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東大/東工大 数学科 院試体験記

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こんにちは. この夏, 東大および東工大の数学科修士課程の院試を受けたので, その体験記を書こうと思います.

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自己紹介

現在東大数学科4年で, 志望分野は代数系の数論(特に解析的整数論)です. 3Sくらいまでは解析に行こうかと思っていたので積分計算とかが割と得意だったりします.

第1志望は東大の院ですが, 東大の代数系はめっちゃ落ちるという噂があった(去年が定員以下で切られていたらしい)のと, 東工大に解析的整数論を専門にしている教授がいらっしゃったので, 東工大も併願しました.

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試験の基本情報

東工大

(クリックして開く)

6月頭ごろに出願があります. 書類に書く内容は, 研究したいことなどの自明な項目に加え, 4年生のセミナーで読んだ本, 今までに自分で読んだ本, 好きな定理などがあります. 私は好きな定理はイデアルの対応定理と書きました. (院試で活躍するので.)

本試験は8月の半ば頃にあります. まず1日目に基礎, 専門, 英語の試験が詰め込まれ, 1日空いて2日目に面接があるという感じです.

- 基礎科目
まず1日目の午前は基礎科目で, これは東大で言うA問題にあたります. しかし東大と違うのは, 2時間半で5問を全て回答しないといけないというところです. 選択の余地が無く時間も厳しいです. 難易度は東大ほどではありませんが, 時間内に全部完答するのは結構難しいなといった印象です. (ただし解析に関しては東大のA問題と同じか少し難しいくらいかもしれません.)


- 専門科目
1日目の午後の専門科目は, 2時間で2問を選択して解く形式です. 代数の問題が2問(ときどき3問)しかなく, ほぼ選択の余地がないところがきついです. 難易度としては, 知識があれば一発の問題もあれば普通に難しいものもあり, ばらつきが激しいです.


- 英語
最後に英語ですが, 笑っちゃうほど簡単です. 過去問が出回っていませんが対策の必要は全く無いです.


- 面接
2日目の面接は, 筆記試験の結果により約半分の50名弱まで絞られて行われます. このうち35名程度が合格になるようです. 筆記試験の出来が良ければ自明な諮問に終わるという噂がありますが, これは定かではありません. ちなみに面接のグループ分けは午前の方が出来がいい組だという噂もありますがこれは今年に関しては違ったと思います.

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東大

7月頭ごろに出願があります. 東工大と違って手書きだったので手が疲れました.

8月末に本試験があります. まず1日目に英語とA問題, 2日目にB問題の筆記試験があり, 1日or2日空けて3日目に口頭試問があるという形になります.

  • 英語
    80分で, 結構長い英文の和訳と和文の英訳をします. どれも内容は数学に関するもので, 数学の単語などは普段から洋書を読んでいれば特に問題は無いレベルです. とはいえ和訳問題の単語や文法は, わりと難しい部分もあります.
  • A問題
    第1,2問は線型代数と微積で必答, 残りの第3~7問から2問選んで合計4問を3時間で解きます. 必答問題は東大の教養(2Sまで)に習う内容, 選択問題は数学科で2Aに習う内容で, 難しい線型代数・位相・複素解析・微分方程式などが問われます. A問題は, 適切に選択すればどうしても解けないといったことはあまり起きない程度の難易度です. ただし, 解析の問題はここ数年難化している印象があります.
  • B問題
    2日目のB問題は, 4時間で3問を選択して解きます. 問題は毎年, 代数4問, 幾何4問, 解析4問, 応用4問程度が与えられます. 難易度は他のどの大学の院試よりも難しいといっても過言ではなく, 3問中半分の1.5問程度解ければ上出来といったところではないかと思います.
  • 口頭試問
    B問題の次の日の18時頃(今年は18:20くらいでしたが)に筆記通過者と面接の予定が発表されます. 各分野ごとに2部屋ずつ用意されていて, 1人1時間ずつの割当になります. ちなみに順番はほとんどランダムなんじゃないかと思っています.
    基本的には数学の問題が出され, それに黒板を使って答えるという形式になります. 内容は他人に漏らさないよう口止めされます.
    口頭試問の比率ですが, 個人的には結構重いんじゃないかと思っています. 少なくとも, 例えば筆記900面接100の1000点満点とかではなく, 半分近くを占めているのではないかと思います. また別に, 面接による足切りもあるとの噂もあります.

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院試対策

基本的に東大数理の同級生と, 毎週過去問を解いて発表しあう院試ゼミをやっていました.

まず3年の終わりの3月ごろに最初の院試ゼミが生えました. はじめはA問題を毎週1年分ずつ遡って解いて行きました. まあA問題はこの時期でも解けるやつは解けるので(もちろん解けないやつは解けない), みんなで発表して線型代数の復習などをしながら解き進めていました.

5月くらいからB問題に変更しました. ここから代数・幾何・解析に分かれてそれぞれでゼミを進めることにしました. ちなみに私はみんなの予定の合う時間が講究に被ってしまったので先生に相談して講究をずらしてもらいました.
やはりB問題は難しく, 毎回全く手の付けられない問題がありメンブレしていました. ただガロアは慣れれば時間をかければできるようになってくるので唯一の救いでした. (ただここ数年のガロアは難化しているという説もあります.)また環論の代数幾何っぽいやつは, 代数幾何が得意な友達にお気持ちを教えてもらいながらなんとか少しずつ慣れていくことができました.
個人的な感覚としては, 代数はたいてい群論1環論2ガロア1問の構成で, 群論はかなりパズル要素が強め, 環論は最近はまんま代数幾何の問題は少なく多項式をいじる難問が多い印象, ガロアは得点源&精神安定剤といった感じでした.
ちなみに院試で使えるガロア理論のテクニックを こちら でまとめているので良ければご覧ください. また, 藍色日和さん のまとめている過去問解答例もたくさん参考にさせて頂きました.

また, 私は一応ちょっと解析が好きということもあり, 時々解析ゼミを覗いたりしていました. とは言っても簡単めな1問が解けることがある程度のレベルだったのですが, 本番で代数が全然できなかったときの一応の保険という意味では良かったです. またA問題の微積が最近難化しているのでその対策という意味でも良かったかもしれません.

8月になるとB問題の過去問も7割方解いてしまいちょっと飽きてきたので, A問題ゼミを再開して本番に備えました. あと東工大の問題も少しずつ解いていましたが, いくつかの難問を除けば時間と精神に余裕があれば大体解けてしまうのでそこまでたくさんはやりませんでした. また, 口頭試問対策で4Sの講究本やもっと基本的な内容の復習などをしていました.

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東工大 試験本番

以下, 問題の内容に関するネタバレがあるので閲覧注意です.

1日目午前

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院試早起きゼミをさぼっていたので朝がとてもきつかったです. 教室はアウェイかと思いましたが東大生の知り合いが多かった(今年は特に東大からの受験生が多かったみたいです)のでリラックスすることができました.

まずは[1]の線型代数を解いてみると(2)の時点で詰まってしまったので[2]に避難. するとこれも(1)から全然計算ができず, かなり焦ってしまいました. [3]のキモ位相の問題は過去には地雷だったりしたのですが実は今年は位相が一番簡単でなんとか完答し一安心. [4][5]の解析に進むも, これも結構難しく(1)しか解けませんでした. この時点で残り1時間程度で焦りながらも[1]に戻ると, 普通に気合で計算すると最小多項式が求まり完答. 次に[2]も同じ調子で9*9行列を気合で計算しなんとか書ききりました.(が, 計算ミスで微妙に違う答えだったことが後で発覚)そして[5]に行くと積分と極限を交換すれば上手くいくことに気づき, 「あとはLebesgueの収束定理が使えることを示せばよい」で終らせて[4]へ. 最後の最後に割といい感じの方法を思いついたので不完全ながらも急いで書いて終了しました.

感触としては2完と3半ちょっとで, 結構落ち込んでいたのですが, 友人もみんなめちゃくちゃ難しかったと言っていて安心しました. やはり解析がかなり難しかったみたいですね. 明らかに例年より難化したと思います. 他大の院試を集団受験して休み時間に簡単すぎたな!とか騒ぐ迷惑な人にはならなくてよかったです.

1日目午後

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午後は代数が2問しかなく難問の可能性もあるのでかなり運に左右されるなと思いお祈りをしていました. 蓋を開けてみると, 代数は3問あり[3]になんと表現論の問題がありました!過去20年で1回も出ていないのですがどうしたのでしょう. なんにせよ[3]は有限群の表現論の知識があれば20分程度で解けるものだったので勝ちを確信しました. [1]は環論, [2]はガロアの問題で, [2]は面倒そうだったのですが[1]で沼るのが嫌だったので[2]を時間をかけて解くことにしました. 1時間半たっぷりかけて解いたのですが, 結局(2)のよくわからない仮定をどう利用するのかが分からず, 完答はできなかったものの8割方解けたのかなという感触でした.

ちなみに英語は60分中20分で終わったので, 持ち込んだ辞書でbutの特殊な用法を読んで暇を潰していました.

2日目面接

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午後グループだったので早起きが必要ないことに安心しつつ, 午前組の方が成績がいいという噂を聞いていたのでちょっと落ち込みました.(しかしこれは今年に関しては, そんなことは無いんじゃないかと思いますが.) 大岡山が横浜に近かったので横浜のあるイベントを午前中に見てから行ったら集合時間ギリギリになりました. が, 私は午後の中でも後の方だったので全然急がなくてよかったです.

控室で待っていると順番に呼ばれていくという形で, なぜか東大の代数系の人は午後の後半に固まっていたので, 友人としゃべりながら待っていました. ちなみに書き忘れたのですが, 東工大は面接で筆記の直しをさせられるという噂があったので, 筆記と面接の中日にみんなで解き直し会をやっていました. 実際控室に戻ってきた幾何や解析の人たちはがっつり解き直し(間違っていた部分について聞かれる)をさせられたと言っていました. しかし代数系は違ったようです.

内容は他言無用と言われたので詳しいことは書けませんが, 私は面接は2,3分で終わり拍子抜けしてしまいました. 他の友人は3分~15分ほどで時間はばらつきがありましたが, 聞かれる内容と筆記の関連はよくわかりませんでした. (ただ, おそらく筆記が良いと面接が短いというのは正しいと思います.)

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東大 試験本番

東工大が割といい感じで終わってから燃え尽きみたいになって, 直前にやれることないじゃんとか言って関係ないことしたりしてました.

1日目

朝9時開始かと思ったら10時20分開始で, かなり人道的で安心しました. まず英語は, 事前に英作文で使える表現をまとめておいて対策していたのでスムーズに書くことができました. ただちょっと和訳の量が多くて手が疲れました. 「million, billion, trillion」を, 「100万, 10億, 1兆」と訳すべきか, 日本語的自然さを重視して「万, 億, 兆」と訳すべきか悩みました.

昼休みにはみんなでコモンルームに集まっておしゃべりしていました. 教室は外部の人が多すぎてむしろアウェイだったので, こうしてリラックスできてよかったです. 自分たちのホームであることを存分に生かせています.

そしてA問題です. 私の作戦としては, 安心して解きたかったので, 定積分や微分方程式を解くだけの問題が出て完全に安心して終えられるといいなと思っていました. 実際, 運よく留数定理を使った定積分の問題と, 微分方程式を解くだけの問題が出題されていたので, この2つを選択しようと思いながら解き始めました.
まず[1]微積ですが, これは過去の中でもかなり難しかった気がします. (2)がうまく行かず一旦飛ばして[2]に行きましたが, [2]を書いている途中に部分積分すればいいことに気づき, なんとか解くことができました. [2]は典型的な対角化可能性の問題で, 簡単でした. 次に[6]の定積分を解ききり, 残り1時間弱で[7]微分方程式に入りました. するとこの微分方程式が結構難しく, まず解までたどり着くのに時間がかかり, それが複雑だったので実際に代入して成り立つことを確かめるのに20分もかかってしまいました. ただなんとか時間内に記述を書き終え, 結局ほぼ4完という理想的な形で終わることができました.

終ってから友人と話した限り, やはりかなり難しかったと思います. というか選択5問のうち3問が解析だったのもあり, 解析系の人に有利すぎたのかなという感じがしました.

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2日目

2日目は10時開始でちょっと早まりましたが, 頑張って早起きして朝からコモンルームに集まっておしゃべりしました.

B問題です. 順に見ていくと, [1]群論はなんとか手が付けられそうで(3)が具定例を挙げる問題なので点が取れそう, [2]環論だがそこまで抵抗のある見た目はしていない, [3]環論で見た目からもう解きたくないという感じ, [4]ガロアはなんと有理関数体ではない面倒なパターンで沼る可能性があってつらい!解析や応用の数値計算の問題を見てみるもあまり手が付けやすそうなものは無さそう. といった感じで, これは[1][2][4]かなという感じがしてきます.

とにかくまずガロアを解ききって安心したかったので[4]を解いてみます. (1)の拡大次数をまず予想して, (3)を見てみると問題が成り立つためには(1)はその拡大次数でないといけないことを確信します. しかし(2)をやってみると部分群に対応する体を求めるのがどう見ても大変すぎて, 間違いではないかと思い一旦後回しにします.
次に[1]をやってみると(1)は数える対象を反転させる考え方でうまく行き, また例を考えると条件を満たす群を数個しか知らなかったのでそれを調べていくとちょうど(3)の例になっていることが分かります. しかし(2)は分からず一旦後回しにします.
[3]を一応やってみるも全く分からないので[2]をやってみます. するとこれは2010年に似たような問題があったので意外といけるのではないかと思えてきます. やってみると(2)の環がとても簡単になり(3)もすぐ解けてしまいます. ただ答えが単純すぎて怖いので一応ガチ計算もして, 一致することを確かめました.
次に[4]に戻り, 意を決して不変体を求めにかかります. 部分的には解決しましたが, 残りはまあ諦めることにします. (1)の拡大次数も丁寧に, ただ少しは認めて誤魔化しながら説明し, 9割方書ききることができました.
最後に1時間弱でもう一度[1]に戻りますがどうしても(2)が解けずに終了し, 結局2完半弱といったところです.

終ってから友人と話してみるとやはり[2]は今回一番簡単だったようで取りどころで, また[1]の(2)は誰も解けていなかったので安心しました.

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口頭試問

私は上記のように筆記はかなり自信があったので筆記通過の発表はそこまで緊張しませんでした. 時間は1日目の最後になったので, 朝早くなくてラッキー!と最初思ったのですが, ソワソワ待つ時間が長いだけだったので全然良くありませんでした.

いつものようにお昼前くらいにコモンルームに行き, 口頭試問ごっこをしながら待っていました. 先に試問が終わった友人が, もちろん内容は教えてくれないのですが意味深な笑みを浮かべていて怖かったです. ちなみにみんな私服でした.

さて, 待合室である大講義室で待っていると係の方が呼びに来てくださり, 教室に案内されました. 入ると, やはり数論の先生方が散り散りに座っていて, 順番に問題が出されそれを前で解いていくという形式でした. 問題はどれも, 完全に基本的とは言いませんが基礎的で, 難しくはないようなものでした. 少し詰まるとヒントを出してもらえるし, ミスや勘違いの指摘をされる際も, (下らないミスだったら)少し笑いがおきるといった感じで, 雰囲気は和やかでとてもやりやすかったです. もちろんこれは部屋によって全く異なるでしょうが. まあとにかく私は, 途中で何度かヒントをもらったり, 一度嘘命題を書いてしまったりしましたが, 本質的なところは割とスムーズに進められ, 出された問題は全て解くことができました.

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おわりに

結果, 東大と東工大のどちらもから合格を頂いたので東大に進学することにしました. 東大は一次通過の発表は20分遅れだったのに最終は10分早く公開してきました. 早起きしておいてよかったです.

院試対策会を通して色々な概念の扱いに慣れられたし良い復習になったので, その点はとても良かったと思いました. ただやはり院試は精神を蝕むし, 普通に落ちる可能性があるの意味わからないし, 数学科だけ院試つらすぎて他学科の人との不和を生むし, 結論:院試はよくないです.

投稿日:910

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投稿者

東大理数B4です

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