいまでは解析に行こうかと思っていたので積分計算とかが割と得意だったりします.
第1志望は東大の院ですが, 東大の代数系はめっちゃ落ちるという噂があった(去年が定員以下で切られていたらしい)のと, 東工大に解析的整数論を専門にしている教授がいらっしゃったので, 東工大も併願しました.
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7月頭ごろに出願があります. 東工大と違って手書きだったので手が疲れました.
8月末に本試験があります. まず1日目に英語とA問題, 2日目にB問題の筆記試験があり, 1日or2日空けて3日目に口頭試問があるという形になります.
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基本的に東大数理の同級生と, 毎週過去問を解いて発表しあう院試ゼミをやっていました.
まず3年の終わりの3月ごろに最初の院試ゼミが生えました. はじめはA問題を毎週1年分ずつ遡って解いて行きました. まあA問題はこの時期でも解けるやつは解けるので(もちろん解けないやつは解けない), みんなで発表して線型代数の復習などをしながら解き進めていました.
5月くらいからB問題に変更しました. ここから代数・幾何・解析に分かれてそれぞれでゼミを進めることにしました. ちなみに私はみんなの予定の合う時間が講究に被ってしまったので先生に相談して講究をずらしてもらいました.
やはりB問題は難しく, 毎回全く手の付けられない問題がありメンブレしていました. ただガロアは慣れれば時間をかければできるようになってくるので唯一の救いでした. (ただここ数年のガロアは難化しているという説もあります.)また環論の代数幾何っぽいやつは, 代数幾何が得意な友達にお気持ちを教えてもらいながらなんとか少しずつ慣れていくことができました.
個人的な感覚としては, 代数はたいてい群論1環論2ガロア1問の構成で, 群論はかなりパズル要素が強め, 環論は最近はまんま代数幾何の問題は少なく多項式をいじる難問が多い印象, ガロアは得点源&精神安定剤といった感じでした.
ちなみに院試で使えるガロア理論のテクニックを
こちら
でまとめているので良ければご覧ください. また,
藍色日和さん
のまとめている過去問解答例もたくさん参考にさせて頂きました.
また, 私は一応ちょっと解析が好きということもあり, 時々解析ゼミを覗いたりしていました. とは言っても簡単めな1問が解けることがある程度のレベルだったのですが, 本番で代数が全然できなかったときの一応の保険という意味では良かったです. またA問題の微積が最近難化しているのでその対策という意味でも良かったかもしれません.
8月になるとB問題の過去問も7割方解いてしまいちょっと飽きてきたので, A問題ゼミを再開して本番に備えました. あと東工大の問題も少しずつ解いていましたが, いくつかの難問を除けば時間と精神に余裕があれば大体解けてしまうのでそこまでたくさんはやりませんでした. また, 口頭試問対策で4Sの講究本やもっと基本的な内容の復習などをしていました.
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以下, 問題の内容に関するネタバレがあるので閲覧注意です.
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東工大が割といい感じで終わってから燃え尽きみたいになって, 直前にやれることないじゃんとか言って関係ないことしたりしてました.
朝9時開始かと思ったら10時20分開始で, かなり人道的で安心しました. まず英語は, 事前に英作文で使える表現をまとめておいて対策していたのでスムーズに書くことができました. ただちょっと和訳の量が多くて手が疲れました. 「million, billion, trillion」を, 「100万, 10億, 1兆」と訳すべきか, 日本語的自然さを重視して「万, 億, 兆」と訳すべきか悩みました.
昼休みにはみんなでコモンルームに集まっておしゃべりしていました. 教室は外部の人が多すぎてむしろアウェイだったので, こうしてリラックスできてよかったです. 自分たちのホームであることを存分に生かせています.
そしてA問題です. 私の作戦としては, 安心して解きたかったので, 定積分や微分方程式を解くだけの問題が出て完全に安心して終えられるといいなと思っていました. 実際, 運よく留数定理を使った定積分の問題と, 微分方程式を解くだけの問題が出題されていたので, この2つを選択しようと思いながら解き始めました.
まず[1]微積ですが, これは過去の中でもかなり難しかった気がします. (2)がうまく行かず一旦飛ばして[2]に行きましたが, [2]を書いている途中に部分積分すればいいことに気づき, なんとか解くことができました. [2]は典型的な対角化可能性の問題で, 簡単でした. 次に[6]の定積分を解ききり, 残り1時間弱で[7]微分方程式に入りました. するとこの微分方程式が結構難しく, まず解までたどり着くのに時間がかかり, それが複雑だったので実際に代入して成り立つことを確かめるのに20分もかかってしまいました. ただなんとか時間内に記述を書き終え, 結局ほぼ4完という理想的な形で終わることができました.
終ってから友人と話した限り, やはりかなり難しかったと思います. というか選択5問のうち3問が解析だったのもあり, 解析系の人に有利すぎたのかなという感じがしました.
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2日目は10時開始でちょっと早まりましたが, 頑張って早起きして朝からコモンルームに集まっておしゃべりしました.
B問題です. 順に見ていくと, [1]群論はなんとか手が付けられそうで(3)が具定例を挙げる問題なので点が取れそう, [2]環論だがそこまで抵抗のある見た目はしていない, [3]環論で見た目からもう解きたくないという感じ, [4]ガロアはなんと有理関数体ではない面倒なパターンで沼る可能性があってつらい!解析や応用の数値計算の問題を見てみるもあまり手が付けやすそうなものは無さそう. といった感じで, これは[1][2][4]かなという感じがしてきます.
とにかくまずガロアを解ききって安心したかったので[4]を解いてみます. (1)の拡大次数をまず予想して, (3)を見てみると問題が成り立つためには(1)はその拡大次数でないといけないことを確信します. しかし(2)をやってみると部分群に対応する体を求めるのがどう見ても大変すぎて, 間違いではないかと思い一旦後回しにします.
次に[1]をやってみると(1)は数える対象を反転させる考え方でうまく行き, また例を考えると条件を満たす群を数個しか知らなかったのでそれを調べていくとちょうど(3)の例になっていることが分かります. しかし(2)は分からず一旦後回しにします.
[3]を一応やってみるも全く分からないので[2]をやってみます. するとこれは2010年に似たような問題があったので意外といけるのではないかと思えてきます. やってみると(2)の環がとても簡単になり(3)もすぐ解けてしまいます. ただ答えが単純すぎて怖いので一応ガチ計算もして, 一致することを確かめました.
次に[4]に戻り, 意を決して不変体を求めにかかります. 部分的には解決しましたが, 残りはまあ諦めることにします. (1)の拡大次数も丁寧に, ただ少しは認めて誤魔化しながら説明し, 9割方書ききることができました.
最後に1時間弱でもう一度[1]に戻りますがどうしても(2)が解けずに終了し, 結局2完半弱といったところです.
終ってから友人と話してみるとやはり[2]は今回一番簡単だったようで取りどころで, また[1]の(2)は誰も解けていなかったので安心しました.
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私は上記のように筆記はかなり自信があったので筆記通過の発表はそこまで緊張しませんでした. 時間は1日目の最後になったので, 朝早くなくてラッキー!と最初思ったのですが, ソワソワ待つ時間が長いだけだったので全然良くありませんでした.
いつものようにお昼前くらいにコモンルームに行き, 口頭試問ごっこをしながら待っていました. 先に試問が終わった友人が, もちろん内容は教えてくれないのですが意味深な笑みを浮かべていて怖かったです. ちなみにみんな私服でした.
さて, 待合室である大講義室で待っていると係の方が呼びに来てくださり, 教室に案内されました. 入ると, やはり数論の先生方が散り散りに座っていて, 順番に問題が出されそれを前で解いていくという形式でした. 問題はどれも, 完全に基本的とは言いませんが基礎的で, 難しくはないようなものでした. 少し詰まるとヒントを出してもらえるし, ミスや勘違いの指摘をされる際も, (下らないミスだったら)少し笑いがおきるといった感じで, 雰囲気は和やかでとてもやりやすかったです. もちろんこれは部屋によって全く異なるでしょうが. まあとにかく私は, 途中で何度かヒントをもらったり, 一度嘘命題を書いてしまったりしましたが, 本質的なところは割とスムーズに進められ, 出された問題は全て解くことができました.
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結果, 東大と東工大のどちらもから合格を頂いたので東大に進学することにしました. 東大は一次通過の発表は20分遅れだったのに最終は10分早く公開してきました. 早起きしておいてよかったです.
院試対策会を通して色々な概念の扱いに慣れられたし良い復習になったので, その点はとても良かったと思いました. ただやはり院試は精神を蝕むし, 普通に落ちる可能性があるの意味わからないし, 数学科だけ院試つらすぎて他学科の人との不和を生むし, 結論:院試はよくないです.