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東大院試のGalois理論をパターン化しよう

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はじめに

こんにちは.

この記事では, 特に東大数理の院試対策として, パターン化しやすいGalois理論の問題を確実に解けるように, 有効な手法を紹介していこうと思います.
東大数理を受ける方の参考になれば幸いです.

以下, Galois理論と群論についての基本的事実の理解を仮定します.

${}$

解法

東大では, Galois群や中間体を具体的に計算させる問題が毎年必ず1問出され, 特に有理式体の拡大のGalois閉包の問題が頻出になっています. そこで以下の問題を例に, このタイプの問題の考え方を解説していきます.

(東大 2010 専門科目B第3問)

$L=\Q(X),\ K=\Q(X^3\!+\!\frac{1}{X^3})$とおき, Lの$K$上のGalois閉包をFとする.

  1. 拡大次数$[L:K],[F:K]$を求めよ.
  2. $F$に含まれる$K$$2$次拡大$M$を全て求めよ.
  3. $F$に含まれる$K$$6$次Galois拡大を全て求めよ.

${}$

これ系の問題は, 以下のように解くと簡単です.

  1. 最初に与えられた体の拡大次数$[L:K]$を求める.
  2. $L$の元の$K$共役を求める. それを全て添加した体$F$がGalois閉包である.
  3. 共役な元の移り方によって自己同型$\sigma\in\gal(F/K)$を記述し, それらの交換関係(つまり群構造)を求める.
  4. 上で求めた交換関係を使って, 聞かれている部分群を求める.

それぞれ見ていきましょう.

${}$

1. 最初に与えられた体の拡大次数$[L:K]$を求める

もう一度思い出しておくと, $K=\Q(X^3\!+\!\frac{1}{X^3})\ \subset\ L=\Q(X)$という拡大があったのでした.

$L=K(X)$となっているので$X$$K$上最小多項式の次数が分かれば良いです. これはおそらく$T^3\!+\!\frac{1}{T^3}=X^3\!+\!\frac{1}{X^3}$の分母を払った$T^6-T^3(X^3\!+\!\frac{1}{X^3})+1\in K[T]$$X$の最小多項式であろうと予想できますが, $6$次式の既約性を示すのは大変です. そこで, 困難は分割しましょう.

$K'=\Q(X\!+\!\frac{1}{X})$とおいて, $[K':K]=3, [L:K']=2$を示せばよいです. 以下で見るように, 小さい次数の既約性は割と簡単に示すことができます.

ポイント1.1

複雑な拡大の拡大次数を求める際には, 適切に中間体の列を設定し, 小さい次数の拡大の連鎖にすることで, 最小多項式を求めやすくできる.

${}$
$L=\Q(X)$
$\ |_{^X}$
$K'=\Q(X\!+\!\frac{1}{X})$
$\ |_{^{X\!+\!\frac{1}{X}}}$
$K=\Q(X^3\!+\!\frac{1}{X^3})$

${}$

最小多項式を求める(クリックして開く)
・拡大$K'/K$
$X\!+\!\frac{1}{X}$$K=\Q(X^3\!+\!\frac{1}{X^3})$上最小多項式は, $T^3-3T=X^3\!+\!\frac{1}{X^3}$だと予想できます.

これが最小である, つまり$K$上既約であることを言えば良いです. ここで2,3次多項式が既約であることを示すには, それが根を持たないことを示せばよいことを利用します. (4次以上だと, 根を持たなくても2次と2次に分かれるといったケースがあり得てしまいますが.)

上の多項式の根は$X\!+\!\frac{1}{X},\ \omega X\!+\!\frac{1}{\omega X},\ \omega^2X\!+\!\frac{1}{\omega^2X}$ なので, これらが$K$に入らないことを言えば良いですが, これは$X$の次数などを見れば明らかです.

以上より, 最小多項式が3次なので$[K':K]=3$がわかりました.


・拡大$L/K'$
$K'=\Q(X\!+\!\frac{1}{X})$$X$を添加します. 最小多項式は$T^2-(X\!+\!\frac{1}{X})T+1$と予想できます. これが最小であることを示すには$X\notin K'$を言えば良いですが, $K'$の元は$X$の逆数をとる操作で不変なのに対し$X$はそうではないので$X\notin K'$です.

以上より, 最小多項式が2次なので$[L:K']=2$がわかりました.

${}$
従って, $[K':K]=3,\ [L:K']=2$なので$[L:K]=6$とわかりました.

ポイント1.2

最小多項式は, まず予想してそれが既約であることを示せばよい. (3次以下なら, 既約性にはその根がもとの体に入らないことを示せばよいので簡単である.)

${}$

2. $L$の元の$K$共役を求め, Galois閉包$F$を求める

$[L:K]=6$とわかったので, 初めに予想したとおり, $X$$K$上最小多項式は確かに$T^6-T^3(X^3\!+\!\frac{1}{X^3})+1$であることがわかります.(単拡大の次数は最小多項式の次数なので.)

これにより分かる$X$$K$共役を全部入れたのがGalois閉包$F$なので, 共役を考えて行きます.

ポイント2.1

共役を求めるための最小多項式は次数が高くなることもあるが, それの最小性は1.で求めた拡大次数から従う.

${}$

$X$$K$共役$6$つは, 頑張って計算すると$X,\omega X, \omega^2 X, \tfrac1{X}, \tfrac1{\omega X}, \tfrac1{\omega^2X}$とわかるので, $L$$K$共役を全て入れた体は$F=L(\omega)=\Q(\omega, X)$となります. $F/L$$2$次拡大であることは$\omega\notin L$より簡単にわかるので, $[F:K]=12$です.

${}$

3. 共役な元の移り方によって自己同型$\sigma\in\gal(F/K)$を記述し, それらの交換関係(つまり群構造)を求める

もう一度思い出すと$F=K(\omega, X)$でした. $\sigma\in\gal(F/K)$$F$$K$上生成元の行先で決まること, $\omega, X$の行先はその共役でないといけないことから$\sigma$の形を特定していきます.

$\omega$$K$共役は$\omega, \omega^2$, $X$$K$共役は$X,\omega X, \omega^2 X, \tfrac1{X}, \tfrac1{\omega X}, \tfrac1{\omega^2X}$だったので, $\sigma$としては$2\times6=12$の高々$12$通りしかありえません.

では逆にこれらが全て$F$の自己同型に伸びるかというと, $\#\gal(F/K)=[F:K]=12$より全て実現しないといけません.

ポイント3.1

$\gal(L/K)$の元の具体的な形を, 共役の移り方から特定する. それが実際に同型として実現することは$\gal(L/K)$の位数から言える.

${}$

あとは, $G=\gal(F/K)$を, 自由群に交換関係をつけた形で表します.

東大の問題においては, Galois群を有名な群で表すというのにあまり意味がなく, 具体的な同型の交換関係を調べた方がうまく行く場合が多いです. これは, ①そもそもGalois群がそこまで簡単に表せない, ②条件を満たす部分群を計算するのに結局具体的な交換関係が必要, ③部分群に対応する中間体を求めるには具体的な同型の形を知る必要がある, といった理由からです.

$G=\gal(L/K)$の元を,

$a:\begin{cases}X\mapsto \omega X\\ \omega\mapsto \omega\end{cases}$, $b:\begin{cases}X\mapsto \tfrac1X\\ \omega\mapsto \omega\end{cases}$, $c:\begin{cases}X\mapsto X\\ \omega\mapsto \omega^2\end{cases}$

とおくと, これらが$G$を生成します.

交換関係を考えると, まず$b$$c$は可換で, $a$の後$b$するのは$b$の後$a^{-1}$するのと同じ...などとなり,
$G=\{a,b,c\ |\ a^3=b^2=c^2=1, ab=ba^2, bc=cb, ac=ca^2\}$
と書くことができます.

ポイント3.2

$\gal(L/K)$を, 有名な群で表すのではなく, 具体的な同型を生成元として, 交換関係を求めることで表示する.

${}$

こうしてGalois群の表示までできてしまえば, あとは群論の問題です. 今回ならば(2)は指数2の部分群, (3)は位数2の正規部分群を求めればよいです.

${}$

まとめ

結局大切なのは, 拡大を分割して単純化すること, 添加された元がどの共役に行くかで同型が定まること, Galois群は交換関係で表示してあとは群論パズルをすること, だと思います.

みなさんもぜひ東大数理院試でGalois理論を得点源にしましょう!

${}$

その他テクニック

以下, メモ程度に簡単に書いていきます.

有名な拡大

Kummer拡大

使えるのは, 「標数0で, 1の原始$n$乗根を含む体$K$において, $K(\sqrt[n]{a})/K$は($a$$K^×/(K^×)^n$での位数)次の巡回拡大であり, $K(\sqrt[n]{a})\subset K(\sqrt[n]{b})\iff $ $K^×/(K^×)^n$$\langle a\rangle \subset \langle b\rangle$」という主張です.

これを使うと例えば, $\C(\sqrt{X+1})$$\C(\sqrt{X-1})$が同じ体であるか調べるのに, $\frac{X+1}{X-1}$$\C(X)$で平方かを調べれば良いことがわかります.

Artin-Shrier拡大

$K$の標数を$p>0$として, $X^p-X-a$(:$K$に根を持たないと仮定)の分解体$L$を考えると$L/K$$p$次巡回拡大になります. これは, 根のひとつを$\alpha$とおくと, $\alpha+1,\alpha+2,...$も根となる(!)ので, $\sigma:\alpha\mapsto\alpha+1$の生成する$p$次巡回群がGalois群になっています.

東大で$\mathbb{F}_p$上有理式体のGalois理論が出たらArtin-Shrierだと思って良いかもしれません. というのも, 完全体でない場合は通常分離性の判定は結構難しいはずで, 分離的であることが簡単に言えるのがArtin-Shrierくらいしかないからです.(根の形が上のように分かるので, 重根を持たないと分かる.)

円分拡大

$\gal(\Q(\zeta_n)/\Q)=(\Z/n\Z)^×$, 具体的には$i\in(\Z/n\Z)^×$に対応する同型は$\zeta_n\mapsto\zeta_n^i$となります. 特に$\zeta_n$を添加するのが$\varphi(n)$次拡大になっていることをよく使います. またこれは$\Q$上だけでなく$\Q(X)$上などでも同じようにできますが, 元の体に既に$1$の冪根が入っている場合はこの限りではないので注意が必要です.

下の方に体が与えられるパターン

$\mathrm{Aut}L$の部分群$H$が与えられ, 不変体$L^H$などを考察するといったパターンです. 多くの場合$L^H$の具体形を特定することはできなく,(変数入れ替えによる$S_n$の作用による不変体が対称式になるというやつだけは具体的に分かるので覚えて置くと良いです) 難しいパターンになっています. しかし一般に$\mathrm{Aut}L$の有限部分群$H$に対し$\gal(L/L^H)\cong H$なので, これを念頭に, $L$の同型からなる群を調べて行けば大体なんとかなります.

これのさらによくあるパターンは, $H_1,H_2\subset\mathrm{Aut}L$が与えられ, $L^{H_1}\cap L^{H_2}$$L^{H_1H_2}$を調べる問題です. (ちなみにこの2つは等しくなります!一般にGalois対応で, 体の共通部分は群の合成に, 合成体は群の共通部分に対応します.)このような場合, $H_1, H_2$の位数と$H_1H_2$の位数には何も関係がないので注意しましょう. $\mathrm{Aut}L$の元として具体的に調べていくしかありません.

拡大次数を求めるテクニック

単拡大の連鎖にする

例えば$\C(\sqrt{X},\sqrt{Y+1})/\C(X,Y)$のような2変数有理式の拡大では, 単拡大ではないのですぐには拡大次数はわかりません. しかし今回であれば$\C(\sqrt{X}, Y)$という中間体を経由することによって, 単拡大を2回行うことに帰着できます.

既約性の判定

4次以上の多項式が既約であることを示したい場合, それがただ根を持たないことではなく, 2次と2次に分かれるといったことがないことまで示さないといけません.

例えば簡単ですが$\sqrt[6]{2}$$\Q$上の最小多項式が$X^6-2$であることを示したいとしましょう. これが6次未満に分かれないことを言うには, 定数項に注目して, 根の6個未満の積が$\Q$に入らないことを言えば十分です. $X^6-2$の根のいくつかの積は$\zeta_6^i\,2^{\frac j6}$の形になりますが, これは$\Q$に入りません.

この元がこの体に入らないことを示したい

2,3次多項式が既約であることを言うにはその根が元の体に入らないことを言えばよいです. そのようなシチュエーションで有効な方法です.

・素元分解を使う方法
例えば$\sqrt{X^2-1}\notin\C(X) $を示しましょう. もし$f,g\in\C[X]$があって$ \sqrt{X^2-1}=f(X)/g(X)$と書けたら, $(X^2-1)g(X)^2=f(X)^2$となりますが, $\C[X]$はUFDなので両辺の素元$(X-1)$の個数を比べると奇数=偶数となり矛盾です.

$\mathrm{Aut(\bar{K}/K)}$により動くか調べる方法
$K=\C(X^2+Y^2, XY)$として$X+Y\notin K$を示します. $X\mapsto-X, Y\mapsto-Y$により定まる同型$\sigma\in\mathrm{Aut}\bar{K}$は(逆が構成できるので同型だと言えます), $K$の元は全て固定しますが$X+Y$は固定しません. これで示せました.

2つめの方法は特に有理関数体で, 代入により簡単に同型が構成できるので効果を発揮します.

群論のテクニック

位数〇〇の部分群を求める

これは簡単で, 位数3の部分群の個数は位数3の元の個数の半分になります. (位数3の元で生成すると, 2つずつ被りがでるので.) 交換関係を用いて各元の3乗を計算して1に戻るか調べれば良いです.

指数〇〇の部分群を求める

指数〇〇の部分群となると難しいですが, これが正規部分群なら有効な方法があります. 関連して, 「$p$$\#G$の最小素因数とすると, $G$の指数$p$の部分群は正規部分群である」という事実を知っておくと良いでしょう.

・交換子群を使う方法
例えば$G$の指数2の(正規)部分群$H$を求める場合, $G/H\cong \Z/2\Z$でこれはAbel群なので, 交換子群の特徴づけより$[G,G]\subset H$が分かります. そこで部分群の対応定理より, $G$$[G,G]$を含む部分群は$G/[G,G]$の部分群と対応します(しかも指数も対応します)から, $G/[G,G]$を計算すれば多くの場合簡単になるので, その指数2の部分群を求めれば良いです.

$G/G^n$を考える方法
指数2の(正規)部分群を求める場合, $G/H$は位数2ですから任意の元の2乗は0になるので, $G$の任意の元の2乗は$H$に入ります. そこで$G^2=\langle g^2\,|\,g\in G\rangle$とおけば$G^2\subset H$なので, $G/G^2$の指数2の部分群を考えれば良くなります.

〇〇を含む部分群を求める

上でも既に使いましたが, 部分群の対応定理を考えると良いです. 例えば$G$の元$g$を含む指数3の部分群を求めるには, $G/\langle g\rangle$の指数3の部分群を考えれば良いです.

その他

対応する中間体を求める

例えば$L/K$の中間体であって, $H\subset\gal(L/K)$に対応する中間体を$K(\alpha)$の形で求めたい場合, 基本的な方針としては$H$の元では固定されそれ以外の元では動いてしまうような$\alpha$を見つけ, $K(\alpha)/K$が実際に$\#H$次拡大になっていることを確認するという形になります.

ただしこの$\alpha$の見つけ方には少しコツがあります. それは, ある元$x\in K$に対し$H$の各元を作用させたものを, 全て足したり全て掛けたりするという方法です. こうすると少なくとも$H$により固定される元を得ることができるので, 目星をつけやすくなります.

適当に同型を作ったら矛盾する

今回の記事で解説した例では, $L=K(\alpha,\beta)$のように書いて$\alpha,\beta$の行先は共役に限ることから$\gal(L/K)$の元を絞り, あとは位数からそれらが全て実現することを言いましたが, こう簡単にいかない場合もあります.

特に, $L$$K$上生成元を多めにとってしまっていたりすると, 共役への行先から同型の形を絞っても, 実は矛盾してしまうものもカウントしてしまっている場合があるのです.($\alpha,\beta$の行先を決めたとき$L$の同型に矛盾なく伸びるかは簡単には分からないため.)このようなときは, 明らかに矛盾するものを削って, なんとか$\#\gal(L/K)$個の同型を特定するしかありません.

投稿日:27日前

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投稿者

東大理数B4です

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