$$$$
ここでは東大数理の修士課程の院試の2016B03の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
2016B03
関数体$K=\mathbb{R}(X)$の部分体
$$
F=\mathbb{R}(X^4-\frac{1}{X^4})
$$
を考え、$K$の$F$上のGalois閉包を$L$とする。
(1) 拡大次数$[L:F]$を求めなさい。
(2) $\mathrm{Gal}(L/F)$は位数$8$の元を持つことを示しなさい。
(3) $L/F$の$4$次部分拡大を全て求めなさい。
- まず$K=F(X)$である。ここで$\omega^4=-1$とおく。$F$上の多項式
$$
f:T^8-(X^4-\frac{1}{X^4})T^4-1=(T-X)(T+X)(T-iX)(T+iX)(T-\frac{\omega}{X})(T+\frac{\omega}{X})(T-\frac{i\omega}{X})(T+\frac{i\omega}{X})
$$
を考えたとき、$F$の元は変換$X\mapsto \frac{\omega}{X}$及び複素共役で不変な多項式からなる集合であるから、$f$は$F$の既約多項式である。よって$[K:F]=8$である。ここで$L$は$f$の$F$上の最小分解体であるから$L=F(X,\omega)=\mathbb{C}(X)$、特に$[L:K]=2$である。よって$[L:F]={\color{red}16}$である。 - $G=\mathrm{Gal}(L/F)$の元のうち、
$$
\tau=\left(\begin{array}{ccc}
X&\mapsto &\frac{\omega}{X}\\
i&\mapsto &-i
\end{array}\right)
$$
で定義される$\tau$は位数$8$の元である。 - まず$L/K$の群構造上記で定めた$\tau$及び複素共役
$$
\sigma=\left(\begin{array}{ccc}
X&\mapsto &X\\
i&\mapsto&-i
\end{array}\right)
$$
で定められた元を用いて、$G$は表示
$$
G=\left\langle\tau,\sigma\middle|\tau^8=\sigma^2=1,\sigma\tau\sigma^{-1}=\tau^{-1}\right\rangle
$$
を持つことがわかる。よって$G$の群構造は$1+2\mathbb{Z}\mapsto -1$で定義される群準同型$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to \mathrm{Aut}(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})$から誘導される半直積
$$
\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}\rtimes\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}
$$
である(つまり位数$16$の二面体群)。この位数$4$の部分群を考えれば良い。まず$(a,b),(x,y)\in G:=\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}\rtimes\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$に対してこの群の積は
$$
(a,b)(x,y)=(a+(-1)^bx,b+y)
$$
で定まっているから、$(a,b)\in G$に対して
$$
(a,b)^2=(a+(-1)^ba,0)
$$
$$
(a,b)^4=(a+(-1)^ba,0)^2=(2(a+(-1)^ba),0)
$$
である。よって位数$2$の元は$(0,1),(1,1),\cdots,(7,1),(4,0)$の$9$つ、位数$4$の元は$(2,0)(6,0)$のみである。
まず位数$4$の巡回群は$\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$に含まれる$1$つのみ。これによって生成される部分体は$X\mapsto -iX$及び$i\mapsto i$で定義される同型で固定される部分体であり、これは${\color{red}\mathbb{C}(X^4)}$である。
次に$(a,1)$と$(b,1)$が可換になることは$a-b=0,4$と同値であり、$(4,0)$は$G$の中心に含まれる。よって位数$2$の元全体から可換な二つ組を選ぶ方法は$12$通りあり、一つの巡回的でない位数$4$の群は$3$通りの生成元の取り方ができるから、巡回的でない位数$4$の部分群は$\frac{12}{3}=4$つあり、これは
$$
\tau=\left(\begin{array}{ccc}
X&\mapsto &X\\
i&\mapsto&-i
\end{array}\right)
$$
$$
\sigma\tau=\left(\begin{array}{ccc}
X&\mapsto &\frac{\omega}{X}\\
i&\mapsto&i
\end{array}\right)
$$
$$
\sigma^2\tau=\left(\begin{array}{ccc}
X&\mapsto &-iX\\
i&\mapsto&-i
\end{array}\right)
$$
$$
\sigma^3\tau=\left(\begin{array}{ccc}
X&\mapsto &\frac{i\omega}{X}\\
i&\mapsto&i
\end{array}\right)
$$
の$4$つのうちのいずれか$1$つと
$$
\sigma^4=\left(\begin{array}{ccc}
X&\mapsto &-X\\
i&\mapsto&i
\end{array}\right)
$$
からできる群である。それぞれに対応した部分体は${\color{red}\mathbb{R}\left(X^2\right)},{\color{red}\mathbb{R}\left(X^2+\frac{i}{X^2}\right)},{\color{red}\mathbb{R}\left(iX^2\right)},{\color{red}\mathbb{R}\left(X^2-\frac{i}{X^2}\right)}$である。以上の$5$つが$L/F$の$4$次の部分体である。