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積分の体系化(Ⅳ)

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第4章 解法設計の体系化

積分を速く正確に解くためには、計算を始める前の判断が重要になる。
同じ積分に対して複数の解法が存在しても、それぞれに必要な計算量は大きく異なる。ある方法では長い式変形が必要になる一方、別の方法ではほとんど計算せずに答えが得られることもある。
そのため、重要なのは、利用できる手法を知っていることだけではない。
問題の構造から有力な解法を発見し、必要な計算を予測し、最も効率的で確実な解法を組み立てることである。
ここでいう最適化は、単に計算の行数を減らすことではない。解法を探す時間、実際の計算量、答案の記述量、誤答の危険性まで含めて考える。
また、必ずしも数学的な意味で最短の解法を証明する必要はない。重要なのは、十分に効率的な方法を素早く見つけ、不要な探索や計算に時間を費やさないことである。

4.1 解法設計の全体像

解法設計では、問題に含まれる情報を個別に処理するのではなく、それらの関係から解法を組み立てる。
例えば、被積分関数に平方の和が現れている場合、それだけを見れば逆正接関数の微分形を考えられる。
しかし、定積分で積分区間が対称なら、原始関数を求めずに済むかもしれない。
また、平方の和が複雑な関数から構成されている場合には、その二つの関数の関係を利用できる可能性もある。
したがって、被積分関数の特徴を見つけることと、その特徴を利用することは区別したい。
何が含まれているかを把握したうえで、それらを使って何ができるかを考えるのである。

問題の目的を確認する

まず、何を求める必要があるかを確認する。
不定積分なら原始関数を構成する必要がある。一方、定積分では、積分値さえ決定できれば原始関数を求める必要はない。
さらに、積分を含む不等式の証明であれば、積分値を厳密に求めずに済む場合もある。
この違いは、解法選択に直接影響する。
例えば、
$$ I=\int_0^1 \frac{2x-1}{1+(x^2-x)^2}\,dx $$
を考える。
分母が平方の和になっているので、
$$ \frac{d}{dx}\arctan(x^2-x) =\frac{2x-1}{1+(x^2-x)^2} $$
という微分形を利用できる。
したがって、
$$ I=\left[\arctan(x^2-x)\right]_0^1=0 $$
となる。
しかし、原始関数を求める必要はなかったとも考えられる。
実際、
$$ x\longmapsto1-x $$
と変換すると、分母は変化せず、分子だけが符号を変える。
したがって、
$$ I=-I $$
より、
$$ I=0 $$
を得る。
この積分では、二つの方法がどちらも有効である。
原始関数の微分形が即座に分かるなら、そのまま計算してもよい。一方、区間反転による反対称性を先に認識できれば、原始関数を求めずに値を決定できる。
重要なのは、どちらか一方を必ず優先することではない。
問題が要求する結果に対して、どちらが少ない判断と計算で到達できるかを考えることである。

各部分の役割を把握する

複雑な積分では、被積分関数に現れる各部分を、次のような観点から捉える。

  • 何を微分したときに現れる因子なのか。
  • どの関数を一つのまとまりとして扱えるか。
  • どの部分が変数変換によって変化し、どの部分が保たれるか。
  • どの因子が他の因子と相殺される可能性があるか。
  • 積分区間や端点が、どの操作に利用できるか。
    これらをすべて順番に調べる必要はない。
    目立つ構造から有力な可能性を見つけ、必要な部分を調べればよい。
    例えば、区間反転で分子が入れ替わり、分母が変化しないなら、その関係を優先して調べられる。
    また、複雑な合成関数の微分因子が既に存在するなら、原始関数の直接予測から考えられる。
    ここで必要なのは、情報を捨てることではない。

解法における各情報の役割を見極め、利用できる関係を組み立てることである。

解法を組み立てる

積分の構造を把握したら、どの操作によって目的の形へ到達できるかを考える。
原始関数を求めずに値を決められるなら、その方法が有力になる。
原始関数の形を直接予測できるなら、実際に微分して一致するか確認すればよい。
それが難しい場合には、置換、部分積分、式変形などによって既知形へ帰着させることを考える。
ただし、これらは固定された順番ではない。
問題によっては、最初に置換を考える方が自然な場合もあるし、複数の方法を組み合わせた方がよい場合もある。
重要なのは、最終的にどの形へ持ち込みたいのかを考え、そのための操作を選ぶことである。

4.2 解法候補の発見と比較

解法設計では、最初に思いついた方法をすぐに実行する必要はない。
ある方法で解けると分かっても、別の方法の方が計算を大幅に短縮できる可能性がある。
ただし、考えられる方法をすべて最後まで試す必要もない。
必要なのは、候補となる方法を素早く見つけ、それぞれの方法を少し先まで予測し、効率のよいものへ絞り込むことである。

候補を発見する

候補となる解法は、被積分関数の構造から考える。
例えば、次のような関係が考えられる。

認識した構造考えられる方向
積分区間と被積分関数の対称性原始関数を求めずに値を決定する
既知の微分形との対応原始関数を直接予測する
積・商の微分による項の生成原始関数の候補を構成・修正する
繰り返し現れる合成関数内部を一つのまとまりとして扱う
多項式・根号・三角関数の関係式変形や置換によって既知形へ帰着させる
微分による次数の減少や巡回部分積分や係数比較を利用する

この表は、対応する手法を機械的に選ぶためのものではない。
一つの構造から複数の方法を考えられる場合もあれば、複数の構造を組み合わせて初めて有効な方法になる場合もある。
したがって、各特徴を独立した解法へ直結させるのではなく、候補を発見するための手掛かりとして利用する。

候補を比較する

候補を比較する際には、実際に最後まで計算する必要はない。
例えば、置換を考えたなら、置換後にどの種類の積分が残るかを予測する。
部分積分を考えたなら、一方を微分し、もう一方を積分したとき、何が残るかを考える。
原始関数の候補を考えたなら、それを微分したとき、目的の項と余計な項がどのように現れるかを確認する。
ここで重要なのは、その操作によって問題がどれだけ解答に近づくかである。
例えば、根号を取り除けても、高次の有理関数が残るなら、必ずしも計算が簡単になったとはいえない。
一方、式の見た目が複雑になっても、既知の微分形が現れれば、解答までの計算は短くなる。

候補を早期に除外する

ある方法を実行した後の形が明らかに不利なら、最後まで計算する必要はない。
例えば、置換後に複雑な分母が残り、分子の微分因子もそろわないと分かったなら、その置換は優先度を下げられる。
また、部分積分によって元の積分より複雑な積分が現れ、簡単になる見通しがなければ、別の方法を考える理由になる。
ただし、変形後の式が複雑になっただけで、その方法を除外するべきではない。
さらに一手進めることで大きな相殺が起こる場合もあるからである。
したがって、候補を除外する際には、途中式の見た目だけでなく、その後の変化まで考える必要がある。
有効な候補を見つけることと、不利な候補を早い段階で見切ることの両方が、解法選択の速度を決める。

4.3 計算量と記述量の予測

解法を選ぶ際には、実際に計算する前に、どの程度の作業が必要になるかを見積もりたい。
ただし、計算量を正確な数値として求める必要はない。
重要なのは、候補同士を比較できる程度に、残る計算の規模や複雑さを把握することである。

計算の複雑さを予測する

例えば、有理関数に部分分数分解を適用する場合、分母の因数の数や重複度によって、決定する係数の数が変わる。
一方、同じ有理関数でも、商の微分形を直接認識できれば、係数比較を行わずに済む場合がある。
次の積分を考える。
$$ I=\int\frac{x^2+1}{(x^2-1)^2}\,dx $$
これは部分分数分解によって求められる。
しかし、分母が二乗になっているので、商の微分も候補になる。
そこで、
$$ F(x)=\frac{x}{x^2-1} $$
を考える。
微分すると、
$$ F'(x)=-\frac{x^2+1}{(x^2-1)^2} $$
となる。
したがって、
$$ I=-\frac{x}{x^2-1}+C $$
を得る。
この場合、部分分数分解を実行する前に、商の微分形を一度確認するだけで計算量を大幅に減らせた。
ここで比較しているのは、単なる式変形の行数ではない。
部分分数分解では、因数分解、係数決定、各項の積分が必要になる。
一方、商の微分を利用する方法では、候補を一度微分して係数を調整すればよい。
つまり、解法を構成するために必要な操作の種類と、その回数を予測しているのである。

計算が増える兆候

計算量が増えるかどうかは、変形後の式を調べることである程度判断できる。
例えば、次のような場合には注意したい。

  • 置換後に、元の式より多くの異なる因子が現れる。
  • 部分積分によって、元の積分と同程度以上に複雑な積分が残る。
  • 係数比較のために、多数の未知数を導入する必要がある。
  • 式を展開した結果、利用できていた合成関数や対称性が見えなくなる。
  • 場合分けによって、独立した計算が多数必要になる。
    ただし、これらは必ずしも不適切な解法を意味しない。
    例えば、多数の項が現れても、最後にそれらが相殺されるなら、効率的な方法になる場合がある。
    したがって、単に式が長くなるかどうかではなく、その後にどのような簡約が起こるかまで考えたい。

記述量も考える

計算量が少ない方法でも、成立条件の確認や複雑な場合分けが必要になる場合がある。
一方、計算は少し長くても、既知の公式を直接適用でき、必要な根拠を簡潔に示せる方法もある。
そのため、解法選択では計算量だけでなく、答案として必要な記述量も考慮する。
ただし、必要な論証を省略して記述量を減らすことは、最適化とはいえない。
比較すべきなのは、正しい答案を完成させるために必要な計算と記述の総量である。

4.4 解法の組み合わせと順序

複雑な積分では、一つの手法だけで解答に到達できるとは限らない。
その場合には、複数の手法をどの順序で利用するかが重要になる。
同じ手法を組み合わせても、適用する順序によって計算量が変わることがあるからである。

先に何を簡単にするか

次の積分を考える。
$$ I=\int_0^\pi\frac{x\sin x}{1+\cos^2x}\,dx $$
被積分関数には変数そのものが掛けられているので、部分積分が候補になる。
また、
$$ t=\cos x $$
という置換も考えられる。
しかし、そのまま置換すると、変数の因子が、
$$ x=\arccos t $$
となって残る。
したがって、置換だけでは簡単な有理関数の積分にならない。
ここで、積分区間が0からπであることに注目する。
$$ x\longmapsto\pi-x $$
と変換すると、
$$ \sin(\pi-x)=\sin x $$
$$ \cos^2(\pi-x)=\cos^2x $$
となる。
したがって、
$$ I=\int_0^\pi\frac{(\pi-x)\sin x}{1+\cos^2x}\,dx $$
を得る。
元の積分と加えると、
$$ 2I=\pi\int_0^\pi\frac{\sin x}{1+\cos^2x}\,dx $$
となる。
ここで初めて、
$$ t=\cos x $$
と置く。
すると、
$$ I=\frac{\pi}{2}\int_{-1}^{1}\frac{1}{1+t^2}\,dt $$
$$ =\frac{\pi^2}{4} $$
を得る。
この積分では、置換そのものが不適切だったわけではない。
置換を行う前に区間反転を利用することで、置換後に残る複雑な因子を消去できたのである。

操作の順序を設計する

複数の手法を組み合わせる場合には、ある操作が別の操作をどのように助けるかを考える。
例えば、対称性によって一部の因子を消去すれば、その後の置換が簡単になることがある。
また、式を因数分解することで、初めて利用できる微分形が現れる場合もある。
逆に、最初に展開してしまうと、後から利用したかった構造が見えにくくなることもある。
そこで、複数の操作が考えられる場合には、次のように考える。
まず、各操作によって何が変化するかを予測する。
次に、その変化によって別の操作が簡単になるかを調べる。
そして、計算量が最も減りそうな順序を選ぶ。
重要なのは、操作を単純に並べることではない。
後の操作が有効になるように、前の操作を選ぶことである。

一つの方法へ固執しない

区間反転を利用したからといって、その後も対称性だけで解こうとする必要はない。
同様に、置換を行った後に部分積分を利用してもよいし、部分積分の途中で別の置換を考えてもよい。
解法は、一つの技法を最初から最後まで使い続けるものとは限らない。
必要な段階で、最も適した方法へ切り替えてよい。
その際、各操作がどのような目的を持っているかを明確にしておくと、計算の見通しを保ちやすくなる。

4.5 複雑な積分の最適化

複雑な積分では、見た目から自然に思いつく方法が、最も効率的な方法とは限らない。
高次の有理関数だから部分分数分解を行う、指数関数が現れたから置換する、関数の積だから部分積分を行うという判断では、全体の構造を見逃す場合がある。
むしろ、一見不自然な原始関数の候補や式変形によって、計算量が大幅に減ることがある。

逆向きに構造を考える

次の積分を考える。
$$ I=\int \frac{(x^4-x^3+x^2+x+2)e^{\frac{x}{1+x^2}}}{(1+x^2)^2} \,dx $$
被積分関数には、四次式、有理関数、指数関数が同時に現れている。
ここで、
$$ g(x)=\frac{x}{1+x^2} $$
と考える。
その微分は、
$$ g'(x)=\frac{1-x^2}{(1+x^2)^2} $$
である。
指数関数の内部の微分因子は、被積分関数に現れる分母と関係している。
しかし、分子は一致しない。
そこで、指数関数だけを原始関数として考えるのではなく、別の関数を掛けた形を候補とする。
$$ F(x)=P(x)e^{g(x)} $$
微分すると、
$$ F'(x)=e^{g(x)}\{P'(x)+P(x)g'(x)\} $$
となる。
したがって、求めたい分子に対応するのは、
$$ P'(x)(1+x^2)^2+P(x)(1-x^2) $$
である。
この式が四次式になるように、多項式の次数を考える。
まず、一次式を候補として、
$$ P(x)=ax+b $$
と置く。
すると、
$$ P'(x)(1+x^2)^2+P(x)(1-x^2) $$
$$ =ax^4-ax^3+(2a-b)x^2+ax+(a+b) $$
となる。
求めたい分子と比較すれば、
$$ a=1,\qquad b=1 $$
である。
よって、
$$ P(x)=x+1 $$
となる。
したがって、
$$ I=(x+1)e^{\frac{x}{1+x^2}}+C $$
を得る。
この積分では、四次式を直接処理する方法を考えるよりも、原始関数がどのような積になっているかを予測する方が効率的だった。

不自然な候補をどう発見するか

複雑な原始関数の候補は、最初からその形を思いつく必要はない。
例えば、先ほどの積分なら、次の順番で考えられる。
まず、指数関数は微分しても同じ指数関数を因子に持つ。
したがって、原始関数にも同じ指数関数が現れる可能性を考える。
次に、指数関数だけでは分子が一致しないため、別の関数を掛けることを考える。
さらに、被積分関数が有理関数と指数関数の積なので、その別の関数として多項式や有理関数を候補にできる。
最後に、微分後の次数から候補の形を絞り込む。
このように、候補を一度に思いつくのではなく、被積分関数から必要な条件を逆算し、候補の自由度を段階的に減らしているのである。

途中の複雑さと最終的な計算量

解法を比較するときには、途中式が複雑に見えるかどうかだけで判断しない方がよい。
ある操作によって式が一時的に長くなっても、次の操作で大きな相殺が起こるなら、結果として計算は短くなる。
反対に、最初の変形で式が簡単に見えても、その後に複雑な積分が残るなら、効率的とは限らない。
したがって、解法の候補を評価する際には、最初の一手だけでなく、その先にどのような既知形や相殺が現れるかまで考える。
特に、複数の関数が組み合わされた積分では、各部分を個別に処理するよりも、全体を一つの微分構造として捉えた方がよい場合がある。
複雑な式ほど、最初から細かく分解するのではなく、全体を微分したら何が現れるかという方向から考えることが有効になる。

4.6 解法の確定と切替え

解法の探索は、長く続ければよいというものではない。
複数の候補を考え続ける時間も、積分を解くために必要な時間の一部だからである。
十分に効率的な方法が見つかったなら、より短い解法を探し続けるよりも、計算へ移る方が合理的な場合がある。
一方、計算を始めた後でも、想定以上に複雑になったなら、別の方法へ変更することを考えられる。
重要なのは、探索を終える判断と、現在の方法を変更する判断を区別することである。

解法を確定する

ある方法によって、既知の積分へ帰着できることが分かり、残りの計算も十分に少ないなら、その方法を採用できる。
例えば、原始関数の候補を微分するだけで被積分関数と一致するなら、別の置換を探す必要は通常ない。
また、区間反転によって積分値を直接決定できるなら、複雑な原始関数を求める必要もない。
このように、残りの計算が明確で、十分に少ないことを解法確定の判断基準にできる。
ただし、途中に未確認の条件が残っている場合には、その確認も含めて計算量を考える必要がある。

方針を切り替える

一度選んだ方法でも、計算を進めるうちに不利だと分かる場合がある。
例えば、置換後に高次の有理関数が現れ、多数の係数を決定する必要があると分かったとする。
このとき、元の積分に対して別の対称性や微分構造を利用できそうなら、方法を変更する価値がある。
しかし、高次の有理関数になったという理由だけで、必ず変更するべきではない。
その有理関数が既知の微分形へ容易に帰着できるなら、計算を続ける方が速い。
したがって、切替えを判断する際には、現在の方法で残る計算と、別の方法を探すための時間を比較する必要がある。

探索を続けるべき場合

逆に、最初に見つかった方法が明らかに長い計算を必要とするなら、すぐに採用しない方がよい場合がある。
例えば、ある置換によって複雑な部分分数分解が必要になる一方、別の変数変換によって分母と分子の一部が相殺されそうなら、後者を検討する価値がある。
特に、複数の異なる関数が一つの積分に現れている場合、それらが独立しているのか、ある共通の変換によって結びついているのかを確認したい。
このような場面では、最初の候補を最後まで計算するよりも、少し探索を続ける方が全体の時間を短縮できることがある。
ただし、よりよい方法が存在することを保証できない場合もある。
そのため、解法を探し続けるかどうかは、現在の方法で必要になる計算と、別の方法が見つかる可能性の両方から判断する。

4.7 計算・検証・記述の最適化

解法を確定した後は、計算を必要な範囲にとどめ、正確に実行する。
この段階で重要なのは、解法をさらに複雑にしないことである。
例えば、既に合成関数の微分形を認識できているなら、置換をすべて書き下す必要はない場合がある。
また、式を展開せずに比較できるなら、展開によって計算量を増やす必要もない。

必要な計算だけを行う

次の積分を考える。
$$ I=\int_0^1\frac{4x^3}{(1+x^4)^2}\,dx $$
ここでは、
$$ \frac{d}{dx}\left(-\frac{1}{1+x^4}\right) =\frac{4x^3}{(1+x^4)^2} $$
なので、
$$ I=\left[-\frac{1}{1+x^4}\right]_0^1 $$
$$ =\frac12 $$
となる。
この場合、置換を行ったことをすべて書き下す必要はない。
利用した微分形と、両端の値を代入する計算が分かれば十分である。
ただし、計算を短縮することと、必要な根拠を省略することは異なる。

正確性を確認する

不定積分では、求めた原始関数を微分すれば、被積分関数と一致するか確認できる。
また、定積分では、積分値の符号や大きさから、明らかな計算ミスを発見できる場合がある。
さらに、複雑な変数変換を利用したときには、積分区間や変数の対応が正しいかを確認する必要がある。
特に注意したいのは、次のような箇所である。

  • 合成関数の微分因子に伴う係数
  • 部分積分で生じる符号
  • 変数変換後の積分区間
  • 平方根や対数関数の定義域
  • 絶対値を外すための符号条件
  • 逆三角関数の枝
  • 広義積分や積分変換の収束条件
    これらをすべての問題で形式的に確認する必要はない。
    実際に誤りが生じる可能性のある箇所を優先して確認すればよい。

答案を最適化する

解法を発見するまでに考えたことを、すべて答案に書く必要はない。
候補となる方法を比較したり、途中で方針を変更したりした場合でも、最終的に採用した方法について、その正しさが伝わるだけの根拠を示せばよい。
一方、積分と極限の交換、変数変換の条件、広義積分の収束など、解法の成立に必要な事項は省略できない場合がある。
したがって、答案を短くする際には、単に行数を減らすのではなく、必要な論証を残したまま、不要な記述を取り除くことが重要になる。
解法を探すために必要な思考と、解法の正しさを示すために必要な記述は区別したい。

4.8 総合例題

例題1 INTEGRALIS BASIC想定

次の広義積分を求めよ。
$$ I=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{ |x|^3 \left\{\arctan\left(\frac{x^2-1}{x}\right)\right\}^4 }{ (x^4-x^2+1)^{\frac32} \left\{1+\exp\left(\frac{1-x^2}{x}\right)\right\} } \,dx $$
ただし、積分は $x=0$ で分割して考える。

解法の設計

この積分には、高次の有理式、指数関数、逆正接関数、絶対値が同時に現れている。
まず、それぞれの部分に共通する構造がないか調べる。
逆正接関数の内部は、
$$ \frac{x^2-1}{x}=x-\frac1x $$
と書ける。
さらに、指数関数の内部は、
$$ \frac{1-x^2}{x}=-\left(x-\frac1x\right) $$
である。
また、
$$ 1+\left(x-\frac1x\right)^2 =\frac{x^4-x^2+1}{x^2} $$
より、
$$ \frac{|x|^3}{(x^4-x^2+1)^{\frac32}} =\frac{1}{\left\{1+\left(x-\frac1x\right)^2\right\}^{\frac32}} $$
となる。
したがって、
$$ h(x)=x-\frac1x $$
と考えれば、被積分関数の大部分を一つの関数によって表せる。
ここで、
$$ f(t)=\frac{(\arctan t)^4}{(1+t^2)^{\frac32}} $$
と置けば、
$$ I=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{f(h(x))}{1+e^{-h(x)}}\,dx $$
となる。
ただし、通常の置換 $t=h(x)$ をそのまま適用しようとしても、微分因子が存在しない。
そこで、置換を実行する前に、対称性を考える。

対称性の利用

まず、
$$ h(-x)=-h(x) $$
である。
また、$f$ は偶関数なので、
$$ f(-t)=f(t) $$
が成り立つ。
そこで、元の積分に $x\mapsto-x$ を適用すると、
$$ I=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{f(h(x))}{1+e^{h(x)}}\,dx $$
を得る。
ここで、
$$ \frac{1}{1+e^{-t}}+\frac{1}{1+e^t}=1 $$
であるから、二つの積分を加えると、
$$ 2I=\int_{-\infty}^{\infty}f(h(x))\,dx $$
となる。
指数関数を含む部分が完全に消去された。

積分変換の利用

残った積分には、
$$ h(x)=x-\frac1x $$
という構造がある。
ここで、$t=h(x)$ を満たす $x$ を求める。
$$ x^2-tx-1=0 $$
より、
$$ x_{\pm}(t)=\frac{t\pm\sqrt{t^2+4}}2 $$
である。
$x_+(t)$ は正、$x_-(t)$ は負であり、それぞれの枝は $t$ が全実数を動くとき、正または負の半直線全体を動く。
また、
$$ x_+'(t)=\frac12\left(1+\frac{t}{\sqrt{t^2+4}}\right) $$
$$ x_-'(t)=\frac12\left(1-\frac{t}{\sqrt{t^2+4}}\right) $$
なので、
$$ x_+'(t)+x_-'(t)=1 $$
となる。
したがって、積分を正負の区間に分け、それぞれの枝で置換すると、
$$ \int_{-\infty}^{\infty}f(h(x))\,dx =\int_{-\infty}^{\infty} f(t)\{x_+'(t)+x_-'(t)\}\,dt $$
$$ =\int_{-\infty}^{\infty}f(t)\,dt $$
となる。
ここで、$f(t)=O(|t|^{-3})$ であるため、積分は絶対収束する。したがって、以上の変数変換は正当化される。
これはGlasserのマスター定理の特別な場合であり、ここでは初等的な変数変換によって導いた。
よって、
$$ 2I=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{(\arctan t)^4}{(1+t^2)^{\frac32}}\,dt $$
を得る。

原始関数の構成

最後に、
$$ t=\tan\theta $$
と置く。
このとき、
$$ -\frac{\pi}{2}<\theta<\frac{\pi}{2} $$
であり、
$$ \frac{dt}{(1+t^2)^{\frac32}} =\cos\theta\,d\theta $$
となる。
したがって、
$$ 2I=\int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}} \theta^4\cos\theta\,d\theta $$
である。
被積分関数は偶関数なので、
$$ I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\theta^4\cos\theta\,d\theta $$
となる。
多項式と三角関数の積であるから、部分積分によって処理できる。
原始関数の候補を直接構成すると、
$$ F(\theta)= (\theta^4-12\theta^2+24)\sin\theta +(4\theta^3-24\theta)\cos\theta $$
となる。
実際、
$$ F'(\theta)=\theta^4\cos\theta $$
である。
したがって、
$$ I=\left[ (\theta^4-12\theta^2+24)\sin\theta +(4\theta^3-24\theta)\cos\theta \right]_0^{\frac{\pi}{2}} $$
より、
$$ I=\frac{\pi^4}{16}-3\pi^2+24 $$
を得る。

解法選択の検討

この問題で重要だったのは、個々の関数を直接積分しなかったことである。
指数関数を処理しようとして置換を考えても、高次の有理式と逆正接関数が残る。
また、最初から $t=x-\frac1x$ と置換しようとしても、微分因子が不足するため、通常の置換としては簡単にならない。
一方、共通する関数 $h(x)$ を認識すれば、対称性によって指数関数を消去できることが分かる。
さらに、通常の一対一の置換が難しいことから、逆関数の二つの枝を利用する方法へ発想を切り替えられる。
こうして、
$$ \text{共通構造の認識} \longrightarrow \text{対称性} \longrightarrow \text{積分変換} \longrightarrow \text{部分積分} $$
という経路を設計できる。
各操作が次の操作に必要な形を作っていることが、この解法の特徴である。


例題2 大学入試想定

次の定積分を求めよ。
$$ I=\int_0^{\frac{\pi}{2}} \frac{ x|\cos2x| \left\{1+2\ln^2(2-\sin2x)\right\} }{ (2-\sin2x)\sqrt{1+\ln^2(2-\sin2x)} } \,dx $$

解法の設計

被積分関数には、変数 $x$、絶対値、三角関数、対数関数、平方根が現れている。
これらを個別に処理することも考えられるが、最初にどの構造を簡単にするべきかを考える。
まず、積分区間が、
$$ 0\leq x\leq\frac{\pi}{2} $$
であることに注目する。
区間反転、
$$ x\longmapsto\frac{\pi}{2}-x $$
を考えると、
$$ \sin\left(2\left(\frac{\pi}{2}-x\right)\right)=\sin2x $$
$$ \left|\cos\left(2\left(\frac{\pi}{2}-x\right)\right)\right| =|\cos2x| $$
となる。
したがって、被積分関数のうち、$x$ 以外の部分は区間反転によって変化しない。
そこで、
$$ f(x)= \frac{ |\cos2x|\left\{1+2\ln^2(2-\sin2x)\right\} }{ (2-\sin2x)\sqrt{1+\ln^2(2-\sin2x)} } $$
と置けば、
$$ f\left(\frac{\pi}{2}-x\right)=f(x) $$
である。
したがって、
$$ I=\int_0^{\frac{\pi}{2}} \left(\frac{\pi}{2}-x\right)f(x)\,dx $$
となる。
元の積分と加えると、
$$ 2I=\frac{\pi}{2}\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(x)\,dx $$
なので、
$$ I=\frac{\pi}{4}\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(x)\,dx $$
を得る。
変数 $x$ が被積分関数から消えた。

置換の設計

残った式について、
$$ 2-\sin2x $$
という部分に注目する。
ここで、
$$ (\sin x-\cos x)^2 =1-\sin2x $$
なので、
$$ 2-\sin2x=1+(\sin x-\cos x)^2 $$
である。
また、
$$ |\cos2x| =|\cos x-\sin x|(\cos x+\sin x) $$
が、積分区間全体で成り立つ。
したがって、
$$ t=\sin x-\cos x $$
と置くことを考えられる。
このとき、
$$ dt=(\cos x+\sin x)\,dx $$
であり、
$$ |\cos2x|\,dx=|t|\,dt $$
となる。
積分区間は、
$$ x=0\longmapsto t=-1 $$
$$ x=\frac{\pi}{2}\longmapsto t=1 $$
である。
したがって、
$$ I=\frac{\pi}{4}\int_{-1}^{1} \frac{ |t|\{1+2\ln^2(1+t^2)\} }{ (1+t^2)\sqrt{1+\ln^2(1+t^2)} } \,dt $$
となる。
被積分関数は偶関数なので、
$$ I=\frac{\pi}{2}\int_0^1 \frac{ t\{1+2\ln^2(1+t^2)\} }{ (1+t^2)\sqrt{1+\ln^2(1+t^2)} } \,dt $$
を得る。
ここで、対数関数の内部を微分すると、
$$ \frac{d}{dt}\ln(1+t^2)=\frac{2t}{1+t^2} $$
となる。
よって、
$$ u=\ln(1+t^2) $$
と置けば、
$$ I=\frac{\pi}{4}\int_0^{\ln2} \frac{1+2u^2}{\sqrt{1+u^2}}\,du $$
となる。

原始関数の予測

残った積分では、分母に平方根が現れている。
その内部は、
$$ 1+u^2 $$
なので、
$$ \sqrt{1+u^2} $$
を含む原始関数を考える。
ここで、平方根に変数を掛けた関数を微分すると、
$$ \frac{d}{du}\left\{u\sqrt{1+u^2}\right\} =\sqrt{1+u^2}+\frac{u^2}{\sqrt{1+u^2}} $$
となる。
通分すれば、
$$ \frac{d}{du}\left\{u\sqrt{1+u^2}\right\} =\frac{1+2u^2}{\sqrt{1+u^2}} $$
であり、被積分関数と一致する。
したがって、
$$ I=\frac{\pi}{4} \left[u\sqrt{1+u^2}\right]_0^{\ln2} $$
より、
$$ I=\frac{\pi}{4}\ln2\sqrt{1+\ln^22} $$
を得る。

解法選択の検討

この問題では、最初から対数関数の内部を置換しようとしても、$x|\cos2x|$ という因子が残るため、簡単な積分にならない。
また、変数 $x$ が掛けられていることから部分積分を考えることもできるが、もう一方の因子の原始関数を求める必要があり、計算量が増える。
そこで、まず区間反転によって変数 $x$ を消去した。
次に、
$$ 2-\sin2x=1+(\sin x-\cos x)^2 $$
という関係と、
$$ |\cos2x| =|\sin x-\cos x|(\sin x+\cos x) $$
という関係を組み合わせ、置換によって三角関数を取り除いた。
さらに、対数関数の内部の微分因子を利用して、最後の積分を簡単な代数関数へ帰着させた。
ここで、平方根を含む積分だからといって、さらに三角置換を行う必要はない。
積の微分を考えれば、原始関数を直接予測できるからである。
したがって、
$$ \text{区間反転} \longrightarrow \text{三角恒等式と絶対値} \longrightarrow \text{置換} \longrightarrow \text{原始関数の直接予測} $$
という順序で処理できる。
この問題の重要な点は、複数の方法が利用可能であっても、その順序を誤ると不要な計算が残ることである。
また、最後に平方根を含む積分へ帰着した時点で、さらに置換を続けるのではなく、原始関数の形を考えることも重要になる。
どの操作を使うかだけでなく、どこでその操作を終え、次の方法へ移るかまで含めて解法を設計している。


積分の解法設計では、問題に含まれる構造から候補となる方法を発見し、それぞれの方法によって何が起こるかを予測する。
さらに、各操作の順序や組み合わせを考えることで、必要な計算量を大幅に減らせる場合がある。
重要なのは、解ける方法を一つ見つけることではない。
問題の構造を理解し、必要な技法を適切な順序で組み合わせ、正確な答えへ効率よく到達できる解法を設計することである。

投稿日:15時間前
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