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大学数学基礎解説
文献あり

位相群の剰余群G/NがハウスドルフであることとNが閉であることは同値(と位相群の基本性質)

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はじめに

 本記事では位相群$G$の剰余群$G/N$がハウスドルフであることと, 正規部分群$N$$G$の閉集合であることが同値であることを証明します.
 この命題は Lie群などをやろうとするとどこかで出てくる命題だと思います. 多様体は定義でハウスドルフ性を課すため, 例えばLie群(群構造を持つ滑らかな多様体であってそれらが両立するもの)の剰余群が再びLie群であるためには, この命題からその正規部分群が閉でなければならないことが分かります.

状況設定と問題

 群$G$が位相群であるとは, $G$は群かつ位相空間であって, 積$* : G\times G\rightarrow G$$; (g, h)\mapsto gh$と逆元を取る写像$G\rightarrow G$$; g\mapsto g^{-1}$がともに連続写像であるものとします. ここで$G\times G$には$G$の積位相を与えるものとします. また正規部分群$N\vartriangleleft G$に対して剰余群$G/N$には自然な全射$\pi : G\rightarrow G/N$を商写像とする商位相を与えます. この下で問題を再掲します:

$G$を位相群, $N$をその正規部分群とする. このとき, 以下は同値である:
(1) 剰余群$G/N$はハウスドルフ空間である.
(2) $N$は閉集合である.

証明

 この命題の証明は細部までしっかり書こうとすると長くなってしまいます. なので, まず最初に数学的に不十分ではない程度の証明を述べ, そこに含まれる小さくない行間を$\cdots(\star$1)などと示すことにし, この部分は命題の証明の後に改めて証明することにします. 必要に応じてご覧ください.

(命題1)

(1)$\Rightarrow$(2):
$G/N$はハウスドルフ空間なので1点集合$\{N\}\subset G/N$は閉集合である. $\pi$は商写像なので連続である. よって閉集合の逆像は閉集合である. $N=\pi^{-1}(\{N\})$なので$N\subset G$は閉集合である.
(2)$\Rightarrow$(1):
ハウスドルフ性の定義通り, $xN\neq yN$とするとき, この2元が$G/N$の互いに交わらない2つの開集合によって分けられることを示す.
仮定より$N\subset G$は閉集合なので差集合$G\setminus N$は開集合である. また$xN\neq yN$より$x^{-1}y\in G\setminus N$である. よって$x\in U$,$y\in V$かつ
$$ x^{-1}y\in U^{-1}V\subset G\setminus N $$

をみたす$G$の開集合$U$,$V$が存在する.$\cdots(\star 1)$ ここで
$$ U^{-1}=\{x^{-1}\mid x\in U\}(=(\text{逆元を取る写像による}U\text{の像}))$$
$$ U^{-1}V=\{x^{-1}y\mid x\in U, y\in V\}(=*(U^{-1}\times V))$$
である.
以下$\pi(U)$,$\pi(V)$が求めるべき$G/N$の開集合であることを見る. つまり, $\pi(U)$,$\pi(V)$$xN\in\pi(U)$,$yN\in\pi(V)$,$\pi(U)\cap\pi(V)=\emptyset$を満たす$G/N$の開集合であることを示す.
まず$\pi$は開写像$\cdots(\star 2)$なので$\pi(U)$,$\pi(V)$$G/N$の開集合である. また$x\in U$,$y\in V$より$xN\in\pi(U)$,$yN\in\pi(V)$もわかる. 最後に$\pi(U)\cap\pi(V)=\emptyset$を背理法で示す. もし$zN\in\pi(U)\cap\pi(V)$なら$zN\in\pi(U)$より, ある$g\in U$があって$zN=gN$である. よってある$s\in N$があって$g=zs$となる. 同様に, ある$h\in V$$t\in N$があって$h=zt$となる. これより
$$ g^{-1}h=(zs)^{-1}(zt)=s^{-1}z^{-1}zt=s^{-1}t\in N $$
となるが, 一方で$g$,$h$の取り方から$g^{-1}h\in U^{-1}V$である. これは$U$,$V$の取り方($U^{-1}V\subset G\setminus N$)に矛盾. よって$\pi(U)\cap\pi(V)=\emptyset$である.
以上により任意の2つの相異なる元$xN\neq yN$が互いに交わらない$\pi(U)$,$\pi(V)$で分けられることが示せたので, $G/N$はハウスドルフ空間である.

補足事項

 まず, 行間$(\star1)$$(\star2)$を埋めるために必要な補題を3つほど証明します. これらは位相群のテキストにも必ず載っていると思われます.

$g\in G$を任意に1つ取って固定する. このとき, $g$を左からかける写像$L_{g} : G\rightarrow G$$; h\mapsto gh$, 右からかける写像$R_{g} : G\rightarrow G$$; h\mapsto hg$はともに同相写像である.

固定された$g\in G$に対し, 写像$f_{l} : G\rightarrow G\times G$$; h\mapsto(g, h)$は連続である. $L_{g} : G\rightarrow G$は上記$f_{l}$と位相群の積$* : G\times G\rightarrow G$の合成$L_{g}=*\circ f_{l}$である. 位相群の定義によって積$*$は連続写像である. よって$L_{g}$は連続写像の合成となるから連続である. $L_{g}$の逆写像は$L_{g^{-1}}$であり, 上と同じ議論によって$L_{g^{-1}}$も連続であるから, $L_{g}$が同相であることが従う.
$R_{g}$についても同様である.

任意に$g\in G$を取って固定する. このとき, $U\subset G$に対し, $gU=\{gx\mid x\in U\}$, $Ug=\{xg\mid x\in U\}$$U$と同相である.

補題2における$L_{g}$,$R_{g}$をそれぞれ$U$に制限すれば, それぞれの像は$gU$,$Ug$である. これより従う.

$U\subset G$に対し, $U^{-1}=\{x^{-1}\mid x\in U\}$$U$と同相である. また$(U^{-1})^{-1}=U$である.

位相群の定義により逆元を取る写像$G\rightarrow G$$; g\mapsto g^{-1}$は連続写像である. また自分自身が逆写像となっているため, 同相写像である. これを$U$に制限するとその像は$U^{-1}$であるから, この写像によって$U$$U^{-1}$は同相である.
後半の主張は, 任意の$g\in G$$(g^{-1})^{-1}=g$であることから従う.

この下で$(\star1)$$(\star2)$を証明します.

$(\star1)$

$x$,$y\in G$に対し, 開集合$W\subset G$$x^{-1}y\in W$を満たすならば, $x\in U$,$y\in V$,$x^{-1}y\in U^{-1}V\subset W$を満たす$G$の開集合$U$,$V$が存在する. (本命題で$W=G\setminus N$としたものが$(\star1)$)

位相群の定義により積$* : G\times G\rightarrow G$は連続である. よって$*^{-1}(W)$$G\times G$の開集合となる. よってある$G$の開集合族$\{U'_{\lambda}\}$,$\{V_{\lambda}\}$があり,
$$ \displaystyle\bigcup_{\lambda\in\Lambda}U'_{\lambda}\times V_{\lambda}=*^{-1}(W)$$
と表せる. 仮定より$(x^{-1}, y)\in *^{-1}(W)$だから, ある$U'\times V\in\{U'_{\lambda}\times V_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$があり
$$ (x^{-1},y)\in U'\times V\subset *^{-1}(W) $$
である. よって$x^{-1}\in U'$,$y\in V$である. ここで$U=(U')^{-1}$とおくと$x\in U$である.
この$U$,$V$が求めるべき開集合である. 実際, 補題4より$U$は開集合で, $U^{-1}=((U')^{-1})^{-1}=U'$であり, $U$,$V$のとり方より$x^{-1}y\in U^{-1}V$だから,
$$ U^{-1}V=*(U^{-1}\times V)=*(U'\times V)\subset*(*^{-1}(W))\subset W $$
である. よって主張を得る.

$(\star2)$

商写像$\pi : G\rightarrow G/N$は開写像である.

$G$の任意の開集合$U$に対して$\pi(U)\subset G/N$$G/N$の開集合であることを示す. $G/N$には$\pi$による商位相を与えているので, これは$\pi^{-1}(\pi(U))\subset G$$G$の開集合であることと同値である. 以下これを示す.
$$ \pi^{-1}(\pi(U))=UN(=*(U\times N))=\bigcup_{x\in N}Ux $$
である. 補題3から各$Ux\subset G$は開集合である. よって$\pi^{-1}(\pi(U))\subset G$はその和であるから開集合である. 以上より主張を得る.

参考文献

[1]
雪江明彦, 代数学3 代数学の広がり, 日本評論社
投稿日:2023710
更新日:20231116
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瓦
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