この記事は群行列式というものに対する説明と,その因数分解定理の証明について書いた記事です.有限群の表現論から導ける基本的かつ面白いお話なのですが,ネットで探しても意外と簡単な説明や証明が見つからなかったので,この記事を書きました.
次のような3×3行列の行列式を考えてみます.
$$\begin{pmatrix} a & b & c \\ b & c & a \\ c & a & b \end{pmatrix}$$
この行列式を計算してみると,次のようにきれいに因数分解できます.
\begin{align} \det\begin{pmatrix} a & b & c \\ b & c & a \\ c & a & b \end{pmatrix} &= 3abc-a^3-b^3-c^3\\ &=-(a+b+c)(a+ωb+ω^2c)(a+ω^2b+ωc). \end{align}
(ただし $ω = e^{2\pi i/3}$ は1の3乗根を表します)
似たようなことを次の4×4行列でもやってみましょう.
$$\begin{pmatrix} a & b & c & d \\ b & c & d & a \\ c & d & a & b \\ d & a & b & c \\ \end{pmatrix}$$
4×4行列の行列式を計算するのは大変かもしれませんが,やってみると次のようになります.
\begin{align} \det \begin{pmatrix} a & b & c & d \\ b & c & d & a \\ c & d & a & b \\ d & a & b & c \\ \end{pmatrix} &= -a^4 + 4 a^2 b d + 2 a^2 c^2 - 4 a b^2 c - 4 a c d^2 + b^4 - 2 b^2 d^2 + 4 b c^2 d - c^4 + d^4 \\ &= -(a + b + c + d)(a - b + c - d) (a + i b - c - i d) (a - i b - c + i d) . \end{align}
先ほどと同じように,きれいに因数分解されました.
さて,今の2つの行列
$$
\begin{pmatrix}
a & b & c \\
b & c & a \\
c & a & b
\end{pmatrix}, \
\begin{pmatrix}
a & b & c & d \\
b & c & d & a \\
c & d & a & b \\
d & a & b & c \\
\end{pmatrix}
$$
をよく見ると,これらはそれぞれ群 $\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}, \mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の乗積表と同じ形をしています.
実は,これと同様に,有限群の乗積表を行列と見て行列式を計算すると,それはきれいに因数分解できる,という美しい定理が知られています!
これは (群行列式に関する)フロベニウスの定理 と呼ばれています.さらに言うとこの定理は,この行列式をそれ以上細かくできないように因数分解すると(つまり既約に因数分解すると),そこに現れる各既約因子が対応する有限群の各既約表現 (あとで定義します) と対応するものになっている,ということも言っています.つまり,有限群の表現論と関係があるのです!
この記事ではこのことを説明していきます.つまり,有限群 $G$ の乗積表の行列式は,$G$ の既約表現に対応する多項式によって因数分解される,ということを説明していきます (定理4).
今述べたように,実はその因数分解が既約な因数分解となることも分かるのですが,その証明は少し難しいので,この記事ではその証明は省略します.気になる方は一番下に載せた文献 [エティンゴフ] (定理4.10.2) などを参照してください.
この記事を読むのに必要な前提知識は,大学で習う線形代数 (例えば線形写像,トレース,行列式など) と 群論 (例えば群準同型など) です.
これら以外に有限群の表現論も使いますが,有限群の表現論についてはこの記事の第1章に軽く説明をつけたので,これは特に知らなくても読めると思います.
その代わり,有限群の表現論の基本的な定理は1つ認めて進むことにします.
第0章. イントロ
第1章. 表現論の基礎
第2章. 群行列式
乗積表の行列式を因数分解するために表現論を使うので,まずは有限群の表現論についていくつか基礎的な事実を準備します.
有限群の表現論を既に知っている方は,この第1章をさらっと読んで次の第2章に行ってしまってよいと思います.
以降,$G$ は有限群とし,ベクトル空間は体 $\mathbb{C}$ 上とします.零ベクトル空間を単に $0$ と表します.
以降,全ての表現は断らなければ有限次元とします.
$V$ が1次元ベクトル空間のとき,$GL(V)$ は群として $\mathbb{C}^\times$ に同型なので,1次元表現とは群準同型 $G→\mathbb{C}^\times$ のこと.
自明な群準同型 $G→\mathbb{C}^\times, g \mapsto 1$ に対応する1次元表現を 自明表現 という.
任意の1次元表現は既約表現.特に自明表現は既約表現.
有限群の表現の分類において非常に重要な概念である,指標を定義します.
表現 $ρ: G → GL(V)$ に対し,その指標 $χ_ρ: G → \mathbb{C}$ を $\chi_\rho(g) := \mathrm{Tr}(\rho(g))$ $(g \in G)$ と定める.$χ_ρ$ を $χ_V$ と書くこともある.
$G$ の単位元を $e$ と書く.表現 $V$ について常に $\rho_V(e)=\mathrm{id}_V$ なので,指標 $\chi_V$ は $\chi_V (e)=\mathrm{Tr}(\mathrm{id}_V) = \dim V$ を満たす.
関数 $f, h: G → \mathbb{C}$ に対して,その内積を $\displaystyle (f, h) := \frac{1}{\#G} \sum_{g \in G} f(g) \overline{h(g)}$と定める.
($G$ の元の数を $\#G$ と表している)
次の定理は,有限群の表現論における基本的かつ重要な定理です.指標を導入したのはこのためです.
つまり,表現 $V$ を既約分解したときに現れる $V_i$ の重複度が内積 $(\chi_V, \chi_i)$ で与えられる,ということです.
有限群の表現論における基本的な定理なので省略する.証明は例えば文献 [フルトンハリス] の 系2.13, 系2.16 を参照せよ.
では,次節で行う乗積表の行列式の考察において根幹の役割を果たす表現 $\mathbb{C}[G]$ を導入します.
群環 $\mathbb{C}[G]$ を基底 $\{e_g\}_{g \in G} $ を持つベクトル空間と定める.各 $g \in G$ に対して $\mathbb{C}[G]$ 上の線形変換 $\rho(g)$ を
$$
\rho(g)(e_h) := e_{gh} \quad (\forall h \in G)
$$
で定めると,$(\rho, \mathbb{C}[G])$ は $G$ の表現となる.これを正則表現という.
表現の同型
$$
\mathbb{C}[G] \cong \bigoplus_{i=1}^k V_i^{\oplus \dim V_i}
$$
がある.ここで $V_1, …, V_k$ は $G$ の既約表現全体である.
表現 $(\rho, \mathbb{C}[G])$ の指標を単に $χ$ と書く.つまり $χ(g) = \Tr(ρ(g))$.これを計算する.
$ρ(g) (e_h) = e_{gh}$ であり,$g ≠ e$ のとき $gh \neq h$ だから, $χ(g)=\Tr(ρ(g)) = 0$ となる.また $g = e$ のとき $χ(e)=\Tr(ρ(e)) = \dim \mathbb{C}[G] = \#G$ となる.
よって,各既約表現 $V_i$ の指標 $χ_i$ に関して
$$
(\chi, \chi_i) = \frac{1}{\#G} \sum_{g \in G} \chi(g) \overline{\chi_i(g)} = \frac{1}{\#G} \cdot (\#G) \overline{\chi_i(e)} = \dim V_i
$$
となるから,定理1より
$$
V \cong \bigoplus_i V_i^{\oplus (\chi, \chi_i)} = \bigoplus_i V_i^{\oplus \dim V_i}
$$
が従う.
この定理から次の系が直ちに得られます.この系は,既約表現を全て列挙するときに大変役立ちます.
$\dim \mathbb{C}[G]=\#G$ と $\dim\big(\bigoplus_{i=1}^kV_i^{\oplus \dim V_i}\big) = d_1^2 + … + d_k^2$ なので,今の定理より直ちに従う.
有限群の表現論の準備はこれでおしまいです.
では,元々の目的だった乗積表の行列式を導入していきます.
組 $x=(x_g)_{g\in G},\ x_g\in \mathbb{C}$ に対し,行列 $X_G^{(x)}, X_G'^{(x)}$ を
$$
X_G^{(x)} = (x_{gh^{-1}})_{g,h \in G}
$$
$$
X_G'^{(x)} = (x_{gh})_{g,h \in G}
$$
と定め,それぞれの行列式を $Θ_G^{(x)}, Θ_G'^{(x)} \in \mathbb{C}$ とおく.つまり
$$
\Theta_G^{(x)} = \det X_G^{(x)}
$$
$$
\Theta_G'^{(x)} = \det X_G'^{(x)}.
$$
$X_G^{(x)}, Θ_G^{(x)}$ を $x$ に対応する 群行列,群行列式 と呼ぶ.
$X_G'^{(x)}, Θ_G'^{(x)}$ を $x$ に対応する 乗積表行列,乗積表行列式 と呼ぶ.
$X_G^{(x)}, Θ_G^{(x)}, X_G'^{(x)}, Θ_G'^{(x)}$ を単に $X_G, Θ_G, X_G', Θ_G'$ と書くこともある.
乗積表行列式は第0節で出てきたものです.群行列式はそれに似た,しかし微妙に違うものですが,群行列式は乗積表行列式と符号を除いて一致し (次の命題),群行列式の方が証明に扱いやすいので,そちらも定義しました.
群行列,群行列式は一般的な呼称だと思いますが,乗積表行列,乗積表行列式はこの記事独自の呼び方だと思います.
$s = (\#\{ g \in G \mid g^2 \not= e \}) /2 $ と定めると $s$ は整数で,
$$Θ_G' = (-1)^sΘ_G.$$
特に $Θ_G$ と $Θ_G'$ は符号しか変わらない.
$ X_G = (x_{gh^{-1}})_{g,h \in G},\ X_G' = (x_{gh})_{g,h \in G} $ なので,行列 $X_G'$ の列を入れ替えると $X_G$ になる.
ゆえに行列式の性質から $Θ_G$ と $Θ_G'$ は符号しか変わらず,その符号は$\sigma: G \to G, \sigma(h)=h^{-1}$ と置換を定めたときの符号 $\mathrm{sgn}\, \sigma$ に一致する.
$\sigma$ の元 $h \in G$ への作用は次のようになる:
したがって,$\sigma$ は互いに交わらない$s=(\#\{ h \in G \mid h^2 \not= e \}) /2$ 個の互換の積にかけて,その符号は
$$
\mathrm{sgn}(\sigma) = (-1)^s
$$
となる.
群行列式 $Θ_G$ と乗積表行列式 $Θ_G'$ は符号しか違わないので,片方を因数分解すればもう片方の因数分解の結果はすぐに従います.なので片方だけ考えればよいです.
群行列式 $Θ_G$ の方が扱いやすいので,次の定理では $Θ_G$ の方を使います.
群行列 $X_G^{(x)}$ は $\mathbb{C}[G]$ 上の線形変換
$$
F: e_h \mapsto \sum_{g\in G} x_{gh^{-1}} e_{h} = \sum_{g'\in G} x_{g'} e_{g'h}
$$
の基底 $e_g,\,g\in G$ による表示になっている.
表現を $(\rho, \mathbb{C}[G])$ と書くと $F=\sum_{g\in G} x_{g} \rho(g)$ と表せるから,$Θ_G^{(x)}=\det F = \det \bigl(\sum_{g\in G} x_{g} \rho(g) \bigr)$ となる.
定理2により表現の同型 $\varphi: \mathbb{C}[G] \stackrel{\sim}{\longrightarrow} \bigoplus_{i=1}^k V_i^{\oplus \dim V_i}=:V'$ があった.この同型 $\varphi$ により,$\mathbb{C}[G]$ の線形変換 $A$ を $V'$ 上の線形変換 $A'=\varphi\circ A\circ\varphi^{-1}$ に"移す"ことができる.(以降,この対応を"移し"と書く)
表現 $V'$ を $(\rho_{V'}, V')$ と表すと,$\varphi$ が表現の同型であることから $\rho_{V'}(g) = \varphi\circ \rho(g)\circ\varphi^{-1}$ なので,この"移し"によって $\rho(g)$ は $\rho_{V'}(g)$ へと対応する.直和表現 $V'$ の定義より $\rho_{V'}(g) = \bigoplus_{i=1}^k \bigoplus_{j=1}^{\dim V_i} \rho_i(g) $ である.
よって,$\mathbb{C}[G]$ の線形変換 $F=\sum_{g\in G} x_{g} \rho(g)$ は"移し"によって$V'$ 上の線型変換
$$F':=\bigoplus_{i=1}^k \bigoplus_{j=1}^{\dim V_i} \Bigl( \sum_{g\in G} x_{g} \rho_i(g) \Bigr) $$
へと移ることがわかる.
この"移し" $A \mapsto A'=\varphi\circ A\circ\varphi^{-1}$ では行列式は変わらないから, $\det F = \det F'$ となり,結局
$$
Θ_G^{(x)}=\det F = \det F' = \prod_i \det\Big(\sum_{g} x_g \rho_i(g)\Big)^{\dim V_i}
$$
が得られる.これが1つ目の主張である.
2つ目の主張は,1×1行列 $(a)$ の行列式が $a$ となることから簡単に分かる.
これが欲しかった定理になります.Happy!
定理の使用例をいくつか見てみましょう.
$G = \{1, ω, ω^2\},\ ω = e^{2πi/3}$ とし,掛け算を演算として群と見る.$(G ≅ \mathbb{Z}/3 \mathbb{Z})$
$\chi: G \to \mathbb{C^\times}$ を $χ(\alpha) = \alpha$ $(\forall \alpha \in G)$ と定めると,$1, χ, χ^2: G \to \mathbb{C^\times}$ は群準同型なのでこれらに対応する1次元表現がとれる (ただし関数 $1$ は $1$ への定数関数).
定理2系1より,これが $G$ の全ての既約表現である.
変数 $x = (x_1, x_ω, x_{ω^2})=:(a, b, c),\ a, b, c \in \mathbb{C}$ に対応する群行列 $X_G $ は
$$
X_G =
\begin{pmatrix}
x_1 & x_{ω^2} & x_ω \\
x_ω & x_1 & x_{ω^2} \\
x_{ω^2} & x_ω & x_1
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
a & c & b \\
b & a & c \\
c & b & a
\end{pmatrix}
$$
となる.
この行列の行列式 $Θ_G$ は,定理4の結果1.から因数分解できる.定理4の結果2.を使うと,その因数分解の各因子を明示的に書き表すことができて,
\begin{align}
Θ_G
&= (I(1)x_1 + I(ω)x_ω + I(ω^2)x_{ω^2})(\chi(1)x_1 + \chi(ω)x_ω + \chi(ω^2)x_{ω^2})(\chi^2(1)x_1 + \chi^2(ω)x_ω + \chi^2(ω^2)x_{ω^2}) \\
&= (x_1 + x_ω + x_{ω^2}) (x_1 + ω x_ω + ω^2 x_{ω^2}) (x_1 + ω^2 x_ω + ω x_{ω^2}) \\
&= (a+b+c)(a+ωb+ω^2c)(a+ω^2b+ωc)
\end{align}
となる.以上より,
$$\det\begin{pmatrix}
a & c & b \\
b & a & c \\
c & b & a
\end{pmatrix}
=
(a+b+c)(a+ωb+ω^2c)(a+ω^2b+ωc)
$$
が分かった.
この行列の2列目と3列目を入れ替えることで,この記事の最初に説明した
$$\det\begin{pmatrix}
a & b & c \\
b & c & a \\
c & a & b
\end{pmatrix}
=
-(a+b+c)(a+ωb+ω^2c)(a+ω^2b+ωc)
$$
が得られる.
$G = \{1, i, -1, -i\}$ を掛け算を演算として群と見る.$(G ≅ \mathbb{Z}/4 \mathbb{Z})$
$\chi: G \to \mathbb{C^\times}$ を $χ(\alpha) = \alpha$ $(\forall \alpha \in G)$ と定めると,$1, χ, χ^2, χ^3: G \to \mathbb{C^\times}$ が1次元表現で (ただし $1$ は定数関数),定理2系1よりこれが $G$ の全ての既約表現になる.
$x = (x_1, x_i, x_{-1}, x_{-i})=(a, b, c, d),\ a, b, c, d \in \mathbb{C}$ に対応する群行列 $X_G $ は
$$
X_G =
\begin{pmatrix}
x_1 & x_{-i} & x_{-1} & x_i \\
x_i & x_1 & x_{-i} & x_{-1} \\
x_{-1} & x_i & x_1 & x_{-i} \\
x_{-i} & x_{-1} & x_i & x_1
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
a & d & c & b \\
b & a & d & c \\
c & b & a & d \\
d & c & b & a
\end{pmatrix}
$$
となる.
定理4より,対応する群行列式は
\begin{align}
Θ_G
&= (x_1 + x_i + x_{-1}+x_{-i})(x_1 + ix_i +i^2x_{-1}+i^3x_{-i})(x_1 + (-1) x_i + (-1)^2x_{-1}+(-1)^3x_{-i})(x_1 +(-i) x_i +(-i)^2 x_{-1}+(-i)^3x_{-i}) \\
&= (a+b+c+d)(a-b+c-d)(a+ib-c-id)(a-ib-c+id)
\end{align}
となる.以上より,
$$\det\begin{pmatrix}
a & d & c & b \\
b & a & d & c \\
c & b & a & d \\
d & c & b & a
\end{pmatrix}
=
(a+b+c+d)(a-b+c-d)(a+ib-c-id)(a-ib-c+id)
$$
が分かる.
この行列の2列目と4列目を入れ替えることで,この記事の最初に説明した
$$\det\begin{pmatrix}
a & b & c & d \\
b & c & d & a \\
c & d & a & b \\
d & a & b & c
\end{pmatrix}
=
-(a+b+c+d)(a-b+c-d)(a+ib-c-id)(a-ib-c+id)
$$
が得られる.
非可換群から得られる例も少し見てみましょう.
$G = S_3$ (3次対称群) とする.
$S_3$ の既約表現はここでは詳しく説明しないが,1次元のものが $1, \mathrm{sgn}: S_3→ℂ^×$ の2つで,2次元のものが1つ ($S_3$ の二面体群としての正三角形への作用に対応) であることが知られている.
ゆえに,定理4より $x=(x_g)_{g ∈ S_3}$ に対応する群行列の行列式 $Θ_{S_3}$ は
\begin{align}
Θ_{S_3} &= \prod_{χ:\text{ 1次元表現 }} \Big(\sum_{g \in S_3} x_g χ(g)\Big) \; \cdot \; \det\Big(\sum_{g \in S_3} x_g \rho_{\text{2次元}}(g)\Big)^2\\
&=(x_{(1)}+x_{(123)}+x_{(132)}+x_{(12)}+x_{(23)}+x_{(31)})(x_{(1)}+x_{(123)}+x_{(132)}-x_{(12)}-x_{(23)}-x_{(31)})
\cdot(x_g\text{ たちのある2次多項式 })^2
\end{align}
の形に書けることがわかる.
以上の例のように,一般に有限群 $G$ に対して群行列式 $Θ(G)$ を計算すると,それは $x_g\ (g ∈ G)$ を変数とする $\#G$ 変数多項式の形となり,定理(WIP)はその多項式のある因数分解を与えることが分かります.これが元々説明した行列式の因数分解になります.
これをちゃんと命題の形で書くと,次のようになります.
各 $g\in G$ に対し変数 $\widetilde {x}_g$ を用意して,その変数を係数にもつ行列
$$
\widetilde{X}_G = (\widetilde {x}_{gh^{-1}})_{g,h \in G}
$$
を定め,これから形式的に計算される行列式を $\widetildeΘ_G \in \mathbb{C}[\widetilde {x}_g \mid g \in G]$ とおく ($\mathbb{C}[\widetilde {x}_g \mid g \in G]$ は $\#G$ 変数多項式環).
$G$ の既約表現が $k$ 個でその次元が $d_1, ..., d_k$ であるとする.このとき各 $i=1, ..., k$ に対しある $d_i$ 次多項式 $P_i\in \mathbb{C}[\widetilde {x}_g \mid g \in G]$ が存在し,
$$\widetildeΘ_G = P_1^{d_1} \cdots P_k^{d_k}$$
が $\mathbb{C}[\widetilde {x}_g \mid g \in G]$ の元の間の等式として成り立つ.
これは今の定理4から従い,その証明は難しくありませんが,ちゃんと説明しようとすると書くことが多くて面倒なので,証明を書くのは省略します.興味のある方々は各自でやってみてください.
(注意:定理4は,ある複素数の組 $(x_g)_{g \in G}$ から得られる2つの複素数が等しい,ということを主張しています.この等式がさらに多項式としての等式を与えることを示すには,例えば$\mathbb{C}$ 上の1変数 n 次多項式は n+1 個の点の値で決まる,という事実を使うとよいと思います)
さらに強い主張として,第0章で述べたようにこの因数分解は多項式の既約な分解を与えているのですが (群行列式に関するフロベニウスの定理),こちらの証明は難しいので,最初に言ったように本記事では省略します.文献 [エティンゴフ] などを参照してください.
群の乗積表を行列と見たときの行列式はきれいな形で因数分解することができ,その因数分解の形を群の既約表現から計算できることを確認しました.
長い記事でしたが,ここまで読んでくださりありがとうございます.
[エティンゴフ] P.エティンゴフ 他 (2023). 表現論入門―群・代数・箙と圏の表現 (西山 享 訳). 丸善出版. (原著出版2011年)
[フルトンハリス] W.フルトン, J.ハリス (2023). フルトン–ハリス 表現論入門 (木本 一史 訳). 丸善出版. (原著出版1991年)