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大学数学基礎解説
文献あり

永井保成著『代数学入門』正誤表

2000
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本記事では,永井保成著『代数学入門』(第1版第1刷)で誤りと思われる点,およびその修正案を挙げます.また,(注意)として,誤りではないが注意が必要な箇所についても記述しました.一読者である私(ことり)が作成したものであるため,ミスがあるかもしれません.その場合の責任は全て作成者である私(ことり)にあります.

「l.-n」は,そのページの下からn行目を指します.

『代数学入門』正誤表

p.3

演習問題1.1.1について,$n=1$の場合には結合法則を満たす.(p.160の項目も参照.)

p.4

定義1.2.4において,「任意の $g$ に対して $h$ が存在して $g\cdot h=e=h\cdot g$ が成り立つとき」という表現は,逆元の定義としては不適切だと思います.そのため,「$G$$e$ を単位元とするモノイドであり,」から始まる1文は次のように2文に分けるなどして書き換えた方がよいように思います:

$G$$e$ を単位元とするモノイドであり,$g \in G$ とする.$h \in G$ であって $g \cdot h = e = h \cdot g$ を満たすようなものを,$g$ の逆元(inverse element)という.

p.4, l.-3

$G$ の元 $g \in G$ の逆元は $g^{-1}$ で表す…」とあるが,命題1.2.5のあとの文であることを考えると「モノイド $G$ の元…」とした方がより適切なように思う.

p.10

演習1.3.4について,$n=1$ の場合は,$T(n,\mathbb{R}),\;UT(n,\mathbb{R})$$GL(n,\mathbb{R})$ の正規部分群になる.

p.22, l.7

$s_{(i)}=$ から始まる式で,変数 $i$ が異なる2つの意味で用いられているため,例えば次のように違う文字を用いて書き直した方が良い:

$s_{(k)} = \prod\limits_{\{i,j\} \in {I'}_n^{(k)}} \frac{\tau(j) - \tau(i)}{j - i}$

p.31, l.-8

誤:$Orb_H(x) = \{hx \in H | \ldots\}$
正:$Orb_H(x) = \{hx \in $$G$$ | \ldots\}$

p.32, 図1.5

誤:$x + 8\pi$
正:$x + 6\pi$

p.35, l.-9

(注意)集まり $\{G \xrightarrow{f} G' | \text{全射な準同型写像}\}$ は集まりとして大きすぎるため,厳密には集合をなさない.

p.36, 図1.6

誤:$8\pi$
正:$6\pi$

p.40, l.3

この等式の左辺は $\varphi(h_1, h_2) \varphi(h'_1, h'_2)$ であるべきでは.

p.54, l.-10

(注意)「それを $zH$ ($z \in G$) としよう.」とあるが,「それを $\{zH\}$ ($z \in G$) としよう.」などとした方がより適切.(「それ」とは軌道のことなので.)

p.56, l.2

(注意) $\mu_2 \times \mu_3 \cong \mu_6$ となるのは,例1.10.4による.

p.61

演習2.1.4について,零多項式に対しては $\deg$ は定義されていないため,$f, g, f+g, fg$ はいずれも$0$でないという条件を課す必要がある.

p.79, l.-5

$I=(0)$ の場合はこのような $b$ は取ることができないので,$I=(0)$ の場合については別に扱う必要がある.もちろん $I=(0)$ の場合は,$I$ が単項イデアルになることは定義からわかる.

p.83

定義2.7.1について,単元は有限個の素元の積に分解できないので,最初の部分を次のように書き換えた方がいいように思う:

整域 $A$単元を除く任意の元が…

p.83

命題2.7.2では,$a \neq 0$ を仮定する必要がある.$0$も素元と定義しているため,$0$の素元分解は一意でない.(あるいは,素元の定義で$0$を除く.)

p.101, l.6

誤:$I+cE_{ij}$
正:$I+aE_{ij}$
(l.1の(1)の操作に対応するようにするため,$c$ ではなく $a$ を用いるのが適切.)

p.101, l.13

$T$ が零行列のときは,$t_{11} \neq 0$ とすることができないので,別に扱う必要がある.
また,$t_{ij} = 0$ の場合は $\delta(t_{ij})$ が定義されないので,「$t_{11} \leq \delta(t_{ij})$」を「$t_{ij} \neq 0$ のとき $t_{11} \leq \delta(t_{ij})$」に書き換える必要がある.

p.107

定理2.9.11の証明中では,$M$$t(M)$ に読み換える必要がある.
実際,$A^{\oplus s}$ の部分があると,p.108,l.11の両辺は合わなくなる.例えば $A = \mathbb{Z}$$M = \mathbb{Z}/(2) \oplus \mathbb{Z}$ とすると,$p = 2$ について $\nu_0 = 1$ であるが,$\mathrm{Gr}_{(2)}^0(M) \cong (\mathbb{Z}/(2))^{\oplus 2}$ であり,$\mathbb{Z}/(2)$ の指数部$2$$\nu_0=1$ が一致しない.

p.108, l.8

$p^d(A/(p)^d) = 0$ とあるが,零加群 $\{0\}$$0$ と表記する約束がなされていないように思う.

p.108, l.11

(注意) $\mathrm{Gr}_{(p)}^l (M)\cong (A/(p))^{\oplus \nu_l}$ は,演習2.9.1を用いると得られる.

p.111

演習2.9.3について,単因子という用語は加群に対しては定義されていない.定理2.9.5の主張で「$(e_1) \supset (e_2) \supset \ldots \supset (e_r) \supsetneq (0)$」の部分を「$(1) \supsetneq (e_1) \supset (e_2) \supset \ldots \supset (e_r) \supsetneq (0)$」に書き換え,このときの $(e_1), \ldots, (e_r)$$M$ の単因子と呼ぶことにすると良いか.
(演習2.9.3, 2.9.4の略解における単因子という用語との整合性から,元 $e_i$ ではなくイデアル $(e_i)$ を単因子と呼ぶのが良さそう.また,演習2.9.3の略解との整合性を考えて,$(1) \supsetneq (e_1)$ という条件を課すのが良さそう.)

p.116, l.10

誤:$t_d$
正:$t_{r(d)}$

p.121, l.13

$a_0, a_1, \ldots, a_n$」の前に「全てが0ではない」という文言を挿入する.

p.125, l.1

誤:$b \subset K$
正:$k \subset K$

p.126, l.-1

誤:$K[X]$
正:$k[X]$

p.128, l.7

細かいことだが,$K = k(\gamma, \gamma_2, \ldots, \gamma_n)$ の最後の $\gamma$ の添字は $n$ 以外の文字にした方が良い.$n$$f$ の次数としてすでに用いられているが,$K$$k$$n$ 個の元で生成されるとは限らない.これに伴って p.128, l.-1 の $\gamma_n$ の添字も変える.

p.128, l.9

(注意)3.2.7により得られる $G_i$ が同型になることは次のようにしてわかる:

命題3.2.1より,$G_i$ は単射.$G_i$$k$ 上の線形写像でもあり,始域と終域は $k$ 上線形空間として有限次元で次元は等しい.よって全射にもなる.

p.129, l.1

誤:$K(\gamma)$
正:$k(\gamma)$

p.129, l.13

$L$$K$ の有限次拡大としているが,定理3.3.3(i)を示そうとしていることを考えると,有限次の仮定はない方が良い.命題3.3.9証明中の $F$ も同じ.
あるいは定理3.3.3(i)で $L$$K$ の有限次拡大とする.

p.130

演習3.3.2後半は不成立.反例は $k = \mathbb{Q}, L = \mathbb{Q}(\sqrt{2}), K = \mathbb{Q}(\sqrt[4]{2})$
略解の証明は $g(L) = L$ から $g$$L$ 同型であることを導いているところが誤り.

p.132, l.9

誤:$n$ 次未満の多項式 $g(X)$
正:$n$ 次未満の$0$でない多項式 $g(X)$

p.133, l.15

誤:$S_L(L/M)$
正:$S_L(K/M)$

p.134, l.12

誤:$\# (S_L(k(\alpha):k))$
正:$\# (S_L(k(\alpha)/k))$

p.135, l.1

誤:$n(n-1)$$/2$ 次式
正:$n(n-1)$以下の式
(しかしここで重要なのは $f(X)$ が多項式として$0$でないということであり,次数は重要でない.)

p.135, l.11

「無限体の有限次拡大は常に分離拡大である」とあるが,これは成立しない.「標数$0$の体の有限次拡大は常に分離拡大である」に変更する.

p.138

(注意)定理3.5.4証明中 l.15 からの議論で $K \supset L$ がガロア拡大になるのは,演習3.3.2と演習3.4.3からわかり,証明の冒頭ですでに示してある.l.-10「すなわち $f(X) \in L[X]$ である.」の後から l.-5「したがって」の前までを次のように変更すると証明がより簡潔になるように思う(定理3.5.6の証明の最後と同じ議論):

今,定め方から $H \subset \mathrm{Gal}(K/L)$ である.$\alpha$$L$ 上の最小多項式 $f_1(X)$$f(X)$ を割り切るから,$\# (\mathrm{Gal}(K/L)) = [K:L] = \deg f_1(X) \leq \deg f(X) = n = \# (H)$ となり,$H = \mathrm{Gal}(K/L)$ が従う.

p.145, l.14

誤:$(X-1)(X^2 - \left(\frac{1 + \sqrt{5}}{2}\right)X + 1)(X^2 - \left(\frac{1 - \sqrt{5}}{2}\right)X + 1) $
正:$(X-1)(X^2$$+$$\left(\frac{1 + \sqrt{5}}{2}\right)X + 1)(X^2 $$+$$ \left(\frac{1 - \sqrt{5}}{2}\right)X + 1)$

p.146

定理3.6.9の(i)には,$\alpha \notin k$ という条件を付け加える必要がある.(そうでないと(i)$\Rightarrow$(ii)が成立しない.)

p.146, l.-1

生成元を $g$ としているが,あとで $A$ の最小多項式も $g$ とするので,どちらかを違う文字にした方が良い.

p.147, l.-8

$K$$k$ 上の基底」とあるが,書くとしたら「$K$$L$ 上の基底」.しかしそもそも $\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3$$L$上の基底になるとは限らない.
(反例は $k = L = \mathbb{Q}(\omega),\; f(X) = X^3 - 2,\;\alpha_1=\sqrt[3]{2},\;\alpha_2=\omega\sqrt[3]{2},\;\alpha_3=\omega^2\sqrt[3]{2}$.実際$\omega\in L$$\omega\alpha_1-\alpha_2=0$であるから$\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3$$L$上一次独立でない.)

しかし $\alpha:=\alpha_1 + \omega \alpha_2 + \omega^2 \alpha_3$$g(\alpha)=\omega\alpha$ を満たすことが計算によりわかるため,定理3.6.9の証明の終盤の議論と同様にして$\alpha^3\in L$を得ることができる.
(なお$\alpha=0$になる場合は$\alpha$$g$の固有値$\omega$に対する固有ベクトルにはならないこと注意.例えば$\alpha_1=\omega^2\sqrt[3]{2},\;\alpha_2=\sqrt[3]{2},\;\alpha_3=\omega\sqrt[3]{2}$の場合.)

p.148, l.7

誤:$\alpha_1^3 + \alpha_2^3 + \alpha_3^3 = 3a_3 $
正:$\alpha_1^3 + \alpha_2^3 + \alpha_3^3 = -3a_3$

p.148, l.9

誤:$A = -3a_3 + \ldots$
正:$ A = -9a_3 + \ldots$

p.148, l.12

誤:$B = -3a_3 + \ldots $
正:$ B = -9a_3 + \ldots$

p.150, l.14

演習3.3.2の後半は誤りであり成立しないので,「このとき」で始まる1文を次のように変更する:

$K'' = k(\gamma_1, \ldots, \gamma_t),\;\gamma_i$$k$ 上の最小多項式を $f_i \in k[X]$ とする.$\zeta$$k$ 上の最小多項式を $g(X) \in k[X]$ とする.$f(X):= f_1(X) \cdot\cdot\cdot f_t(X) g(X) \in k[X]$ とおく.このとき $K'''$$f(X)$$k$ 上の最小分解体であるから,$K''' \supset k$ は正規拡大,よってガロワ拡大である.

なおそのあとで $K' \supset k$ がガロワ拡大になることも同様に示せる.

p.150,l.-3

誤:$ X^n-s_1x^{n-1}+...$
正:$ X^n-s_1X^{n-1}+...$

p.154,l.9

誤:帰納的集合
正:空でない帰納的集合
(空な順序集合は帰納的集合だが,極大元を持たないため.)

p.160

(注意)演習問題1.1.1の略解において,$n=2$ の場合については書かれていないが,例えば次のようにおけば $-[B,[C,A]] \neq O$ が言えて証明が完了する:

$A = B = \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}, C = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}$

(p.3の項目も参照)

p.162, l.11

誤:直線 $y = (\tan(\theta/2))x$
正:直線 $x\sin(\theta/2) - y\cos(\theta/2) = 0$
($\tan(\theta/2)$ が定義されない場合があるため)

p.164, l.10

誤:$(14)(24)$
正:$(14)(23)$

p.169, l.8

$D(U_m) = U_{m+1}$ とあるが,これは成立するとは限らない.実際,例えば $n=4$ の場合,$U_2$ は可換群であることが計算によりわかり,したがって $D(U_2) = \{I\}$ だが,$U_3 \neq \{I\}$ である.
しかし証明全体には支障はない.$D(U_m) \subset U_{m+1}$ は成立するので,$D^m(T(n,\mathbb{R})) \subset U_m$ を導くことができ,$D^n(T(n,\mathbb{R})) \subset U_n = \{I\}$ となるからである.

p.169, l.-7

誤:$\mathrm{Ker}(\det) $
正:$ \mathrm{Ker}(\mathrm{sgn})$

p.170

(注意)演習1.14.1(3)は,(2)と演習1.11.3に注意すると,$\# (G) = p^e$ と書いたときの $e$ についての帰納法でも示すことができる.

p.171, l.5

$\alpha$ の定義がない.$\alpha = a + b\sqrt{-m}$ とする.

p.177, l.-1

単因子を $\{(e_1), (e_2)\}$ としているが,p.100の単因子の定義を参照すると,単因子は $\{e_1, e_2\}$ とした方が適切.あるいは単因子の定義を変更する.

p.178, l.1

$e_1e_2$ は絶対値をつけて $|e_1e_2|$ とした方がより適切.あるいは $e_1, e_2 > 0$ としておく.

p.178, l.9

誤:行列式は不変であるから,固有多項式は $e_1 \cdot\cdot\cdot e_r$ と一致する.
正:固有多項式は $e_1 \cdot\cdot\cdot e_r$$k[X]$ の単元倍(よって $k$ の単元倍)である.

p.178

(注意)演習2.10.3の略解について,$J = (X, XY, \ldots, XY^i, \ldots)$ となることが証明のポイント.

p.179, l.4

誤:$r \geq 1 $
正:$ 1 \leq r \leq p-1$

p.181,l.-1

誤:席
正:積

以上です.ミスがあったら教えてください(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

参考文献

[1]
永井保成, 代数学入門, 森北出版, 2024
投稿日:222
更新日:228

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