0
大学数学基礎解説
文献あり

位相群の剰余群G/NがハウスドルフであることとNが閉であることは同値(と位相群の基本性質)

411
0

はじめに

 本記事では位相群Gの剰余群G/Nがハウスドルフであることと, 正規部分群NGの閉集合であることが同値であることを証明します.
 この命題は Lie群などをやろうとするとどこかで出てくる命題だと思います. 多様体は定義でハウスドルフ性を課すため, 例えばLie群(群構造を持つ滑らかな多様体であってそれらが両立するもの)の剰余群が再びLie群であるためには, この命題からその正規部分群が閉でなければならないことが分かります.

状況設定と問題

 群Gが位相群であるとは, Gは群かつ位相空間であって, 積:G×GG;(g,h)ghと逆元を取る写像GG;gg1がともに連続写像であるものとします. ここでG×GにはGの積位相を与えるものとします. また正規部分群NGに対して剰余群G/Nには自然な全射π:GG/Nを商写像とする商位相を与えます. この下で問題を再掲します:

Gを位相群, Nをその正規部分群とする. このとき, 以下は同値である:
(1) 剰余群G/Nはハウスドルフ空間である.
(2) Nは閉集合である.

証明

 この命題の証明は細部までしっかり書こうとすると長くなってしまいます. なので, まず最初に数学的に不十分ではない程度の証明を述べ, そこに含まれる小さくない行間を(1)などと示すことにし, この部分は命題の証明の後に改めて証明することにします. 必要に応じてご覧ください.

(命題1)

(1)(2):
G/Nはハウスドルフ空間なので1点集合{N}G/Nは閉集合である. πは商写像なので連続である. よって閉集合の逆像は閉集合である. N=π1({N})なのでNGは閉集合である.
(2)(1):
ハウスドルフ性の定義通り, xNyNとするとき, この2元がG/Nの互いに交わらない2つの開集合によって分けられることを示す.
仮定よりNGは閉集合なので差集合GNは開集合である. またxNyNよりx1yGNである. よってxU,yVかつ
x1yU1VGN

をみたすGの開集合U,Vが存在する.(1) ここで
U1={x1xU}(=(逆元を取る写像によるUの像))
U1V={x1yxU,yV}(=(U1×V))
である.
以下π(U),π(V)が求めるべきG/Nの開集合であることを見る. つまり, π(U),π(V)xNπ(U),yNπ(V),π(U)π(V)=を満たすG/Nの開集合であることを示す.
まずπは開写像(2)なのでπ(U),π(V)G/Nの開集合である. またxU,yVよりxNπ(U),yNπ(V)もわかる. 最後にπ(U)π(V)=を背理法で示す. もしzNπ(U)π(V)ならzNπ(U)より, あるgUがあってzN=gNである. よってあるsNがあってg=zsとなる. 同様に, あるhVtNがあってh=ztとなる. これより
g1h=(zs)1(zt)=s1z1zt=s1tN
となるが, 一方でg,hの取り方からg1hU1Vである. これはU,Vの取り方(U1VGN)に矛盾. よってπ(U)π(V)=である.
以上により任意の2つの相異なる元xNyNが互いに交わらないπ(U),π(V)で分けられることが示せたので, G/Nはハウスドルフ空間である.

補足事項

 まず, 行間(1)(2)を埋めるために必要な補題を3つほど証明します. これらは位相群のテキストにも必ず載っていると思われます.

gGを任意に1つ取って固定する. このとき, gを左からかける写像Lg:GG;hgh, 右からかける写像Rg:GG;hhgはともに同相写像である.

固定されたgGに対し, 写像fl:GG×G;h(g,h)は連続である. Lg:GGは上記flと位相群の積:G×GGの合成Lg=flである. 位相群の定義によって積は連続写像である. よってLgは連続写像の合成となるから連続である. Lgの逆写像はLg1であり, 上と同じ議論によってLg1も連続であるから, Lgが同相であることが従う.
Rgについても同様である.

任意にgGを取って固定する. このとき, UGに対し, gU={gxxU}, Ug={xgxU}Uと同相である.

補題2におけるLg,RgをそれぞれUに制限すれば, それぞれの像はgU,Ugである. これより従う.

UGに対し, U1={x1xU}Uと同相である. また(U1)1=Uである.

位相群の定義により逆元を取る写像GG;gg1は連続写像である. また自分自身が逆写像となっているため, 同相写像である. これをUに制限するとその像はU1であるから, この写像によってUU1は同相である.
後半の主張は, 任意のgG(g1)1=gであることから従う.

この下で(1)(2)を証明します.

(1)

x,yGに対し, 開集合WGx1yWを満たすならば, xU,yV,x1yU1VWを満たすGの開集合U,Vが存在する. (本命題でW=GNとしたものが(1))

位相群の定義により積:G×GGは連続である. よって1(W)G×Gの開集合となる. よってあるGの開集合族{Uλ},{Vλ}があり,
λΛUλ×Vλ=1(W)
と表せる. 仮定より(x1,y)1(W)だから, あるU×V{Uλ×Vλ}λΛがあり
(x1,y)U×V1(W)
である. よってx1U,yVである. ここでU=(U)1とおくとxUである.
このU,Vが求めるべき開集合である. 実際, 補題4よりUは開集合で, U1=((U)1)1=Uであり, U,Vのとり方よりx1yU1Vだから,
U1V=(U1×V)=(U×V)(1(W))W
である. よって主張を得る.

(2)

商写像π:GG/Nは開写像である.

Gの任意の開集合Uに対してπ(U)G/NG/Nの開集合であることを示す. G/Nにはπによる商位相を与えているので, これはπ1(π(U))GGの開集合であることと同値である. 以下これを示す.
π1(π(U))=UN(=(U×N))=xNUx
である. 補題3から各UxGは開集合である. よってπ1(π(U))Gはその和であるから開集合である. 以上より主張を得る.

参考文献

[1]
雪江明彦, 代数学3 代数学の広がり, 日本評論社
投稿日:2023710
更新日:20231116
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

瓦
10
1750

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中