素数と既約多項式ってどれくらい類似してるの?
「一口には言いがたくて、たとえば素元であることは共通点の一つだけど、他はどうか気になるよな。今回は素数定理の類似について見ていこか。$ 教えてとんとん〜$ 」
線形代数と環論の知識を踏まえます.自分用の備忘録的なものに近いです.
$K$を体,$\overline{K}$をその代数閉包の一つとします.まずは命題を述べるための言葉をいくつか定義します.
$\alpha\in \overline{K}$,$f(x)$が$\overline{K}[x]$で$(x-\alpha)^2$で割り切れるとき,$\alpha$を$f(x)$の重根という.
$f(x)\in K[x]$が$\overline{K}$で重根を持たないとき,分離多項式という.
つまり分離多項式といったら$K[x]$の元であることになります.
この先,微分は形式微分とします.
位数$p^n$の有限体を方程式の解の集合として得ます.重根をもたないことを確かめるのに次の命題が有用です.
次の(1),(2)は同値である.
(1)$\alpha$は$f(x)$の重根である,
(2)$f(\alpha)=f^\prime(\alpha)=0$.
(1)$\implies$(2) 仮定より,ある$g(x)\in \overline{K}[x]$が存在して$f(x)=(x-\alpha)^2 g(x)$となる.このとき$f^\prime(x)=2(x-\alpha)g(x)+(x-\alpha)^2g^\prime(x)$なので$f(\alpha)=f^\prime(\alpha)=0$.
(2)$\implies$(1) 重根をもたないとすると,ある$a,b\in\overline{K}$とある$g(x)\in\overline{K}[x]$が存在して$f(x)=(x-\alpha)^2g(x)+ax+b$をみたす.ただし$a\neq0$または$b\neq0$.ここで計算により,$f(\alpha)=a\alpha+b$,$f^\prime(\alpha)=a$である.$f(\alpha)=f^\prime(\alpha)=0$とすると$a=0$かつ$b=0$となり矛盾する.$\Box$
次の(1),(2)は同値である.
(1)$f(x)$と$f^\prime(x)$は$K[x]$で互いに素である,
(2)$f(x)$は分離多項式である.
(1)$\implies$(2) $f(x)$が$ K[x]$の元であることは明らか.互いに素である仮定から,ある$a(x),b(x)\in K[x]$が存在して$a(x)f(x)+b(x)f^\prime(x)=1$をみたす.$\alpha\in\overline{K}$が重根なら$\alpha$を代入して命題1から$0=1$となるので矛盾である.
(2)$\implies$(1) 互いに素でなければ,$f(x) $,$f^\prime(x)$を共に割り切る$g(x)\in K[x]$が存在し,$g(\alpha)=0$なる$\alpha\in \overline{K}$に対し$f(\alpha)=f^\prime(\alpha)=0$.$\Box$
ここで,有限体に関するいくつかの事実を確認します.
$K$が有限体なら$K$の位数は素数べきである.
標数$0$なら$\mathbb{Q}$を含み$|K|=\infty$.よって$K$の標数はある素数$p$に等しい.このとき$K$は$\mathbb{F}_p$上のベクトル空間をなすから,その次元を$n$とするとき$|K|=p^n$.$\Box$
以下で$p$はある素数を表すとします.
$K$が位数$q=p^n$の有限体なら,任意の$a\in K$に対し$a^q=a$.
乗法群$K^\times$は位数$q-1$の群なので,$K^\times$の元の位数は$q-1$の約数である.よって$a\in K^\times$とすると$a^{q-1}=1$,すなわち$a^q=a$.$0^q=0$であることは明らか.
以上で有限体を調べるときは位数$p$べきのものについて考えればよいことがわかりました.さらに全ての$n$に対し位数$p^n$の有限体が存在することがわかります.構成に用いる概念を定義します.
$f(x)\in K[x]$とする.$f(x)=a(x-\alpha_1)\cdots(x-\alpha_n)$,($a\in K$,$\alpha_1,\dots,\alpha_n\in\overline{K}$)とするとき,$K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ ($K$に$\alpha_1,\dots,\alpha_n$を添加した体)を$f$の$K$上の最小分解体とよぶ.
最小分解体は同型を除いて一意である.
$F$を$K$の別の代数閉包とすると,定理(cf.青雪江など)により$K$同型$\phi:\overline{K}\to F$が存在する.$f(x)=a(x-\alpha_1)\cdots(x-\alpha_n)$,($a\in K^\times,\alpha_1,\dots,\alpha_n\in \overline{K}$)なら
$f(x)=a(x-\phi(\alpha_1))\cdots(x-\phi(\alpha_n))$.よって$F$で構成した最小分解体は$K(\phi(\alpha_1),\dots,\phi(\alpha_n))$なので$\phi$は$K$同型$K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)\to K(\phi(\alpha_1),\dots,\phi(\alpha_n))$を誘導する.$\Box$
いよいよ実際に有限体を構成します.
(1)$q=p^n$とする.位数$q$の有限体が存在し,同型を除いて一意である.位数$q$の体を$\mathbb{F}_q$とすると,体$F$が$\mathbb{F}_q$を含めば$\mathbb{F}_q =\{a\in F\ |\ a^q=a\}$.
(2)$\mathbb{F}_{p^n}\subseteq \mathbb{F}_{p^m}$と$n|m$は同値である.
$f(x)=x^q-x$とおき,$f(x)$の$\mathbb{F}_p$上の最小分解体を$L$とする.微分$f^\prime(x)=-1$は単元なので命題1系により$f(x)=0$は重根をもたない.よって$M=\{\alpha\ |\ f(\alpha)=0\}$とおくと$|M|=q$.さらに$M$が体であることを示す.
$\alpha,\beta\in M$なら$\alpha^p=\alpha$,$\beta^p=\beta$なので標数が$p$であることに注意すると$(\alpha\pm\beta)^p=\alpha^p\pm\beta^p=\alpha\pm\beta$(複合同順)。また,$(\alpha\beta)^p=\alpha^p\beta^p=\alpha\beta$なので$\alpha\beta\in M$.また$\mathbb{F}_p$ は$ M$に含まれる.実際,命題3から$a\in \mathbb{F}_p$に対し$a^p=a$なので$a^{p^n}=(a^p)^{p^{n-1}}=a^{p^{n-1}}=\cdots=a$.従って$M$は$L$の$\mathbb{F}_p$を含む部分環である.$a\in M\backslash \{0\}$なら命題3から$a^{-1}=a^{q-2} \in M$なので逆元も含まれ,$M$は体である.$M$は$f(x)$の根をすべて含む体なので$M=L$.よって位数$q$の体が存在する.$f(x)$の最小分解体は同型を除いて一意なので位数$q$の体は同型を除いて一意.
最後に$\mathbb{F}_q \subseteq F$なら$\mathbb{F}_q=\{a\in F\ |\ a^q=a\}$であることは$M$の定義と$\mathbb{F}_q$の一意性からわかる.
$\mathbb{F}_{p^n}\subseteq \mathbb{F}_{p^m}$なら$\mathbb{F}_{p^m}$は$\mathbb{F}_{p^n}$上の有限次元ベクトル空間なので,その次元を$l$とすると$p^m=(p^n)^l=p^{nl}$.よって$n|m$.
逆に$m=nl$($l\in\mathbb{Z}$)とする.
$\dfrac{p^m-1}{p^n-1}=p^{n(l-1)}+p^{n(l-2)}+\cdots+1\in\mathbb{Z}$.$a\in\mathbb{F}_{p^n}$なら$a^{p^n-1}=1$.よって$a^{p^m-1}=1$.従って$a^{p^m}=a$.以上から$\mathbb{F}_{p^n}\subseteq \mathbb{F}_{p^m}$.$\Box$
ここで証明した性質を使って次回は実際に既約多項式を得ます!